96◇戦後報告
96◇戦後報告
============================
戦いが終わり、自軍の追撃部隊が国境から引き上げたのを確認した後で帰投する。
司令官にイメージショットの魔石を渡し、見たことを報告する。
動画を撮る手段が欲しいところだな。
「私が現地上空に着いた頃には敵軍は半数が倒れていました。自軍にも損害はかなり出ていた様ですが、敵の倒れた数以下に見えました。目測で敵は約300、自軍は前回の招集内容で500だったと思います。敵の潜伏部隊は何らか合図で集結し、自軍を後ろから攻撃して混乱を引き起こして戦いを有利に進めるつもりだった様です。それが夜間偵察による潜伏地特定と襲撃によって分断されてしまった様で、まとまった攻撃が出来ずに各個少数のままで攻撃してしまい、自軍にすぐに擦り潰されてしまいました。」
「なるほどな。上空からの偵察の重要性がこれほどはっきりと証明されたことは喜ばしいことだ。君も眠いなか危険を冒して深夜飛んだ甲斐があったというものだな。」
「あのー、私民間人なんですが。しかもまだ学園の新入生なんで成人もしていないんですが。そろそろおうちに帰して欲しいかなっと。」
「まぁまぁ、君がそう言って謙遜してもその功績は消えないからね。これから戦後処理と隣国への損害賠償請求、平和条約と国交回復と色々あると思うんだよね。その中で常に君の功績が讃えられ、名が売れるのは仕方ないからね。」
うげぇー、知らぬ間にヤヴァいことになってるー。
誰かに功績を押し付けられないかな。
そうだ、情報局が盾になってくれればいいじゃん。
情報局の依頼で作って指導したんだから。
モーガン中将の全面的な功績にしてもらおう。
そんな事を思っていたら司令官に王都への伝令を頼まれた。
スカイコンドルの3機が運悪く出払っているので俺の機体しかいない。
いや、スカイコンドルにはまだ3人のメンバーが残ってるではないですか。
俺の機体を使ってもいいですから彼らに王都まで、と言ったところで実際に現地を見た者の証言をと言われて押し負ける。
まぁそうなるとは思ってましたけどね。
しかも今から飛ぶと王都に着くのは日暮れ後になり、夜間飛行の可能な君達以外に頼める人はいないと言われるとどうしようもなくなる。
はいはい、分かりましたよ。飛びますよ。その代わり、功績を思いっきりモーガン中将に押し付ける推薦文を書いて貰おうじゃないか。
俺はただ命令に従って飛んだだけっすから。
それから30分ほどして司令官が報告書とイメージショットの魔石を皮の鞄に入れて持って来た。
この鞄は伝令用の物で、使った後は君に進呈すると言われる。
軍用装備なのでちょっと嬉しい。
そんな俺を見透かす様にまたもや半分からかう様な言い回しで褒めてくる。
最後にはカッコいーとまで言いやがった。
まぁまんざらでもない俺が居たので悪い気はしなかったが。
鞄を自分の体の前側に固定し、機体に乗り込む。
後ろには夜間飛行用高性能ナビのリンダ軍曹が座る。
完全にSWのR2-D2だな。
予備の魔石も5個くらい持っているので十分だろう。
司令官に見送られて夕暮れの駐屯地を飛び立つ。
まだスカイコンドルの機体は帰っていないので途中ですれ違いになるな。
リンダ軍曹の高性能パッシブソナーがあるので、強力な魔石ジェットエンジンの発する魔力は数キロ先からでも分かるとのことだ。
これにより空中衝突は避けられると言う。
これは魔石ジェットエンジンの魔力拡散分布が吸入口2割、噴出口7割、側面全周に1割といったところで、正面から向かって来る分には割とはっきりと分かるからだ。
こんな強力な魔力がなぜ地上から探知されにくいかと言うと、前後の魔力噴出分布がかなり指向性が鋭く、角度にして20度くらいにしかならないので水平飛行している分には地上には殆ど届かない。
また、側面全周からの漏れが少ないのは魔石ジェットエンジンの筐体を構成する円筒形の金属パイプの材質による。
強力な内部圧力に耐える様にミスリルの配合割合を極限まで上げた鋼材が使われており、この金属パイプの側面に描かれた魔法陣がミスリル成分に反応することで側方からの魔力漏洩を防ぎ、後方への魔力ジェット推進能力の効率を最大化しているとのことだ。
周囲に漏れる1割の魔力は均一に拡散するので、下方に漏れて地上に届くのはその数%だから探知されにくいということらしい。
というエドモンドの講釈を思い出していた。
うーん、魔道工学は奥が深いな。
そんなエンジンなので正面からの接近は非常によく分かる。
俺でも1km先くらいから何となく分かるんだが。
でも方向までははっきりと分からないので、やはりリンダ軍曹のナビは欠かせない。
空中衝突はしたくないもんな。
まだ明るいうちは1500mに高度を上げてスロットル9割で飛ばす。
この高度なら鳥も殆どいないのでバードストライクに気を使う必要もない。
まぁリンダ軍曹が感知してくれるので万一の時にも避けられる。
たとえ頑丈なスクリーンと装甲もどきがあっても、ぶつかればそれなりに被害が出るもんな。
1時間も飛ぶと陽はとっぷりと暮れた。
高度を500m前後に落とし、速度もスロットル6割程度に落とす。
あまり速いと高度探知の口頭フィードバックが追いつかない為だ。
リンダ軍曹はコンパスで地図の方向を決め、地上の国勢データで現在位置をナビゲートする。
すんげぇ楽で快適だな。
まるで地形認識ナビと高度センサーと全周レーダーを装備したビジネスジェットみたいだ。
絶大なる安心感があるな。
前世の初期の夜間飛行可能なジェット戦闘機もそうだったなと感慨深く思う。
F-4 ファントムIIなんかが有名だな。
1960年頃から運用なんで、その後のF-16みたいにまともなコンピュータが積めなかったので後席の航法担当が必須だった様だ。
陽が暮れてから2時間ほど飛び、王都に到着した。
情報局の前の国軍練兵場に着陸する。
エンジンの噴出音を聞きつけて中将がすぐに出て来た。
「マーティン、偵察で何かあったのかね?昨日はスカイコンドルが3機とも飛来して来て何事かと思ったのに続けて君までも来るとは。」
「はい、どえらことが。隣国の集結していた部隊が国境を超えて侵攻して来ました。幸いこちらも準備万端だったので無事追い返す事が出来ました。」
あれ、中将が固まっている。
よっぽどショックだったのかな?
「現地司令官の報告書と上空からイメージショットで撮影した魔石がありますので、お部屋で待っていていただけませんか?」
俺はそう言って固まっている中将を放置し、機体を倉庫に押して行く。
歩哨に手伝ってもらって大きなドアを開け、機体を格納して保護を頼む。
ちょっとだけ倉庫の陰でリンダ軍曹とコーヒーブレイクをして中将の部屋に向かう。
さすがに中将は自室に帰った様で練兵場にはもう居なかった。
「マーティン・ランバートとリンダ軍曹、報告に参りました。」
ノックの後で中将の部屋に入り、リンダ軍曹が敬礼する。
俺は民間人なんで敬礼はしないぞ。
中将が椅子に座る様に促してきたのでリンダ軍曹と並んで座る。
対面に中将が座り、口を開く。
「もう一度聞くが、先ほどは何だって?」
「隣国の、集結していた300人規模の部隊が、越境して侵攻して来ました。」
もう説明するのが面倒になったので、伝令鞄から現地司令官の報告書とイメージショットの魔石を取り出して中将に渡す。
まだショック状態から抜け出していない様に見える中将は報告書を読んでいる内に正気に戻った。
最後まで読み、イメージショットの魔石を番号の順番にこめかみに押し当てている。
24組の魔石を見終わってしばらく沈黙していた中将は、ようやくほっとした様な表情に戻ってこちらを向く。
「大変にご苦労だったね。君のおかげで我が国の安全は守られた。国民全員に成り代わってお礼を言う。」
「いえいえ、私は情報局、いえ中将の意向に従って行動しただけです。賞賛は全て中将が受けていただくと非常に助かります。」
お前は何を言っているのだ?という様な表情はやめてもらってもいいですか?
ホントに要らないですので。
今以上に俺の名前が出てしまうと自由に行動出来なくなってしまいますし。
報酬は今後の魔道エアクラフト量産の権利料で十分ですって。
それ以上貰っても使い切れるもんでは無いですし。
何より名前が出ちゃうと敵対国家からの誘拐にも気を付けないとならなくなりますし。
っと言う様な意味合いの事を中将の反論を封じながら懇切丁寧に説明した。
誘拐のことまで言うとやっと中将は引いてくれた。
やはり誘拐される危険性とのバランスを見てヤヴァいと思ったんだろなー。
俺は自由に生きたいんだよ。




