89◇コンパス
89◇コンパス
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さて、中将は夜間飛んでそのまま偵察に入って欲しそうだったが、さすがに国境までの距離を飛ぶのは無理である。
途中でトラブった場合は着陸しないとならないし、その為には上空から着陸可能な平地を探す必要がある。
魔力探知はできるが、地面探知ではないので夜間の平地なんぞ分からない。
ライトの魔法で照らせばある程度は分かるが、有効範囲が狭いので探す用途にはとてもじゃないが使えない。
偉い人にはそれがわからんのです。
とまぁ論理立てて説明し、中将の理解も得たところで馬車を用意してもらってデビッドと叔父宅まで帰る。
さすがに真っ暗なので学園まで飛ぶのは無理だし。
叔父は帰って来た俺たちに労いの言葉をかけてくれるが、先ほどの情報局での出来事を話すと呆れた様な顔をした。
「マーティン、君はどこまで突っ走るんだろうね。君は自分が13歳で王都学園の新入生だということを完全に忘れているな。まぁ兄上の件もあるから私がどうこう言える段階では無いのは分かるが、無理だけはしないでくれよ。」
「はい、叔父上。私も情報局の事はやりたくてやっているんではないので、さっさと後継を育てて隠居したいんですがね。どれもこれも私が関わらないと進まない話ばかりなのでどうにもならないんですよ。」
俺一人でも趣味的な進め方ならいいんだよ。
だけどマスプロダクションになっちゃうとそうはいかないんで、大人の専門家のブレインが必要になる。
幸い人には恵まれているみたいで、ランバート領でもスカンクワークスでも相談相手には事欠かないのはラッキーだな。
でも、そんな彼らですら現代日本知識チートの俺のやろうとする事には後追いしか出来ない。
まぁこれはそもそも無理な話なんで、じっくり育てていくしかないんだろうな。
叔父家族と夕食を共にし、ランバート領のことを話す。
情報局の事はたぶん軍機だから叔父以外には話さない様にした。
叔母は俺の体のことを心配してくれたが、全く元気なのでもりもり食べて心配無用とアピールした。
次の日の朝は少し早めに起き、調理場で軽い物を作ってもらってデビッドとザンドと食べる。
叔父に挨拶をしてザンドがが御者をする俺専用馬車でデビッドと共に情報局に行く。
「おはよう。昨日は十分寝られたかな?魔力は十分回復していると思うんで、今日はよろしく頼むよ。それと今回はこれを渡しておこう。」
中将はポケットから丸い円盤状の物を取り出した。
以前もらった懐中時計かなと思ったら、何と方位磁石であった。
「これは軍部でもまだ配備し始めたばっかりの「コンパス」という物だよ。ここに東と西と書かれているだろう。これを地図の東と西に当てはめると自分の進んでいる方向が分かるというものだ。使ったことはあるかね?」
なんだ、軍なら持ってて当然だよな。
もっと早く聞けば良かった。
とすると、今まで俺たちが迷わず国境まで飛んでいた事はどう思われてるのかな?
まぁ太陽の向きと懐中時計の短針で大体の方角は分かるからそれで飛んでいた事にしよう。
「ありがとうございます。これがあると夜間でも方角が分かるので助かります。日中なら太陽の向きで大体分かるんですが、夜間はどうしようかと思っていたところです。」
「うむ。そのコンパスは君に進呈するので活用してくれたまえ。リンダ軍曹にも昨日渡して教えたからこれの使い方は問題ないな?」
「はい、問題ありません。ご教示いただいた事は完全に理解致しました。」
コンパスを受け取り、ポケットに入れる。
「念の為、情報局発行の指令書も渡しておこう。リンダ軍曹はともかく、君は民間人だしね。」
「ありがとうございます。これでどこに行っても怪しまれずに済みます。」
まぁ前回全ての駐屯地を回ったのでそんなに心配はしてないが、やはりお墨付きは心強い。
倉庫に行くと、デビッドが機体の確認をしてくれていた。
魔石の魔力残量も昨日補充したほぼ満タンのままであることを確認した。
2人で機体を押し出し、発進準備をする。
おっと、魔道銃を下さないとな。
「出発の前にちょっと荷下ろしをしてもよろしいでしょうか。実は昨日お渡しした委任状に記載された実物を持って帰っているんですよ。8本ありますので、試供品として使ってみていただけますでしょうか。取り扱いは私の護衛のザンドとデビッドが十分ご説明出来ますのでお申し付けください。」
サイドボックスを開けて、デビッドに手伝ってもらって古毛布に包まれた魔道銃8丁と弾薬類を取り出して見せる。
「あい分かった。情報局の技術士官に引き合わせよう。君の護衛2人には情報局で宿泊してもらう様にするので安心したまえ。」
「よろしくお願いします。少し大きな音がするので街外れの方の広い練兵場でお願いできますでしょうか。」
「それは弓矢と比べてみろと言うことだな。承知した。その旨伝えておこう。」
よし、これで魔道銃の広報を押し付けられたぞ。
ザンドとデビッドなら銃器の扱いも慣れているし、安全教育も十分だから事故も起きまい。
「では偵察をよろしく頼むぞ。」
「承知しました。行ってきます。」
「了解しました。マーティン・ランバート様のご指示に従います。」
俺とリンダ軍曹は装備を身に付け、ヘルメットを被って搭乗した。
ヘルメットはデビッド用の物なので少し大きいが、帽子を被った上からヘルメットを被ってちょうど良い感じになっていた。
腕には地図を円筒状にして両腕に巻き付け、コンパスも短い紐で腕に括っている。
今日は一旦国境近くの東部第一中隊に行き、情勢を教えてもらおう。
先日確認した敵集結地は東北部第二中隊が一番近いが、既に陥落している可能性があるので後回しだ。
「では発進します。」
俺は大声で叫んで機体の周囲から退いてもらい、風下にタキシングして行って風上に向きを変える。
スロットルを8割くらいに抑えて発進するが、機体が軽いので20m足らずで離陸した。
今回はキャーは聞こえなかった。
高度を一気に1000mまで上げ、水平飛行に移る。
後ろを見てみると唇をギュッと引き締めて目を瞑っているリンダ軍曹が居た。
今回は気絶しなかったみたいだが、なまじ外がはっきりと見えるので怖いらしい。
まぁ2時間ちょっと飛ぶ間に慣れてもらおう。




