第八話「人と関わるということ」
――黒の騎士団本部、会議室。
「みんな、喜ばしい知らせがあるぞ!」
珍しく声のトーンが高い総団長のユリア。
「なんだ?あ、分かったぜ!もっかい親睦会ではしゃぎ放題とか!?」
嬉しそうに豪快に笑うクレア。
「違う!そんな毎回のように馬鹿騒ぎしていたら、逆に士気が乱れるだろ!」
「ちぇー」
コホン、と咳払い。
ユリアは机の上に置かれた、一通の手紙を持ち上げた。
「実はね……前に訪問した孤児院、マーシャルハウスからありがたい話を持ちかけられたんだ!」
サファイアが手紙を受け取り、静かに読み上げる。
「『黒の騎士団団長様各位 マーシャルハウスの子どもたちのワークショップへのご招待』……」
四人は、少し身を乗り出す。
「『黒の騎士団の皆様、この前はご訪問いただき誠にありがとうございました』」
「『この度、私たちの子どもたちが秋の妖精祭をテーマにした衣装やお菓子作りを行います』」
「『このイベントは、子どもたちが毎年楽しみにしている大切な行事です』」
「『そして今回、子どもたちの方から、ぜひ騎士団の皆様にも参加してほしいと声が上がりまして―』」
「へ~~!」
クレアの目が輝く。
サファイアは続きを読む。
「『日頃多忙であるかと思いますが、もし宜しければ以下の日程にてマーシャルハウスへお越しいただければ、子どもたちは大層喜ぶかと思います』」
「『どうか、ご検討のほどお願いいたします』……か」
読み終えるサファイア、そして。
「総団長、ぜひ参加しよう」
即答だった。
「あらあら~♪」
レアは口元に手を添えて微笑んでいる。
「サファイアったら、随分ノリノリなのね~♪」
「いや……」
サファイア、恥ずかしそうに少し目を逸らす。
「う、うむ……否定は……しない」
「うふふ~♪」
それを言うレア自身も、素直に嬉しそうだ。
「もちろん、わたくしも賛成ですわ~♪」
クレアも勢いよく立ち上がりながら。
「おうよ!あのガキどもには、あたしらも世話になったかんな!」
「よっしゃあ!盛り上がってきたぜぇ!」
ロロナも、静かに手を挙げながら。
「…ロロナも賛成」
「…お菓子…衣装…どれも楽しみ」
ユリアは少しだけ意外そう。
「そういうの、興味あったんだね」
ロロナ、表情は少ないが目はキラキラ。
「よし、決まりだな!」
少しだけいつもより柔らかいトーンで。
「みんな、今回はボクたちのイメージ改善とか……そういう細かい目的は、一旦なしにしよう」
四人を見ながら。
「ただ純粋に、あの子たちとの特別な時間を楽しもう」
四人は深々と頷いた。
普段は整然とした会議室は。
この日、穏やかな空気に包まれたのであった。
――そして。
秋の色彩が彩り始めたマーシャルハウスにて。
正門をくぐると、そこには。
色とりどりの布、木の実、紙細工、焼き菓子の甘い匂い、小さな天幕。
そして、手作りの看板が掲げられていた。
『ようこそ!わたしたちの妖精祭へ♪』
クレア、子供の様に大はしゃぎ。
「うわぁーー!!すっげぇ!!」
ユリアはそれを見て微笑む。
「ふふ、クレアが一番子どもみたいだね」
「うるせぇよ!」
そこへ、職員がユリア達を見つけて駆け寄る。
「皆様、ようこそ!よく来ていただきました!私たちマーシャルハウスの――」
すると。
「わーーー!!」
その後ろから子どもたちが、一斉に押し寄せる。
「ユリアさん!リンゴジュースあるよ!」
「アップルパイも作るよ!」
「アップルケーキも作るよ~♪」
ユリアにたくさんの子供たちが集まる。
ユリアは嬉しそうに笑いながら。
「さ、さすがにそんなには食べられないぞ!」
「でもリンゴ好きなんでしょ?」
「好きだけど!!」
そして別の方向では。
「クレアお姉ちゃんー!後でかけっこしよー!」
「ううん、肩車してー!」
「ちがうの!クレアお姉ちゃんは、私とけんけんするの!」
クレアも子供たちに囲まれて、豪快に笑い飛ばしながら。
「あはは!いいぜいいぜ~!全部やってやるよ!!」
ユリア、呟くように。
「本当に全部やりそうだから怖い…」
レアの方では、女の子中心の集まりが。
「レアお姉ちゃん~、一緒に衣装作ろう~!」
レアはいつものように、ニコニコと微笑みながら。
「もちろんですわ~♪」
そして、自信満々に袖をまくっていた。
「わたくしは裁縫が大得意ですから♪」
「やったぁ!」
そしてサファイアは。
「サファイアお姉ちゃん!これ見て見て!」
サファイア、普段のクールな表情が一気に崩れる。
「これは……猫のイラストか……!」
少女は嬉しそうに、ぱーっと満面の笑みに。
「うん!私ね、将来は画家になるのが夢なんだー!どうどう?」
サファイアはニヤニヤが止まらない。
「死ぬほどかわいい」
「えへへ!」
その様子を見に他の子供も集まる。
「サファイアお姉ちゃん顔変~!」
「変ではない、この作品を嗜んでいる」
そして、ロロナの方では。
「ロロナお姉ちゃん!」
「…ん」
「お姉ちゃん、この後の劇で大妖精の役やってよ!」
普段は大人しいロロナが、珍しく戸惑っている。
「…え」
「…なんで?」
少女はニコニコと微笑みながら。
「だってロロナお姉ちゃんって、なんか不思議で、おとぎ話みたいな雰囲気あるから?」
別の少女が口をはさむ。
「ちがうよー!なんてったって、ロロナお姉ちゃんが一番キレイなんだもん!」
ロロナ、その場で硬直。
「…………」
耳、赤い。頬、赤い。
その目が、潤んでいる。
それに気づいたクレアが、あり得ないものを見たようなテンションで。
「おいおいおい!!あのロロナが真っ赤だぞ!」
ロロナ、赤らめながらもクレアを一瞥。
「…うるさい」
離れていたレアまで、注目していた。
「まあ~♪かわいらしい~♪」
ロロナ、顔を隠すようにうつむきながら。
「…もう帰りたい」
しかし、その言葉とは裏腹に。
その口元は、完全に笑っていた。
ユリアはそれを見逃さず、思わず暖かい笑みがこぼれた。
「……ふふっ!」
「これは、どうやら忘れられない一日になりそうだ」
――そして、いよいよ妖精祭が開始。
突如として大妖精役に抜擢されたロロナはというと。
完全に、着せ替え人形状態。
「次これ付けてー!」
「こっちは羽ね!」
「花冠も忘れないで!」
ロロナはガチガチに緊張して座ったままだが。
子供たちによって、次々と装備が追加されていく。
「………」
そして、いよいよ完成。
大きな羽、クリーム色のドレスコート、キラキラした花の首飾りに花冠も。
子どもたち、その姿にときめいて大はしゃぎ。
「わー!!ロロナお姉ちゃん、すっっごくきれい!!」
「本物の大妖精さんみたい~♪」
ロロナは、やはり顔が真っ赤。
「……恥ずかしい」
「………もう、無理」
両手で顔を覆い、頭を下げる。
「………死ねる」
しかし、両手で覆われた顔の奥は、喜びの表情に満ちていた。
一方、子供たちと衣装づくりをしているレアは。
「ここはね~」
細い針を、器用にしなやかに通しながら。
「こうして糸を通してから、一度だけ指で押さえると綺麗に結べるのよ~♪」
子どもたちから歓声が上がった。
「うわ~、すっげぇ!」
「レアお姉ちゃんマジ天才ー!」
「うふふ♪」
それはもう、憧れのヒーローを見るような目だった。
一人の子供は、なんとか真似しようとチャレンジ。
「こ、こう?」
レアは隣で小さく拍手をした。
「そうそう~♪上手ですわよ~♪」
ワークスペースから少し離れたところではクレアが。
子どもを肩車しながら、そのまま全力疾走。
「がおーー!」
「怪獣が追いつくぞぉ!!」
「あはは!クレアお姉ちゃん怖い~~!」
「次は私が肩車ね!」
「その次ぼく!」
「おう!順番な順番!」
クレアはその場で一度止まり、肩車のままけんけんまで。
そして次の子どもへ交代。
そしてまた全力疾走。
ユリアはそれを遠目で眺めながら。
「……本当に全部やってる」
さて、サファイアはというと、別の意味で大変なことになっている。
「サファイアお姉ちゃん!私の猫も見て!」
「可愛い」
「私の描いたのも!」
「可愛い」
「私のもー!」
「可愛い」
「え、これ猫じゃなくて犬だよ!」
「……可愛い」
サファイアは完全に可愛い成分を過剰摂取。
完全に緩み切った笑顔で、普段の氷のような雰囲気はどこへやら。
そしてユリアは。
「ユリアお姉ちゃん!騎士団ごっこしよ!」
「私たちに命令して!」
子供たちが期待するような目で駆け寄る。
「えっ」
ユリアは断れない雰囲気を察し、引き受けることに。
「わ、分かった…」
コホン、ひとつ咳払い。
そして、その姿勢を普段の様に真っすぐに正すと。
「諸君!」
気迫のある声が響く。
子ども達も思わず背筋が伸びた。
「はいっ!」
「今日は、妖精たちの森を守るために立ち上がるぞ!」
「おおーー!!」
「かっこいい!」
「私も立ち上がるぞー!」
ユリアも顔が少し赤くなる。
「……これはこれで、恥ずかしいな」
そこへ、それを聞いた子供がまた一人。
「だんちょー!」
子どもの両手には、お皿が。
「貢ぎ物のアップルパイです!」
「いや、そういうの受け取る騎士団じゃないからな!?」
しかし、それはお手製のアップルパイ。
明らかにおいしそう。
「……まあ」
やっぱり受け取るユリア。
「食べるけどさ」
軽く一口。
出来立ての温かさの中に、リンゴとシナモンの濃厚な香りと甘みが広がる。
「…おいしい」
子どもは、その反応を待っていたかのように大喜び。
「よっしゃ!やったー!」
ユリアは喜ぶ子どもの様子を見て、少し目を細める。
最初は、子どもたちを元気づけるため。
そのためにこの孤児院へ来たはずだった。
それが今では。
一番癒されているのは、紛れもなくユリア達だった。
ユリアは心の中で、静かに誓う。
――この子たちを守りたい。
改めて、心からそう思った。
「……ん?」
ふと、視線の向こう側。
大木があり、その木陰に一人の子供の姿が。
赤い三つ編みの少女…エマの姿があった。
遠くから、複雑な表情でこちらを見ている。
「……」
羨ましそうにも見える。
でも、それだけではない。
寂しい、怖い、入りたい。
入りたくない。
そんな、いくつもの感情が混ざった顔。
ユリアはそれに気づいて、少しだけ表情を変える。
「……みんな、ちょっと待っててね」
「はーい!」
ユリアは歩く、エマのもとへ。
ユリアに気づいたエマは、驚いてすぐに木陰の奥へ消えようとする。
「待って」
その声を聞いて、止まる。
しかし、背中は向けたままで。
ユリアは近すぎない位置で止まる。
「ねぇ、エマ」
「……なによ」
「一緒に、参加しようよ」
エマは、少しの間黙る。
「………いやよ」
「……だって」
か細い、小さな声で。
「わたしがいない方が、みんなも楽しめるでしょ」
ユリアはそれを聞いて、悲しい表情に。
「そんなことはない」
エマ、今度は声を荒げる。
「そんなことあるもん!」
その声は確かに強い、しかし、少し震えている。
そのまま、その場で体育座り。
ユリアには、まだ背中を向けたままだ。
「エマ」
「……」
「一つだけ、伝えたいことがある」
正面には回らない。
無理に顔を見ない。
ただ、ユリアは背中合わせになり。
エマと同じように、その場に座る。
「ボクは今日ね」
少しの間が空いて。
「君に会えることも、楽しみにしていたんだよ」
「……!」
エマのその肩が、ほんの少し動いた。
「……嘘」
ユリアは口調を変えずに。
「本当」
「嘘よ」
「本当だよ」
「……だって」
声が、小さくなる。
「この前アタシ…」
「石、ぶつけたし…」
「うん」
「悪口も言ったし…」
「うん」
「……嫌なこと、いっぱい言った」
ユリアは、あの日の出会いで起きたことを、否定はしない。
「うん、そうだね」
エマはとうとう振り返る。
「なんで全部肯定するのよ!」
ユリアも振り向く。
ようやく、エマと顔を合わせた。
ユリアは、ただ穏やかに笑っていた。
「事実だからね」
「……」
エマはまた、前を向く。
「だったら……嫌いになればいいじゃない」
「ならないよ」
エマの声は、もう明らかに震えていた。
「なんで…」
ユリアはしばらく、考える。
「君が石を投げてきた、ただの悪い子だからじゃなくて…」
「その後もお話ができた、エマだからかな」
「……」
「ボクはね」
ユリアは続ける。
「君と話したんだ」
「君が怖がっていたことも、少し笑ってくれたことも」
「最後には、謝ってくれたことも」
「全部、覚えてる」
エマはその指を、膝の上で握りしめる。
「………だから何よ」
「だから、今日も会えたらいいなと思ってた」
「それだけさ」
エマとユリア、二人の間に風が吹く。
その風に吹かれて、落ち葉が一枚。
二人の間を通り過ぎる。
エマが、重々しく口を開く。
「……みんな」
「ん?」
「……楽しそうだった」
ユリアは、それをしっかりと聴いている。
「うん」
「……アタシが入ったら」
「空気、悪くなる」
「それは、どうして?」
エマは、顔を膝の間に沈める。
「……だって、アタシ、すぐ怒るし」
「嫌なこと言うし」
「誰かが優しくしてくれても」
「……どうせ嘘だって、思っちゃうし」
ユリアは黙って聞く。
エマは続ける。
「それで、みんな嫌な顔する」
「……」
「……だから」
「最初から一人でいた方がいい」
ユリアも少しだけ、下を見る。
そして。
「ねぇ、エマ」
「なによ」
「人と関わるのって」
「いつも、上手にできることじゃないよ」
「……」
「怒ることもある」
「嫌なことを言うこともある」
「すれ違うことも」
「怖くなって、逃げたくなることもある」
「でもね…」
少し、ゆっくりと、エマに近づく。
「それでも、また話してみる」
「また、近づいてみる」
「試しに、ごめんって言ってみる」
「時には、待ってみる」
「そういうのを繰り返して…」
「少しずつ、一緒に居られるようになるんだと思う」
「……」
ユリアは続ける。
「最初から、完璧じゃなくていいんだ」
「関わるって、たぶん…」
「失敗しないことじゃない」
「失敗した後も」
「また、誰かのそばへ行ってみることなんじゃないかな」
しばらくの沈黙。
そして、小さく。
絞り出すような声で。
「……怖いの」
「うん、そうだね」
「嫌われたら…どうするの…?」
「その時は…」
ユリアも、小さな声で。
「悲しいね」
ユリアは続ける。
「でも、嫌われるかもしれないからって」
「誰とも関わらなかったら」
「好きになってくれる人がいても」
「それに気づけないよ」
エマは何かを言おうとしたが、また静かになる。
「……」
「ボクは」
ユリアは少しだけ、笑う。
「それはちょっと、もったいないと思う」
「……」
すると向こうでは、子どもたちの呼ぶ声が。
「ユリアお姉ちゃーん!」
「早くー!」
「アップルケーキもできたよー!」
ユリアはその声を聞いて立ち上がる。
「今行くよー!」
でも、エマに手は差し出さない。
「ボクは戻るね」
エマは、黙っている。
「……」
「来たくなったら、いつでもおいで」
「来たくないなら、今日はここにいてもいい」
「どっちでも、ボクは怒らないから」
「……」
ユリア、呼ばれた方へ歩き出す。
一歩、二歩、三歩と。
「……ユリア」
エマの声に、足が止まる。
ユリアは振り返る。
エマはまだ、座ったままだ。
でもその顔だけは、こちらを向いていた。
「……」
「なんだい?」
「……料理」
「ん?」
「……まだある?」
ユリアは一瞬、目を丸くする。
そして、にっこりと微笑む。
「いっぱいあるよ」
「……」
エマは立ち上がる。
服を叩いて、少しだけ砂を払う。
「……じゃあ」
目線は少し、逸らしながら。
「食べるだけ、だから」
「うん」
「参加するわけじゃないから」
「うん」
「……勘違いしないで」
「分かった」
そしてエマは、ユリアの少し後ろを歩く。
会場に近づくと、一人の少女がエマに気づく。
「あっ!エマ!」
エマはビクッと止まる。
ユリアは、あえて何も言わない。
「えっと……エマも来たの?」
目線は上手く合わせられないが。
「……べ、別に」
「ただ…アップルパイ食べるだけ」
少女は、それを聞いて嬉しそうに笑う。
「じゃあ、一緒に食べよ!」
「……」
少女はアップルパイの乗った皿を差し出す。
「これね、私が作ったの!」
エマは少し、身構える。
でも、その手をゆっくりと、伸ばす。
「……もらう」
「うん!」
エマは一かけらを、口に入れる。
「……」
少女は、感想を心待ちにしているようだ。
「ねぇねぇ!どう?」
エマは、なんて言ったらいいか戸惑いながらも。
「……」
「……おいしい」
少女はそれを聞いて、跳ねるように喜んだ。
「ほんと?やったぁー!」
その声はとても大きかった。
別の子ども達もそれに反応するように、次々と駆け寄る。
「エマ!こっちも食べてみて!」
「私のも~!」
エマは、予想外の展開に驚いている。
「ちょ、ちょっと!」
少しの間、みんなに囲まれる。
エマは戸惑う、でも決して逃げない。
ユリアはゆっくりと、その場から少し離れて。
その様子を見守っていた。
すると、クレアがいつの間にか隣に来ていた。
「あの赤髪のガキ……」
ユリアは答える。
「エマだよ」
「あれが?」
「うん」
クレアも少しの間、静かに見守る。
「前に言ってた子か」
「うん」
クレアは真剣な顔だったが、ニッと爽やかに笑う。
「なーんだ、普通にガキしてんじゃん」
ユリアも微笑む。
「うん、そうだよ」
「よーし!!じゃあ、後で一緒に走らせっか!」
ユリアはそれを制するように。
「いきなりはやめてあげて」
「なんでだよ!?」
その時、エマが向こうから。
ちらっと、ユリアを見る。
二人の目と目が合う。
ユリアは笑いながら。
エマはそれを見て、すぐに目を逸らす。
でも、その口元は少しだけ…上がっていたように見えた。
――あっという間に午後になり、妖精祭もいよいよ終盤。
大きな木の下にて、子ども達はレアと作った衣装を着ながら劇に参加する。
そしてロロナは、やはり大妖精の役。
子どもたちの方は妖精役だ。
サファイアに関してだけはなぜか。
猫妖精の耳飾りが着けられていた。
「なぜ私はこれを」
子どもの一人が当たり前の様に。
「だって似合うから!」
「……そうか」
サファイア、どうやら満更でもないご様子。
クレアは、午前子ども達と遊んでいた時のように怪獣役をやることに。
「がおおーー!!」
ユリアは、それを皆から守る騎士団長役。
「妖精たちを守れー!」
「おー!!」
そしてその列の一番端の方。
エマは、小さな赤い羽飾りをつけていた。
ユリアはもちろん気づいている。
でも、何も言わない。
ただ劇を続ける。
「妖精たち!森の奥へ向かうぞ!」
「はーい!」
エマも小さく。
「……はーい」
ユリアには聞こえている。
エマがここに居ること。
同じ空間を、共有できていること。
それが何よりも、嬉しかった。
――夕方の帰り道、五人は並んで歩いていた。
クレアは満足そうに背を伸ばす。
「いやぁぁぁ!!遊んだ遊んだー!」
肩をグルグル回しながら。
ちなみにサファイアは、猫耳をまだ付けている。
レアはニコニコとそれを見ながら。
「サファイア~、それ、外さないんですの~?」
「……忘れていた」
ロロナも、花冠をまだ着けている。
ユリアは、夕焼けに照らされたみんなのその様子を見ながら笑う。
「今日はさ、本当に楽しかったよね」
ロロナは深く頷く。
「…うん」
「また呼んでいただきたいですわね~♪」
「よっしゃ!次は冬だな!雪合戦しようぜー!」
サファイアはやる気満々のクレアを見ながら。
「子ども相手に本気を出すなよ」
「さすがに出さねーよ!」
ユリアはふと、後ろを振り返る。
正門の遠くの方で。
エマが立っていた。
こちらを見ながら。
手を小さく、ほんの少し上げる。
ユリアも同じように。
手を少し上げて、軽く振る。
エマは一瞬ためらうが。
小さく、その手を振り返した。
ユリアは言葉にはしない。
ただ、穏やかに笑っていたのであった。
――人と関わるということ。
それは、いつも楽しいことばかりではない。
傷つくことも、怖くなることも、逃げたくなることもある。
それでも誰かのそばに。
もう一度、座ってみる。
話してみる。
受け取ってみる。
それだけで世界は。
ほんの少し。
変わることがある。
この日、エマが受け取ったのは。
アップルパイ一切れと、小さな羽飾り。
そして、誰かと一緒に居てもいい。
そんな、ほんの小さな許可だった。
【プチ後日談】
結局、帰った後もその日は一日中、サファイアとロロナは飾りを着けたままだった。
サ&ロ「……♪」
団員(これは、聞かない方がいいやつなのか…?)




