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誤召喚された双子は、異世界を丸ごとアップデートする ~鍛冶師と知識魔女の最強貿易ライフ~  作者: 此花サギリ


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第四話 帰還、そして邪神討伐会議

 眩い光が収まる。


 奏と琴子の目の前に広がっていたのは、見上げるほど巨大な木々だった。


 幹の太さは十人が手を繋いでも囲めそうにない。


 青々と茂る葉が空を覆い、木漏れ日だけが森の地面へ降り注いでいる。


 湿った土の匂い。


 鳥とも獣とも違う鳴き声。


 そして、肌を撫でる風には、日本では感じたことのない濃密な魔力が混ざっているような感覚があった。


「……異世界、か。」


 奏は深く息を吸った。


 電子機器に囲まれた研究所とは正反対の世界。


 しかし、不思議と恐怖はない。


 隣に琴子がいるからだ。


「かなり森の奥みたいだね。」


 琴子も辺りを見回しながら冷静に分析する。


 その時だった。


『周囲の索敵を開始します。』


 アイリスの声が二人の頭の中へ直接響く。


『現在地を確認。


 惑星サイエス。


 初心者の森最深部。


 危険度Aランク。


 大型魔獣反応二十三。


 中型魔獣反応百四十二。


 小型生物反応多数。』


 奏が固まる。


「……最初から?」


『はい。』


「初心者の森って初心者用じゃないの?」


『通常は入口付近のみです。


 最深部は上級冒険者でも単独侵入を推奨されません。』


「……あの邪神。」


 奏はこめかみを押さえた。


「本当に馬鹿なんじゃないかな。」


「違うよ。」


 琴子が即座に否定した。


「馬鹿じゃない。」


 一拍置いて続ける。


「**救いようのない馬鹿。**」


「訂正ありがとう。」


 奏は苦笑する。


 そこで、ふと思い出した。


「そういえば。」


「ん?」


「願い事。」


「うん。」


「『持ち物は全部使えるように』って言ってたよね。」


 琴子も頷く。


「言ってた。」


 奏はポケットへ手を入れる。


 制服でも私服でもない。


 十八歳へ若返った身体に、研究所で着ていた作業服。


 そのポケットから取り出したのは。


 一本の鍵だった。


 銀色の、ごく普通の鍵。


 曾祖父から受け継いだ古民家の玄関鍵。


「……試してみる。」


「うん。」


 奏は深呼吸した。


 そして。


 何もない空間へ向かって鍵を差し出す。


「家に帰る。」


 カチリ。


 そんな音が聞こえた。


 空間そのものへ鍵穴が現れる。


「え。」


 琴子の目が丸くなる。


 空間がゆっくり裂け始めた。


 まるで透明な壁へドアが埋め込まれていくように。


 木製の玄関扉。


 見慣れた木目。


 傷一つまで覚えている。


 間違いない。


 曾祖父の家の玄関だった。


「……嘘。」


 琴子が思わず呟く。


 奏も目を見開いていた。


「開くかな。」


 恐る恐るノブを回す。


 ガチャ。


 軽い音と共に扉が開いた。


 その向こうから流れてきたのは。


 畳の香りだった。


 どこか懐かしい木の匂い。


 障子越しに差し込む夕日。


 聞き慣れた柱時計の音。


「……帰ってきた。」


 奏は呆然と呟く。


 異世界と日本。


 二つの世界が、一枚の扉で繋がっていた。


「入ろう。」


 琴子が慎重に玄関をくぐる。


 奏も続く。


 二人が家へ入ると、玄関扉は何事もなかったかのように閉じた。


 異世界側の扉も消えている。


 しかし。


 玄関の鍵だけは奏の手の中に残っていた。


『解析完了。』


 アイリスが報告する。


『願いの効果を確認。


 鍵は異世界と地球を接続する座標固定型ゲートとして機能しています。』


「つまり?」


『鍵を使用すれば、登録された自宅へ自由に往来可能です。』


 数秒。


 双子は黙った。


「……」


「……」


 そして。


 二人同時に天井を見上げる。


「「あの邪神、本当に馬鹿だ。」」


 声が綺麗に重なった。


 普通なら異世界へ召喚された時点で帰還不能。


 それが物語の大前提だ。


 なのに。


 自宅の鍵まで持ち込み可能にした結果。


 異世界と日本を自由に行き来できる。


 完全に設定が崩壊していた。


 琴子は靴を脱ぐと、そのまま居間へ向かう。


「お茶淹れる。」


「了解。」


 奏も勝手知ったる我が家へ入り、冷蔵庫から麦茶を取り出す。


 十数分後。


 居間のちゃぶ台には急須と湯飲み、そして煎餅が並んでいた。


 異世界へ転移した直後とは思えない光景だった。


 琴子は正座すると、真剣な表情になる。


「じゃあ。」


「うん。」


「第一回。」


「うん。」


「**頭の悪い自称神こと邪神を抹殺する会議**を始めます。」


 奏も真顔で頷いた。


「議長、琴子。」


「書記、奏。」


「了解。」


 アイリスが静かに割り込む。


『議事録を作成します。』


「お願い。」


『了解しました。』


 空中へホログラムが現れる。


---


### 第一回 邪神討伐会議


議長:琴子


書記:奏(アイリス補助)


議題


・邪神の危険性


・地球への安全確保


・討伐方法


---


 琴子が口を開く。


「まず確認。」


「うん。」


「アイツ、生かしておく?」


「無理。」


 奏は即答した。


「理由。」


「人攫い。」


「うん。」


「人生を娯楽扱い。」


「うん。」


「反省ゼロ。」


「うん。」


「またやる。」


「私もそう思う。」


 結論は一分も掛からなかった。


 琴子はホワイトボード代わりのホログラムへ大きく書き込む。


**『邪神は再犯する』**


 奏が続ける。


「次。」


「倒せる?」


 アイリスが即答した。


『現時点では不可能です。』


「だよね。」


『ただし。』


 二人がアイリスを見る。


『世界の法則。


 神格。


 権能。


 それらを解析すれば、討伐方法を発見できる可能性があります。』


 琴子の目が細くなる。


「可能性は?」


『不明。


 ですがゼロではありません。』


 奏は笑みを浮かべた。


「十分。」


「私たち。」


「元研究職。」


「元金融。」


「未知を調べるのは得意。」


「仮説を立てるのも得意。」


 二人は同時に笑う。


 そして。


 琴子は議事録の最後へ、大きく一文を書き加えた。


---


## 長期目標


**異世界へ帰還。**


**戦力を整える。**


**神を殺す方法を見つける。**


**邪神を討伐する。**


---


 それは復讐ではない。


 これ以上、理不尽に人生を弄ばれる人間を生まないため。


 双子が下した、最初の決定だった。


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