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誤召喚された双子は、異世界を丸ごとアップデートする ~鍛冶師と知識魔女の最強貿易ライフ~  作者: 此花サギリ


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第二十九話 ゲームの力、現実へ


 それは、あまりにも静かな帰還だった。


 有平奏と有平琴子の二人は、地球の自宅に戻ってから、しばらくの間、何もせずに座り込んでいた。


 正確には、何もしていなかったわけではない。


 二人とも、自分たちの身体に起きた変化を確認していた。


 ゲーム【フロンティア】にログインし、攻略サイトを参考にしながらレベル上げを行った。


 ただそれだけのつもりだった。


 少なくとも、最初は。


 しかし、二人はすでに気づいていた。


 あの世界は、ただのVRゲームではない。


 自分たちがプレイしていた【フロンティア】と、異世界サイエスは、あまりにも深く繋がっている。


 ゲーム内で作成したアバターは、現実の二人とほぼ同じ姿になった。


 ゲーム内で使用したスキルは、現実でも使用できた。


 そして何より。


 ゲーム内で上昇したレベルが、現実の二人にも反映された。


 レベル八だった二人は、ゲーム内でのパワーレベリングによって、すでに大幅に成長している。


 しかし。


 ここから先が問題だった。


「……帰る?」


 奏がVR機器を外しながら言った。


「帰りましょう」


 琴子も同じように機器を外す。


 その顔には、いつもの余裕がなかった。


 いくらゲーム内でレベルを上げても、それが現実のサイエスに反映されなければ意味がない。


 もちろん、すでにレベルが反映されていることは確認できている。


 だが。


 レベルだけなのか。


 スキルは。


 ステータスは。


 装備は。


 アイテムは。


 そして。


 ゲーム内で得た金銭は。


 それらすべてが、サイエスへ持ち込めるのか。


 二人には、まだ分からなかった。


「アイリス」


『はい』


「サイエスへ戻るよ」


『承知しました』


「同期状態を確認して」


『了解しました』


 奏が立ち上がる。


 そして。


 琴子と顔を見合わせた。


「行きますか」


「うん」


 奏は、自宅の玄関へ向かった。


 壁に掛けられている鍵。


 その中から。


 異世界サイエスへ通じる扉の鍵を取り出す。


 それは。


 地球の自宅の鍵と同じ形をしていた。


 しかし。


 この鍵を使えば。


 自宅の玄関ドアが。


 異世界への扉になる。


「……」


 奏は鍵を握った。


 そして。


 鍵穴へ差し込む。


 カチリ。


 小さな音がした。


 琴子が隣に立つ。


「忘れ物はありませんか?」


「ない」


「本当に?」


「うん」


「武器は?」


「ある」


「食料は?」


「アイテムボックス」


「水は?」


「アイテムボックス」


「予備の弾薬は?」


「アイテムボックス」


「回復薬は?」


「……」


「奏?」


「アイテムボックス」


「よろしい」


 琴子は満足そうに頷いた。


 相変わらず。


 戦場へ向かう前の確認だけは、異様に細かい。


 奏は苦笑しながら、ドアノブに手を掛けた。


「じゃあ」


「ええ」


「サイエスへ」


「行きましょう」


 扉が開いた。


 その先にあったのは。


 見慣れた日本の玄関ではない。


 緑。


 木々。


 そして。


 異世界の空気。


 初心者の森。


 以前、二人が転移した場所。


 そこへ。


 二人は再び戻ってきた。


「……」


「……」


 二人は無言で立っていた。


 風が吹いた。


 木々が揺れる。


 鳥の鳴き声が聞こえる。


 間違いない。


 ここは。


 サイエスだ。


「帰ってきたね」


 奏が呟く。


「ええ」


 琴子が頷いた。


「では」


「うん」


「ステータスを確認しましょう」


 その瞬間。


 二人の顔が真剣になる。


 これから確認するもの。


 それが。


 今後の二人の運命を大きく変えることになる。


 奏がステータス画面を開いた。


「……」


 琴子も同時に開く。


「……」


 そこに表示された数字を見て。


 二人は。


 しばらく。


 言葉を失った。


「……」


「……」


「琴子」


「はい」


「見間違いかな?」


「いいえ」


「じゃあ」


「ええ」


 琴子がゆっくりと口を開いた。


「引き継がれています」


「……」


「ゲームで上げたレベルが」


「……」


「サイエス側にも」


「……」


「完全に反映されています」


 奏は。


 自分のステータス画面を見つめた。


 レベル。


 以前の八ではない。


 ゲーム内で上げた。


 現在のレベル。


「……」


 奏は。


 ゆっくりと笑った。


「やった」


「奏」


「これ」


「はい」


「ゲームでレベル上げれば」


「ええ」


「こっちでも強くなる」


「そういうことです」


「……」


 奏の目が。


 徐々に輝いていく。


「じゃあ」


「はい」


「もっと上げよう」


「……」


「もっともっと」


「奏」


「なに?」


「あなた」


「うん」


「完全にゲーム脳になっていますよ」


「だって」


 奏は真剣な顔で言った。


「邪神を倒すんでしょ?」


「……」


「なら、強くならないと」


「それはそうですが」


「なら」


 奏は拳を握った。


「レベル上げるしかないじゃん」


「……」


 琴子はため息を吐いた。


 しかし。


 その顔には。


 隠しきれない笑みが浮かんでいる。


 琴子も。


 同じことを考えていた。


 ゲームの攻略情報が。


 現実のサイエスでも使える。


 それは。


 あまりにも大きなアドバンテージだった。


 そして。


 さらに。


 アイリスが告げた。


『お二人に、追加の確認事項があります』


「何?」


『ゲーム内で取得した装備品についてです』


「……」


 奏が。


 ゆっくりと振り返った。


「装備?」


『はい』


「もしかして」


『はい』


「持ってこれる?」


『確認します』


 アイリスの声が途切れた。


 数秒後。


『可能です』


「……」


「……」


『ゲーム内で取得した装備品のうち、装備者情報が固定されているものについては、サイエス側でも使用可能です』


「……」


 奏が。


 自分のアイテムボックスを開いた。


 その中には。


 ゲーム内で入手したアイテムが。


 ずらりと並んでいる。


「……」


「奏?」


「……ある」


「何がです?」


「ある」


「だから何がです?」


「装備」


「……」


 琴子が覗き込む。


 そして。


 目を見開いた。


「……」


「……」


「これ」


「うん」


「全部」


「うん」


「引き継がれているんですか?」


「みたい」


 そこには。


 ゲーム内で入手した。


 数々の装備品が並んでいた。


 剣。


 盾。


 鎧。


 魔法杖。


 アクセサリー。


 そして。


 奏が作成した。


 スチームパンク式の改造銃。


 それらすべてが。


 アイテムボックスの中に存在していた。


「……」


 琴子の表情が変わる。


「奏」


「うん」


「これは」


「うん」


「非常に危険なことになりましたね」


「……」


「ゲーム内で強い装備を入手すれば」


「……」


「サイエスでも使用できます」


「……」


「つまり」


「うん」


「ゲーム攻略が」


「……」


「そのまま異世界攻略になる」


 奏は。


 ゆっくりと頷いた。


「そういうことだね」


 だが。


 問題はそれだけではなかった。


『さらに』


 アイリスが続ける。


『ゲーム内で取得したアイテムも、同様に引き継がれています』


「……」


「……」


 二人の動きが止まった。


「アイテム?」


 奏が聞き返す。


『はい』


「ポーションとか?」


『はい』


「食料?」


『はい』


「素材?」


『はい』


「回復薬?」


『はい』


「弾薬?」


『はい』


「魔石?」


『はい』


「……」


 奏が。


 ゆっくりと琴子を見る。


「琴子」


「なんでしょう」


「アイテムボックス」


「あります」


「容量」


「無限です」


「……」


「……」


 二人は。


 同時に。


 笑った。


「……」


「……」


 そして。


 琴子が。


 とても静かな声で言った。


「奏」


「うん」


「私たち」


「うん」


「ゲームのアイテムを」


「うん」


「無限に持ち込めるんですね」


「たぶん」


「……」


「琴子?」


「……」


「どうしたの?」


「いえ」


 琴子は。


 笑っていた。


 それは。


 いつもの。


 上品な笑顔ではない。


 証券会社で働いている時の。


 外面用の笑顔でもない。


 妹の奏にだけ見せる。


 完全に腹黒い笑顔だった。


「……これは」


「うん」


「商売になりますね」


「そっち?」


「当然でしょう」


「邪神倒すんじゃなかったの?」


「もちろん倒します」


「……」


「ですが」


 琴子は。


 アイテムボックスを眺めながら。


 静かに言った。


「戦うには資金が必要です」


「……」


「武器を買うにも」


「うん」


「装備を整えるにも」


「うん」


「人を雇うにも」


「うん」


「情報を集めるにも」


「うん」


「お金が必要です」


「……」


「なら」


 琴子は。


 にっこりと笑った。


「稼げばいいでしょう?」


「……」


「ゲームのアイテムを」


「……」


「売れば」


「……」


「いいんですよ」


 奏は。


 しばらく。


 姉を見つめていた。


「……琴子」


「なんです?」


「怖い」


「失礼ですね」


「いや」


「私は普通に商売の話をしているだけですよ?」


「その笑顔が怖い」


「奏」


「なに?」


「私たちは」


「うん」


「神職の家系ですよ」


「そうだね」


「邪神退治をするために異世界へ来たんですよ」


「うん」


「なら」


 琴子は。


 堂々と言った。


「資金調達も立派な戦略です」


「……」


「それに」


 琴子の目が。


 さらに細くなる。


「この世界の経済を理解しているわけではありませんが」


「うん」


「ゲーム内のアイテムが現実に存在するのであれば」


「うん」


「現実のゲーム内通貨も」


「……」


「引き継がれている可能性があります」


「……」


 奏が。


 ぴたりと止まった。


「……お金?」


「はい」


「ゲーム内のお金?」


「ええ」


「それも?」


「確認しましょう」


 琴子が。


 自分のステータス画面を開く。


 そして。


 ゲーム内の所持金を確認する。


「……」


「どう?」


「……」


「琴子?」


「……」


「お金、ある?」


「……あります」


「いくら?」


「……」


「琴子?」


「……かなり」


「どのくらい?」


「……」


 琴子は。


 ゆっくり。


 数字を表示した。


「……」


「……」


「……」


 二人は。


 またしても。


 黙り込んだ。


 そこに表示されていた金額は。


 ゲーム内で。


 二人がパワーレベリングを行った際に。


 大量にモンスターを倒し。


 ドロップアイテムを売却し。


 クエスト報酬を受け取り。


 ダンジョンを攻略した結果。


 積み上がった。


 莫大な金額だった。


「……」


「……」


「……」


「琴子」


「はい」


「これ」


「ええ」


「サイエスのお金に換算すると」


「まだ正確には分かりません」


「でも」


「はい」


「かなりのお金になるよね」


「……」


「……」


「……奏」


「なに?」


「私」


「うん」


「少し」


「うん」


「楽しくなってきました」


「……」


「……」


 奏は。


 思わず吹き出した。


「琴子」


「なんです?」


「やっぱり琴子だね」


「どういう意味ですか?」


「邪神退治より商売の方が楽しそう」


「そんなことありません」


「本当に?」


「本当です」


「顔が笑ってるよ」


「奏」


「はい」


「黙りなさい」


「はい」


 そんな二人のやり取りを。


 アイリスは黙って聞いていた。


 そして。


『確認事項があります』


「なに?」


『ゲーム内で取得した経験値、装備、アイテム、通貨がサイエス側へ引き継がれていることを確認しました』


「うん」


『ただし』


「ただし?」


『すべてのデータが完全に引き継がれているわけではありません』


「……」


 奏と琴子の表情が変わった。


「どういうこと?」


『ゲーム内の一部機能は、サイエス側では再現されていません』


「例えば?」


『ゲーム内のプレイヤー間取引』


「……」


『ゲーム内のフレンド機能』


「……」


『ゲーム内のギルドシステム』


「……」


『ゲーム内のクエスト管理システム』


「……」


「じゃあ」


 奏が尋ねる。


「ゲーム内で手に入れたものは、全部持ってこれるけど」


『はい』


「ゲーム内のシステムまでは持ってこれない」


『その認識で正しいです』


「……」


 琴子が考え込む。


「つまり」


「うん」


「ゲームで得た物資を持ち込むことはできる」


「うん」


「しかし」


 琴子が続ける。


「サイエス側で、ゲームと同じように使えるとは限らない」


『はい』


「なるほど」


 琴子は頷いた。


「ならば」


「何?」


「まずは確認しましょう」


「何を?」


「現実のサイエスで」


 琴子は。


 自分のアイテムボックスから。


 一つのアイテムを取り出した。


 それは。


 ゲーム内で入手した。


 小さな赤い瓶。


 回復ポーションだった。


「……」


「……」


 二人は。


 それを見つめた。


「飲むの?」


 奏が聞く。


「いえ」


「じゃあ?」


「売ります」


「……」


「そして」


 琴子は。


 にっこり笑った。


「サイエスのお金に換えます」


「……」


「奏」


「うん」


「行きましょう」


「どこへ?」


「始まりの町です」


 琴子は。


 ポーションを握りしめた。


「まずは」


「うん」


「この世界で」


「うん」


「ゲームのアイテムが」


「うん」


「どれくらいの価値を持つのか」


 確認する必要がある。


 それは。


 単なる金儲けの話ではなかった。


 もし。


 ゲーム内のアイテムを現実世界で自由に売買できるなら。


 二人は。


 地球の物資をサイエスへ持ち込むこともできる。


 逆に。


 サイエスの素材を地球へ持ち帰ることもできる。


 そして。


 ゲームの攻略情報を利用して。


 効率的にレベルを上げ。


 ゲーム内の強力な装備を入手し。


 それを現実へ持ち込む。


 それは。


 ただのゲーム攻略ではない。


 異世界を舞台にした。


 壮大な経済活動であり。


 戦争準備でもあった。


 邪神を倒すために。


 必要なものは。


 力だけではない。


 武器。


 食料。


 資金。


 情報。


 人脈。


 そして。


 何より。


 準備。


「奏」


「なに?」


「私たちは」


「うん」


「思った以上に」


 琴子が。


 静かに笑った。


「有利な立場にいるのかもしれません」


「……」


 奏は。


 しばらく黙っていた。


 そして。


 自分のアイテムボックスを開く。


 そこには。


 大量の装備。


 大量の素材。


 大量の回復アイテム。


 大量の食料。


 大量の魔石。


 そして。


 ゲーム内で稼いだ。


 大量の金銭。


 さらに。


 ゲームで上げた。


 高レベルのステータス。


 奏は。


 それらを見つめた。


「……ねえ、琴子」


「はい」


「私たち」


「はい」


「これ」


「……」


「本当に邪神倒せるんじゃない?」


 琴子は。


 少しだけ考えて。


 答えた。


「ええ」


 その声には。


 これまでにない確信があった。


「倒せるかもしれません」


「……」


「ですが」


「うん」


「その前に」


 琴子が。


 始まりの町へ向かって歩き出す。


「お金を稼ぎましょう」


「……」


「装備を整えましょう」


「……」


「情報を集めましょう」


「……」


「そして」


 琴子は。


 振り返った。


「もっと強くなりましょう」


 奏は。


 その言葉に笑った。


「賛成」


 双子は。


 異世界の森を歩き始めた。


 その姿は。


 以前とはまるで違っていた。


 レベル八だった少女たちは。


 今や。


 ゲーム世界で鍛え上げられた力を持っている。


 大量の装備。


 大量の物資。


 大量の資金。


 そして。


 何より。


 ゲームという。


 邪神が作った世界の攻略情報を知っている。


 邪神は。


 まだ知らない。


 自分が作り出したゲームを。


 自分が召喚した双子が。


 攻略し始めていることを。


 そして。


 その攻略情報が。


 邪神自身を倒すために使われようとしていることを。


 有平奏と有平琴子。


 二人の異世界攻略は。


 ここから。


 本当の意味で。


 始まろうとしていた。

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