第七話「教会の回復術師」
――エレノア共和国最大の教会、東シモ教会。
空高く伸びた尖塔。
色鮮やかなステンドグラス。
天井から差し込む淡い光。
その荘厳さに反して、この教会は驚くほど開放的だった。
貴族、商人、旅人、兵士、子ども、老人…
身分も立場も関係なく、大小さまざまな願いを抱えた人々が訪れ。
ここで働くシスターたちは、それを穏やかに迎え入れる。
そしてこの教会には、以外な人物が足を運ぶことをご存知だろうか。
黒の騎士団の五人の団長の一人。
サファイア・ローレン。
彼女は極めて論理的、冷静、合理的。
迷信という言葉とは最も縁遠そうな彼女であるが。
実は昔から、時間に余裕ができるたびに。
一人で、この教会を訪れていた。
教会に入ると、決まって後ろの長椅子へ腰掛け。
静かに目を閉じ、何かを祈っている。
何を願っているのか、誰に祈っているのか。
本人は何も語らない。
ゆえに、東シモ教会のシスターたちの間では。
『サファイア団長は何を祈っているのか』
というのは、半ば恒例の謎となっていた。
――そんなある日の午後。
「……む?」
長椅子へ腰掛け、静かに目を閉じていたサファイアが。
ゆっくりと目を開ける。
視線の気配、誰かに見られている。
「誰だ?」
教会内を見渡す。
すると、向かいの太い石柱。
その影から、ひょこ。
顔だけを、覗かせている女性がいた。
ピンク色のショートヘア、丸い瞳。
その圧倒的な気配の消し方、どう見ても、内気そう。
サファイアと、ばっちり目が合う。
「……!」
びくっ!!すぐ柱の陰へ。
サファイアは少し待ってみる。
すると、ひょこ、また顔だけ。
案の定、また目が合う。
びくっ!!
すぐに引っ込む。
サファイア、まだ待つ。
「…………」
三回目、ひょこ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だ」
「ひゃうっ!?」
柱の向こうの彼女、明らかに動揺している。
サファイアは、彼女の緊張を解くために、ほんの少し口元を緩める。
「私に何か用があるのか?」
しばらく、沈黙が続く。
そして、そろーーー。
女性はようやく、その全身を現す。
ここに居る教会のシスターと同じ服。
ただ、サファイアには見覚えがない。
「……新人のシスターか?」
「あ、ああああの……」
その女性、手を後ろで組みながら、その視線が泳いでいる。
「あ、あなた……」
ごくりと、喉を鳴らす。
「サファイア様、ですよね……」
「黒の騎士団の……」
サファイア、穏やかに答える。
「ああ、そうだ。間違ってないよ」
「何か気になることでも?」
女性はそれを聞いて、むしろさらに緊張した様子。
「お、お祈りの最中にごめんなさい!ごめんなさい……!」
ぺこ。
ぺこぺこ。
ぺこぺこぺこ。
お辞儀マシンガン。
「そんなに謝らなくていい」
「でも……!」
「大丈夫、本当に気にしていない」
「……」
「やはり」
サファイアは、少し首を傾げる。
「私がここに来るのが意外かな?」
「い、いえ!そうではなくて……」
「その……」
すると、その女性は少しだけ、意を決したような表情に。
「少し……よろしいでしょうか」
「?」
女性はゆっくりと、サファイアへ近づく。
「し、失礼します……」
そして、サファイアの右肩。
そっと、手を置く。
「……?」
次の瞬間。
ふわっ――
春の日差しのような、柔らかな光が。
サファイアの右肩を包む。
温かい。
しかし、決して熱くはない。
少しだけ、くすぐったいような、不思議な感覚。
そして光は、すぐに消えた。
「……!」
サファイア、右腕をぐるぐると回す。
ぐる。
ぐるぐる。
「……軽い」
右の肩が、明らかに軽い。
可動域も、少し広がっている。
何より、今まで自覚していなかった程度の。
微妙な張り、綺麗に消えている。
サファイアは、純粋に驚く。
「これは……回復魔法か?」
「い、いいいいえ!!」
ブンブンブンブン。
女性は、首がもげそうなほど横に振る。
「そんな大それたものではございません!!」
「た、ただ……」
女性は、気まずそうに指先を合わせながら。
「サファイア様の右肩……」
「ほんの少しだけ、身体の軸からズレていて……」
サファイア、身を乗り出して聴く。
「軸?」
「はい……」
「たぶん……剣を振る時に、右肩で少しだけ負荷を逃がす癖があるのかと」
サファイア、目を少し見開く。
「でも、本当にわずかなので……」
「痛みが出るほどじゃないですし……」
「ただ、そのまま何年も続けると……首や背中に負担が出るかもしれないので……」
「だから……」
「少しだけ筋肉の緊張を整えるリラックス魔法を……」
「…………」
女性、とてもとても不安そうに、上目遣いでサファイアを見つめる。
「……余計なこと、しましたか……?」
サファイア、すっと立ち上がり、すぐに女性の目の前へ。
びくっ!!と女性が驚いて震える。
「すごいじゃないか!!」
「ひゃっ!?」
珍しいことにサファイア、目が輝いている。
「私はこれでも日々、自分の身体の状態にはかなり気を配っているつもりだ」
腕を回す。
「訓練前後の調整も欠かさない」
「過負荷があれば休ませる」
「姿勢も定期的に確認する」
女性、それに相槌をするように頷く。
「は、はい……」
「それでも…」
サファイア、真っ直ぐに見つめる。
「自分では気づけなかった」
「それを、君はあの距離から」
先ほどまで、女性が隠れていた柱を見る。
「見るだけで異常に気づいた」
「しかも…」
右肩へ触れる。
「原因まで推測して、適切に処置をした」
女性、その顔が。
徐々に、いや、みるみると。
真っ赤。
サファイア、その様子を見て少し笑いながら。
「これは、かなり高度な技術だと思うよ」
「あ、あり……」
「?」
「ありありあり……」
サファイア、変わらず静かに微笑みながら。
「落ち着いて」
女性はうつむいてしまう。
「うう……申し訳ありません……」
「なぜ謝る」
「分かりません……」
一度、深く深呼吸。
「申し遅れました……」
そしてまた頭を下げる。
「私は……キアラ」
「キアラ・フォールと申します」
「ここ東シモ教会のシスター兼……」
少し声が小さくなる。
「しがない回復術師です……」
サファイア、その名前を覚えるように復唱。
「キアラ・フォール…キアラさんね」
「は、はい!」
「私は黒の騎士団の団長、サファイア・ローレン」
「知っておりますぅ……」
「そうか」
少し気まずい雰囲気。
「とにかく、私の身体を気にかけてくれてありがとう」
「本当に助かったよ」
キアラ、その感謝の言葉にまた赤くなる。
「お、おお、大袈裟ですよ……」
――その後二人は。
同じ長椅子へ、少し距離はあるが座っていた。
教会の静かで、穏やかな空気に包まれながら。
遠くでは時を知らせる鐘の音が聞こえる。
カーン……カーン……
「……サファイア様は」
キアラはぼそりと、話し始める。
「ん?」
「すごいお方ですよね」
「なんだ突然」
「だって……」
キアラは、寂しそうに自分の手を見る。
「強くて」
「賢くて」
「落ち着いていて」
「いつでも自信に満ちていて……」
サファイアは、黙って聞いている。
「……」
「それに比べると」
キアラは小さく笑う。
しかし、その笑顔は寂しい。
「私なんか……」
「いつも自信がなくて」
「シスターとしても」
「回復術師としても」
「こんな性格だから…」
キアラは膝の上で、手をぎゅっと握る。
「周りから何も期待されてなくて」
「大きな治療は、怖くて任せてもらえないし」
「怪我人の前に立つと、私の方が不安になっちゃうし……」
「魔法をかける時も、本当にこれでいいのかなって」
「いつも考えてしまって……」
小さく、しかし重いため息が。
「私だけ、なんでこうなんだろ……」
サファイアは、変わらず黙って聞く。
「……すみません」
「せっかくのお祈りの時間なのに、こんな話……」
「キアラさん」
サファイアが、ようやく口を開いた。
「は、はい!」
「…一つ、訂正していいか?」
「え?」
「私は、自信に満ちているわけじゃない」
キアラ、驚いてサファイアを見つめる。
「……え?」
「少なくとも」
サファイアは、真っすぐに視線を前に向けている。
「昔からそうだったわけではない」
「そ、そうなんですか…でも……」
「私はな」
サファイア、あくまで穏やかな口調で続ける。
「考えるのが好きなんだ」
「状況を整理して、最も失敗しにくい方法を選ぶ」
「だから周りからは、迷わない人間に見えるらしい」
キアラは、静かにサファイアの話を聞いている。
「でもな」
「選択肢を考えるということは、裏を返せば…」
「失敗する可能性を、ずっと考えているということでもある」
ゆっくりと、その手を組む。
「この判断で仲間が死なないか」
「見落としはないか」
「自分の判断に酔っていないか」
「…毎回、嫌になるまで考える」
静かに聞いていたキアラが、口を開く。
「……サファイア様でも?」
「当然だ」
「怖く……ないんですか…?」
「怖いよ」
迷わない。即答。
キアラ、目を見開く。
「だから確認するんだ」
「調べる、訓練する、他人の意見を聞く」
「そして…」
「それでも、最後に決めなければならない時は」
微笑みながら、キアラの方を向く。
「その時点の自分にできる、最善を選ぶ」
キアラは目を離さず、サファイアをじっと見つめている。
「自信というのはな」
サファイアは、ゆっくりと確かに伝えるような口調で。
「不安が綺麗になくなることではないと思う」
「不安がありながらでも」
「自分が積み上げたものを、信じられることじゃないかな」
キアラ、小さな声で、復唱する。
「積み上げたものを……」
「そうだ」
「君はさっき、私が気づけなかった異常を見つけた」
そう言いながら、自分の右肩を指す。
「偶然です……」
「本当に?」
「……」
「姿勢を見て、筋肉の緊張を推測して、魔法の強さを調整して…」
「たった一度のアプローチで、改善した」
「それが全部偶然なら」
サファイアはほんの少し、からかうように笑いながら。
「君は、相当運がいいな」
キアラも、それにつられるように、少しだけ笑う。
「ふふ……!」
その笑顔を見たサファイアは、どこか嬉しそうに。
「やっと笑ったな」
「えっ」
キアラの顔が、また赤くなる。
「す、すみません!すみません!」
「だから、謝らなくていい」
――その時。
教会奥で何か騒ぎが起きていた。
「シスターー!!」
教会内に響く、大きな声。
一人の男性が、誰かを抱えて駆け込んでくる。
「助けてください!!」
その男性の腕の中には少年が。
足から、血が出ている。
シスターたちは、一気に気を張り詰めて一斉に動く。
「こちらへ!」
「転倒ですか!?」
「馬車から……!」
「骨折の可能性があります!」
キアラ、その非常事態を目の当たりにして…
身体が、固まる。
サファイアは、落ち着いてキアラを見る。
「キアラさん、大丈夫か?」
「……」
キアラ、呼吸が少し早い。
恐怖と緊張に対して、格闘しているのだろう。
一人の年配シスターが声を張り上げる。
「キアラ!」
「は、はい!」
「こちらを手伝って!」
「…………」
キアラ、その一歩を。
踏み出そうとして…
止まる。
「わ、私……私……」
サファイアはすぐに立ち上がり、キアラのそばへ。
「大きな怪我は……とても、怖いです」
「もし…もし……失敗したら……」
サファイアは、キアラの顔に手を添えて、しっかりと目を見る。
「キアラ」
「……はい」
「私の肩を」
「…え?」
「君は治した」
キアラ、戸惑いながら。
「でもあれは……」
「そうだな、あれは小さな違和感だった」
「はい……」
「だからこそ、気づくのが難しい」
「……」
サファイアは、キアラの目を真っ直ぐ見つめながら続ける。
「君は、小さな異常を見つけられる人だ」
少年を見る。
とても痛そうに、緊急用の治療台に横たわっている。
「まずは、今見えるものを一つずつ見ればいい」
キアラは、黙って話を聞く。
「……」
「全部を、一度に治そうとしなくていい」
「呼吸、出血、骨、痛み…」
「一つずつ、丁寧にだ」
キアラ、その手は震えているが…
今一度、ぎゅっと握る。
「……一つずつ」
「そうだ」
年配シスターが、再びキアラを呼ぶ。
「キアラ!」
キアラ、深く、深く深呼吸。
「……はい!」
そして、ついに駆け出した。
サファイアは、静かにその背中を見守る。
――治療台、少年は泣き叫んでいる。
「痛いよぉ……!」
「大丈夫、大丈夫よ…!」
年配シスター、なりふり構わない様子で。
「キアラ、患部を確認して!」
「はい……!」
キアラはそっと触れる。
少年は、やはり激しく痛むのか、びくっと反応する。
「ごめんね……少しだけ、我慢して」
キアラの目が変わる。
先ほどまで、ずっとおどおどしていたキアラが。
今この瞬間は、全力で集中している。
そして…
「……骨の完全な断裂ではありません」
「部分的な、亀裂です」
年配シスターが、驚いた様子で聞き返す。
「分かるの?」
「はい…」
キアラは、真剣な眼差しで観察しながら、手の感覚を確かめる。
「周囲の腫れが強いですが…血管損傷は軽いです」
「先に、出血を止めてみます」
年配シスター、まさかといった表情で言い淀むが…
最後はキアラを、信じることにしたようだ。
「…分かったわ、お願い」
キアラ、両手を患部にかざす。
サファイアの時にも現れた、あの柔らかい光が。
少年の足を、優しく包んでいく。
「…………」
キアラ、額には大粒の汗。
しかし、気にも留めていない。
「……大丈夫」
ぼそりと呟くように。
「一つずつ……」
光が、少し強くなる。
「一つずつ……」
そして、出血がいよいよ止まりだした。
「よし……!」
「キアラ、次は?」
年配シスターが、キアラに指示を求める。
「骨の固定を補助します」
「でも、魔法による回復促進は弱めに」
「一気にやると、骨の再生の位置がズレる可能性があります」
サファイアは、遠くからではあるが。
キアラのその手腕を、しっかりと観察していた。
正確かつ、とても慎重。
しかも、必要以上に魔法を使わない。
キアラだからこそ、できることなのだ。
――処置の終了後から、数分後。
少年は、泣き止んでいた。
「もう……そんなに…痛くない…」
キアラは、安堵と喜びが合わさった表情で少年に尋ねる。
「ほ、本当?」
少年、ゆっくりと頷く。
「…優しいお姉ちゃん、ありがとう」
キアラ、固まる。
「……ありがとう、お姉ちゃん」
キアラは、ようやくその言葉が自分に向けられていることを理解し、慌てる。
「え…え!?」
「ち、違……ありがとうは私じゃなくて……えっとぉ……」
隣に居た年配シスターも、嬉しそうに笑う。
「キアラ」
「は、はい……!」
「よくできたわ」
「……!」
「あなたが最初に、状態を見抜いてくれなかったら」
「私は、もっと強い回復魔法を使っていたかもしれない」
「その方が……後のことを考えると危なかったわ」
キアラ、恐る恐る自分を指さして。
「わ、わわわわ、私が……?」
「ええ、そうよ」
年配シスターは、キアラに向けて伝える。
「ありがとう、キアラ」
キアラのその目が、ゆっくりと潤む。
「……はい、こちらこそ…!」
――しばらく後。
再び長椅子にて。
キアラはぐったりと座り込む。
「つ……疲れましたぁ……」
サファイアも、今度はキアラのすぐ隣に座っている。
「お疲れ様」
「こ、怖かったですぅ……」
「ああ、そのようだったな」
「手が、震えてました……」
「ここから見えていた」
「うぅ……」
「でも」
サファイア、微笑みながら。
「できたじゃないか」
「えっと………」
キアラ、自分の両手を見る。
「はい……できました…」
「ああ」
キアラも、微笑みながらサファイアを見る。
「…サファイア様」
「ん?」
「ありがとうございます」
「私は何もしてないよ」
「しましたよ」
「?」
「私が」
キアラ、その胸をそっと、押さえる。
「自分を信じる、そのきっかけをくれました」
サファイアは少し、言葉に詰まる。
「……そうか」
キアラは、ふと何かが気になる。
「ところで…」
「ん?」
キアラ、口に出そうかを少し迷っているようだ。
「ず、ずっと気になっていたんですが……」
「何だ?」
「サファイア様は…」
周囲に誰もいないことを確認してから。
「いつも……何をお祈りされているんですか?」
サファイアは、その質問を聞いて少し止まる。
「……」
キアラ、大慌てで。
「あっ!ご、ごめんなさい!!」
「聞いちゃダメなことでしたよね!」
「いや」
サファイアは、少し困ったように笑う。
「別に、秘密というほどではない」
「え?」
そして、この教会の壮観なステンドグラスを見上げる。
「私は」
少しだけ、照れくさそうにしている。
「自分のために、祈ったことはないんだ」
キアラ、興味深そうに。
「……では?」
「騎士団の皆が、無事に帰ってこられますように」
「……」
「それだけだ」
キアラの目が大きくなる。
サファイアは続ける。
「戦場では」
「どれだけ、準備をしても」
「どうにもならないことがある」
「私は…神頼みが好きなわけじゃない」
少し笑いながら。
「でも、そうしても足りないなら」
「神様に少しくらい、頼ってもいいだろう?」
キアラは柔らかく、どこか、嬉しそうに笑う。
「はい…!」
「きっと…神様は、聞いてくださっていますよ」
サファイアは、前を見つめたまま。
「……そうだといいな」
――その日の夕方、黒の騎士団本部。
医務室にて、ユリアを含めた団員達が集まっている。
「サファイア?」
「何だ」
「どうして急に、全団員の身体チェックを強化する話になったの?」
サファイアは、当たり前だと言うように。
「必要だと思ったからだ」
ユリア、それを聞いてもまだ不思議そうにしている。
「それは分かるけど…」
「それに合わせて」
「東シモ教会から、回復術師を定期招聘したいって話は……」
サファイア、どこか不敵に微笑む。
「優秀な人材がいるんだ」
ユリアは、興味深そうにサファイアの顔を覗く。
「ほう?」
サファイアは、一枚の紙を取り出す。
それは、申請書だった。
ユリアに手渡す。
そこには、こう書かれていた。
『推薦候補者、キアラ・フォール』
ユリア、ニヤニヤとサファイアを見る。
「へぇ~~」
サファイア、怪訝な表情に。
「ユリア、何だその顔は」
「いいや?別に~?」
「おい、何か言いたいなら言え」
ユリアは、楽しそうに笑いながら。
「だってサファイアが、誰かをここまで勧めるの珍しいなって」
サファイア、恥ずかしそうに目を逸らす。
「実力を評価しているだけだ」
「はいはい」
「その言い方をやめろ」
――翌週、東シモ教会。
キアラが、一枚の書類を手に持っている。
『黒の騎士団 医療技術協力要請』
その行の下。
『推薦者 サファイア・ローレン』
「…………」
キアラ、持つ手が震えている。
他のシスターが、その様子に気づいたようだ。
「キアラ?」
「…………」
「どうしたの?」
キアラ、顔が、一気に真っ赤。
「わ、わわわわ私がぁ!?」
「黒の騎士団にぃぃぃ!?」
教会中に、その声がどこまでも響き渡った。
サファイアとキアラ。
一見すると、対称的な性格を持つ、この二人の出会いが。
また新たな、黒の騎士団の一ページに刻まれたのであった。
【プチ後日談】
その日のキアラは、一日中様子がおかしかったという。
「おーい、キアラ?」
キ「……………ひゃいっ!?な、なんでしたっけ!?」
「駄目だこりゃ…」




