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誤召喚された双子は、異世界を丸ごとアップデートする ~鍛冶師と知識魔女の最強貿易ライフ~  作者: 此花サギリ


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第二十話 森の主が家族になりました


 沈黙。


 それが、しばらく続いた。


 初心者の森の奥深く。


 つい先ほどまで巨大な魔物と死闘を繰り広げていた場所で。


 双子と一匹の森兎。


 そして。


 全長五メートルを超える巨大な鹿型魔物が。


 互いに顔を見合わせていた。


 誰も。


 何も言わない。


 いや。


 正確には。


 誰も。


 どう言えばいいのか分からなかった。


「……。」


 奏は目の前のフォレストロードを見上げた。


 高い。


 とにかく高い。


 首を思い切り上へ向けなければ顔を見ることすらできない。


 その巨大な角は、木々の枝よりも太く。


 その身体は、ちょっとした家ほどの大きさがある。


 そんな存在が。


 今。


 自分たちの「家族」になった。


「……アイリス。」


『はい。』


「確認。」


『何でしょうか。』


「これ。」


 奏はフォレストロードを指差す。


「本当に?」


『はい。』


「私たちの?」


『家族契約を締結しています。』


「……。」


「解除できる?」


『可能です。』


「……。」


 奏は少しだけ安心した。


「よかった。」


 その瞬間。


 フォレストロードが。


 悲しそうな目をした。


 奏の動きが止まる。


「……。」


 琴子が。


 ゆっくり奏を見る。


「奏。」


「何?」


「今。」


「あなた。」


「解除しようとしました?」


「……。」


「しましたね?」


「……。」


「フォレストロード。」


「ごめん。」


 奏が謝った。


 すると。


 巨大な角が。


 ゆっくり下がった。


 まるで。


 落ち込んでいるようだった。


「……。」


 奏は頭を掻いた。


「いや。」


「違うんだよ。」


「嫌いとかじゃなくて。」


「大きすぎるから。」


 フォレストロードが。


 首を傾げた。


「家。」


「大丈夫?」


 奏が心配そうに聞く。


 フォレストロードは。


 大きく頷いた。


「……。」


「何で通じるの?」


 奏が呟く。


『家族契約により、意思疎通能力が共有されています。』


「そういうことか。」


 琴子がフォレストロードへ近付く。


 巨大な鹿は警戒することなく。


 琴子へ顔を寄せた。


「……。」


 琴子は。


 その鼻先へ。


 そっと手を置いた。


「よろしくお願いします。」


 フォレストロードが。


 目を細める。


 そして。


 琴子の身体へ。


 魔力が流れ込んできた。


『契約が安定しました。』


『対象の名称を登録してください。』


「名前?」


 奏が言う。


「名前を付けるの?」


『はい。』


「じゃあ。」


 奏は考える。


「鹿。」


「却下。」


 琴子が即答した。


「なんで?」


「雑すぎます。」


「じゃあ。」


 奏は再び考えた。


「シカ。」


「同じです。」


「トナカイ。」


「違うでしょう。」


「角が似てる。」


「似てません。」


 ピピが手を挙げた。


「モリ!」


「森?」


「森の王様だから!」


 奏が頷く。


「いいんじゃない?」


「……。」


 琴子は考える。


「モリ。」


 フォレストロードが。


「グルゥ。」


 嬉しそうに鳴いた。


『名称を確認。』


『登録します。』


『個体名――モリ。』


 奏が笑った。


「決まったね。」


 琴子がため息を吐く。


「まさか。」


「初心者の森の主に。」


「モリって名前を付けるとは。」


「いいじゃん。」


「覚えやすいし。」


「そうそう。」


 モリが。


 二人の会話を聞いていた。


 そして。


 突然。


 身体を低くした。


「?」


 奏が首を傾げる。


 モリの背中が。


 ゆっくり下がる。


 まるで。


「乗れ。」


 そう言っているようだった。


「……。」


「まさか。」


 奏が呟く。


「乗っていいの?」


 モリが頷いた。


「やった!」


 奏が駆け寄る。


「奏!」


「何?」


「危ないですよ!」


「大丈夫。」


「あなたはレベル八です。」


「でも。」


「モリがいる。」


 奏はモリの背中へ乗った。


「うわ。」


 高い。


 ものすごく高い。


「すごい!」


 奏が笑う。


「見える!」


「何が?」


「森全部!」


 琴子が呆れた。


「子供ですか。」


「こういうのは。」


「乗ってみたいでしょ。」


 奏は振り返る。


「琴子も乗る?」


「……。」


 琴子が少しだけ迷う。


「乗ります。」


「乗るんだ。」


「家族ですから。」


「理由になってない。」


「なります。」


 琴子もモリの背中へ乗る。


 ピピは奏の肩へ飛び乗った。


「ボクも!」


「はいはい。」


 こうして。


 巨大なフォレストロード。


 森兎。


 双子。


 という。


 異様な組み合わせのパーティが。


 初心者の森を進み始めた。


 しかし。


 奏は。


 すぐに気付いた。


「……。」


「どうしました?」


 琴子が聞く。


「これ。」


「何ですか?」


「歩くより速い。」


「当たり前です。」


「しかも。」


「魔物が。」


「逃げていく。」


 その通りだった。


 モリが歩くたび。


 周囲の魔物が逃げていく。


 ゴブリン。


 ウルフ。


 巨大な蛇。


 どれも。


 モリの姿を見ると。


 一目散に逃げ出した。


「……。」


 奏が。


 微妙な顔になる。


「レベリング。」


「できませんね。」


 琴子が答えた。


「できません。」


「どうします?」


「モリ。」


「はい。」


「ちょっと。」


「離れて歩いて。」


 モリが止まる。


「……。」


「いや。」


「嫌いじゃないよ。」


 奏が慌てる。


「ただ。」


「私たち。」


「レベル上げしたいから。」


 モリは。


 少し考えた。


 そして。


 森の奥へ向かって。


 走っていった。


「……。」


「……。」


「行った。」


「行きましたね。」


 奏と琴子は。


 顔を見合わせた。


 すると。


 アイリスが。


『提案。』


『モリを索敵役として使用することを推奨します。』


「索敵?」


『はい。』


『強力な魔物を避けながら、適正レベルの魔物のみを誘導することが可能です。』


「なるほど。」


 奏の目が輝く。


「つまり。」


「モリに。」


「弱い魔物を探してもらう。」


「はい。」


「そして。」


「私たちが戦う。」


『その通りです。』


 琴子も頷く。


「それなら。」


「安全にレベリングできます。」


 奏は拳を握る。


「よし。」


「モリ。」


「戻ってきて!」


 遠くから。


 巨大な鹿が戻ってきた。


「早い。」


「何ですか?」


「もう帰ってきた。」


「呼んだからでしょう。」


「いや。」


「速すぎる。」


 モリが。


 二人の前へ戻ってくる。


 そして。


 口に何かを咥えていた。


「……。」


 奏が見る。


 それは。


 巨大な牙だった。


「何それ?」


 モリが。


 ぽとり。


 と落とした。


『解析。』


牙狼ファングウルフの牙。』


『素材価値――高。』


 琴子が。


「……。」


 奏が。


「……。」


 ピピが。


「……。」


 三人が。


 同時にモリを見る。


 モリは。


 尻尾を振っていた。


「これ。」


「倒してきた?」


 奏が聞く。


 モリが頷く。


「……。」


「レベリング。」


「できない。」


 琴子が静かに呟いた。


 モリが悲しそうな顔をする。


「いや。」


 奏が慌てる。


「違う。」


「素材。」


「ありがとう。」


 モリの耳が。


 ぴんと立つ。


「素材集め。」


「お願いできる?」


 モリが。


 嬉しそうに頷いた。


『家族契約による協力関係が成立。』


『モリが討伐した魔物の素材を取得可能。』


『経験値はパーティ全体へ共有されます。』


 奏が。


「……。」


 琴子が。


「……。」


 ピピが。


「……。」


 奏が。


 ゆっくり口を開いた。


「私たち。」


「戦わなくても。」


「レベル上がる?」


『はい。』


「……。」


 琴子が。


 静かに言った。


「これ。」


「反則では?」


『仕様です。』


「仕様なんだ。」


『はい。』


 奏は。


 モリを見る。


 森の主。


 レベル三十五。


 初心者の森の頂点。


 そして。


 自分たちの家族。


「……。」


 奏が。


 小さく笑った。


「モリ。」


「お願い。」


 モリが。


 奏を見る。


「私たち。」


「強くなりたい。」


「邪神を。」


「倒すために。」


 モリは。


 静かに頷いた。


 そして。


 森の奥へ向かって。


 走り出した。


 その背中を。


 奏と琴子は見送る。


「……。」


 琴子が。


 ぽつりと言った。


「私たち。」


「すごい仲間を手に入れましたね。」


「うん。」


「初心者の森の主。」


「うん。」


「レベル三十五。」


「うん。」


「素材集め担当。」


「……。」


 奏が。


 笑った。


「邪神。」


「かわいそう。」


「何でですか?」


「だって。」


「私たち。」


「まだレベル八なのに。」


「既に。」


「レベル三十五の仲間いるんだよ?」


 琴子は。


 少し考え。


「……。」


「確かに。」


 二人は。


 同時に笑った。


 だが。


 その笑顔は。


 すぐに消えた。


 森の奥。


 モリが消えていった方向から。


 突然。


 巨大な魔力反応が発生した。


『警告。』


 アイリスの声が響く。


『高濃度魔力を検知。』


「……。」


 奏が立ち上がる。


「また?」


『先ほどのフォレストロードとは異なる魔力です。』


「何?」


『複数。』


『推定数――三十七。』


 琴子が眉をひそめた。


「三十七?」


『はい。』


『接近しています。』


 森の奥。


 木々が。


 次々と倒れていく。


 ズシン。


 ズシン。


 ズシン。


 大地を揺らしながら。


 何かが。


 こちらへ向かっている。


 奏が銃を構える。


「モリ?」


 返事はない。


「……。」


 琴子が。


 魔法銃を構える。


「嫌な予感がします。」


「私も。」


 ピピが。


 奏の肩で震えた。


「怖い。」


「大丈夫。」


 奏がピピの頭を撫でる。


「私が守る。」


 そして。


 森の奥から。


 無数の影が現れた。


 ゴブリン。


 ウルフ。


 オーク。


 巨大な蛇。


 それだけではない。


 見たこともない魔物までいる。


 だが。


 その全てが。


 同じ方向へ。


 逃げている。


「……。」


 奏は。


 その光景を見つめる。


「何から。」


 琴子が。


 呟いた。


「逃げてるの?」


 その瞬間。


 森の奥から。


 黒い霧が。


 流れてきた。


 アイリスの声が。


 警告音を伴って響く。


『緊急警告。』


『未知の魔力を検知。』


『先ほど確認した邪神由来の魔力と。』


『一致率――九十七パーセント。』


 奏と琴子の顔から。


 血の気が引いた。


「……。」


「琴子。」


「はい。」


「モリ。」


「はい。」


「大丈夫かな。」


 琴子は。


 答えなかった。


 ただ。


 黒い霧の向こうを。


 じっと見つめている。


 その時。


「――――!」


 遠くから。


 モリの咆哮が響いた。


 森全体が。


 震える。


 そして。


 黒い霧の中から。


 何かが。


 笑った。


『……見つけた。』


 その声を。


 二人は。


 聞いた。


 人間の声ではない。


 けれど。


 あの白い世界で。


 二人を召喚した。


 発光体。


 自称神。


 あの存在の声に。


 酷似していた。


 奏が。


 銃を握り締める。


「……。」


 琴子の表情が。


 完全に変わった。


「奏。」


「うん。」


「帰りましょう。」


「え?」


「日本へ。」


 琴子が。


 静かに言った。


「今すぐ。」


「でも。」


「モリがいます。」


「……。」


「ピピも。」


「……。」


「私たちは。」


「家族を。」


「見捨てません。」


 奏が。


 笑った。


「そうだね。」


 奏は。


 銃を構える。


「なら。」


「やることは一つ。」


 琴子も。


 魔法銃を構えた。


「はい。」


 そして。


 二人は。


 森の奥へ向かって。


 歩き出した。


 自称神。


 邪神。


 そして。


 この世界へ。


 二人を召喚した理由。


 その謎へ。


 双子は。


 少しずつ。


 近付いていた。


 沈黙。


 それが、しばらく続いた。


 初心者の森の奥深く。


 つい先ほどまで巨大な魔物と死闘を繰り広げていた場所で。


 双子と一匹の森兎。


 そして。


 全長五メートルを超える巨大な鹿型魔物が。


 互いに顔を見合わせていた。


 誰も。


 何も言わない。


 いや。


 正確には。


 誰も。


 どう言えばいいのか分からなかった。


「……。」


 奏は目の前のフォレストロードを見上げた。


 高い。


 とにかく高い。


 首を思い切り上へ向けなければ顔を見ることすらできない。


 その巨大な角は、木々の枝よりも太く。


 その身体は、ちょっとした家ほどの大きさがある。


 そんな存在が。


 今。


 自分たちの「家族」になった。


「……アイリス。」


『はい。』


「確認。」


『何でしょうか。』


「これ。」


 奏はフォレストロードを指差す。


「本当に?」


『はい。』


「私たちの?」


『家族契約を締結しています。』


「……。」


「解除できる?」


『可能です。』


「……。」


 奏は少しだけ安心した。


「よかった。」


 その瞬間。


 フォレストロードが。


 悲しそうな目をした。


 奏の動きが止まる。


「……。」


 琴子が。


 ゆっくり奏を見る。


「奏。」


「何?」


「今。」


「あなた。」


「解除しようとしました?」


「……。」


「しましたね?」


「……。」


「フォレストロード。」


「ごめん。」


 奏が謝った。


 すると。


 巨大な角が。


 ゆっくり下がった。


 まるで。


 落ち込んでいるようだった。


「……。」


 奏は頭を掻いた。


「いや。」


「違うんだよ。」


「嫌いとかじゃなくて。」


「大きすぎるから。」


 フォレストロードが。


 首を傾げた。


「家。」


「大丈夫?」


 奏が心配そうに聞く。


 フォレストロードは。


 大きく頷いた。


「……。」


「何で通じるの?」


 奏が呟く。


『家族契約により、意思疎通能力が共有されています。』


「そういうことか。」


 琴子がフォレストロードへ近付く。


 巨大な鹿は警戒することなく。


 琴子へ顔を寄せた。


「……。」


 琴子は。


 その鼻先へ。


 そっと手を置いた。


「よろしくお願いします。」


 フォレストロードが。


 目を細める。


 そして。


 琴子の身体へ。


 魔力が流れ込んできた。


『契約が安定しました。』


『対象の名称を登録してください。』


「名前?」


 奏が言う。


「名前を付けるの?」


『はい。』


「じゃあ。」


 奏は考える。


「鹿。」


「却下。」


 琴子が即答した。


「なんで?」


「雑すぎます。」


「じゃあ。」


 奏は再び考えた。


「シカ。」


「同じです。」


「トナカイ。」


「違うでしょう。」


「角が似てる。」


「似てません。」


 ピピが手を挙げた。


「モリ!」


「森?」


「森の王様だから!」


 奏が頷く。


「いいんじゃない?」


「……。」


 琴子は考える。


「モリ。」


 フォレストロードが。


「グルゥ。」


 嬉しそうに鳴いた。


『名称を確認。』


『登録します。』


『個体名――モリ。』


 奏が笑った。


「決まったね。」


 琴子がため息を吐く。


「まさか。」


「初心者の森の主に。」


「モリって名前を付けるとは。」


「いいじゃん。」


「覚えやすいし。」


「そうそう。」


 モリが。


 二人の会話を聞いていた。


 そして。


 突然。


 身体を低くした。


「?」


 奏が首を傾げる。


 モリの背中が。


 ゆっくり下がる。


 まるで。


「乗れ。」


 そう言っているようだった。


「……。」


「まさか。」


 奏が呟く。


「乗っていいの?」


 モリが頷いた。


「やった!」


 奏が駆け寄る。


「奏!」


「何?」


「危ないですよ!」


「大丈夫。」


「あなたはレベル八です。」


「でも。」


「モリがいる。」


 奏はモリの背中へ乗った。


「うわ。」


 高い。


 ものすごく高い。


「すごい!」


 奏が笑う。


「見える!」


「何が?」


「森全部!」


 琴子が呆れた。


「子供ですか。」


「こういうのは。」


「乗ってみたいでしょ。」


 奏は振り返る。


「琴子も乗る?」


「……。」


 琴子が少しだけ迷う。


「乗ります。」


「乗るんだ。」


「家族ですから。」


「理由になってない。」


「なります。」


 琴子もモリの背中へ乗る。


 ピピは奏の肩へ飛び乗った。


「ボクも!」


「はいはい。」


 こうして。


 巨大なフォレストロード。


 森兎。


 双子。


 という。


 異様な組み合わせのパーティが。


 初心者の森を進み始めた。


 しかし。


 奏は。


 すぐに気付いた。


「……。」


「どうしました?」


 琴子が聞く。


「これ。」


「何ですか?」


「歩くより速い。」


「当たり前です。」


「しかも。」


「魔物が。」


「逃げていく。」


 その通りだった。


 モリが歩くたび。


 周囲の魔物が逃げていく。


 ゴブリン。


 ウルフ。


 巨大な蛇。


 どれも。


 モリの姿を見ると。


 一目散に逃げ出した。


「……。」


 奏が。


 微妙な顔になる。


「レベリング。」


「できませんね。」


 琴子が答えた。


「できません。」


「どうします?」


「モリ。」


「はい。」


「ちょっと。」


「離れて歩いて。」


 モリが止まる。


「……。」


「いや。」


「嫌いじゃないよ。」


 奏が慌てる。


「ただ。」


「私たち。」


「レベル上げしたいから。」


 モリは。


 少し考えた。


 そして。


 森の奥へ向かって。


 走っていった。


「……。」


「……。」


「行った。」


「行きましたね。」


 奏と琴子は。


 顔を見合わせた。


 すると。


 アイリスが。


『提案。』


『モリを索敵役として使用することを推奨します。』


「索敵?」


『はい。』


『強力な魔物を避けながら、適正レベルの魔物のみを誘導することが可能です。』


「なるほど。」


 奏の目が輝く。


「つまり。」


「モリに。」


「弱い魔物を探してもらう。」


「はい。」


「そして。」


「私たちが戦う。」


『その通りです。』


 琴子も頷く。


「それなら。」


「安全にレベリングできます。」


 奏は拳を握る。


「よし。」


「モリ。」


「戻ってきて!」


 遠くから。


 巨大な鹿が戻ってきた。


「早い。」


「何ですか?」


「もう帰ってきた。」


「呼んだからでしょう。」


「いや。」


「速すぎる。」


 モリが。


 二人の前へ戻ってくる。


 そして。


 口に何かを咥えていた。


「……。」


 奏が見る。


 それは。


 巨大な牙だった。


「何それ?」


 モリが。


 ぽとり。


 と落とした。


『解析。』


牙狼ファングウルフの牙。』


『素材価値――高。』


 琴子が。


「……。」


 奏が。


「……。」


 ピピが。


「……。」


 三人が。


 同時にモリを見る。


 モリは。


 尻尾を振っていた。


「これ。」


「倒してきた?」


 奏が聞く。


 モリが頷く。


「……。」


「レベリング。」


「できない。」


 琴子が静かに呟いた。


 モリが悲しそうな顔をする。


「いや。」


 奏が慌てる。


「違う。」


「素材。」


「ありがとう。」


 モリの耳が。


 ぴんと立つ。


「素材集め。」


「お願いできる?」


 モリが。


 嬉しそうに頷いた。


『家族契約による協力関係が成立。』


『モリが討伐した魔物の素材を取得可能。』


『経験値はパーティ全体へ共有されます。』


 奏が。


「……。」


 琴子が。


「……。」


 ピピが。


「……。」


 奏が。


 ゆっくり口を開いた。


「私たち。」


「戦わなくても。」


「レベル上がる?」


『はい。』


「……。」


 琴子が。


 静かに言った。


「これ。」


「反則では?」


『仕様です。』


「仕様なんだ。」


『はい。』


 奏は。


 モリを見る。


 森の主。


 レベル三十五。


 初心者の森の頂点。


 そして。


 自分たちの家族。


「……。」


 奏が。


 小さく笑った。


「モリ。」


「お願い。」


 モリが。


 奏を見る。


「私たち。」


「強くなりたい。」


「邪神を。」


「倒すために。」


 モリは。


 静かに頷いた。


 そして。


 森の奥へ向かって。


 走り出した。


 その背中を。


 奏と琴子は見送る。


「……。」


 琴子が。


 ぽつりと言った。


「私たち。」


「すごい仲間を手に入れましたね。」


「うん。」


「初心者の森の主。」


「うん。」


「レベル三十五。」


「うん。」


「素材集め担当。」


「……。」


 奏が。


 笑った。


「邪神。」


「かわいそう。」


「何でですか?」


「だって。」


「私たち。」


「まだレベル八なのに。」


「既に。」


「レベル三十五の仲間いるんだよ?」


 琴子は。


 少し考え。


「……。」


「確かに。」


 二人は。


 同時に笑った。


 だが。


 その笑顔は。


 すぐに消えた。


 森の奥。


 モリが消えていった方向から。


 突然。


 巨大な魔力反応が発生した。


『警告。』


 アイリスの声が響く。


『高濃度魔力を検知。』


「……。」


 奏が立ち上がる。


「また?」


『先ほどのフォレストロードとは異なる魔力です。』


「何?」


『複数。』


『推定数――三十七。』


 琴子が眉をひそめた。


「三十七?」


『はい。』


『接近しています。』


 森の奥。


 木々が。


 次々と倒れていく。


 ズシン。


 ズシン。


 ズシン。


 大地を揺らしながら。


 何かが。


 こちらへ向かっている。


 奏が銃を構える。


「モリ?」


 返事はない。


「……。」


 琴子が。


 魔法銃を構える。


「嫌な予感がします。」


「私も。」


 ピピが。


 奏の肩で震えた。


「怖い。」


「大丈夫。」


 奏がピピの頭を撫でる。


「私が守る。」


 そして。


 森の奥から。


 無数の影が現れた。


 ゴブリン。


 ウルフ。


 オーク。


 巨大な蛇。


 それだけではない。


 見たこともない魔物までいる。


 だが。


 その全てが。


 同じ方向へ。


 逃げている。


「……。」


 奏は。


 その光景を見つめる。


「何から。」


 琴子が。


 呟いた。


「逃げてるの?」


 その瞬間。


 森の奥から。


 黒い霧が。


 流れてきた。


 アイリスの声が。


 警告音を伴って響く。


『緊急警告。』


『未知の魔力を検知。』


『先ほど確認した邪神由来の魔力と。』


『一致率――九十七パーセント。』


 奏と琴子の顔から。


 血の気が引いた。


「……。」


「琴子。」


「はい。」


「モリ。」


「はい。」


「大丈夫かな。」


 琴子は。


 答えなかった。


 ただ。


 黒い霧の向こうを。


 じっと見つめている。


 その時。


「――――!」


 遠くから。


 モリの咆哮が響いた。


 森全体が。


 震える。


 そして。


 黒い霧の中から。


 何かが。


 笑った。


『……見つけた。』


 その声を。


 二人は。


 聞いた。


 人間の声ではない。


 けれど。


 あの白い世界で。


 二人を召喚した。


 発光体。


 自称神。


 あの存在の声に。


 酷似していた。


 奏が。


 銃を握り締める。


「……。」


 琴子の表情が。


 完全に変わった。


「奏。」


「うん。」


「帰りましょう。」


「え?」


「日本へ。」


 琴子が。


 静かに言った。


「今すぐ。」


「でも。」


「モリがいます。」


「……。」


「ピピも。」


「……。」


「私たちは。」


「家族を。」


「見捨てません。」


 奏が。


 笑った。


「そうだね。」


 奏は。


 銃を構える。


「なら。」


「やることは一つ。」


 琴子も。


 魔法銃を構えた。


「はい。」


 そして。


 二人は。


 森の奥へ向かって。


 歩き出した。


 自称神。


 邪神。


 そして。


 この世界へ。


 二人を召喚した理由。


 その謎へ。


 双子は。


 少しずつ。


 近付いていた。


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