91◇夜間飛行
91◇夜間飛行
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さて、夜間飛行に備えて寝ておくことにする。
機体は倉庫に入れさせて貰い、魔石の魔力は補充済みだ。
どっちか言うと俺とリンダ軍曹の魔力回復の意味が大きい。
あと、さすがに深夜飛ぶので単純に寝不足防止だな。
そういう理由は司令官には伝えてあった。
「司令官、私達は深夜1時くらいから飛ぼうと思います。夕食を頂いたら仮眠を取らせていただきたいのですが、寝る場所はありますでしょうか?」
「うむ、それなら医務室のベッドを用意しよう。軍医も常駐しているので簡単な健康診断もしてもらいたまえ。」
「ありがとうございます。簡単な指示書を書いていただくことはできませんでしょうか。」
「そうだな、私の指示なら誰にも邪魔はされまいしな。」
司令官は司令書に医務室のベッドを2人分用意し、深夜1時まで仮眠を取らせることを書いてサインして部下に伝令を命じる。
俺にも同じ内容の司令書を書いて手渡し、これを軍医に見せて仮眠を取るように言った。
これで兵士達の好奇心に邪魔されずにぐっすり仮眠を取れるな。
今はまだ昼過ぎなので司令官と参謀、兵長の3人に今回の偵察について詳しく説明する。
情報局で国勢データを書き込んである地図を見せ、人、家畜、野生動物、小型の爬虫類や虫などの魔力を探知すると言う。
これで真っ暗な夜間でも空と地表までの距離が分かるし、地図の魔力分布を識別マーク代わりに地名が分かると言うと驚いていた。
まぁこれはリンダ軍曹の精密魔力探知能力があってこそのものなので、俺はその指示に沿って飛ばすだけだが。
今現在の敵勢力の侵攻状態を知るにはまず味方の兵力分布を知る必要がある。
国境沿いの各駐屯地は毎日伝令を交わしているそうだが、未だに敵と遭遇したことは無いらしい。
ならばどうやって敵の侵攻を知ったかと言うと農民からのタレコミである。
見知らぬ兵装を纏った20人くらいのグループを見たという報告が10箇所くらいから上がっていたのだ。
しかし隠密行動に慣れている様で、報告を受けた警備隊が駆けつけても一度も発見に至ったことが無いので軍部も焦っていた。
そこで今回の俺の出番である。
一種のステルス兵器なので、敵に見つからない様にして敵を見つけるのである。
正に「U-2」だな。
高度は低いけど。
現状の味方の配置と人数が分かったので、それを国勢データに追加して書き込む。
かなり分かりやすい配置なので記号みたいに見えるな。
これを基に偵察ルートを決める。
高度500mからリンダ軍曹が感知出来るのは幅400mくらいである。
それも精度良く感知出来るのは幅300mくらいなので、それくらいの幅でローラー作戦をする必要があるな。
前世の航空写真を撮る時と同じ飛行パターンだ。
色々打ち合わせをしていたら夕食どきになったので兵員食堂でいただく。
俺達は将校扱いでちょっとだけ良いメニューにしてもらえた。
まぁ駐屯地の軍食なので豪華とはいかないが。
食後は医務室に行き、軍医に指示書を見せるとすぐにベッドを用意してくれた。
リンダ軍曹と隣のベッドだったが、まぁ俺は13歳だもんな。
全く気にもされずに寝ていたな。
予め当直の軍医に深夜12時くらいに起こしてもらえる様に頼んでおいたので、肩を揺すって起こされる。
リンダ軍曹も起こされ、支度をして倉庫に行く。
倉庫前には当直の歩哨が立っていたので挨拶をし、ドアを開けてもらう。
俺とリンダ軍曹で機体を押して練兵場に出し、中央付近の風下に移動する。
装備を身に付け、ヘルメットを被って乗り込み、見送りに来ていた司令官に敬礼して発進する。
推力6割でゆっくりと離陸し、一旦高度500mにする。
昼間に決めた偵察ルートの初っ端の位置にナビしてもらいながら移動する。
勿論、魔石ジェットエンジンのノズル径は最大に設定し、魔石をガンガン焚いてゆっくり飛ぶ。
燃費がかなり悪くなるが、噴射音が激減するのだ。
リンダ軍曹は暗闇でも地図はちゃんと見えるらしい。
なんでも地図の紙に蛍光魔法を掛け、それに対応した感度向上の魔法を目に掛けると殆ど真っ暗でも鮮明に見えるのだとか。
夜間戦闘での魔法兵の基本技能らしいので頼もしいかぎりだ。
偵察ルートは幅300mで長さ10kmを1本とし、これを僅かにオーバラップしながらローラーする。
端部で少し大回りしてUターンし、ナビに従ってルートに乗せる。
リンダ軍曹は地表の魔力分布をしっかり覚えている様で、全く迷いもなく的確に指示してくれる。
時速60kmくらいで飛んでいるので1本に10分かかり、4時間飛んでも幅7.2kmしか調査出来ない。
まぁこれは予め分かっていたことなので仕方ないことである。
その日は1ヶ所だけ不審点を発見出来た。
4時間飛んで僅かに夜が明けかけたので帰投する。
続きは明日だな。
発見次第ではかなり延長されるかもしれない。
出発地点に帰投し、倉庫に格納して司令官に報告する。
リンダ軍曹が国勢データ地図を広げ、新たに書き込んだ地点を説明する。
そこは標高100mにも満たない雑木林の小山だった。
農民より少し高い魔力の点が20個くらい感じ取れたとのことだった。
兵士は鍛錬しているので魔力平均は一般人よりも高い傾向にある。
正に敵の侵攻部隊の潜んでいるポイントであった。
夜明けと共に駐屯地は慌ただしくなる。
伝令が近くの駐屯地に飛び、応援を求める。
同時に退路を断つために地理に明るい斥候兵が数人の弓兵を率いて逃亡ルートを全て潰す。
主力部隊の50人がフル武装して騎乗し、出発した。
現地まではここから5kmくらいなのですぐに着くだろう。
俺とリンダ軍曹も伝令兵の後ろに乗せられて同行した。
俺は実際の隠れている状況を見てみたかったし、リンダ軍曹は魔力探知で確定する為だ。
現地に到着すると、リンダ軍曹が指揮官に雑木林の中に20人前後居ると報告する。
それを聞いて指揮官はまず降伏勧告をした。
無駄な戦闘を避けるための手法だが、敵地潜入部隊は見つかると基本死刑なのであまり意味がない。
そして、ある程度の精鋭が送り込まれているので降伏することもまず無い。
30分ほど降伏勧告を続けたが、敵兵はまさか上空から見つかっているとは思っておらず、当てずっぽうに言っているだけだと判断していた様だ。
敵の居ないふりに痺れを切らした指揮官は雑木林に火矢を掛けることにした。
リンダ軍曹の探知により小山の南側に集中して居ることも分かっているので、その少し北側にまとまった火矢をかけて燻りだす。
季節柄乾燥していた雑木林の倒木や下草に引火し、瞬く間に延焼した。
敵兵は堪らず平地に逃げ出し、ある程度進んだ所で窪地に待ち構えていた自軍の兵と戦闘になる。
敵の方が若干戦闘慣れしていたが、自軍の弓兵と魔法兵の同時攻撃であえなく全滅した。
数人残して自白をさせようと魔法兵が捕縛魔法を使ったが、逃げられないと悟った敵兵は全員自害したので敵の情報は得られなかった。
20人程度なので敵死体は全て後から来た荷車に積み、駐屯地に持ち帰って身ぐるみ剥いで死体は焼却処分にする。
敵の衣類や装備は丹念に調べて情報源とする。
まぁこんな部隊は全滅も想定しているので大した情報は得られなかったみたいだが。




