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誤召喚された双子は、異世界を丸ごとアップデートする ~鍛冶師と知識魔女の最強貿易ライフ~  作者: 此花サギリ


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第十七話 最初の商談と、姉妹の暴走



 「では、こちらの商品を正式に鑑定へ回しますね。」


 商業ギルドの職員が、慎重な手つきで日本製の石鹸を木箱へ収める。


 その様子を見ながら、琴子は何かを考えていた。


 奏はそれに気付いていた。


 この顔をしている時の琴子は、ろくなことを考えていない。


「琴子。」


「何ですか?」


「今度は何を考えてるの?」


「別に。」


「その顔で?」


「どんな顔ですか?」


「悪い顔。」


「失礼ですね。」


 琴子は外向きの笑顔を浮かべる。


 しかし。


 奏には分かっていた。


 これは、完全に商売人の顔だ。


「お姉ちゃん。」


「何ですか、妹。」


「私たち。」


「はい。」


「今日は市場調査だけだったよね?」


「そうですね。」


「商業ギルドに登録して。」


「はい。」


「石鹸を売って。」


「はい。」


「回復薬の市場価格を調べて。」


「はい。」


「商品開発まで始めてるよね?」


「……。」


 琴子が黙る。


「琴子?」


「予定調和です。」


「違うと思う。」


「何がですか?」


「全部。」


 奏は呆れたように溜息を吐いた。


 だが、琴子は気にしていない。


 むしろ。


 彼女の頭の中には、新しい商売の構想が次々と浮かんでいた。


 異世界。


 地球と異なる文明。


 そして。


 地球では当たり前だったものが、この世界では高級品になる。


 この状況を、琴子が見逃すはずがなかった。


 それは、証券会社で働いていた頃から変わらない。


 市場に歪みがあれば。


 そこには必ず商機がある。


「奏。」


「何?」


「この世界。」


「うん。」


「衛生環境が悪い。」


 琴子の声が低くなる。


 奏も真面目な顔になる。


「そうだね。」


「石鹸が高級品。」


「うん。」


「回復薬はあるけど。」


「病気を予防するという概念が弱い。」


「……。」


 奏は少し考える。


「衛生改革。」


「そう。」


 琴子は頷いた。


「私は。」


「お金を稼ぐ。」


「でも。」


 その瞳には、先ほどまでとは違う光があった。


「それだけじゃない。」


「生活を変える。」


 奏は琴子を見つめた。


 昔からそうだった。


 琴子は腹黒い。


 口も悪い。


 損得勘定にも厳しい。


 しかし。


 根っこの部分では。


 誰かが理不尽な目に遭うことを嫌っている。


 だからこそ。


 自分たちが得をしながら。


 相手にも利益がある方法を探す。


「なるほど。」


 奏は笑った。


「なら。」


「やろう。」


「え?」


「衛生改革。」


 琴子が驚く。


「いいの?」


「面白そうだし。」


「それだけ?」


「それだけ。」


 奏は肩を竦める。


「どうせ。」


「邪神倒すまで暇なんでしょ?」


「暇って。」


「だって。」


「私たち。」


「時間だけはある。」


 地球の一日。


 サイエスの三十日。


 この異常な時間差。


 ならば。


 その時間を利用しない手はない。


「サイエスで一年過ごしても。」


「地球じゃ十二日くらい。」


「つまり。」


 奏は指を折る。


「研究もできる。」


「商売もできる。」


「レベリングもできる。」


「邪神対策もできる。」


「日本にも帰れる。」


 琴子が頷く。


「最高。」


「でしょ?」


「なら。」


 琴子が手を差し出した。


「やろう。」


 奏はその手を握る。


「うん。」


 その様子を見ていたピピが、嬉しそうに跳ねる。


「何するの?」


「お仕事。」


「お仕事?」


「うん。」


 奏が笑う。


「お金を稼ぐの。」


「お金?」


「そう。」


「何に使うの?」


「武器。」


「武器!?」


 ピピが目を丸くする。


「お姉ちゃんたち、戦うの?」


「うん。」


「強いの?」


 奏と琴子は顔を見合わせた。


「弱い。」


「今はね。」


「でも。」


 奏が拳を握る。


「強くなる。」


「レベルも上げる。」


「武器も作る。」


「仲間も増やす。」


「最後は。」


「邪神を倒す。」


「邪神?」


 ピピが首を傾げた。


 琴子は少しだけ表情を曇らせる。


「そう。」


「私たちを。」


「この世界に連れてきた存在。」


「そして。」


「私たちを弄んでいる存在。」


 奏の目から笑みが消える。


「だから。」


「絶対に。」


「倒す。」


 ピピはしばらく二人を見つめた。


 そして。


 小さな前足を握り締める。


「ボクも手伝う!」


「ピピ?」


「お姉ちゃんたち。」


「ボクの森を助けてくれた!」


「だから。」


「ボクも助ける!」


 琴子は目を瞬かせる。


「……。」


 奏が琴子を見る。


「縁結び。」


「でしょうね。」


 アイリスが反応する。


『友好関係の深化を確認。』


『ピピとの縁が強化されました。』


『新たな関係性を提案。』


 琴子が尋ねる。


「何?」


『友人。』


『協力者。』


『テイム候補。』


 琴子はピピを見る。


「テイム。」


「え?」


「私。」


 琴子は自分のステータスを確認する。


「職業。」


「テイマー。」


「そういえば。」


 奏も思い出した。


「テイマーだった。」


「忘れてた。」


「私も。」


 二人は同時にピピを見る。


 ピピは嫌な予感がしたのか、一歩下がった。


「……なに?」


「ピピ。」


 琴子がしゃがみ込む。


「私と。」


「契約してみない?」


「契約?」


「うん。」


「何するの?」


「一緒にいる。」


「ずっと?」


「嫌?」


 ピピは少し考えた。


 そして。


「お姉ちゃんたちと一緒。」


「楽しそう!」


「なら。」


「いいよ!」


 瞬間。


 琴子の身体から光が溢れた。


 緑色の光がピピを包み込む。


 魔力が流れる。


 そして。


 新たな文字が浮かび上がった。


---


【テイム契約を確認】


対象:森兎ピピ


契約成功


特殊契約を確認


【縁結び∞】の効果により、通常のテイム契約とは異なる関係性が構築されました。


契約名:


【家族】


---


「……。」


「……。」


 双子は固まった。


「家族?」


 奏が呟く。


『はい。』


「テイムじゃないの?」


『テイム契約を基礎とした家族契約です。』


「何それ。」


『世界に類例はありません。』


「また?」


『はい。』


 琴子はピピを見つめる。


「家族。」


「うん!」


 ピピは嬉しそうに琴子の胸へ飛び込んだ。


「お姉ちゃん!」


「……。」


 琴子の表情が一瞬だけ崩れる。


 普段は腹黒く、計算高い彼女が。


 ほんの少し。


 目を細めた。


「……そう。」


「家族ね。」


 奏はその表情を見ていた。


 そして。


 何も言わずに笑った。


 家族。


 その言葉は。


 二人にとって特別だった。


 両親に捨てられ。


 児童養護施設で育った。


 曾祖父に残された古民家だけが。


 二人にとっての帰る場所だった。


 血の繋がった家族は。


 奏と琴子だけ。


 だから。


 新しい家族が増える。


 それが。


 少しだけ嬉しかった。


 琴子はピピを抱き上げる。


「よろしくね。」


「うん!」


 奏も手を伸ばし。


 ピピの頭を撫でた。


「よろしく。」


「お姉ちゃんも!」


「私は妹。」


「じゃあ。」


 ピピは少し考え。


「妹お姉ちゃん!」


「なんで!?」


 奏が叫ぶ。


 琴子が吹き出した。


「ぴったりじゃないですか。」


「どこが!」


「妹なのに、お姉ちゃんみたいに世話焼くから。」


「余計なお世話!」


 久しぶりに。


 二人の笑い声が。


 異世界の商業ギルドへ響いた。


 その光景を見ながら。


 アイリスだけが静かに告げる。


『新たなパーティメンバーを確認。』


『経験値倍化ギフトの共有対象となります。』


『パーティ構成を更新。』


---


【パーティ】


カナデ Lv8 鍛冶師


コトコ Lv8 テイマー


ピピ Lv1 森兎


---


『特殊効果。』


『家族契約による経験値共有率が上昇。』


『ピピの成長速度は通常個体の三十倍以上と予測。』


 奏が目を丸くする。


「三十倍?」


『はい。』


「……。」


 琴子がピピを見る。


「ピピ。」


「なぁに?」


「明日から。」


「レベリングするよ。」


「れべりんぐ?」


「強くなる訓練。」


「やる!」


 ピピは元気よく返事をした。


 奏は腕を組む。


「まずは。」


「私たちもレベル十を目指す。」


「その後。」


「冒険者ギルド。」


「そして。」


「森で安全にレベリング。」


 琴子が頷く。


「ピピには。」


「森の安全な場所を教えてもらう。」


「薬草採取。」


「魔物の情報収集。」


「ついでに。」


 琴子は商業ギルドのカウンターを見る。


「石鹸の販売。」


「あと。」


「回復薬の試作。」


「そして。」


「資金調達。」


 奏が苦笑する。


「やること多いね。」


「当たり前です。」


 琴子は胸を張る。


「私たちは。」


「邪神を倒すんですよ?」


「そのためには。」


「お金が必要です。」


「装備が必要です。」


「情報が必要です。」


「仲間も必要です。」


 琴子は笑った。


「なら。」


「全部。」


「手に入れましょう。」


 それは。


 地球へ帰還するための戦い。


 そして。


 邪神を滅ぼすための戦い。


 その長い道のりの。


 最初の一歩だった。


 しかし。


 その日。


 双子が最初に手に入れた「仲間」は。


 小さな森兎一匹。


 だが。


 やがてその小さな存在が。


 双子を救うことになるとは。


 まだ。


 誰も知らなかった。


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