↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/11

第七話「教会の回復術師」

 ――エレノア共和国最大の教会、東シモ教会。


 空高く伸びた尖塔。


 色鮮やかなステンドグラス。


 天井から差し込む淡い光。


 その荘厳さに反して、この教会は驚くほど開放的だった。


 貴族、商人、旅人、兵士、子ども、老人…


 身分も立場も関係なく、大小さまざまな願いを抱えた人々が訪れ。


 ここで働くシスターたちは、それを穏やかに迎え入れる。


 そしてこの教会には、以外な人物が足を運ぶことをご存知だろうか。


 黒の騎士団の五人の団長の一人。


 サファイア・ローレン。


 彼女は極めて論理的、冷静、合理的。


 迷信という言葉とは最も縁遠そうな彼女であるが。


 実は昔から、時間に余裕ができるたびに。


 一人で、この教会を訪れていた。


 教会に入ると、決まって後ろの長椅子へ腰掛け。


 静かに目を閉じ、何かを祈っている。


 何を願っているのか、誰に祈っているのか。


 本人は何も語らない。


 ゆえに、東シモ教会のシスターたちの間では。


『サファイア団長は何を祈っているのか』


 というのは、半ば恒例の謎となっていた。



 ――そんなある日の午後。


「……む?」


 長椅子へ腰掛け、静かに目を閉じていたサファイアが。


 ゆっくりと目を開ける。


 視線の気配、誰かに見られている。


「誰だ?」


 教会内を見渡す。


 すると、向かいの太い石柱。


 その影から、ひょこ。


 顔だけを、覗かせている女性がいた。


 ピンク色のショートヘア、丸い瞳。


 その圧倒的な気配の消し方、どう見ても、内気そう。


 サファイアと、ばっちり目が合う。


「……!」


 びくっ!!すぐ柱の陰へ。


 サファイアは少し待ってみる。


 すると、ひょこ、また顔だけ。


 案の定、また目が合う。


 びくっ!!


 すぐに引っ込む。


 サファイア、まだ待つ。


「…………」


 三回目、ひょこ。


「そんなに心配しなくても大丈夫だ」


「ひゃうっ!?」


 柱の向こうの彼女、明らかに動揺している。


 サファイアは、彼女の緊張を解くために、ほんの少し口元を緩める。


「私に何か用があるのか?」


 しばらく、沈黙が続く。


 そして、そろーーー。


 女性はようやく、その全身を現す。


 ここに居る教会のシスターと同じ服。


 ただ、サファイアには見覚えがない。


「……新人のシスターか?」


「あ、ああああの……」


 その女性、手を後ろで組みながら、その視線が泳いでいる。


「あ、あなた……」


 ごくりと、喉を鳴らす。


「サファイア様、ですよね……」


「黒の騎士団の……」


 サファイア、穏やかに答える。


「ああ、そうだ。間違ってないよ」


「何か気になることでも?」


 女性はそれを聞いて、むしろさらに緊張した様子。


「お、お祈りの最中にごめんなさい!ごめんなさい……!」


 ぺこ。


 ぺこぺこ。


 ぺこぺこぺこ。


 お辞儀マシンガン。


「そんなに謝らなくていい」


「でも……!」


「大丈夫、本当に気にしていない」


「……」


「やはり」


 サファイアは、少し首を傾げる。


「私がここに来るのが意外かな?」


「い、いえ!そうではなくて……」


「その……」


 すると、その女性は少しだけ、意を決したような表情に。


「少し……よろしいでしょうか」


「?」


 女性はゆっくりと、サファイアへ近づく。


「し、失礼します……」


 そして、サファイアの右肩。


 そっと、手を置く。


「……?」


 次の瞬間。


 ふわっ――


 春の日差しのような、柔らかな光が。


 サファイアの右肩を包む。


 温かい。


 しかし、決して熱くはない。


 少しだけ、くすぐったいような、不思議な感覚。


 そして光は、すぐに消えた。


「……!」


 サファイア、右腕をぐるぐると回す。


 ぐる。


 ぐるぐる。


「……軽い」


 右の肩が、明らかに軽い。


 可動域も、少し広がっている。


 何より、今まで自覚していなかった程度の。


 微妙な張り、綺麗に消えている。


 サファイアは、純粋に驚く。


「これは……回復魔法か?」


「い、いいいいえ!!」


 ブンブンブンブン。


 女性は、首がもげそうなほど横に振る。


「そんな大それたものではございません!!」


「た、ただ……」


 女性は、気まずそうに指先を合わせながら。


「サファイア様の右肩……」


「ほんの少しだけ、身体の軸からズレていて……」


 サファイア、身を乗り出して聴く。


「軸?」


「はい……」


「たぶん……剣を振る時に、右肩で少しだけ負荷を逃がす癖があるのかと」


 サファイア、目を少し見開く。


「でも、本当にわずかなので……」


「痛みが出るほどじゃないですし……」


「ただ、そのまま何年も続けると……首や背中に負担が出るかもしれないので……」


「だから……」


「少しだけ筋肉の緊張を整えるリラックス魔法を……」


「…………」


 女性、とてもとても不安そうに、上目遣いでサファイアを見つめる。


「……余計なこと、しましたか……?」


 サファイア、すっと立ち上がり、すぐに女性の目の前へ。


 びくっ!!と女性が驚いて震える。


「すごいじゃないか!!」


「ひゃっ!?」


 珍しいことにサファイア、目が輝いている。


「私はこれでも日々、自分の身体の状態にはかなり気を配っているつもりだ」


 腕を回す。


「訓練前後の調整も欠かさない」


「過負荷があれば休ませる」


「姿勢も定期的に確認する」


 女性、それに相槌をするように頷く。


「は、はい……」


「それでも…」


 サファイア、真っ直ぐに見つめる。


「自分では気づけなかった」


「それを、君はあの距離から」


 先ほどまで、女性が隠れていた柱を見る。


「見るだけで異常に気づいた」


「しかも…」


 右肩へ触れる。


「原因まで推測して、適切に処置をした」


 女性、その顔が。


 徐々に、いや、みるみると。


 真っ赤。


 サファイア、その様子を見て少し笑いながら。


「これは、かなり高度な技術だと思うよ」


「あ、あり……」


「?」


「ありありあり……」


 サファイア、変わらず静かに微笑みながら。


「落ち着いて」


 女性はうつむいてしまう。


「うう……申し訳ありません……」


「なぜ謝る」


「分かりません……」


 一度、深く深呼吸。


「申し遅れました……」


 そしてまた頭を下げる。


「私は……キアラ」


「キアラ・フォールと申します」


「ここ東シモ教会のシスター兼……」


 少し声が小さくなる。


「しがない回復術師です……」


 サファイア、その名前を覚えるように復唱。


「キアラ・フォール…キアラさんね」


「は、はい!」


「私は黒の騎士団の団長、サファイア・ローレン」


「知っておりますぅ……」


「そうか」


 少し気まずい雰囲気。


「とにかく、私の身体を気にかけてくれてありがとう」


「本当に助かったよ」


 キアラ、その感謝の言葉にまた赤くなる。


「お、おお、大袈裟ですよ……」



 ――その後二人は。


 同じ長椅子へ、少し距離はあるが座っていた。


 教会の静かで、穏やかな空気に包まれながら。


 遠くでは時を知らせる鐘の音が聞こえる。


 カーン……カーン……


「……サファイア様は」


 キアラはぼそりと、話し始める。


「ん?」


「すごいお方ですよね」


「なんだ突然」


「だって……」


 キアラは、寂しそうに自分の手を見る。


「強くて」


「賢くて」


「落ち着いていて」


「いつでも自信に満ちていて……」


 サファイアは、黙って聞いている。


「……」


「それに比べると」


 キアラは小さく笑う。


 しかし、その笑顔は寂しい。


「私なんか……」


「いつも自信がなくて」


「シスターとしても」


「回復術師としても」


「こんな性格だから…」


 キアラは膝の上で、手をぎゅっと握る。


「周りから何も期待されてなくて」


「大きな治療は、怖くて任せてもらえないし」


「怪我人の前に立つと、私の方が不安になっちゃうし……」


「魔法をかける時も、本当にこれでいいのかなって」


「いつも考えてしまって……」


 小さく、しかし重いため息が。


「私だけ、なんでこうなんだろ……」


 サファイアは、変わらず黙って聞く。


「……すみません」


「せっかくのお祈りの時間なのに、こんな話……」


「キアラさん」


 サファイアが、ようやく口を開いた。


「は、はい!」


「…一つ、訂正していいか?」


「え?」


「私は、自信に満ちているわけじゃない」


 キアラ、驚いてサファイアを見つめる。


「……え?」


「少なくとも」


 サファイアは、真っすぐに視線を前に向けている。


「昔からそうだったわけではない」


「そ、そうなんですか…でも……」


「私はな」


 サファイア、あくまで穏やかな口調で続ける。


「考えるのが好きなんだ」


「状況を整理して、最も失敗しにくい方法を選ぶ」


「だから周りからは、迷わない人間に見えるらしい」


 キアラは、静かにサファイアの話を聞いている。


「でもな」


「選択肢を考えるということは、裏を返せば…」


「失敗する可能性を、ずっと考えているということでもある」


 ゆっくりと、その手を組む。


「この判断で仲間が死なないか」


「見落としはないか」


「自分の判断に酔っていないか」


「…毎回、嫌になるまで考える」


 静かに聞いていたキアラが、口を開く。


「……サファイア様でも?」


「当然だ」


「怖く……ないんですか…?」


「怖いよ」


 迷わない。即答。


 キアラ、目を見開く。


「だから確認するんだ」


「調べる、訓練する、他人の意見を聞く」


「そして…」


「それでも、最後に決めなければならない時は」


 微笑みながら、キアラの方を向く。


「その時点の自分にできる、最善を選ぶ」


 キアラは目を離さず、サファイアをじっと見つめている。


「自信というのはな」


 サファイアは、ゆっくりと確かに伝えるような口調で。


「不安が綺麗になくなることではないと思う」


「不安がありながらでも」


「自分が積み上げたものを、信じられることじゃないかな」


 キアラ、小さな声で、復唱する。


「積み上げたものを……」


「そうだ」


「君はさっき、私が気づけなかった異常を見つけた」


 そう言いながら、自分の右肩を指す。


「偶然です……」


「本当に?」


「……」


「姿勢を見て、筋肉の緊張を推測して、魔法の強さを調整して…」


「たった一度のアプローチで、改善した」


「それが全部偶然なら」


 サファイアはほんの少し、からかうように笑いながら。


「君は、相当運がいいな」


 キアラも、それにつられるように、少しだけ笑う。


「ふふ……!」


 その笑顔を見たサファイアは、どこか嬉しそうに。


「やっと笑ったな」


「えっ」


 キアラの顔が、また赤くなる。


「す、すみません!すみません!」


「だから、謝らなくていい」



 ――その時。


 教会奥で何か騒ぎが起きていた。


「シスターー!!」


 教会内に響く、大きな声。


 一人の男性が、誰かを抱えて駆け込んでくる。


「助けてください!!」


 その男性の腕の中には少年が。


 足から、血が出ている。


 シスターたちは、一気に気を張り詰めて一斉に動く。


「こちらへ!」


「転倒ですか!?」


「馬車から……!」


「骨折の可能性があります!」


 キアラ、その非常事態を目の当たりにして…


 身体が、固まる。


 サファイアは、落ち着いてキアラを見る。


「キアラさん、大丈夫か?」


「……」


 キアラ、呼吸が少し早い。


 恐怖と緊張に対して、格闘しているのだろう。


 一人の年配シスターが声を張り上げる。


「キアラ!」


「は、はい!」


「こちらを手伝って!」


「…………」


 キアラ、その一歩を。


 踏み出そうとして…


 止まる。


「わ、私……私……」


 サファイアはすぐに立ち上がり、キアラのそばへ。


「大きな怪我は……とても、怖いです」


「もし…もし……失敗したら……」


 サファイアは、キアラの顔に手を添えて、しっかりと目を見る。


「キアラ」


「……はい」


「私の肩を」


「…え?」


「君は治した」


 キアラ、戸惑いながら。


「でもあれは……」


「そうだな、あれは小さな違和感だった」


「はい……」


「だからこそ、気づくのが難しい」


「……」


 サファイアは、キアラの目を真っ直ぐ見つめながら続ける。


「君は、小さな異常を見つけられる人だ」


 少年を見る。


 とても痛そうに、緊急用の治療台に横たわっている。


「まずは、今見えるものを一つずつ見ればいい」


 キアラは、黙って話を聞く。


「……」


「全部を、一度に治そうとしなくていい」


「呼吸、出血、骨、痛み…」


「一つずつ、丁寧にだ」


 キアラ、その手は震えているが…


 今一度、ぎゅっと握る。


「……一つずつ」


「そうだ」


 年配シスターが、再びキアラを呼ぶ。


「キアラ!」


 キアラ、深く、深く深呼吸。


「……はい!」


 そして、ついに駆け出した。


 サファイアは、静かにその背中を見守る。



 ――治療台、少年は泣き叫んでいる。


「痛いよぉ……!」


「大丈夫、大丈夫よ…!」


 年配シスター、なりふり構わない様子で。


「キアラ、患部を確認して!」


「はい……!」


 キアラはそっと触れる。


 少年は、やはり激しく痛むのか、びくっと反応する。


「ごめんね……少しだけ、我慢して」


 キアラの目が変わる。


 先ほどまで、ずっとおどおどしていたキアラが。


 今この瞬間は、全力で集中している。


 そして…


「……骨の完全な断裂ではありません」


「部分的な、亀裂です」


 年配シスターが、驚いた様子で聞き返す。


「分かるの?」


「はい…」


 キアラは、真剣な眼差しで観察しながら、手の感覚を確かめる。


「周囲の腫れが強いですが…血管損傷は軽いです」


「先に、出血を止めてみます」


 年配シスター、まさかといった表情で言い淀むが…


 最後はキアラを、信じることにしたようだ。


「…分かったわ、お願い」


 キアラ、両手を患部にかざす。


 サファイアの時にも現れた、あの柔らかい光が。


 少年の足を、優しく包んでいく。


「…………」


 キアラ、額には大粒の汗。


 しかし、気にも留めていない。


「……大丈夫」


 ぼそりと呟くように。


「一つずつ……」


 光が、少し強くなる。


「一つずつ……」


 そして、出血がいよいよ止まりだした。


「よし……!」


「キアラ、次は?」


 年配シスターが、キアラに指示を求める。


「骨の固定を補助します」


「でも、魔法による回復促進は弱めに」


「一気にやると、骨の再生の位置がズレる可能性があります」


 サファイアは、遠くからではあるが。


 キアラのその手腕を、しっかりと観察していた。


 正確かつ、とても慎重。


 しかも、必要以上に魔法を使わない。


 キアラだからこそ、できることなのだ。




 ――処置の終了後から、数分後。


 少年は、泣き止んでいた。


「もう……そんなに…痛くない…」


 キアラは、安堵と喜びが合わさった表情で少年に尋ねる。


「ほ、本当?」


 少年、ゆっくりと頷く。


「…優しいお姉ちゃん、ありがとう」


 キアラ、固まる。


「……ありがとう、お姉ちゃん」


 キアラは、ようやくその言葉が自分に向けられていることを理解し、慌てる。


「え…え!?」


「ち、違……ありがとうは私じゃなくて……えっとぉ……」


 隣に居た年配シスターも、嬉しそうに笑う。


「キアラ」


「は、はい……!」


「よくできたわ」


「……!」


「あなたが最初に、状態を見抜いてくれなかったら」


「私は、もっと強い回復魔法を使っていたかもしれない」


「その方が……後のことを考えると危なかったわ」


 キアラ、恐る恐る自分を指さして。


「わ、わわわわ、私が……?」


「ええ、そうよ」


 年配シスターは、キアラに向けて伝える。


「ありがとう、キアラ」


 キアラのその目が、ゆっくりと潤む。


「……はい、こちらこそ…!」



 ――しばらく後。


 再び長椅子にて。


 キアラはぐったりと座り込む。


「つ……疲れましたぁ……」


 サファイアも、今度はキアラのすぐ隣に座っている。


「お疲れ様」


「こ、怖かったですぅ……」


「ああ、そのようだったな」


「手が、震えてました……」


「ここから見えていた」


「うぅ……」


「でも」


 サファイア、微笑みながら。


「できたじゃないか」


「えっと………」


 キアラ、自分の両手を見る。


「はい……できました…」


「ああ」


 キアラも、微笑みながらサファイアを見る。


「…サファイア様」


「ん?」


「ありがとうございます」


「私は何もしてないよ」


「しましたよ」


「?」


「私が」


 キアラ、その胸をそっと、押さえる。


「自分を信じる、そのきっかけをくれました」


 サファイアは少し、言葉に詰まる。


「……そうか」


 キアラは、ふと何かが気になる。


「ところで…」


「ん?」


 キアラ、口に出そうかを少し迷っているようだ。


「ず、ずっと気になっていたんですが……」


「何だ?」


「サファイア様は…」


 周囲に誰もいないことを確認してから。


「いつも……何をお祈りされているんですか?」


 サファイアは、その質問を聞いて少し止まる。


「……」


 キアラ、大慌てで。


「あっ!ご、ごめんなさい!!」


「聞いちゃダメなことでしたよね!」


「いや」


 サファイアは、少し困ったように笑う。


「別に、秘密というほどではない」


「え?」


 そして、この教会の壮観なステンドグラスを見上げる。


「私は」


 少しだけ、照れくさそうにしている。


「自分のために、祈ったことはないんだ」


 キアラ、興味深そうに。


「……では?」


「騎士団の皆が、無事に帰ってこられますように」


「……」


「それだけだ」


 キアラの目が大きくなる。


 サファイアは続ける。


「戦場では」


「どれだけ、準備をしても」


「どうにもならないことがある」


「私は…神頼みが好きなわけじゃない」


 少し笑いながら。


「でも、そうしても足りないなら」


「神様に少しくらい、頼ってもいいだろう?」


 キアラは柔らかく、どこか、嬉しそうに笑う。


「はい…!」


「きっと…神様は、聞いてくださっていますよ」


 サファイアは、前を見つめたまま。


「……そうだといいな」



 ――その日の夕方、黒の騎士団本部。


 医務室にて、ユリアを含めた団員達が集まっている。


「サファイア?」


「何だ」


「どうして急に、全団員の身体チェックを強化する話になったの?」


 サファイアは、当たり前だと言うように。


「必要だと思ったからだ」


 ユリア、それを聞いてもまだ不思議そうにしている。


「それは分かるけど…」


「それに合わせて」


「東シモ教会から、回復術師を定期招聘したいって話は……」


 サファイア、どこか不敵に微笑む。


「優秀な人材がいるんだ」


 ユリアは、興味深そうにサファイアの顔を覗く。


「ほう?」


 サファイアは、一枚の紙を取り出す。


 それは、申請書だった。


 ユリアに手渡す。


 そこには、こう書かれていた。


『推薦候補者、キアラ・フォール』


 ユリア、ニヤニヤとサファイアを見る。


「へぇ~~」


 サファイア、怪訝な表情に。


「ユリア、何だその顔は」


「いいや?別に~?」


「おい、何か言いたいなら言え」


 ユリアは、楽しそうに笑いながら。


「だってサファイアが、誰かをここまで勧めるの珍しいなって」


 サファイア、恥ずかしそうに目を逸らす。


「実力を評価しているだけだ」


「はいはい」


「その言い方をやめろ」



 ――翌週、東シモ教会。


 キアラが、一枚の書類を手に持っている。


『黒の騎士団 医療技術協力要請』


 その行の下。


『推薦者 サファイア・ローレン』


「…………」


 キアラ、持つ手が震えている。


 他のシスターが、その様子に気づいたようだ。


「キアラ?」


「…………」


「どうしたの?」


 キアラ、顔が、一気に真っ赤。


「わ、わわわわ私がぁ!?」


「黒の騎士団にぃぃぃ!?」


 教会中に、その声がどこまでも響き渡った。


 サファイアとキアラ。


 一見すると、対称的な性格を持つ、この二人の出会いが。


 また新たな、黒の騎士団の一ページに刻まれたのであった。

【プチ後日談】


 その日のキアラは、一日中様子がおかしかったという。


 「おーい、キアラ?」


キ「……………ひゃいっ!?な、なんでしたっけ!?」


 「駄目だこりゃ…」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。