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誤召喚された双子は、異世界を丸ごとアップデートする ~鍛冶師と知識魔女の最強貿易ライフ~  作者: 此花サギリ


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第六話 久世真奈美と異世界貿易計画

 古民家を出た双子は、住宅街をゆっくりと歩いていた。


 空はまだ夕暮れ前。


 時計を見る限り、時計塔で事故に遭ったはずの時刻から数分も経っていない。


 学生が下校し、買い物帰りの主婦が自転車で通り過ぎる。


 あまりにもいつも通りの日常だった。


「……なんか変な感じ。」


 奏は空を見上げながら呟いた。


「さっきまで魔物だらけの森にいたのに。」


「数分後には住宅街。」


「頭が追いつかない。」


「そのうち慣れるよ。」


 琴子は落ち着いた様子で歩き続ける。


 久世真奈美の屋敷までは徒歩十五分ほど。


 幼い頃から何度も訪れた道だった。


 その途中。


『提案があります。』


 アイリスが静かに声を掛けた。


「どうしたの?」


 奏が問い返す。


『武器を借りる前に、異世界貿易を行ってはいかがでしょうか。』


「異世界貿易?」


 琴子が興味を示す。


『奏様のギフト【異世界貿易共有】は、地球とサイエス双方で商品の売買を行える能力です。』


「うん。」


『サイエスの素材を地球で販売できる可能性があります。』


 二人は足を止めた。


「……あ。」


「そうか。」


 琴子の思考が一気に加速する。


「逆も可能だ。」


 奏もすぐに気付いた。


「日本の商品を異世界へ。」


『その通りです。』


 アイリスは淡々と続ける。


『現時点では市場情報が不足しています。』


『しかし、需要の高い商品を把握できれば、大きな利益が期待できます。』


 琴子の目が鋭くなる。


 金融会社で培った癖だった。


「利益率。」


『非常に高くなる可能性があります。』


「仕入れ。」


『地球側の市場価格を参照できます。』


「競合。」


『現時点では存在しません。』


「独占市場……。」


 その四文字を口にした瞬間。


 奏は横で苦笑する。


「始まった。」


「何が?」


「姉ちゃんの経営者モード。」


「失礼だね。」


 琴子は笑いながらも真剣だった。


「でも考えてみて。」


「うん。」


「異世界の薬草。」


「魔物素材。」


「鉱石。」


「全部日本に持ってこれるかもしれない。」


 奏も腕を組む。


「逆なら。」


「工具。」


「調味料。」


「保存食。」


「薬。」


「工作機械。」


「電子機器……は魔力があるから微妙かな。」


 二人は次々と案を出していく。


 アイリスが補足する。


『現段階では資金確保が最優先です。』


『武器、防具、宿泊費、食料など、異世界での活動資金が必要になります。』


「だね。」


 琴子は頷いた。


「まずはお金。」


「その次が武器。」


「最後に仲間。」


「うん。」


 奏も同意する。


「それと。」


「何?」


「久世さんに相談。」


「絶対必要。」


 神。


 異世界。


 神殺し。


 常識外れの話を真面目に相談できる相手は、日本中を探しても片手で数えられるだろう。


 その一人が久世真奈美だった。


◇◇◇


 やがて二人は、大きな日本家屋の門前へ辿り着いた。


 黒塀に囲まれた広い敷地。


 庭には樹齢数百年はありそうな御神木。


 鳥居。


 石灯籠。


 純和風の屋敷でありながら、防犯カメラや最新式のセキュリティまで備えられている。


 古さと新しさが自然に融合した、不思議な屋敷だった。


 奏がインターホンを押す。


 数秒後。


『はい。』


 女性の声。


「奏です。」


「琴子です。」


『あら。』


『ちょうど良かったわ。』


『入りなさい。』


 鍵が開く音がした。


 玄関まで歩いていくと、扉はすでに開いている。


 そこに立っていたのは、一人の女性だった。


 三十代半ばほどにしか見えない整った顔立ち。


 艶やかな黒髪を後ろで束ね、白いブラウスに黒いスラックスという動きやすい服装。


 しかし、その柔らかな笑みとは裏腹に、纏う空気は一流の祓い屋そのものだった。


 久世真奈美。


 全国でも指折りの祓い屋。


 そして、財界や政界にも広い人脈を持つ資産家。


 幼い頃から双子を何かと気に掛け、後見人として支え続けてくれた恩人だった。


「いらっしゃい。」


 真奈美は優しく笑う。


「二人とも、何かあったでしょう?」


 その一言で。


 奏と琴子は思わず顔を見合わせた。


「……分かるの?」


 奏が驚く。


 真奈美は苦笑した。


「分かるわよ。」


「二人とも霊力が以前とは比べ物にならないくらい増えてるもの。」


「え。」


「しかも。」


 真奈美の表情が真剣になる。


「神気が混ざってる。」


「何に巻き込まれたの?」


 双子は息を呑んだ。


 まだ何も話していない。


 それなのに。


 真奈美は異変を見抜いていた。


「……中で話そうか。」


 真奈美は静かに言う。


「長くなる話なんでしょう?」


「うん。」


「たぶん。」


「人生で一番。」


 真奈美は小さく笑った。


「そういう話は慣れてるわ。」


◇◇◇


 応接間へ通された三人。


 香り高い紅茶が運ばれ、一息ついたところで、琴子が口を開いた。


「真奈美さん。」


「うん。」


「信じられない話なんだけど。」


「大丈夫。」


「神に誤召喚された。」


 真奈美は紅茶を一口飲んだ。


「そう。」


「……え?」


 奏が固まる。


「驚かないの?」


「驚いてるわよ。」


「でも。」


 真奈美は優雅に微笑む。


「神様って、昔から結構いい加減だから。」


「…………。」


「…………。」


 双子は絶句した。


 その後、二人は時計塔での事故から白い世界、自称神との交渉、願い事、アイリス、サイエス、時間の流れ、邪神討伐の決意、異世界と日本を行き来できる鍵まで、一切包み隠さず説明した。


 途中で一度も真奈美は話を遮らない。


 ただ静かに耳を傾けていた。


 一時間近く話し終えると、真奈美は静かに目を閉じる。


「……なるほど。」


 しばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「結論から言うわ。」


 二人は息を呑む。


「その存在は神じゃない。」


「やっぱり。」


「邪神よ。」


 真奈美は断言した。


「人の人生を娯楽にする存在なんて、まともな神様じゃない。」


「昔の文献にも似た存在の記録があるわ。」


 奏が身を乗り出す。


「知ってるの?」


「詳しくはまだ分からない。」


「でも。」


 真奈美は真っ直ぐ二人を見た。


「戦うなら、一人で抱え込んじゃ駄目。」


「人脈は使いなさい。」


「お金も使いなさい。」


「情報も使いなさい。」


「使えるものは全部使う。」


「それが勝つための基本よ。」


 琴子が静かに頷く。


「武器も、ですか?」


「もちろん。」


 真奈美は微笑んだ。


「私の伝手で、合法的に入手できる物は用意する。」


「海外ルートもある。」


「鍛冶職人も紹介できる。」


「古武術の師範も。」


「退魔師も。」


「必要なら、自衛隊関係者にも話を通せる。」


 奏は思わず苦笑した。


「相変わらず顔が広いね。」


「年の功よ。」


 真奈美は笑う。


 そして最後に、双子へ静かに告げた。


「ただし。」


「異世界貿易は慎重になさい。」


「一歩間違えれば、世界の均衡を崩す。」


「莫大なお金も手に入るでしょう。」


「だからこそ。」


「信用できる仲間だけで進めること。」


「そのためなら、私も力を貸す。」


 その言葉に、奏と琴子は同時に頭を下げた。


「「お願いします。」」


 こうして双子は、異世界だけでなく地球にも頼れる協力者を得ることになる。


 そして真奈美の豊富な人脈は、後にサイエスと地球を結ぶ「異世界貿易商会」設立への大きな第一歩となっていくのだった。


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