第三十二話 ボーナスポイントで新たな力を
始まりの町の冒険者ギルドで起きた一連の騒動から、しばらく時間が経っていた。
あの後、結局のところ大きな問題にはならなかった。
鑑定士のグレゴールが、奏の【縁切り∞】によって自分の鑑定を阻まれたことに驚愕し、琴子の【縁結び∞】によって敵意を削がれたことも、幸いなことにギルド全体へ騒ぎが広がる前に収まった。少なくとも、ギルドの職員たちにとっては、双子が「何かとんでもなく珍しい能力を持つ異世界人らしい」という程度の認識に落ち着いている。
ただし。
それで双子が安心できたかと言えば、当然ながらそうではなかった。
むしろ。
二人は今。
始まりの町の宿屋に借りた一室で。
かなり真剣な顔をして。
一つのステータス画面を睨みつけていた。
「……」
「……」
「……」
奏と琴子は。
同じテーブルを挟んで座っている。
その中央。
二人の視線が集中している場所に。
半透明のステータス画面が浮かんでいた。
もちろん。
この世界の人間には。
見えない。
これは。
奏と琴子。
そして。
アイリスだけが確認できる。
特殊なシステム画面だった。
その画面の中には。
二人がこれまで積み重ねてきた経験値。
取得したスキル。
装備。
ギフト。
そして。
大量に蓄積された。
ボーナスポイントが。
表示されている。
「……」
奏は。
腕を組んだ。
「増えたね」
「増えましたね」
琴子も。
画面を見つめながら答える。
「ゲームでレベリングした分が、そのまま反映されていますから」
「うん」
「それに」
琴子が。
画面の数字を見る。
「経験値倍化」
「……」
「かなり凄いですね」
「そうだね」
奏は。
少しだけ。
遠い目をした。
地球でVRゲームをプレイした。
攻略サイトを参考に。
効率の良い狩場を選び。
パーティーを組み。
経験値を稼ぎ。
装備を整え。
そして。
何度も。
何度も。
同じモンスターを倒した。
ゲームとして考えれば。
ただのレベリングだった。
しかし。
今。
それが。
現実の自分たちの力になっている。
ゲームの経験値が。
現実のレベルになり。
ゲームで手に入れた装備が。
現実の武器になる。
そして。
ゲーム内で獲得した。
ボーナスポイントまでも。
そのまま。
現実の二人に。
引き継がれている。
「……」
奏は。
ステータス画面を。
じっと見る。
そこには。
現在の二人のレベルが。
表示されている。
レベル八。
まだまだ。
低い。
少なくとも。
この世界で。
強者と呼ばれるには。
ほど遠いだろう。
しかし。
地球にいた頃。
トラックに轢かれそうになり。
何もできなかった自分たちとは。
明らかに違う。
今の二人には。
力がある。
そして。
その力を。
さらに。
伸ばすことができる。
「……」
奏が。
画面を操作する。
「ボーナスポイント」
「はい」
「使えるんだよね?」
「ええ」
「何ポイントある?」
「確認します」
琴子が。
自分のステータスを開く。
「……」
「……」
「……」
「琴子?」
「……かなりあります」
「どれくらい?」
「奏」
「うん」
「これは」
琴子が。
少しだけ。
困ったような顔をした。
「全部使う必要はないと思います」
「……」
「むしろ」
「うん」
「慎重に使うべきです」
「分かってる」
奏は。
素直に頷いた。
自分の性格を。
自分自身で理解している。
新しいスキル。
新しい武器。
新しい能力。
そういうものを見ると。
試したくなる。
使いたくなる。
そして。
作りたくなる。
しかし。
今は。
異世界だ。
ゲームではない。
死ねば。
終わる。
少なくとも。
今の二人には。
復活地点も。
蘇生アイテムも。
存在しない。
だからこそ。
力を。
無駄に使うわけにはいかない。
「……」
奏は。
画面を見つめた。
そして。
ふと。
気づく。
「ねえ」
「はい」
「ボーナスポイントで」
「はい」
「スキル取れるんだよね?」
「……」
琴子が。
奏を見る。
「ええ」
「だったら」
「……」
「取ろう」
「……」
「今のうちに」
「……」
琴子は。
黙った。
そして。
ゆっくりと。
奏を見る。
「……何をです?」
「スキル」
「それは分かっています」
「じゃあ」
「何のスキルを取るつもりですか?」
「……」
奏は。
考えた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……武器製作系?」
「却下です」
「何で!?」
「奏」
「はい」
「あなたは既に」
「……」
「【鍛冶】があります」
「……」
「しかも」
「……」
「レベル三です」
「……」
「今すぐ新しいスキルを取得する必要性がありません」
「……」
「それよりも」
琴子は。
奏のステータス画面を見る。
「生存能力を上げるべきです」
「……」
「私たちは」
琴子が。
静かに言う。
「今後」
「うん」
「邪神と戦う可能性があります」
「うん」
「そして」
琴子の表情が。
少しだけ。
険しくなる。
「この世界で生きていく必要もあります」
「……」
「なら」
琴子は。
指を立てた。
「戦闘」
「……」
「探索」
「……」
「情報収集」
「……」
「金策」
「……」
「生活」
「……」
「この五つを」
「……」
「考える必要があります」
「……」
奏は。
少し考える。
「……」
「……」
「じゃあ」
「はい」
「琴子」
「何です?」
「私たち」
「はい」
「めちゃくちゃ忙しくない?」
「……」
琴子は。
黙った。
そして。
深々と。
ため息を吐いた。
「……そうですね」
この瞬間。
二人は。
改めて。
自分たちが。
とんでもなく。
面倒な立場に置かれていることを。
理解した。
邪神を倒す。
それだけなら。
まだいい。
しかし。
そのためには。
レベルを上げなければならない。
装備を整えなければならない。
資金が必要になる。
情報も必要になる。
そして。
この世界で。
普通に生活する必要もある。
しかも。
自分たちは。
異世界人だ。
この世界の常識を。
知らない。
だからこそ。
できることを。
一つずつ。
増やす必要がある。
「……」
奏は。
自分のステータス画面を開いた。
そこには。
現在のスキル一覧が表示されている。
【縁切り∞】
【鍛冶3】
【料理7】
奏は。
じっと見る。
「……」
「どうです?」
「少ない」
「……」
「もっと欲しい」
「奏」
「だって」
「はい」
「私」
奏は。
真剣な顔で。
言った。
「魔法が使えるのに」
「……」
「魔法スキルがないんだよ」
「……」
「あれ?」
「……」
「これって」
「……」
「変じゃない?」
「……」
琴子が。
少し考える。
「確かに」
「でしょ?」
「ですが」
「うん」
「奏の魔力は」
「……」
「かなり高いです」
「うん」
「魔法を使うための適性は」
「ある」
「なら」
「……」
「スキルを取得すれば」
「……」
「使える可能性がありますね」
奏の目が。
輝いた。
「魔法!」
「……」
「魔法だよ!」
「奏」
「魔法!」
「……」
「魔法陣!」
「……」
琴子は。
少しだけ。
嫌な予感がした。
「奏」
「なに?」
「……何を考えています?」
「魔法を使う」
「それは分かります」
「銃で」
「……」
「魔法を」
「……」
「撃つ」
「……」
琴子は。
目を閉じた。
「……」
「琴子?」
「……」
「姉ちゃん?」
「……」
「聞いてる?」
「聞いています」
「じゃあ」
「……」
「どう?」
「どうと言われましても」
琴子は。
額を押さえた。
「あなたは」
「うん」
「本当に」
「うん」
「魔法を」
「うん」
「銃で撃ちたいんですね」
「うん!」
奏は。
満面の笑顔で。
頷いた。
「だって」
「はい」
「魔法って」
「はい」
「魔法陣が出るんでしょ?」
「……」
「だったら」
「……」
「銃から魔法陣が出て」
「……」
「そこから魔法が飛んでいったら」
「……」
「格好良くない?」
「……」
「ね?」
琴子は。
しばらく。
妹を見つめた。
そして。
「……まあ」
「うん」
「奏らしいですね」
「でしょ?」
「褒めてはいません」
「……」
奏は。
少しだけ。
頬を膨らませた。
しかし。
すぐに。
ステータス画面へ視線を戻した。
「……」
「魔法スキル」
「はい」
「取れるかな?」
「確認しましょう」
琴子が。
ボーナスポイントの一覧を開く。
すると。
そこには。
大量のスキルが表示された。
剣術。
槍術。
弓術。
短剣術。
盾術。
魔法。
錬金術。
調理。
裁縫。
薬学。
鑑定。
隠密。
気配察知。
危険察知。
収納。
採取。
解体。
そして。
さらに。
その奥。
通常のプレイヤーでは。
取得条件すら分からない。
特殊スキルの一覧が。
存在していた。
「……」
奏は。
目を見開く。
「……これ」
「はい」
「取れるの?」
「……」
琴子も。
画面を見つめる。
「……どうでしょう」
「でも」
「はい」
「取得可能って表示されてる」
「……」
「じゃあ」
「……」
「取ろう」
「待ってください」
「何で?」
「奏」
「はい」
「あなた」
「うん」
「絶対に」
「うん」
「全部取ろうとしていますよね?」
「……」
「……」
「……」
奏は。
視線を逸らした。
「……ちょっとだけ」
「ダメです」
「なんで!」
「ポイントが有限だからです!」
「でも」
「でもではありません!」
琴子の声が。
宿屋の部屋に響く。
「私たちは!」
「……」
「この先!」
「……」
「何が起きるか分からないんですよ!」
「……」
「邪神と戦うんですよ!?」
「……」
「世界を救うかもしれないんですよ!?」
「……」
「なのに!」
「……」
「ポイントを無計画に使ってどうするんです!」
「……」
奏は。
しばらく。
黙っていた。
そして。
ぽつりと。
「……ごめん」
「……」
「分かった」
「……」
「ちゃんと考える」
「……」
「だから」
「はい」
「一個だけ」
「……」
「取っていい?」
琴子は。
妹を見る。
奏は。
真剣な顔をしている。
琴子は。
深いため息を吐いた。
「……一個だけです」
「やった!」
「ただし」
「はい」
「必要性を説明してください」
「……」
「何となくは駄目です」
「……」
「面白そうだからも駄目です」
「……」
「格好良いからも駄目です」
「……」
「奏」
「……はい」
「聞いていますか?」
「……」
「奏」
「聞いてます」
「なら」
琴子は。
真剣な顔をする。
「何を取るんです?」
奏は。
画面を見つめた。
そして。
しばらく考えた。
「……鑑定」
「……」
「鑑定スキル」
「……」
琴子が。
少し驚いた。
「……意外ですね」
「何で?」
「魔法ではないんですか?」
「魔法も欲しい」
「……」
「でも」
奏は。
ステータス画面を指差した。
「鑑定があれば」
「はい」
「敵の弱点とか」
「……」
「武器の性能とか」
「……」
「アイテムの効果とか」
「……」
「分かるかもしれない」
「……」
「だったら」
奏は。
真剣に言った。
「戦う前に」
「……」
「相手を知れる」
「……」
「それって」
奏は。
小さく笑った。
「軍事的にも重要じゃない?」
「……」
琴子は。
黙った。
そして。
ゆっくり。
頷いた。
「……確かに」
「でしょ?」
「鑑定は」
琴子も。
画面を見る。
「確かに必要です」
「うん」
「それに」
琴子は。
自分のステータスを見る。
「私も取得した方がいいですね」
「え?」
「私の場合」
「うん」
「商売をするなら」
「……」
「商品の鑑定が必要です」
「あ」
「ポーション」
「うん」
「素材」
「うん」
「魔石」
「うん」
「宝石」
「うん」
「武器」
「……」
「防具」
「……」
「すべて」
「……」
「鑑定できた方がいいでしょう」
「……」
「むしろ」
琴子は。
淡々と言った。
「私の方が必要です」
「……」
「奏」
「はい」
「鑑定を取りましょう」
「……」
「二人とも」
「……」
「取得です」
「……」
「……いいの?」
「はい」
琴子は。
ステータス画面を操作する。
「ただし」
「うん」
「これは」
琴子が。
表示された。
取得ポイントを確認する。
「思ったより安いですね」
「本当?」
「ええ」
「じゃあ」
「……」
「魔法も」
「駄目です」
「何で!?」
こうして。
二人のボーナスポイントの使用先は。
まず。
【鑑定】に決定した。
しかし。
それだけでは。
終わらなかった。
「……」
琴子が。
画面を操作する。
「奏」
「なに?」
「これ」
「うん」
「取得条件が」
「……」
「一部解除されています」
「え?」
「鑑定を取得したことで」
「……」
「派生スキルが」
「……」
「解放されました」
「……」
奏が。
画面を見る。
「……」
そこには。
新しいスキルが。
表示されていた。
【解析】
【鑑定眼】
【弱点看破】
【魔力解析】
【アイテム解析】
【装備解析】
【スキル解析】
そして。
さらに。
その下。
まだ。
???
と表示されている。
「……」
奏の目が。
輝く。
「琴子」
「はい」
「これ」
「……」
「面白そう」
「……」
「……」
「……」
琴子は。
ゆっくりと。
妹を見る。
「……奏」
「うん」
「あなた」
「うん」
「まさか」
「……」
「また」
「……」
「全部取ろうとしていませんよね?」
「……」
奏は。
少しだけ。
笑った。
「……」
「奏」
「……」
「奏?」
「……」
「答えなさい」
「……」
「奏!」
「……はい」
「何です?」
「……」
「全部」
「……」
「取れるなら」
「……」
「取りたい」
「……」
「……」
「……」
琴子は。
頭を抱えた。
「……あなたは」
「はい」
「本当に」
「うん」
「どうして」
「……」
「そういうところだけ」
「……」
「欲望に忠実なんですか……」
「だって」
奏は。
楽しそうに笑った。
「異世界だよ?」
「……」
「魔法だよ?」
「……」
「スキルだよ?」
「……」
「新しい能力だよ?」
「……」
「欲しくなるじゃん」
「……」
琴子は。
反論できなかった。
なぜなら。
琴子自身も。
同じ気持ちだったからだ。
異世界。
魔法。
スキル。
ギフト。
アイテム。
そして。
ゲームシステム。
この世界には。
地球では存在しない。
未知のものが。
あまりにも多い。
知識欲。
好奇心。
探究心。
それらを刺激される。
琴子も。
決して。
無関心ではいられない。
「……」
琴子は。
ゆっくり。
自分のステータス画面を見る。
そして。
小さく笑った。
「……まあ」
「うん」
「分かりました」
「本当?」
「はい」
「じゃあ」
「ただし」
「……」
「今すぐ全部は取りません」
「……」
「まずは」
「……」
「必要なものからです」
「……」
「そして」
琴子は。
指を一本立てる。
「次のレベリングで」
「うん」
「さらにポイントを稼ぎます」
「うん」
「そして」
「……」
「余裕ができたら」
「……」
「新しいスキルを取得します」
「……」
「いいですね?」
奏は。
満面の笑みで。
頷いた。
「うん!」
こうして。
二人は。
貯まったボーナスポイントを使い。
まずは。
【鑑定】スキルを取得した。
その瞬間。
二人の身体を。
淡い光が包み込む。
「……」
頭の奥に。
新しい感覚が生まれる。
今まで。
ただの物体として見ていたもの。
それらの情報が。
まるで。
最初からそこに書かれていたかのように。
理解できるようになっていく。
テーブル。
椅子。
壁。
窓。
扉。
そして。
奏が持っている銃。
琴子が身につけている装備。
そのすべてに。
情報が存在している。
「……」
奏は。
自分の銃を見た。
すると。
視界の中に。
文字が浮かび上がった。
【スチームパンク式魔導銃】
【品質:高】
【攻撃力:???】
【魔力伝導率:高】
【特殊効果:魔法陣投影機構】
【備考:所有者の魔力により性能が変動】
「……」
奏は。
固まった。
「……」
「奏?」
「……」
「どうしました?」
「……」
奏は。
ゆっくり。
銃を持ち上げる。
「これ」
「はい」
「鑑定できる」
「……」
「ちゃんと」
「……」
「見える」
「……」
奏の顔に。
笑顔が広がった。
「……」
「……」
「……」
琴子も。
自分のステータスを確認する。
そして。
同じように。
笑った。
「……本当ですね」
「うん」
「これは」
「うん」
「かなり便利です」
「でしょ?」
「ええ」
「……」
「奏」
「何?」
「このスキル」
「うん」
「取得して正解でしたね」
「……」
「はい」
奏は。
満足そうに頷いた。
しかし。
その直後。
アイリスの声が。
二人の頭の中に響いた。
『お二人にご報告があります』
「……」
「……」
奏と琴子が。
同時に。
アイリスを見る。
「何?」
『ボーナスポイントの使用によって』
「うん」
『新たなシステムが解放されました』
「……」
琴子が。
眉を寄せる。
「新たなシステム?」
『はい』
「何ですか?」
『スキル合成機能です』
「……」
「……」
二人は。
同時に。
沈黙した。
そして。
数秒後。
「……」
「……」
「……琴子」
「……」
「スキル」
「……」
「合成できるって」
「……」
「言った?」
「……」
「アイリスが」
「……」
「言ったよね?」
「……」
「……」
「……」
琴子は。
ゆっくりと。
ステータス画面を見た。
そこには。
新しく。
一つの項目が。
表示されていた。
【スキル合成】
必要ポイント。
取得条件。
合成可能スキル。
そのすべてが。
まだ。
???
になっている。
しかし。
琴子の目は。
完全に。
輝いていた。
奏も。
同じだった。
「……」
「……」
そして。
二人は。
ほぼ同時に。
同じ言葉を口にした。
「……これ」
「……」
「絶対」
「……」
「面白いやつだ」
その瞬間。
アイリスが。
静かに。
告げた。
『肯定します』
『お二人の保有スキルを組み合わせることで』
『通常のサイエス世界では存在しないスキルが生成される可能性があります』
「……」
「……」
『なお』
「……」
「はい?」
『スキル合成には』
「……」
『失敗する可能性も存在します』
「……」
「……」
奏と琴子は。
互いに。
顔を見合わせた。
そして。
奏が。
ゆっくり。
口元を上げる。
「……琴子」
「何です?」
「やろう」
「……」
「スキル合成」
「……」
「やろうよ」
「……」
琴子は。
目を閉じた。
そして。
長いため息を吐く。
「……」
「琴子?」
「……分かりました」
「本当!?」
「ただし」
「うん」
「実行するのは」
「うん」
「十分な準備をしてからです」
「……」
「失敗する可能性があるなら」
「……」
「安全な場所で」
「……」
「必要なポイントを確保して」
「……」
「事前にセーブ……ではなく」
琴子は。
ふと。
言葉を止めた。
ゲームなら。
セーブができる。
しかし。
ここは現実だ。
失敗すれば。
取り返しがつかない。
その事実を。
二人は。
改めて。
思い知らされた。
「……」
「琴子?」
「……何でもありません」
琴子は。
静かに。
画面を閉じた。
「まずは」
「うん」
「この世界について」
「……」
「もっと知りましょう」
「……」
「そして」
「うん」
「レベルを上げます」
「うん」
「資金を稼ぎます」
「うん」
「装備を整えます」
「うん」
「それから」
琴子は。
ゆっくり。
奏を見る。
「邪神を倒すための」
「……」
「本当の準備を始めましょう」
奏は。
真剣な顔で。
頷いた。
「うん」
そして。
二人の前には。
新たな目標が。
一つ。
増えた。
邪神を倒す。
そのために。
レベルを上げる。
装備を整える。
資金を稼ぐ。
仲間を作る。
情報を集める。
そして。
新しいスキルを。
手に入れる。
異世界。
サイエス。
この世界を。
ゲームとして攻略するのではない。
現実として。
生き抜くために。
二人は。
自分たちだけの。
攻略法を。
作り始めていた。
その第一歩として。
奏は。
鑑定したばかりの自分の銃を。
もう一度。
じっくりと眺める。
「……」
「どうしました?」
琴子が聞く。
奏は。
真剣な顔で。
答えた。
「……この銃」
「はい」
「魔力伝導率が高いんだよね」
「……」
「だったら」
「……」
「魔法を撃つための機構を」
「……」
「もっと強化できるんじゃない?」
「……」
「魔法陣も」
「……」
「もっと派手にして」
「……」
「撃つ直前に」
「……」
「銃口の前に巨大な魔法陣が展開して」
「……」
「そこから」
「……」
「ドーンって」
「……」
琴子は。
ゆっくり。
目を閉じた。
「……」
「琴子?」
「……」
「どうしたの?」
「……何でもありません」
「……」
「ただ」
琴子は。
深々と。
ため息を吐いた。
「……次の課題が」
「うん」
「決まっただけです」
「何?」
琴子は。
妹を見る。
「魔法陣を派手にする前に」
「……」
「まず」
「……」
「この町で」
「……」
「あなたを暴走させない方法を考えます」
「……」
奏は。
不満そうに。
頬を膨らませた。
しかし。
その一方で。
彼女の頭の中では。
すでに。
新しい銃の設計図が。
いくつも。
描かれ始めていた。
そして。
その隣では。
琴子もまた。
異世界の市場価値を。
計算し始めている。
異世界から得た素材を。
どのように売るか。
地球の品を。
どのように持ち込むか。
どんな商売を始めれば。
最も効率良く。
資金を増やせるか。
二人は。
同じ目的に向かって。
まったく違う方法で。
準備を始めていた。
やがて。
その二つの道が。
一つに重なった時。
始まりの町には。
これまで誰も見たことのない。
異世界商会が。
誕生することになる。
そして。
その商会が。
サイエスの経済を。
大きく変えていくことになるのだが。
その時の二人は。
まだ。
そんな未来を。
知る由もなかった。




