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誤召喚された双子は、異世界を丸ごとアップデートする ~鍛冶師と知識魔女の最強貿易ライフ~  作者: 此花サギリ


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第十四話 始まりの町リーフィア

 リーフィアの城壁は、遠くから見た時よりも遥かに大きかった。


 高さは十メートルほど。


 灰色の石材で築かれた堅牢な壁には、風雨に晒された年月の跡が残っている。


 門の前では荷馬車が列を作り、冒険者らしき人々が出入りしていた。


 獣耳を持つ者。


 背の低い種族。


 長い耳を持つ美しい男女。


 人間だけではない。


 まさに異世界だった。


「……本当に来たんだね。」


 奏がぽつりと呟く。


 ゲーム画面の向こうではない。


 映像でもない。


 現実として存在する異世界。


 琴子も同じように町を見上げていた。


「まずは情報収集。」


「うん。」


「次にギルド。」


「最後に宿。」


「宿?」


 奏が首を傾げる。


 琴子はにやりと笑った。


「泊まらないけど。」


「あ。」


 理解した。


 宿の相場を調べるのだ。


 市場調査である。


 アイリスが補足する。


『経済活動を行う場合、生活コストの把握は重要です。』


「その通り。」


 琴子は満足そうに頷いた。


◇◇◇


 門へ近付くと、二人の前に槍を持った門番が立ちはだかった。


 年齢は三十代ほど。


 日に焼けた肌と鍛えられた身体を持つ男性だった。


「止まれ。」


 低い声が響く。


「身分証はあるか?」


 奏と琴子は顔を見合わせた。


 当然だが持っていない。


 異世界人なのだから。


「ありません。」


 琴子が素直に答える。


 門番は怪訝そうな顔をした。


「旅人か?」


「そんなところです。」


「出身は?」


 その瞬間。


 双子は言葉に詰まった。


 日本です、とは言えない。


 サイエスの地理も知らない。


 するとアイリスが静かに助言する。


『推奨回答。』


『辺境出身の放浪者。』


 琴子は即座に採用した。


「辺境の集落出身です。」


「事情があって旅をしています。」


 完全な嘘ではない。


 辺境どころか別世界出身だが。


 門番はしばらく二人を観察する。


 しかし。


 服装が妙だった。


 この世界では見ない縫製。


 素材も珍しい。


 何より、二人から妙な気品が感じられる。


 貧しい旅人には見えなかった。


「……まぁいい。」


 門番は肩を竦める。


「リーフィアは初心者の町だ。」


「身元保証人がいない者も受け入れている。」


 双子は内心で安堵した。


「ただし。」


 門番が続ける。


「トラブルを起こしたら追放だ。」


「分かりました。」


「それと。」


 門番は視線をピピへ向ける。


「森兎か。」


「懐いてるな。」


 ピピは奏の肩に飛び乗った。


「友達!」


 門番が目を丸くする。


「喋った!?」


「喋ります。」


 琴子が即答した。


「そういう種族なので。」


「……そうなのか?」


 門番は少し困惑していたが、それ以上追及しなかった。


 リーフィアは様々な種族が集まる町だ。


 多少変わったことには慣れているのだろう。


「通っていい。」


 門番が道を開ける。


「ようこそリーフィアへ。」


◇◇◇


 門を潜った瞬間。


 双子の目の前へ町の光景が広がった。


「おお……。」


 奏が思わず声を漏らす。


 石畳の道。


 木造と石造りが混在する建物。


 露店。


 鍛冶屋。


 雑貨屋。


 食堂。


 冒険者。


 商人。


 子供たち。


 人々の活気が町全体に溢れていた。


 まるで中世ヨーロッパとファンタジーが融合したような世界だった。


「面白い。」


 奏の研究者魂が刺激される。


 建築技術。


 道具。


 衣服。


 全部が興味深い。


 一方の琴子は別方向を見ていた。


「価格。」


「うん?」


「市場価格。」


 露店の商品を観察している。


 野菜。


 果物。


 肉。


 革製品。


 日用品。


 アイリスが補助する。


『価格情報を記録しています。』


「お願い。」


 琴子の目が鋭くなる。


 証券会社で働く時の顔だ。


「この町の経済規模を調べる。」


「到着五分で?」


「重要。」


 即答だった。


◇◇◇


 しばらく歩くと、大きな建物が見えてきた。


 二階建て。


 石造り。


 入り口には剣と盾の紋章。


 冒険者らしい人々が出入りしている。


 アイリスが告げる。


『冒険者ギルドです。』


「定番。」


 奏が笑う。


「まずは登録かな。」


「その前に。」


 琴子が立ち止まる。


 視線の先には別の建物があった。


 木製看板には秤の紋章。


 商人が頻繁に出入りしている。


『商業ギルド。』


 アイリスが説明する。


 その瞬間。


 奏は嫌な予感がした。


 琴子が満面の笑みを浮かべていたからだ。


「冒険者ギルド。」


「うん。」


「後回し。」


「だと思った。」


「先に商業ギルド。」


「だと思った。」


「だって。」


 琴子は当然のように言った。


「異世界貿易の第一歩だよ?」


 奏は額を押さえた。


 目の前に冒険者ギルドがあるというのに。


 姉の頭の中は既に商売でいっぱいだった。


 しかし。


 それもまた有平琴子らしい。


「行こうか。」


「うん。」


 こうして双子が最初に足を踏み入れたのは、冒険者ギルドではなく商業ギルドだった。


 後にサイエス全土を巻き込むことになる異世界貿易商会の物語は、この小さな選択から始まることになる。


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