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誤召喚された双子は、異世界を丸ごとアップデートする ~鍛冶師と知識魔女の最強貿易ライフ~  作者: 此花サギリ


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第二十三話 魔法陣銃の試射と、異世界へ戻る準備

 久世家の地下工房に、金属を削る音が響いていた。


 甲高い音が、一定の間隔を置いて地下空間を満たしている。


 ギィィィィン。


 キィィィィン。


 カチン。


 カチン。


 そして。


 時折、蒸気の抜ける音。


 プシュウゥゥゥッ。


 それらの音が重なり合い、古い日本家屋の地下に存在するとは思えないほどの奇妙な空間を作り上げていた。


 その中心にいるのは、有平奏だった。


 作業台の前に座り、黒いゴーグルを額に上げたまま、細かな部品をピンセットで摘まんでいる。


 その横には、分解された魔法銃が並べられていた。


 いや。


 正確に言えば。


 もはや、それを魔法銃と呼んでいいのかすら怪しい。


 元々はサイエスで手に入れた、冒険者向けの魔法銃だった。


 しかし。


 奏が一度分解し。


 内部構造を調べ。


 魔力回路を解析し。


 魔石の配置を変更し。


 地球の電子工学技術を組み込み。


 さらに、スチームパンク的な装飾を加えた結果。


 原型を留めている部分の方が少なくなっていた。


 銃身の周囲には、複数の魔石が配置されている。


 その魔石を繋ぐように、細い金属管が走っていた。


 管の一部には小さな歯車が組み込まれ、魔力が流れるたびに回転する仕組みになっている。


 さらに銃身の先端には、六つの魔石が円形に並べられていた。


 魔法陣を展開するための装置である。


 その六つの魔石のさらに内側には、奏が新たに追加した黒い魔石が一つ。


 そして。


 銃の側面には。


 小さなレバーが三つ。


 それぞれ。


 出力。


 属性。


 術式。


 と書かれている。


 誰が見ても分かるように。


 日本語で。


 それも。


 奏の手書きで。


「……。」


 琴子は、その銃を眺めていた。


 正直に言えば。


 見れば見るほど。


 不安になる。


「奏。」


「何?」


「これは。」


「うん。」


「本当に。」


「魔法銃ですか?」


「魔法銃。」


「……。」


 琴子は黙った。


 どう見ても。


 兵器である。


 いや。


 兵器にしか見えない。


 しかも。


 見た目だけなら、どこかの映画に出てくる架空兵器のような雰囲気すらある。


 真鍮色の金属。


 複雑な歯車。


 蒸気管。


 魔石。


 魔法陣展開機構。


 そして。


 異様に長い銃身。


 奏は、それを両手で持ち上げる。


「うん。」


「ちゃんと魔法銃。」


「……。」


「魔法を撃てる。」


「それは分かっています。」


「じゃあ。」


「何が問題?」


「見た目です。」


「格好いいでしょ?」


「……。」


「ね?」


「……。」


「琴子?」


「はい。」


「何か言って。」


 琴子は。


 長い沈黙の後。


 小さく息を吐いた。


「……まあ。」


「格好いいですけど。」


「でしょ?」


 奏が嬉しそうに笑った。


 琴子は。


 妹の顔を見た。


 昔から。


 奏はこうだった。


 好きなものに対して。


 とにかく一直線。


 他人から見れば。


 無駄に思えることでも。


 奏本人にとっては。


 絶対に譲れないことだった。


 今回も。


 魔法を使うなら。


 魔法陣が出てほしい。


 ただそれだけの理由で。


 魔法銃を改造した。


 普通なら。


 「魔法陣が出ないなら残念ですね」で終わる。


 しかし。


 奏は違う。


 出ないなら。


 出るようにする。


 それだけだ。


 そして。


 それを実際にやってしまう。


 そこが。


 奏の恐ろしいところだった。


「それで。」


 琴子が。


 銃の側面を見る。


「今回の改良点は?」


「いっぱいあるよ。」


「……。」


 琴子は。


 嫌な予感がした。


「まず。」


 奏が。


 指を一本立てる。


「魔力出力調整機構。」


「これは必要ですね。」


「前回。」


「庭に穴が開いたから。」


「そうですね。」


「だから。」


 奏は。


 銃の側面にあるレバーを指差す。


「三段階。」


「弱。」


「中。」


「強。」


「……。」


「そして。」


「最大。」


「四段階じゃないですか。」


「うん。」


「三段階ではありませんよね?」


「最大は別枠。」


「意味が分かりません。」


「ロマン。」


「……。」


 琴子は。


 黙って妹を見た。


「次。」


 奏は。


 二本目の指を立てる。


「属性切り替え。」


「火。」


「水。」


「風。」


「土。」


「雷。」


「氷。」


「光。」


「闇。」


「……。」


 琴子の眉が。


 ぴくりと動いた。


「八属性?」


「うん。」


「それ。」


「魔石は?」


「属性魔石。」


「八個?」


「うん。」


「銃の中に?」


「うん。」


「……。」


「どうしたの?」


「何でもありません。」


 琴子は。


 深く息を吸った。


 そして。


 心の中で。


 妹の設計思想について考える。


 奏は。


 兵器を作る時。


 なぜか。


 全部盛りにしたがる。


 使うかどうかではない。


 使えるかどうか。


 それが重要なのだ。


「それから。」


「まだあるんですか?」


「ある。」


「……。」


「魔法陣の種類。」


「……。」


「通常魔法陣。」


「複合魔法陣。」


「追尾魔法陣。」


「貫通魔法陣。」


「拡散魔法陣。」


「防御魔法陣。」


「転移魔法陣。」


「……。」


 琴子の顔が。


 徐々に。


 引きつっていく。


「奏。」


「何?」


「転移魔法陣?」


「うん。」


「何を転移させるんですか?」


「弾。」


「……。」


「銃弾を。」


「敵の背後に。」


「転移させる。」


「……。」


 琴子は。


 しばらく。


 何も言わなかった。


 やがて。


 静かに。


 口を開く。


「それ。」


「銃の意味。」


「あります?」


「あるよ。」


「どこに?」


「格好いい。」


「……。」


 琴子は。


 完全に。


 諦めた。


 しかし。


 奏の目は。


 真剣だった。


「琴子。」


「はい。」


「これ。」


「ただの武器じゃない。」


「……。」


「私。」


「サイエスに。」


「戻るつもり。」


「分かっています。」


「なら。」


「必要。」


「……。」


「私たち。」


「まだ。」


「弱いから。」


 その言葉に。


 琴子は。


 黙った。


 確かに。


 奏の言う通りだった。


 ステータスだけを見れば。


 二人は。


 普通の冒険者より。


 遥かに恵まれている。


 奏には。


 【縁切り∞】。


 琴子には。


 【縁結び∞】。


 さらに。


 二人には。


 神から与えられた加護。


 ギフト。


 そして。


 異世界でしか得られない能力。


 それでも。


 レベルは一。


 実戦経験も。


 圧倒的に不足している。


 前回。


 初心者の森へ行った時も。


 レベリングをするつもりだった。


 だが。


 初っ端から。


 森の奥で。


 ボス級の魔物と遭遇した。


 そして。


 現代科学で。


 どうにか倒した。


 つまり。


 二人は。


 強いのではない。


 強い武器を持っているだけだ。


 そして。


 それは。


 武器が通じない相手と遭遇した瞬間。


 簡単に崩れる可能性がある。


「……。」


 琴子は。


 自分の手を見た。


 【縁結び∞】。


 その能力が。


 一体。


 どこまで使えるのか。


 まだ。


 分からない。


 自分たちは。


 何者なのか。


 なぜ。


 自分たちだったのか。


 なぜ。


 邪神は。


 二人を召喚したのか。


 そして。


 あの発光体。


 自称神。


 邪神。


 あれは。


 本当に。


 自分たちを。


 ただの観察対象として。


 召喚しただけなのか。


「琴子。」


 奏の声で。


 琴子は。


 我に返った。


「何ですか?」


「怖い?」


「……。」


 琴子は。


 少しだけ。


 驚いた。


「どうして?」


「顔。」


「そんなに分かりやすいですか?」


「うん。」


「……。」


 琴子は。


 苦笑した。


「あなたは。」


「昔から。」


「そういうところだけ。」


「妙に鋭いですね。」


「そう?」


「ええ。」


 琴子は。


 妹を見る。


「怖いですよ。」


 素直に。


 そう答えた。


「サイエスに。」


「戻ること。」


「邪神と。」


「戦うこと。」


「私たちが。」


「死ぬかもしれないこと。」


 奏は。


 黙って聞いていた。


「でも。」


 琴子は。


 小さく笑う。


「それ以上に。」


「腹が立ちます。」


「何に?」


「私たちを。」


「勝手に召喚した。」


「自称神に。」


 琴子の顔から。


 笑みが消える。


「勝手に人生を覗き見して。」


「勝手に異世界へ飛ばして。」


「勝手に神力を返せと言って。」


「挙げ句の果てには。」


「私たちを。」


「面白いからという理由で。」


「ゲームの駒にした。」


「……。」


 奏は。


 静かに。


 銃を握った。


「だから。」


「倒す。」


「ええ。」


「絶対。」


「はい。」


「私たち。」


「地球に帰る。」


「……。」


「そして。」


 奏は。


 笑った。


「邪神。」


「殺す。」


 琴子も。


 笑った。


「ええ。」


「それで。」


「その後。」


「サイエス。」


「どうする?」


「……。」


 琴子は。


 少し考える。


「どうする?」


「うん。」


「帰る?」


「……。」


 奏は。


 答えなかった。


 サイエス。


 異世界。


 最初は。


 帰りたかった。


 地球へ。


 自分たちの家へ。


 日本へ。


 だが。


 今は。


 違う。


 モリ。


 ピピ。


 そして。


 自分たちと関わった人々。


 サイエスで。


 自分たちを待っている存在。


「……。」


 奏は。


 ゆっくり。


 口を開いた。


「帰る場所。」


「二つあっても。」


「いいんじゃない?」


 琴子が。


 目を瞬く。


「……。」


「私。」


「地球。」


「好き。」


「うん。」


「でも。」


 奏は。


 魔法銃を見る。


「サイエスも。」


「嫌いじゃない。」


 琴子は。


 少しだけ。


 笑った。


「そうですね。」


 その時。


 工房の奥から。


 声がした。


「二人とも。」


「話は終わった?」


 真奈美だった。


「そろそろ。」


「試射を始めるわよ。」


 奏の顔が。


 ぱっと明るくなる。


「試射!」


「はい。」


 琴子が。


 ため息を吐く。


「ただし。」


 真奈美が。


 奏を見る。


「今回は。」


「安全な場所で。」


「撃つこと。」


「はい。」


「絶対に。」


「地下工房を壊さないこと。」


「はい。」


「あと。」


「周囲に人がいないことを確認する。」


「はい。」


「そして。」


「威力調整を。」


「最大にしない。」


「……。」


「奏ちゃん?」


「はい。」


「今。」


「何を考えたの?」


「……。」


「最大。」


「駄目ですか?」


「駄目です。」


「……。」


 真奈美は。


 完全に。


 奏の扱いに慣れてきていた。


 そして。


 三人は。


 久世家の敷地の奥。


 山中にある。


 巨大な地下施設へ向かった。


 そこは。


 かつて。


 祓い屋たちが。


 危険な呪具を封印するために作った施設だった。


 長い年月を経て。


 現在では。


 真奈美が。


 独自に改修している。


 内部には。


 分厚い防壁。


 魔力遮断結界。


 衝撃吸収材。


 そして。


 巨大な試射場が。


 設置されていた。


「……。」


 奏が。


 試射場を見る。


「すごい。」


「でしょう?」


 真奈美が。


 少し得意そうに笑う。


「ここなら。」


「多少の爆発なら。」


「大丈夫。」


「多少?」


 琴子が。


 聞き返す。


「……。」


 真奈美は。


 少しだけ。


 目を逸らした。


「かなり。」


「……。」


「かなりの爆発でも。」


「大丈夫よ。」


 奏の目が。


 輝いた。


「最大。」


「駄目です。」


「まだ何も言っていません。」


「顔に書いてあります。」


「……。」


 奏は。


 渋々。


 魔法陣銃を構えた。


「まず。」


「弱。」


 奏が。


 レバーを動かす。


 カチン。


 魔力が流れる。


 銃口に。


 一つの魔法陣が展開された。


 青白い光。


 静かな回転。


 美しい幾何学模様。


「……。」


 琴子も。


 思わず。


 見入った。


「綺麗。」


「でしょ?」


 奏が。


 嬉しそうに笑う。


 引き金を引く。


 パシュン。


 小さな音。


 光弾が。


 試射場の奥へ飛んでいく。


 ドン。


 小さな爆発。


「成功。」


 奏が。


 拳を握る。


「次。」


「中。」


 カチン。


 魔法陣が。


 二重になる。


 さらに。


 歯車が回転する。


 蒸気が噴き出す。


「……。」


 琴子が。


 目を細める。


「これは。」


「うん。」


「前回より。」


「強い。」


「うん。」


 奏が。


 引き金を引く。


 ドォンッ!


 試射場の壁が。


 大きく揺れた。


 琴子が。


「……。」


 真奈美が。


「……。」


 奏が。


「……。」


「どう?」


 奏が。


 恐る恐る尋ねる。


「……。」


「成功?」


 真奈美が。


「成功ね。」


「やった!」


 琴子は。


 ため息を吐いた。


「次。」


 奏が。


 レバーを見る。


「強。」


「……。」


 琴子が。


「奏。」


「何?」


「本当に?」


「うん。」


「やめておきませんか?」


「大丈夫。」


「前回。」


「庭。」


「……。」


「今回は。」


「地下。」


「……。」


 琴子は。


 もう。


 何も言わなかった。


 奏が。


 レバーを動かす。


 カチン。


 魔石が。


 一斉に光る。


 八属性の魔石。


 その中央で。


 黒い魔石が。


 脈動する。


 そして。


 銃口の前に。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 四つ。


 五つ。


 六つ。


 七つ。


 八つ。


 九つ。


 魔法陣が。


 展開された。


「……。」


 琴子が。


 息を呑む。


 真奈美も。


 目を見開いた。


 九重魔法陣。


 それぞれが。


 異なる属性。


 異なる術式。


 異なる魔力回路。


 それらが。


 重なり。


 回転し。


 一つの巨大な術式を形成する。


「……。」


 奏は。


 その光景を。


 見つめていた。


「すごい。」


 自分で。


 作ったものなのに。


 奏自身が。


 驚いていた。


 そして。


 琴子も。


 理解していた。


 これは。


 ただの銃ではない。


 奏が。


 自分の能力を。


 理解し始めたことで。


 さらに。


 危険な武器へと。


 進化し始めている。


「奏。」


「何?」


「それ。」


「止められますか?」


「……。」


 奏は。


 レバーを見る。


「……。」


「奏?」


「……。」


「止められますか?」


「……。」


 奏は。


 真剣な顔で。


「分からない。」


「……。」


「じゃあ。」


 琴子が。


「撃たないでください。」


「……。」


「奏。」


「……。」


 奏は。


 銃口を見る。


 魔法陣が。


 高速で回転している。


「……。」


「奏!」


「分かった。」


 奏は。


 引き金から。


 指を離した。


 しかし。


 その瞬間。


 魔法陣が。


 暴れ始めた。


「え?」


 奏が。


 目を見開く。


「ちょっと。」


 魔力が。


 制御不能になる。


 九重魔法陣が。


 さらに。


 巨大化していく。


「奏!」


「待って!」


「止めて!」


「止まらない!」


「何で!?」


「魔力が多すぎる!」


 琴子が。


 奏の肩を掴む。


「能力!」


「使って!」


「縁切り!」


「……!」


 奏が。


 手を伸ばす。


 魔法陣の中に。


 無数の縁が見える。


 魔力と。


 魔石。


 術式と。


 術式。


 銃と。


 魔法陣。


 すべてが。


 繋がっている。


 奏は。


 その中から。


 一つの縁を。


 見つけた。


「……。」


 そして。


 指を伸ばす。


「切る。」


 瞬間。


 パァン!


 魔力が。


 弾けた。


 九重魔法陣が。


 一瞬で消える。


 静寂。


 奏は。


 荒い息を吐いていた。


「……。」


 琴子が。


「……。」


 真奈美が。


「……。」


 誰も。


 何も言わなかった。


 やがて。


 奏が。


 魔法銃を見る。


「……。」


「失敗。」


 琴子が。


「……。」


「失敗?」


「うん。」


「奏。」


「何?」


「今の。」


「失敗ですか?」


「うん。」


「……。」


 琴子は。


 頭を抱えた。


「あなた。」


「本当に。」


「どういう思考回路をしているんですか?」


「だって。」


「撃てなかった。」


「撃てなかっただけで。」


「失敗。」


「……。」


 真奈美が。


 静かに。


 笑った。


「でも。」


「奏ちゃん。」


「今。」


「あなた。」


「自分の能力で。」


「魔法陣の暴走を。」


「切ったわよね?」


「……。」


 奏が。


 顔を上げる。


「そうだね。」


「つまり。」


「あなたの能力。」


「魔力そのものにも。」


「干渉できる。」


「……。」


 琴子が。


 考え込む。


「なら。」


「私の能力も。」


「同じように。」


 奏を見る。


「魔力を。」


「結べる?」


「たぶん。」


「……。」


 二人の視線が。


 交わる。


 それは。


 新しい可能性だった。


 これまで。


 二人は。


 自分たちの能力を。


 単純に。


 奏は切る。


 琴子は結ぶ。


 そう考えていた。


 しかし。


 もし。


 それが。


 もっと広い意味を持つのなら。


 もし。


 魔力。


 魔法。


 生命。


 契約。


 因果。


 すべてに。


 「縁」が存在するのなら。


 二人の力は。


 サイエスという世界そのものに。


 干渉できる可能性がある。


「……。」


 琴子が。


 小さく笑う。


「奏。」


「何?」


「私たち。」


「とんでもない能力。」


「貰いましたね。」


「うん。」


「自称神。」


「馬鹿ですね。」


「……。」


「何ですか?」


「いや。」


「今。」


「急に。」


「思った。」


「何を?」


「私たち。」


「本当に。」


「神様に。」


「喧嘩売ってる。」


 琴子が。


 笑った。


「そうですね。」


「……。」


「でも。」


 琴子は。


 魔法陣銃を見る。


「負けるつもりは。」


「ありません。」


 その言葉に。


 奏も。


 笑った。


「私も。」


 そして。


 二人は。


 決めた。


 サイエスへ戻る。


 だが。


 次は。


 何も知らないままでは行かない。


 まず。


 地球で。


 準備をする。


 武器。


 食料。


 医薬品。


 工具。


 通信機器。


 そして。


 異世界では手に入らない。


 現代科学の技術。


 必要なものを。


 すべて。


 持っていく。


 それから。


 サイエスで。


 レベルを上げる。


 仲間を増やす。


 情報を集める。


 そして。


 邪神を。


 倒す。


 そのために。


 まず。


 琴子が。


 ホワイトボードを持ち出した。


「……。」


 奏が。


「何それ?」


「作戦会議です。」


「……。」


「何ですか?」


「本格的。」


「当然でしょう。」


 琴子は。


 ホワイトボードへ。


 大きく書いた。


【サイエス再侵攻作戦】


「侵攻?」


 奏が。


「帰還作戦ではなく?」


「ええ。」


「なぜ?」


「敵がいますから。」


「……。」


「敵がいる場所へ。」


「こちらから。」


「攻め込む。」


 琴子の口元に。


 黒い笑みが浮かぶ。


「だから。」


「侵攻です。」


 奏が。


 その文字を見る。


 そして。


 笑った。


「いいね。」


「でしょう?」


「作戦名。」


「決めよう。」


「何にします?」


「……。」


 奏は。


 少し考える。


「魔法陣。」


「うん。」


「銃。」


「うん。」


「邪神。」


「……。」


「倒す。」


「……。」


「魔法陣銃邪神討伐作戦。」


「長いです。」


「じゃあ。」


 奏は。


 ペンを持った。


「作戦名。」


「――『縁切り』。」


 琴子が。


 奏を見る。


 その目が。


 ゆっくり。


 細くなる。


「……。」


「私たちの能力。」


「そして。」


「邪神との縁を。」


「切る。」


 琴子は。


 少しだけ。


 考えた。


 そして。


 その下に。


 自分で文字を追加した。


「では。」


「私は。」


 奏が書いた文字の横に。


 【縁結び】


 と書く。


「こちらです。」


「……。」


「切るだけでは。」


「終わりませんから。」


「何と結ぶの?」


 琴子は。


 微笑んだ。


「サイエスと。」


「地球。」


「そして。」


「私たちが出会った。」


「すべての人たちと。」


 奏は。


 その言葉を聞いて。


 少しだけ。


 笑った。


「……。」


「なるほど。」


「でしょう?」


「じゃあ。」


 奏は。


 新しい文字を書いた。


【作戦名:縁切りと縁結び】


「……。」


 琴子が。


 じっと見る。


「奏。」


「何?」


「長いです。」


「でも。」


「意味は分かる。」


「……。」


「いいでしょう?」


 琴子は。


 しばらく。


 考えた。


「……まあ。」


「いいです。」


 こうして。


 二人の。


 新たな戦いの作戦名が。


 決まった。


 ――縁切りと縁結び。


 それは。


 ただの作戦名ではない。


 二人が。


 自分たちの運命を。


 自分たちの手で。


 選び直すための。


 決意そのものだった。


 その夜。


 久世家では。


 地球からサイエスへ持ち込む物資の選定が始まった。


 奏は。


 魔法陣銃を改造する。


 琴子は。


 異世界貿易で売れる商品を考える。


 真奈美は。


 日本で調達できる物資と。


 武器。


 防具。


 魔道具。


 呪具。


 情報網を整理する。


 そして。


 ピピは。


 そんな三人を。


 じっと見ていた。


「……。」


「どうしたの?」


 琴子が。


 尋ねる。


「みんな。」


「サイエスに。」


「戻るの?」


「ええ。」


「ボクも?」


「もちろん。」


「……。」


 ピピは。


 少しだけ。


 嬉しそうに笑った。


「モリ。」


「待ってるかな。」


「きっと。」


 琴子が。


 答える。


「待っていますよ。」


 奏が。


 魔法陣銃を。


 作業台に置いた。


「ピピ。」


「なぁに?」


「今度。」


「モリに。」


「お土産。」


「持っていこう。」


「お土産?」


「うん。」


「何?」


「……。」


 奏が。


 考える。


「犬用。」


「おもちゃ。」


「……。」


 琴子が。


「奏。」


「何?」


「モリ。」


「フォレストロードですよ。」


「うん。」


「森の主ですよ。」


「うん。」


「ボス級ですよ。」


「うん。」


「犬用のおもちゃで。」


「喜ぶと思いますか?」


「……。」


 奏が。


 真剣に考える。


「大きい。」


「おもちゃ。」


「……。」


 琴子は。


 諦めた。


「好きにしてください。」


「やった。」


 しかし。


 その時。


 ピピが。


 小さな声で。


「モリ。」


「きっと。」


「喜ぶよ。」


 奏が。


「ほら。」


 琴子を見る。


「ピピが。」


「喜ぶって。」


「……。」


「ピピが言うなら。」


「仕方ありませんね。」


 琴子は。


 そう言いながら。


 少しだけ。


 笑っていた。


 こうして。


 双子の準備は。


 少しずつ。


 進んでいった。


 だが。


 地球での準備には。


 もう一つ。


 重要な目的があった。


 それは。


 サイエスでの。


 資金調達だった。


 異世界貿易。


 それを使えば。


 地球の商品を。


 サイエスへ持ち込める。


 そして。


 サイエスの商品を。


 地球へ持ち帰ることもできる。


 ならば。


 地球の製品を売って。


 資金を作る。


 その金で。


 サイエスの武器や魔道具を購入する。


 さらに。


 地球では。


 サイエスの素材を売る。


 魔石。


 薬草。


 鉱石。


 魔物素材。


 それらを。


 地球の技術で。


 加工する。


 そうすれば。


 二人は。


 ただ戦うだけではなく。


 異世界と地球。


 二つの世界を繋ぐ。


 巨大な経済圏を。


 作ることができる。


「……。」


 琴子は。


 ホワイトボードへ。


 新しい文字を書いた。


【異世界貿易計画】


「奏。」


「何?」


「私。」


「少し。」


「考えました。」


「うん。」


「邪神を倒す。」


「うん。」


「これは。」


「絶対。」


「でも。」


 琴子は。


 その下へ。


 さらに文字を書いた。


【サイエスで商売する】


「……。」


 奏が。


 目を瞬く。


「商売?」


「はい。」


「何を?」


「それを。」


 琴子が。


 笑った。


「これから。」


「考えるんです。」


 その瞬間。


 奏の魔法陣銃が。


 小さく。


 光った。


 アイリスの声が。


 工房内へ響く。


『提案があります。』


「アイリス?」


『はい。』


『異世界貿易を利用した場合。』


『サイエスで得た資金を地球側へ送金することも可能です。』


「……。」


 琴子の目が。


 鋭く光る。


「アイリス。」


『はい。』


「それ。」


「詳しく。」


『承知しました。』


 そして。


 双子の。


 邪神討伐計画は。


 いつの間にか。


 壮大な異世界貿易計画へと。


 変貌し始めていた。


 奏は。


 そんな琴子を横目に。


 新しい魔法陣銃の設計図を描いている。


 琴子は。


 サイエスの市場経済を。


 分析している。


 真奈美は。


 地球側の人脈を。


 整理している。


 ピピは。


 モリへのお土産を。


 考えている。


 そして。


 誰も。


 気づいていなかった。


 この時。


 サイエスの。


 初心者の森の奥。


 森の主モリが。


 静かに。


 二人を待っていることを。


 そして。


 森のさらに奥。


 誰も知らない場所で。


 黒い霧が。


 ゆっくりと。


 形を作っていることを。


『……。』


『来る。』


『また。』


『あの二人が。』


 黒い霧の中で。


 何かが。


 笑った。


『今度は。』


『何を持ってくる?』


 そして。


 地球では。


 奏が。


 魔法陣銃を。


 ゆっくりと。


 持ち上げた。


「……。」


「完成。」


「何がですか?」


 琴子が。


 振り返る。


 奏は。


 新しい銃を。


 持っていた。


 それは。


 今までのものより。


 さらに。


 大型だった。


 銃身は。


 奏の腕ほどの長さ。


 魔石が。


 十個以上。


 複雑に配置されている。


 銃口には。


 巨大な魔法陣展開機構。


 そして。


 側面には。


 大きく。


 文字が書かれていた。


【魔法陣銃・弐式】


「……。」


 琴子が。


 絶句する。


「奏。」


「何?」


「それ。」


「持って。」


「サイエスへ。」


「持っていくつもりですか?」


「もちろん。」


「……。」


「駄目?」


 琴子は。


 長い間。


 黙っていた。


 そして。


 静かに。


 言った。


「……。」


「もう。」


「好きにしてください。」


 奏は。


 嬉しそうに。


 笑った。


 こうして。


 双子の。


 異世界再侵攻。


 その準備は。


 着々と。


 進んでいった。


 だが。


 二人は。


 まだ知らない。


 次にサイエスへ戻った瞬間。


 初心者の森で。


 自分たちを待っているのが。


 単なるレベリングではなく。


 世界を揺るがすほどの。


 大きな事件になることを。


 そして。


 その事件の最初の鍵が。


 森の主モリが守る。


 一匹の小さな森兎。


 ピピにあることを。


 まだ。


 二人は。


 知らなかった。


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