第二十六話 攻略サイトは異世界でも役に立つ
初心者の森の中で発生した特殊クエスト。
推奨レベル八。
現在の二人のレベルも八。
数字だけを見れば、挑戦する価値は十分にある。
少なくとも、先ほどの推奨レベル十という守護者に比べれば、遥かに現実的な選択肢に思えた。
しかし。
奏は、森の奥へ続く道を眺めながら、何となく嫌な予感を覚えていた。
こういう時の予感というものは、たいてい当たる。
特に、ゲームをやり込んできた人間ならば分かる。
推奨レベルという数字は、あくまでも推奨でしかない。
推奨レベル八だからといって、レベル八の人間が何の準備もせずに挑んで勝てるとは限らない。装備の質、スキルの構成、ステータス、パーティー編成、敵の攻撃パターン、状態異常への耐性、さらにはプレイヤー自身の操作技術。
それらすべてが絡み合って、初めて勝敗が決まる。
そして。
この世界は。
ゲームのようでありながら。
ゲームではない。
死ねば終わり。
リスポーンなど存在しない。
セーブポイントもない。
コンティニュー画面もない。
そう考えると。
推奨レベル八という数字だけを信じて突っ込むのは、あまりにも危険だった。
「……」
奏は。
目の前の森を見た。
森の奥。
そこから漂ってくる気配は、明らかに普通ではない。
特殊クエスト。
森の奥に眠る者。
推奨レベル八。
報酬、不明。
奏は、しばらく黙っていた。
「……奏?」
「うん」
「どうしました?」
「いや」
奏は、魔法陣銃を腰のホルスターへ戻した。
「一回、帰ろう」
「……」
琴子が。
ゆっくりと。
妹を見た。
「……」
「何?」
「今。」
「うん」
「奏の口から。」
「うん」
「撤退という言葉が出ました?」
「……」
「ええ?」
「……」
「本当に?」
「失礼だな」
「だって、あなたですよ?」
「私だって考える時は考えるよ」
「……」
「何その顔」
「いえ」
琴子は、少しだけ笑った。
「成長したなと思いまして」
「……」
「昔なら、絶対に突っ込んでいましたよね」
「……」
「『面白そうだから行こう』と」
「……」
「言っていたと思います」
「……」
「私としては、とても嬉しいですよ」
「……」
奏は、少しだけ頬を膨らませた。
「……」
「何ですか?」
「琴子」
「はい」
「私を何だと思ってるの?」
「好奇心で突っ走る危険人物です」
「即答しないで」
「事実ですから」
「……」
奏は。
深いため息を吐いた。
「違う」
「何がです?」
「撤退じゃない」
「はい?」
「作戦変更」
「……」
「一旦、地球に帰る」
「……」
「そして。」
奏は。
真剣な表情で言った。
「攻略サイトを見る」
「……」
琴子は。
数秒。
完全に固まった。
「……」
「琴子?」
「……」
「どうしたの?」
「……」
「お姉ちゃん?」
「……」
「返事して」
「……」
「琴子」
「……」
琴子は。
ゆっくりと。
片手で額を押さえた。
「……」
「何?」
「……」
「……」
「……どうして。」
「うん」
「もっと早く。」
「……」
「それに気づかなかったんですか?」
「……」
「私たち。」
「……」
「ゲームの世界にいるんですよ?」
「……」
「しかも。」
「……」
「自称神本人が。」
「……」
「MMORPG【フロンティア】を元にした世界だと。」
「うん」
「言っていましたよね?」
「言ってた」
「なら。」
「……」
「攻略サイトを見るのが。」
「……」
「一番手っ取り早いでしょうが!」
琴子の声が。
森の中に響き渡った。
奏は。
ぽかんと。
姉を見た。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
しばらく。
二人の間に。
沈黙が流れた。
そして。
「……」
「……」
「……」
「……」
奏が。
ぽつりと。
呟いた。
「……確かに」
「でしょう!?」
「いや」
「はい」
「その発想はなかった」
「どうしてですか!?」
「だって。」
「はい」
「私たち。」
「はい」
「異世界に来たから。」
「はい」
「異世界攻略サイトを見るって発想にならなかった」
「……」
「普通に考えたら。」
「……」
「異世界なんだから。」
「……」
「攻略サイトなんてないと思うじゃん」
「……」
「でも。」
「……」
「地球に戻れば。」
「……」
「あるかもしれない」
「そうです!」
琴子は。
両手を握りしめた。
「私たちは。」
「……」
「何のために。」
「……」
「現代日本へ帰還できる能力を持っているんですか?」
「……」
「何のために。」
「……」
「アイリスがいるんですか?」
「……」
「そして。」
「……」
「何のために。」
琴子は。
自分のアイテムボックスを指差した。
「私たちは。」
「……」
「地球とサイエスを。」
「……」
「自由に行き来できるんですか?」
「……」
奏は。
黙った。
確かに。
その通りだった。
二人には。
普通の異世界転移者にはない。
とんでもないアドバンテージがある。
それは。
地球へ戻れること。
しかも。
ただ戻れるだけではない。
自宅の鍵を使えば。
日本の自宅へ帰れる。
そこから。
インターネットへ接続できる。
スマートフォンも。
パソコンも。
ネット環境も。
地球にいる限り。
すべて利用できる。
そして。
サイエスと地球の時間差。
地球の一日が。
サイエスでは三十日。
つまり。
地球で数時間を過ごしたとしても。
サイエスでは数日が経過する。
時間差という問題はある。
しかし。
逆に言えば。
サイエスで長期間を過ごしても。
地球ではほとんど時間が経過しない。
そして何より。
二人は。
すでに。
地球とサイエスを往復する方法を。
確立している。
「……」
奏は。
ゆっくりと。
森の奥を見る。
「……」
特殊クエスト。
森の奥に眠る者。
推奨レベル八。
報酬不明。
「……」
そして。
再び。
地球へ帰る。
「……」
奏は。
笑った。
「琴子」
「何でしょう?」
「帰ろう」
「はい」
「今すぐ」
「もちろんです」
「攻略サイトを探そう」
「はい」
「フロンティアの攻略情報。」
「ええ」
「初心者の森。」
「はい」
「効率のいいレベリング場所。」
「はい」
「ボスの攻略法。」
「もちろん」
「ドロップアイテム。」
「必要ですね」
「クエスト情報。」
「調べましょう」
「隠し要素。」
「重要です」
「裏技。」
「最重要です」
「……」
二人の視線が。
自然と重なった。
「……」
「……」
「……」
奏が。
にやりと笑った。
「……」
琴子も。
同じように笑った。
「……」
「これ。」
「はい」
「勝ちじゃない?」
「……」
「私たち。」
「……」
「ゲーム攻略情報を。」
「……」
「現実世界から持っていける」
「……」
「チートじゃない?」
「……」
「しかも。」
「……」
「攻略情報を見ながら。」
「……」
「実際にゲームの世界を攻略できる」
「……」
「これ。」
「……」
「かなり強くない?」
琴子は。
静かに。
頷いた。
「強いですね」
「でしょ?」
「ただし。」
「うん」
「私たちが知っている【フロンティア】と。」
「……」
「この世界が。」
「……」
「完全に一致している保証はありません」
「……」
奏の顔から。
笑みが消えた。
「……」
「そっか」
「ええ」
「自称神。」
「はい」
「あいつ。」
「……」
「邪神。」
「はい」
「ゲームの世界を。」
「……」
「自分の都合で改造してる可能性がある」
「……」
「というか。」
「……」
「絶対にあるよね」
「……」
「だって。」
「……」
「私たちを。」
「……」
「誤召喚したくらいだし」
「……」
「神力を返せとか。」
「……」
「言ってたし」
「……」
「その上。」
「……」
「私たちの人生を。」
「……」
「娯楽として観察してる」
「……」
「……」
琴子の表情が。
僅かに。
険しくなった。
「ええ」
「……」
「おそらく。」
「……」
「攻略サイトの情報を。」
「……」
「そのまま信じるのは危険です」
「……」
「ですが。」
「……」
「参考にはできます」
「……」
「そして。」
琴子は。
静かに。
笑った。
「攻略サイトを知っているのは。」
「……」
「私たちだけではありません」
「……」
奏が。
琴子を見る。
「……」
「どういう意味?」
「この世界。」
「……」
「本当に。」
「……」
「私たちが知っているゲームと。」
「……」
「同じなら。」
「……」
「この世界にも。」
「……」
「過去に。」
「……」
「地球から。」
「……」
「召喚された人間が。」
「……」
「存在している可能性があります」
「……」
「……」
奏は。
息を呑んだ。
その可能性は。
考えていなかった。
自称神は。
地球で流行っている召喚を試したと言っていた。
ならば。
今回が。
初めてとは限らない。
過去にも。
同じように。
地球人を召喚していた可能性がある。
もし。
その人間が。
【フロンティア】を知っていたなら。
もし。
その人間が。
攻略サイトを見ていたなら。
もし。
その人間が。
攻略情報を元に。
この世界で生きていたなら。
サイエスには。
地球人しか知らないはずの。
何かが。
残っているかもしれない。
「……」
奏は。
ゆっくりと。
口を開いた。
「琴子」
「はい」
「それ。」
「……」
「調べる価値。」
「ありますね」
「かなり。」
「ええ」
「もしかしたら。」
「……」
「私たち以外にも。」
「……」
「転移者がいたかもしれない」
「……」
「そして。」
「……」
「その人たちが。」
「……」
「何か残しているかもしれない」
「……」
「攻略情報。」
「……」
「武器。」
「……」
「技術。」
「……」
「アイテム。」
「……」
「あるいは。」
奏の目が。
鋭くなった。
「……」
「邪神についての情報」
「……」
琴子の表情が。
変わった。
「……」
「……」
「……」
「奏」
「うん」
「それは。」
「……」
「最優先で調べるべきですね」
「……」
「ええ」
こうして。
二人の目的が。
また一つ。
明確になった。
レベルを上げる。
装備を整える。
サイエスを探索する。
そして。
邪神を滅ぼす。
そのために。
まず。
地球へ戻る。
「じゃあ。」
奏が。
自宅の鍵を取り出した。
「帰ろう」
「はい」
鍵を。
空中へ差し込む。
カチリ。
いつもの音がした。
何もない空間に。
日本の自宅の玄関ドアが現れる。
その光景は。
何度見ても。
異常だった。
異世界の森の中に。
日本の住宅の玄関が。
突然。
存在している。
奏は。
躊躇なく。
ドアノブへ手を伸ばした。
「……」
そして。
ドアを開ける。
「ただいま」
奏が。
言った。
「……」
返事はない。
当然だ。
二人の家なのだから。
誰かが待っているわけではない。
けれど。
それでも。
その言葉を口にした瞬間。
奏は。
少しだけ。
安心した。
地球。
日本。
自分たちが生まれ育った場所。
両親に捨てられ。
児童養護施設で育ち。
それでも。
曾祖父から受け継いだ。
二人だけの家。
その場所へ。
二人は。
帰ってきた。
「……」
琴子が。
玄関へ入る。
「ただいま戻りました」
「……」
「……」
「琴子」
「何でしょう?」
「その言い方。」
「はい?」
「家に帰ってきたのに。」
「……」
「仕事から帰ってきたみたい」
「……」
琴子は。
一瞬。
真顔になった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
そして。
「奏」
「はい」
「うるさい」
「……」
「家族相手に。」
「……」
「敬語で何が悪いんですか」
「別に悪いとは言ってないけど」
「……」
「ただ。」
「……」
「変」
「……」
「……」
「……」
「……」
「奏」
「はい」
「あなた。」
「うん」
「地球へ帰ってきて。」
「……」
「最初に言うことが。」
「……」
「それですか?」
「……」
「もう少し。」
「……」
「感動的なことを言いなさい」
「……」
「例えば。」
「……」
「『帰ってこられて良かった』とか」
「……」
「『やっぱり日本が一番』とか」
「……」
「そういう。」
「……」
「人間らしい感想をですね」
「……」
「……」
奏は。
しばらく。
考えた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「やっぱり。」
「はい」
「攻略サイト。」
「……」
「見よう」
「……」
琴子は。
深く。
深く。
ため息を吐いた。
「……」
「奏。」
「はい」
「あなたは。」
「……」
「本当に。」
「……」
「そういう人ですよね」
「どういう人?」
「知りません」
「……」
「もう。」
「……」
「勝手にしてください」
そう言いながら。
琴子の口元には。
小さな笑みが浮かんでいた。
結局。
それでいい。
二人で。
ここへ帰ってこられた。
それだけで。
十分だった。
そして。
数時間後。
有平家のリビングには。
大型モニター。
二台のノートパソコン。
タブレット。
スマートフォン。
そして。
大量の菓子と飲み物が。
所狭しと並んでいた。
「……」
奏が。
画面を見つめる。
「……」
琴子も。
隣で。
画面を見ている。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
そして。
「……」
奏が。
ぽつりと。
言った。
「……」
「琴子」
「何でしょう?」
「……」
「このゲーム。」
「はい」
「攻略情報。」
「はい」
「めちゃくちゃある」
「……」
「……」
「……」
「でしょうね」
「……」
「人気MMORPGだったんですよ?」
「……」
「サービス開始から。」
「……」
「十年以上。」
「……」
「攻略情報がないわけないでしょう」
「……」
奏は。
画面をスクロールする。
「初心者向け最速レベリング。」
「……」
「効率重視職業ランキング。」
「……」
「序盤おすすめ装備。」
「……」
「ソロ攻略。」
「……」
「二人パーティー攻略。」
「……」
「初心者の森。」
「……」
「ボス攻略。」
「……」
「隠しクエスト。」
「……」
「特殊イベント。」
「……」
奏の目が。
どんどん。
輝いていく。
「……」
「奏」
「うん」
「その顔。」
「……」
「やめてください」
「何で?」
「また。」
「……」
「変なことを考えていますよね?」
「……」
「考えていますよね?」
「……」
「……」
奏は。
にっこり。
笑った。
「……」
「琴子」
「嫌な予感しかしません」
「私たち。」
「はい」
「かなり。」
「はい」
「強くなれるかもしれない」
「……」
「……」
琴子も。
画面を見る。
そこには。
初心者の森を抜けるための。
効率的なルートが。
詳細に書かれていた。
推奨装備。
推奨スキル。
魔物の出現位置。
経験値効率。
レアドロップ。
そして。
森の奥に存在する。
特殊クエスト。
「……」
琴子の目が。
止まった。
「……奏」
「うん」
「これ。」
「……」
「見てください」
「何?」
「森の奥に眠る者」
「……」
奏が。
画面を覗き込む。
「……」
そこには。
簡単な説明があった。
【初心者の森・特殊クエスト】
【森の奥に眠る者】
【発生条件:守護者の討伐】
【推奨レベル:8】
【備考:二人以上のパーティー推奨】
【攻略難易度:高】
「……」
「……」
「……」
「……」
奏が。
ゆっくり。
口を開いた。
「……」
「これ。」
「はい」
「推奨レベル。」
「八です」
「二人以上。」
「私たちは二人です」
「……」
「つまり。」
「……」
「条件だけなら。」
「……」
「クリアしていますね」
「……」
琴子が。
スクロールする。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
そして。
琴子の指が。
止まった。
「……」
「どうしたの?」
「……」
「琴子?」
「……」
「これ。」
「……」
「……」
琴子の顔から。
笑みが。
消えていた。
「……」
「何?」
「奏。」
「うん」
「私たち。」
「……」
「やっぱり。」
「……」
「一度。」
「……」
「地球へ帰ってきて。」
「……」
「正解でしたね」
「……」
奏が。
画面を見る。
そこに。
書かれていた。
攻略情報。
その一番下。
小さな注意書き。
そこには。
こう記されていた。
【注意】
【このクエストをクリアすると、初心者の森の環境が変化します】
【以降、通常の初心者向けレベリングスポットとして利用できなくなります】
【初回クリア報酬は非常に豪華ですが、クエスト失敗時には特殊ボスが出現します】
【ソロ・低レベル攻略は推奨しません】
「……」
奏は。
しばらく。
画面を見つめた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「琴子」
「何です?」
「……」
「やりたくなった?」
「……」
「……」
「……」
奏は。
少しだけ。
考えた。
「……」
「正直に答えてください」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
琴子の目が。
細くなる。
「……」
「……」
「……」
「……」
奏は。
静かに。
答えた。
「……」
「やりたい」
「……」
「やっぱり!」
琴子の叫び声が。
家の中に響き渡った。
「でも!」
「……」
「今度は!」
「……」
「攻略情報がある!」
「……」
「装備も準備できる!」
「……」
「敵の情報も分かる!」
「……」
「だから!」
「……」
「今度こそ!」
「……」
「ちゃんと!」
「……」
「攻略する!」
「……」
琴子は。
額を押さえた。
しかし。
その口元には。
僅かな笑みが浮かんでいた。
「……」
「分かりました」
「本当?」
「ええ」
「やっていい?」
「……」
「お姉ちゃん?」
「……」
「琴子?」
「……」
「……」
「その代わり。」
「うん」
「攻略情報。」
「うん」
「全部。」
「……」
「調べます」
「……」
「敵の弱点。」
「うん」
「行動パターン。」
「うん」
「ドロップ。」
「うん」
「報酬。」
「うん」
「隠し条件。」
「うん」
「バグ。」
「……」
「裏技。」
「……」
「利用できるものは。」
「……」
「全部。」
「……」
「使います」
奏の目が。
輝いた。
「……」
「さすが。」
「何です?」
「知識魔女」
「……」
「最高」
「……」
琴子は。
ふっと。
笑った。
「それでは。」
「うん」
「まず。」
「うん」
「レベリングです」
「……」
「私たちは。」
「……」
「現在レベル八」
「……」
「そして。」
「……」
「攻略サイトによれば。」
「……」
「初心者の森で。」
「……」
「最も効率が良い狩場は。」
「……」
琴子が。
画面を回転させる。
「ここです」
そこには。
初心者の森の地図が。
表示されていた。
そして。
その地図には。
赤い丸が。
一つ。
付けられていた。
「……」
「……」
「……」
奏が。
その場所を見る。
「……」
「琴子」
「はい」
「ここ。」
「はい」
「……」
「何です?」
「……」
「初心者の森の。」
「……」
「ボスの。」
「……」
「すぐ近くじゃない?」
「……」
「……」
「……」
「……」
琴子は。
無言で。
画面を閉じた。
「……」
「え?」
「……」
「琴子?」
「……」
「何で閉じたの?」
「……」
「レベリング。」
「……」
「するんですよね?」
「……」
「しますよ」
「……」
「しますけど。」
「……」
「その前に。」
「……」
「装備を。」
「……」
「整えます」
「……」
「武器も。」
「……」
「防具も。」
「……」
「アイテムも。」
「……」
「そして。」
琴子は。
ゆっくり。
妹を見た。
「……」
「奏。」
「はい」
「あなたの。」
「……」
「魔法陣銃。」
「……」
「もっと。」
「……」
「改造できるでしょう?」
「……」
奏の顔が。
ぱっと。
明るくなった。
「……」
「できる」
「……」
「やっぱり」
「うん」
「そう言うと思いました」
「……」
「じゃあ。」
「はい」
「まず。」
「はい」
「魔法陣銃。」
「はい」
「改造しよう」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
こうして。
双子は。
再び。
サイエスへ戻る前に。
地球という。
現代科学と情報技術に満ちた世界で。
攻略サイトを読み漁り。
装備を整え。
武器を改造し。
効率の良いレベリング方法を研究することになった。
そして。
それは。
これまで。
邪神が経験したことのない。
最悪の事態の始まりでもあった。
なぜなら。
邪神が想定していたのは。
異世界へ召喚された二人の人間が。
与えられた能力を使い。
試行錯誤しながら。
苦労して生きていく姿だったからだ。
まさか。
召喚した人間が。
地球へ自由に帰還し。
攻略サイトを検索し。
攻略Wikiを読み込み。
掲示板の過去ログまで漁り。
十年以上前のアップデート情報を調べ。
さらには。
サービス開始直後から現在までの仕様変更を比較し。
効率的なレベリングルートを構築するなど。
邪神には。
想像すらできなかった。
そして。
双子は。
知らない。
自分たちが今。
調べている情報の中に。
この世界の歴史そのものを覆すほどの。
重大な秘密が。
眠っていることを。
――かつて。
地球から召喚された者が残した。
攻略情報。
その中に。
邪神が消し去ったはずの。
真実への手掛かりが。
ひっそりと。
書き残されていたことを。




