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誤召喚された双子は、異世界を丸ごとアップデートする ~鍛冶師と知識魔女の最強貿易ライフ~  作者: 此花サギリ


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第二十一話 魔法陣は銃口から

 ――帰還。


 その一言が、双子の間に落ちた。


 初心者の森の奥。


 邪神と同質の魔力を纏った黒い霧。


 そして、その向こう側から聞こえた声。


 明らかに。


 何かがいる。


 しかも。


 それは。


 二人がこの世界へ来るきっかけとなった存在と。


 無関係ではない。


 だからこそ。


 琴子は迷わなかった。


「奏。」


「うん。」


「一度、地球へ戻ります。」


「了解。」


 奏が頷く。


 そして。


 腰に装着していた帰還用の魔道具へ手を伸ばした。


 しかし。


「……。」


「奏?」


「いや。」


 奏の視線が。


 琴子の魔法銃へ向いていた。


「……。」


 琴子が嫌な予感を覚える。


「何ですか?」


「いや。」


「その銃。」


「何?」


「魔法。」


「撃てますよ?」


「うん。」


「普通に。」


「はい。」


「魔法陣。」


「……。」


「出ないね。」


「はい。」


 奏は。


 じっと魔法銃を見る。


 この世界へ来て。


 魔法を見た。


 火球。


 水弾。


 風刃。


 回復魔法。


 どれも。


 地球には存在しない。


 それは。


 奏にとって。


 とても魅力的なものだった。


 何しろ。


 奏は。


 ミリタリーオタクである。


 そして。


 歴史戦術オタク。


 さらに。


 電子工学を専攻し。


 研究所で働いていた。


 つまり。


 技術と兵器と浪漫。


 その三つを愛する女だった。


「……。」


 奏が。


 ゆっくり。


 魔法銃を見た。


「……何か。」


 琴子が。


 警戒する。


「嫌な顔をしていますよ。」


「嫌じゃない。」


「では?」


「不満。」


「何がですか?」


「魔法。」


 奏は。


 拳を握った。


「魔法だよ。」


「魔法。」


「魔法といえば。」


「魔法陣でしょ。」


「……。」


「なんで出ないの?」


 琴子が。


 瞬きをした。


「……。」


「そこ?」


「そこ。」


「今ですか?」


「今。」


「邪神がいるんですよ?」


「分かってる。」


「森の主も戦ってるんですよ?」


「分かってる。」


「私たちも戦わないといけないんですよ?」


「分かってる。」


「それなのに?」


「魔法陣がない。」


「……。」


 奏は。


 真剣な顔をしていた。


「おかしい。」


「何がおかしいんですか。」


「魔法を撃つなら。」


「魔法陣。」


「必要。」


「必要ありません。」


「でも。」


 奏は。


 魔法銃を指差した。


「魔法陣。」


「出た方が。」


「格好いい。」


 沈黙。


 琴子は。


 額を押さえた。


「……。」


「奏。」


「何?」


「あなた。」


「本当に。」


「時々。」


「馬鹿ですよね。」


「失礼。」


「褒めてません。」


「私。」


「研究者だよ?」


「知っています。」


「技術者だよ?」


「知っています。」


「だから。」


 奏は。


 魔法銃を見つめる。


「作る。」


「何を?」


「魔法陣が出る銃。」


「……。」


 琴子が。


 目を細めた。


「魔法銃。」


「改造するの?」


「うん。」


「今?」


「今じゃない。」


「いつ?」


「帰ってから。」


 奏は。


 拳を握る。


「日本に戻って。」


「工房に籠る。」


「そして。」


「魔法陣を出す。」


「銃を作る。」


「……。」


 琴子は。


 もう何も言わなかった。


 この顔をしている時。


 奏は。


 絶対に止まらない。


 幼い頃から。


 そうだった。


 壊れた玩具を見れば。


 分解する。


 動かない家電があれば。


 分解する。


 古い自転車を拾えば。


 分解する。


 そして。


 なぜか。


 元より高性能になって戻ってくる。


「……。」


 琴子は。


 諦めた。


「好きにしてください。」


「やった!」


「ただし。」


「何?」


「戦闘に支障が出ない範囲で。」


「分かってる。」


「本当に?」


「分かってるって。」


「あなたの『分かってる』は信用できません。」


「失礼だな。」


 その時。


 黒い霧の向こうから。


 再び。


 声が聞こえた。


『……人間。』


 二人の表情が変わる。


「……。」


『なぜ。』


『我の世界にいる。』


 奏が。


 銃を構える。


「世界?」


 琴子が。


 隣に並ぶ。


「この世界。」


「サイエス。」


「お前の世界?」


『そうだ。』


「……。」


 琴子の目が。


 細くなる。


「自称神。」


『……。』


「やっぱり。」


「あなたですね。」


 黒い霧が。


 揺らいだ。


『……。』


「私たちを召喚した。」


『……。』


「そして。」


「誤召喚だった。」


『……。』


「その責任を。」


「神力を返せと。」


『……。』


「言いましたよね?」


 返事はない。


 奏が。


「琴子。」


「はい。」


「これ。」


「完全に。」


「図星だね。」


「そうですね。」


『……。』


 沈黙。


 奏は。


 笑った。


「おーい。」


『……。』


「邪神。」


『……。』


「聞こえてる?」


『……。』


「黙るなよ。」


 琴子が。


 奏の腕を掴む。


「挑発しないでください。」


「でも。」


「絶対。」


「頭悪いよ。」


「それは。」


 琴子が。


 ため息を吐く。


「否定できません。」


 その瞬間。


 黒い霧が膨張した。


『――我を侮辱するな!』


 凄まじい魔力が。


 森を包み込む。


 奏が。


「うわ。」


 琴子が。


「来ます!」


 だが。


 次の瞬間。


 巨大な影が。


 黒い霧へ突っ込んだ。


「――グルァァァァッ!」


「モリ!」


 フォレストロード。


 モリが。


 黒い霧を角で吹き飛ばした。


 邪神の気配が。


 遠ざかる。


『――ッ!』


「今!」


 琴子が叫ぶ。


「帰還します!」


 奏が。


 帰還用魔道具を起動する。


 光が。


 二人とピピを包む。


 そして。


 モリを見る。


「モリ!」


 奏が叫んだ。


「また来る!」


 モリが。


 大きく頷く。


「絶対。」


「戻るから!」


 琴子も。


「モリ。」


「待っていてください。」


 モリが。


 咆哮する。


 その声を聞きながら。


 三人の姿が。


 光の中へ消えた。


◇◇◇


 次の瞬間。


 奏の足元に。


 見慣れた床があった。


「……。」


「……。」


「……。」


「帰ってきた。」


 奏が呟く。


「はい。」


 琴子が答える。


 古民家。


 二人の家。


 曾祖父から受け継いだ。


 長い歴史を持つ家。


 その居間。


 畳。


 障子。


 古い柱。


 そして。


 日本の空気。


「……。」


 奏が。


 大きく息を吸った。


「日本。」


「日本ですね。」


 琴子も。


 深く息を吐く。


 ピピは。


「ここが。」


「お姉ちゃんたちの。」


「家?」


「そう。」


 奏が。


 笑った。


「私たちの家。」


「へえ。」


 ピピが。


 きょろきょろする。


「変なの。」


「何が?」


「木の匂い。」


「畳。」


「知らない。」


 琴子が笑う。


「これが日本ですよ。」


「日本?」


「はい。」


「ボク。」


「初めて。」


「来た。」


「そうですね。」


 琴子が。


 ピピの頭を撫でる。


「歓迎します。」


 奏は。


 荷物を置いた。


 そして。


 すぐに。


 立ち上がった。


「さて。」


「奏。」


「工房。」


「……。」


「作る。」


「今から?」


「今から。」


「ちょっと待ってください。」


「何?」


「私たち。」


「消息不明扱いになっている可能性があります。」


「……。」


 奏が。


 固まった。


「……。」


「そうだった。」


「時差。」


 琴子が。


 顔を青くする。


「地球とサイエス。」


「一日と三十日。」


「私たち。」


「何日いた?」


「……。」


「アイリス。」


『地球時間換算。』


『約四時間二十三分です。』


「……。」


 琴子が。


 固まった。


「四時間?」


『はい。』


「サイエスでは?」


『約五ヶ月です。』


「……。」


 奏が。


「……。」


 琴子が。


「……。」


 ピピが。


「……。」


 三人。


 同時に。


「「「長っ!」」」


 奏が。


 頭を抱える。


「これ。」


「地球では。」


「行方不明になってない?」


『可能性は低いです。』


「なんで?」


『最後に確認された位置。』


『時計塔周辺。』


『事故発生時刻。』


『地球時間で四時間前です。』


「……。」


 琴子が。


「なら。」


「まだ。」


「大丈夫。」


「たぶん。」


 その時。


 玄関から。


 音がした。


 ピンポーン。


「……。」


「……。」


「誰?」


 奏が。


「分かりません。」


 琴子が。


 立ち上がる。


 玄関へ向かう。


「誰ですか?」


『琴子ちゃん?』


 聞き覚えのある声。


「……。」


 琴子が。


 目を見開いた。


「久世さん?」


『そうよ。』


 玄関を開ける。


 そこにいたのは。


 艶やかな黒髪を持つ。


 四十代半ばほどの女性。


 上品な服装。


 柔らかな笑顔。


 しかし。


 その目は。


 鋭い。


 有平姉妹の後見人。


 祓い屋。


 久世真奈美。


「……。」


「お帰りなさい。」


 真奈美が。


 笑った。


「二人とも。」


「どこに行ってたの?」


「……。」


「連絡もなし。」


「突然いなくなって。」


「警察に相談しようかと思っていたところよ。」


「……。」


 琴子が。


 笑顔を浮かべる。


「久世さん。」


「はい?」


「お久しぶりです。」


「ええ。」


「実は。」


「ご相談が。」


「……。」


 真奈美の目が。


 細くなる。


「嫌な予感がするわ。」


「気のせいですよ。」


「そう?」


「はい。」


「なら。」


 真奈美は。


 奏を見る。


「その銃。」


「……。」


「何?」


「……。」


 奏が。


 抱えている。


 スチームパンク風の。


 魔法銃。


 真奈美が。


「それ。」


「日本の物じゃないわね?」


 奏が。


「……。」


 琴子が。


「……。」


 ピピが。


「……。」


 真奈美の視線が。


 ピピへ移る。


「その子も。」


「日本の生き物じゃないわね?」


 沈黙。


 真奈美は。


 ゆっくり。


 笑った。


「……。」


「二人とも。」


「どこに行ってたの?」


 奏が。


 琴子を見る。


 琴子が。


 奏を見る。


 そして。


 同時に。


「異世界。」


「……。」


 真奈美が。


「……。」


「は?」


 こうして。


 双子は。


 異世界帰りの報告会を。


 始めることになった。


 そして。


 数時間後。


 古民家の離れ。


 二人の作業場。


 そこには。


 工具。


 旋盤。


 3Dプリンター。


 電子工作機器。


 金属加工機。


 そして。


 地球では見たことのない。


 魔石。


 魔導部品。


 魔法銃。


 様々なものが。


 並べられていた。


「……。」


 奏が。


 目を輝かせる。


「やっぱり。」


「これ。」


「最高。」


 琴子が。


 作業場の入口から。


 奏を見る。


「奏。」


「何?」


「本当に作るんですか?」


「作る。」


「魔法陣が出る銃。」


「うん。」


「必要ですか?」


「必要。」


「戦闘に?」


「精神的に。」


「……。」


 琴子は。


 ため息を吐いた。


「はいはい。」


「勝手にしてください。」


「ありがとう!」


 奏は。


 魔法銃を分解する。


 まず。


 銃身。


 魔石。


 魔力回路。


 魔法式。


 それぞれを。


 丁寧に調べる。


 奏の目が。


 輝いている。


「魔力を流すと。」


 魔法銃の内部。


 魔石が発光する。


「魔法式が起動。」


「魔法が形成される。」


「なら。」


 奏は。


 新しい部品を取り出した。


「魔力を。」


「一度。」


「別系統へ分岐させる。」


「……。」


 琴子が。


「何をする気ですか?」


「魔法陣を。」


「描く。」


「どこに?」


 奏が。


 銃口を指差す。


「ここ。」


「……。」


 奏は。


 魔法銃を改造する。


 銃身の周囲に。


 小型魔石を六つ。


 六角形に配置。


 魔力回路を。


 それぞれへ接続する。


 そして。


 魔法を発射する瞬間。


 六つの魔石から。


 魔力を放出。


 空中へ。


 魔法陣を描く。


「……。」


 琴子が。


 口を開ける。


「……。」


「どう?」


「……。」


「琴子?」


「……。」


「何か言って。」


「……。」


 琴子は。


 頭を抱えた。


「あなた。」


「本当に。」


「馬鹿ですね。」


「だから何で!」


 奏は。


 完成した銃を。


 持ち上げる。


 見た目は。


 スチームパンク。


 真鍮色の装飾。


 歯車。


 蒸気管。


 魔石。


 そして。


 銃身の先端には。


 六つの発光する魔石。


「名前。」


 奏が。


 呟いた。


「決めた。」


「何ですか?」


「マギア・リボルバー。」


「安直。」


「じゃあ。」


「マギア・スチームガン。」


「もっと安直。」


「……。」


 奏は。


 考える。


「魔法陣。」


「出る。」


「銃。」


「魔法陣銃。」


「却下。」


 琴子が。


 即答する。


「じゃあ。」


「あなたが決めて。」


「嫌です。」


「なんで?」


「奏が作ったんですから。」


「……。」


 その時。


 ピピが。


「魔法。」


「銃。」


「魔法陣。」


「かっこいい!」


 奏が。


 ピピを見る。


「そうだよね!」


「うん!」


「分かってる!」


 奏は。


 満足そうに。


 銃を構えた。


「試射。」


「家の中で?」


「大丈夫。」


「何が大丈夫なんですか!」


「魔法だから。」


「意味が分かりません!」


 奏は。


 庭へ出た。


 琴子とピピも。


 後ろから付いてくる。


「じゃあ。」


 奏が。


 魔法銃を構える。


「行くよ。」


 魔力を流す。


 六つの魔石が。


 輝く。


 歯車が。


 回転する。


 蒸気管から。


 白い蒸気が噴き出す。


 そして。


 銃口の前に。


 青白い魔法陣が。


 出現した。


「――――!」


 奏の目が。


 輝いた。


「出た!」


 魔法陣が。


 回転する。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 複数の魔法陣が。


 重なっていく。


「すごい!」


 奏が叫ぶ。


「魔法陣!」


「……。」


 琴子は。


 呆れていた。


「奏。」


「何?」


「撃ってください。」


「うん。」


 奏が。


 引き金を引いた。


 ドォンッ!


 魔法陣が。


 一斉に収束する。


 そして。


 青白い光線が。


 庭の先へ飛んでいった。


 ――轟音。


 地面が。


 吹き飛ぶ。


「……。」


 沈黙。


 庭に。


 巨大な穴が開いた。


「……。」


「……。」


「……。」


 奏。


 琴子。


 ピピ。


 三人が。


 穴を見る。


「……。」


 琴子が。


 ゆっくり。


 奏を見る。


「奏。」


「はい。」


「あなた。」


「はい。」


「威力。」


「調整。」


「してませんね?」


「……。」


「してませんね?」


「……。」


 奏は。


 笑った。


「魔法陣。」


「格好いいでしょ?」


「話を逸らさないでください!」


 その日。


 有平家の庭には。


 巨大な穴が。


 一つ増えた。


 そして。


 日本の科学技術。


 異世界の魔法。


 そして。


 奏の無駄なこだわり。


 その三つが融合した。


 新たな武器。


 ――魔法陣を展開するスチームパンク・ガン。


 その第一号が。


 完成したのである。


 しかし。


 奏は。


 まだ知らない。


 この銃が。


 後に。


 サイエスの魔導兵器史を。


 根本から変えることになるなど。


 そして。


 この時。


 ただ一つ。


 確かなことがあった。


「琴子。」


「何ですか?」


「次。」


「何を作るんですか?」


「もっと魔法陣を出したい。」


「……。」


「連射したい。」


「……。」


「あと。」


「空中に巨大魔法陣を出して。」


「そこから。」


「ミサイル。」


「……。」


 琴子は。


 静かに。


 携帯電話を取り出した。


「もしもし。」


「久世さんですか?」


「はい。」


「お願いがあります。」


「何かしら?」


「奏を。」


「少し。」


「止めてもらえませんか?」


「……。」


 奏が。


「なんで!?」


 叫んだ。


 こうして。


 双子の異世界攻略は。


 少しずつ。


 おかしな方向へ。


 進み始めていた。


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