97◇戦後処理
97◇戦後処理
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その後、俺とリンダ軍曹は情報局に留め置かれ、地図上で国境での戦闘経緯の説明をすることになった。
そして、それまでに行ってきた夜間飛行の偵察で何をしたのかを詳しく説明させられた。
戦略解析将校が呼ばれ、魔法解析将校、機構解析将校と共に俺とリンダ軍曹がやった夜間偵察が丸裸にされる。
いや、俺としては自分で考えながら割と簡単にやっちまった結果だが、解析将校ズにとっては実に驚くべき内容みたいだった。
ちょっとした工夫を積み上げたのだが、それが思いもよらなかったブレイクスルーになっているらしい。
・空からの偵察。
・夜間飛行で地上からの発見を逃れる。
・機体の推進装置の動作音の低減工夫。
・魔法兵による魔力探知能力を距離測定と関連付けしての目視に頼らない高度測定。
・住民及び家畜登録データによる夜間の魔力分布地図作成。
・駐屯地相互伝令による兵員配置の情報共有化と魔力分布図への追記。
・魔力分布図以外の魔力集団を発見した時の、偵察ルート通過時の時間経過での特定方法。
・山岳地帯に入った場合の小動物魔力探知による安全高度保持方法。
機体については既に軍部工場での量産準備が進められているということで特に質問されなかったが、逆にこちらから夜間飛行に適する改良点を挙げておいた。
・翼面、及び機体構成部品の黒色化、防水処理。
・魔石ジェットエンジンの大口径化による噴射音静音化。
・前面からの飛来物保護及び風圧低減の風防追加。
まぁこんなものだろう。
輸送用のカーゴベイが必要なら勝手にやっちゃってください。
どうせ爆撃機も作るんだろう。
3人乗りも作っているそうだから、エンジンも4発くらいはやっているのかもしれないな。
「国境にはすぐに調査部隊を送ることにする。君の持って来てくれたこの報告書とイメージショットの魔石があると、上を納得させるのに非常に役に立つのでありがたい。これから調査部隊の持ち帰るであろう情報を元に、隣国との戦後処理が始まる。一方的に攻め込まれてこれを撃退したのだから損害賠償を請求するが、国境沿いの小競り合いレベルと言われてうやむやにされるだろうな。開戦以前に侵入されていた敵小隊の事も殲滅して着衣や装備などの証拠はあるが、これまた扱いが難しいな。開戦前に極秘裏に発見して殲滅していたので、それを前面に出すと発見された理由を問われて無警告の虐殺などと言い出しかねない。でもまぁこれだけ完璧に敵の意図を全部潰して圧勝したのだから、再度侵攻して来ることは当分無いだろうけどね。」
それはそうなんですが、300程度の損失ではまだ小手調べの段階だと思うんですよね。
次は国境を通る街道経由で侵攻して来るかと。
もうこれ、敵地の奥まで偵察飛行で侵入するしか確認する方法はないのでは?
え?
スパイは送り込んでいるのでそこら辺の情報は掴んでいるって?
でも駐屯地の官舎の中までは分からないでしょう?
あと、敵地側には入り組んだ谷間の様な地形が多々あるので今回の様な上空からでしか発見できない場合もありますよね?
というよなことを言うと、またもや中将は考え込んだ。
そこで何かアドバイスはないかと言う。
「夜間の魔力探知による偵察飛行は事前魔力分布情報と低高度飛行が必要なので、未知の敵地偵察には使えません。ならば高高度での偵察飛行しかありませんね。具体的には3000キロム以上の高度で飛行し、翼の下面には迷彩模様を描くことで発見される可能性を減らします。もちろん、望遠鏡でなら発見されるので国章や部隊マーク類は全て除去し、所属不明とします。これにより繰り返し飛んで発見されて隣国から苦情が来ても知らぬ存ぜぬで通せますね。また、イメージショットの魔石を改良して魔道具化し、機械的な操作だけで次々と撮れる様にすれば地上の連続情報が得られます。解像度も向上する様にしておけば偵察後に大勢で分担して観察することによって、隣国内のより詳しい状況が分かると思いますが。」
「それ、すぐに作ってくれ!金ならいくらでも出す!何なら今製造を開始している軍部の工場の指揮権を丸ごと君に与えてもよい。」
あちゃー、またやっちまったよ。
でもまぁスカンクワークスとして順調な進化になるのかな。
U-2の次はSR-71みたいなもんかな。
だいぶショボいけど。
俺は渋々といった表情をしながら了承した。
だんだん俺の立場がヤヴァくなってきてるな。
その内監禁でもされそうだ。
中将はその後も俺と話しながら国境へ送る調査部隊への司令書を書いていた。
情報局から50人、国軍から200人の騎馬部隊を明日の早朝から派遣させるそうだ。
距離は300km程度なので12時間もあれば着くらしい。
現地では戦死者が山の様にいるし、味方の負傷者と敵の捕虜も多数いるだろう。
生存者からの聞き取り及び尋問が情報局の役割だとのことだ。
国境付近の各駐屯地には援助要請は既に出ているだろうから、物資の援助と負傷者の治療は大丈夫だと言っていた。
司令書を書き上げた中将は俺とリンダ軍曹を引き連れて国軍統合司令部のジャック・パターソン元帥の元に行く。
相変わらず怒鳴り声のする部屋のドアをノックして入り、軍上層部を緊急招集してもらう。
10分ほどで6人くらいの幹部が集まったので中将が敵侵攻とその後の結果を発表する。
すぐに蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
元帥が怒鳴り声で皆を黙らせ、中将に続きを促す。
中将が直ちに現地調査部隊の派遣が必要だと言い、情報局の50人と合わせて国軍200人の出動許可を申請する。
元帥は即座に許可のサインを書き込み、幹部の一人に準備の指示をする。
それからは俺とリンダ軍曹の独演会みたいになってしまった。
最初に単独での偵察飛行で敵側谷間に敵兵の集結を発見したこと、その後に農民からの不審集団の目撃が多発したこと、地上部隊での探索では不審集団の発見は出来なかったこと、スカイコンドル3機での昼間の偵察飛行では何も発見出来なかったこと、俺の夜間の偵察飛行で魔力探知に優れた魔法兵による味方と農民や家畜の登録情報を元にした敵兵集団の探知をして位置を特定したこと、その位置情報に基づいて攻撃部隊を派遣して各個撃破したこと、それにより敵軍の遊撃部隊が激減して敵主力部隊と戦闘に入った時に背後からまとまった集団で襲撃されることがなくなり容易に勝利出来たことを、地図と偵察記録と共にリンダ軍曹と説明した。
「この作戦にはここにいるリンダ軍曹の功績が多大です。私一人では飛ぶことは出来ても敵を発見出来ませんでしたし、そもそも夜間飛ぶのに彼女の助け無しでは無事に帰って来ることは難しいかったと思います。」
皆の視線が一斉にリンダ軍曹に注がれる。
そうなんだよ。
最大の功績者はリンダ軍曹なんだよ。
俺は単なるタクシーの運ちゃんだし。
「リンダ軍曹、君の功績は十分評価しよう。後ほど精査して報奨や昇級があるだろう。期待してくれたまえ。」
「あ、ありがとうございます。しかし今回の主な功労者はマーティン様ではないでしょうか。私は指示に従っただけですので。」
ば、馬鹿野郎、何を言っているのだ。
せっかく元帥を焚き付けてリンダ軍曹の功績にして俺はこっそり退場しようと思ったのに。
「そうですね。マーティン君の功績こそが今回の敵軍撃退の成功に繋がった最大の要因だと思います。そもそも空を飛ぶということ自体、彼がいなかったら不可能な事でしたし。」
中将も何を言っているのかな?
ヤヴァい、全員が俺に注視している。
「ま、まぁ私はまだ学園の生徒ですので今回の事は良い勉強になりました。続きは大人の方々だけでお願い出来ませんでしょうか。」
俺がそう言うと部屋に居る大人たちはバツの悪そうな顔になった。
そうなんだよな。
俺、13歳。
学園の1年生。
まだまだ遊びたい盛りだもんねー。




