第八話 鍛冶師の銃――最初のレベリング計画
「鍛冶師は武器を買うより、作る側に回るべき。」
アイリスの助言を受けた応接間は、一気に作戦会議の場へと変わっていた。
真奈美が壁際の大型ホワイトボードを引き寄せる。
「じゃあ、まずは戦力の確認からね。」
奏は腕を組んだ。
「私の職業は鍛冶師。」
「うん。」
「鍛冶だけじゃなくて改造もできると思う。」
大学で電子工学を専攻し、研究所では精密機器の設計と試作を担当してきた。
趣味でも工具や工作機械を扱い、壊れた家電を修理したり、エアソフトガンを競技仕様へ調整した経験もある。
異世界の鍛冶技術と現代工学。
その二つが合わされば、普通の鍛冶師では到底作れない武器を生み出せるかもしれない。
真奈美が頷く。
「あなたなら十分あり得るわ。」
「でも。」
琴子が口を開く。
「いきなり異世界で鍛冶は無理。」
「設備も材料もない。」
「だから最初は既製品。」
「それを改造。」
「そこから鍛冶設備を整える。」
奏も同意した。
「私もそのつもり。」
すると真奈美は少し考え込み、静かに言った。
「実はね。」
「うん?」
「海外の知人が何人かいるの。」
「退魔師だけじゃなくて。」
「民間軍事会社。」
「元特殊部隊。」
「銃器設計者。」
奏が思わず身を乗り出す。
「そんな人まで?」
「人脈だけは自信あるもの。」
真奈美は苦笑した。
「もちろん、日本国内で違法なことはしないわ。」
「ただ。」
「海外で合法的に所持・製作された装備を研究目的として相談できる人はいる。」
琴子は冷静に確認する。
「つまり。」
「異世界で使う前提。」
「そう。」
「日本へ持ち込まない。」
「保管もしない。」
「法令を守ることが絶対条件。」
「了解。」
奏も真剣な表情で頷いた。
現代日本の法律を軽視するつもりはない。
異世界で使うからといって、日本国内で違法行為をする理由にはならない。
「だったら。」
奏はホワイトボードへ大きく書いた。
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【第一目標】
・合法的に知識を集める
・異世界用武器を設計する
・鍛冶で再現可能な構造へ改良
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「私は銃そのものより。」
「構造を知りたい。」
奏の目が研究者のそれへ変わる。
「異世界なら。」
「火薬がなくても。」
「魔法を使える。」
「魔力を撃発装置へ利用できる可能性もある。」
アイリスが反応する。
『可能性を確認。』
『魔力伝導金属が存在します。』
「あるの!?」
『はい。』
『詳細は未確認ですが、魔導具の基礎素材として流通しています。』
奏は笑みを浮かべた。
「面白い。」
「火薬じゃなく。」
「魔力。」
「撃鉄じゃなく。」
「魔法陣。」
「薬莢じゃなく。」
「魔石。」
研究者の思考が止まらない。
琴子はその様子を見て苦笑した。
「始まった。」
「奏の研究モード。」
真奈美も楽しそうに笑う。
「昔からそうだったわね。」
「新しい技術を見ると寝なくなる。」
「徹夜はしない。」
「最近は。」
「最近は、ね。」
三人は笑い合った。
しかし、琴子はすぐ真面目な表情へ戻る。
「武器以前に。」
「私たち。」
「レベル一なんだよね。」
その一言で空気が変わる。
奏も頷いた。
「そうだった。」
「装備以前に弱い。」
アイリスがホログラムを表示する。
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【現在】
カナデ Lv1
コトコ Lv1
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『推奨します。』
『最優先事項はレベル上げです。』
「やっぱり。」
『ステータス差は非常に大きな要素になります。』
琴子は腕を組む。
「初心者の森。」
「危険だったよね。」
『最深部は危険です。』
『しかし入口付近は初心者向けです。』
「なら。」
「入口まで移動する?」
アイリスは首肯するように光る。
『安全性を考慮した場合、それが最善です。』
奏が地図を見ながら呟く。
「異世界と地球を行き来できる。」
「なら。」
「無理に野宿する必要もない。」
「昼はレベリング。」
「夜は日本。」
「睡眠は家。」
「食事も日本。」
琴子が頷く。
「効率がいい。」
「しかも。」
「時間差がある。」
「地球の休日だけでも。」
「サイエスでは何か月も活動できる。」
真奈美が感心したように呟く。
「普通の転移者とは条件が違いすぎるわね。」
「だからこそ。」
琴子は真剣な眼差しで奏を見る。
「焦らない。」
「無茶しない。」
「確実に強くなる。」
「うん。」
奏も力強く頷いた。
アイリスが最後に一つ提案する。
『レベリング目標を設定します。』
ホログラムへ文字が浮かぶ。
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### 第一段階
・レベル10到達
・職業スキルの習熟
・初期装備更新
・初心者の町へ到達
・生活基盤確立
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「まずはここまで。」
奏は立ち上がる。
「邪神討伐なんて。」
「その先。」
「ずっと先。」
「でも。」
琴子も立ち上がった。
「一歩ずつなら。」
「必ず届く。」
双子は互いに拳を軽く合わせる。
それは幼い頃から変わらない、二人だけの約束の合図だった。
神を討つほどの力は、まだない。
しかし、研究者として積み重ねてきた知識、金融の世界で培った戦略、そして何より、どんな逆境でも諦めず歩んできた双子の経験は、これから始まる異世界での成長を大きく支えることになる。




