88◇緊急招集
88◇緊急招集
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「ただいま。ご機嫌だね。何かいい事あったの?」
「これはこれは代表どの。お帰りなさいませ。ちょっと国境がヤバい事になっていそうですんで、今のうちに飲んでおこうかと。」
「え、どういうこと?隣国が攻めて来たの?」
「まさにそのとおりで。今日の昼頃情報局から伝令があって、隣国が国境を越えて進軍して来たらしいんで。そこで俺たちに複座1号機も貸してくれと依頼と言うか、命令みたいな感じで来たんだ。俺が大将は1号機で里帰り中でっせと言うと諦めて帰って行ったんよ。」
「うん。それは情報局の飛行許可を取ってあるから文句の言いようもないね。それで、僕らが帰って来たらどうしろとか言われてないの?」
「そう言えば大将宛に手紙を預かってるんで、これ。」
俺はエドモンドから封書を受け取り封印を切る。
中身は情報局のモーガン中将からだった。
内容は、
東の国境をサタナイト王国軍が越境して侵攻して来た。
こちらの3機の偵察では不十分なため、マーティン・ランバートに応援を要請したい。
帰投されたら至急情報局前の着陸出来る場所に飛来されたし。
だそうだ。
俺とデビッドは装備はそのままで魔石の魔力を補充し、準備を進める。
魔道銃はサイドボックスに入れたままにし、デビッドに渡した89式を俺のストレージに仕舞う。
エドモンドからスペアの魔石を10個ほど受け取り、鞄に放り込んで機体に乗り込む。
地上の2人に合図し、すぐに飛び立った。
まだ日は残っているので有視界飛行は出来る。
これが夜間になると文明の未発達のこの世界では少し街を外れただけで真っ暗になり、方角はおろか高度すら分からなくなる。
もちろん、着陸場所にも照明が無いと降りるのは無謀以外の何物でもなくなる。
たぶんここら辺がスカイコンドルの弱点なんだろな。
数分飛ぶと王城が見えて来たのでいつものルートで降下して着陸する。
すると中将が建物から飛び出して来てベルトを外したばかりの俺の腕を掴んで引きずって行く。
デビッドも慌てて着いてくる。
「待っていたんだぞ!手紙にも書いたが、東の連中が越境しやがった。しかも分散して潜んでいるらしく、位置が全く分からないんだ。これ、何とかならないか?」
「落ち着いてください。まずは状況をもっと詳しく教えてもらえませんでしょうか。」
「ああ、すまない。スカイコンドルの連中があまりにも使えないんで少々焦っていた。地図を広げる。」
中将の部屋に入った俺たちは東の国境の情勢が書き込まれた地図を見る。
隣国の越境ポイントと侵攻予想図はあるが、敵の勢力の記載が無い。
これでは防御戦術の立てようが無いではないか。
「これから飛ぶとなると夜間飛行になります。ライトの魔法で照明すればある程度は見えますが、高度を保つのが難しくなりますね。それにライトの魔法を敵に見られると弓矢を射かけられて落とされる危険性もあります。どう考えても夜間飛行は無理だと思うんですが。」
「こちらの魔法兵を付けよう。魔力感知に優れた者が居るので、0.5キロム離れた所に居るウサギ程度なら感知可能だ。高度は魔法兵を同乗させて地面の野生動物の存在を確認しながら誘導すれば照明無しでも高度を保てると思うがどうだろう。」
「0.5キロム程度の高度ならエンジンの出力を抑えてゆっくり飛べば地上にまでは噴射音は聞こえないと思いますので、とりあえずそれでやってみましょうか。ただ、偵察ルートが問題です。目視確認無しで地上の目印を確認する必要がありますので、魔力の多い場所を目安にするしかありません。駐屯地は兵士の魔力が多数あるので分かりやすいですが、それ以外はどうするか。」
「それでは農民の分布情報を利用しよう。集落毎の人数と、家畜の頭数の集計表がある。これを地図に書き込めば目印にならないか?夜間なら農民も家畜も全て屋内に居るだろうから、まとまった塊の魔力として見られると思うんだが。」
「それ、いいですね。早速ここから国境までの地図に書き込んでもらえませんでしょうか。」
「あい分かった。魔法兵と戸籍情報担当を呼んで早速作らせよう。ここでしばらく待ってくれないか。」
「それでしたら私もちょっとお願い事が。実は私の故郷のランバート領では最近開発した弓矢に代わる強力な飛び道具を作っていまして、これを軍部の方で試してもらいたいんですよ。まず情報局で試していただいて、その結果を軍部の上の方に通していただくというのはどうでしょうか。あ、これが父からの委任状です。この件は私に一任されてまして。」
「うむ、毎度毎度驚かされるな、君には。自領でも既にやっていたのか。その話は後で聞こう。今は先ほどの地図が先だ。」
しまった、ちょっと早まったか。
まぁ父上の委任状も渡したから内容を読めば重要度は分かってくれるだろう。
それから1時間ほどして中将が2人の兵士を連れて戻って来た。
「待たせたな。魔力分布を書き込んだ地図が出来た。それとここに居る2人は先ほど言った魔力感知に優れた魔法兵だ。自己紹介を。」
「はい、自分は第3魔法科連隊所属のナターシャ・テレシコワと申します。階級は伍長です。」
「自分は第2魔法科連隊所属のリンダ・ハートマンです。階級は軍曹です。」
なんと、両方とも女子中学生くらいに見える背の低い女の子だ。
髪はおかっぱくらいに短くして魔法陣の描かれた帽子を被っているので文化祭のコスプレみたいだな。
まぁ成人しているだろうから16歳以上だとは思うが。
「この2人が魔法兵の中でも優秀な者達だ。どちらか1人を連れて行って使ってくれないか。」
「分かりました。ちょっと試してみたいので、今から私と一緒に飛んでもいいですか?」
「勿論だ。まだぎりぎり日が暮れていないので試すには問題ないだろう。」
そういうことで、俺と2人の中学生コスプレイヤーは情報局を出て複座1号機の降りた広場に行く。
勿論、中将とデビッドも付いて来る。
「さて、リンダさん、ナターシャさん、私はマーティン・ランバートという者で、この空飛ぶ装置の発案者です。今からお二人を順番にこれに乗せて上空から地上の生き物の魔力を探知してもらいます。具体的には魔力の強さと距離ですね。私が知りたいのは飛んでいる高度と方向なので、探知された魔力源までの距離と方向を正確に教えて欲しいんですよ。質問があればどうぞ。」
「では私から。探知する魔力源は人と牛などの家畜だけでよろしいのでしょうか。」
「そうですね。集落などは人も家畜も複数居ますので、その個々の魔力強度を平均化すれば感知した魔力でそこまでのおおよその距離は分かりますよね?でも集落の無い平地や山岳地帯を飛ぶ場合は一番多数居るであろうウサギかキツネ、ヤギなどの野生動物の魔力を探知してそこまでの距離を判断する必要があります。勿論ばらつきはありますので、それを考慮に入れた判断力も必要になります。」
2人は難しい顔をしている。
俺が言っている事は理解している様だが、やった事が無いので自信が持てないのだろう。
まぁぶっちゃけ俺も自信が無いので一緒だ。
「とりあえず一緒に飛んでみてから判断してみてください。どちらから?」
「では階級が上の私から。」
で、リンダ軍曹が俺の後ろの席に座る。
サイドボックスの魔道銃8丁は入れたままだが、リンダ軍曹が軽そうなので問題あるまい。
デビッドがリンダ軍曹のベルトを締め、ヘルメットを被らせる。
タキシングして向きを変え、スロットル全開にして一気に上昇する。
後ろでキャーという声が聞こえるがとりあえず無視し高度を1000mまで上げる。
何回も飛んでいるので地上さえ見られれば目測で大体の高度は分かるな。
水平飛行に移り、スロットルを3割程度まで落としてゆっくりと旋回を始める。
後ろを振り向くと頭がガックリと垂れていた。
気絶したみたいだが、ヘルメットを数回こづくと目を覚ました。
「あれ、あれ、私どうしちゃったんですか?」
「下を見て。」
「キャー」
でまた気を失った。
もう一回ヘルメットをこづいて起こし、下を見ずに俺の後ろ頭を凝視しろと言う。
ようやくまともに話ができる様になった。
「ひょっとして、高所恐怖症?」
「いえ、あ、ちょっとだけあります。でももう慣れました。ご指示をお願いします。」
ここら辺はさすがに現役兵だな。
恐怖の制御方法は叩き込まれているのだろう。
魔力感知の邪魔になるので一旦魔石ジェットエンジンは停止させる。
滑空状態で徐々に高度は下がるが、ある程度重量があるのですぐには失速はしない。
「では、地上の人間の魔力は探知出来るよね。そしたらそれのおおよその平均値を見出して、その魔力感知強度からそこまでの距離を言って欲しいんだ。」
「はい、少々お待ちください。ん、あー、ちょっと人が多すぎて難しいですね。もう少し人の少ない方向に行けますでしょうか。」
なるほど。
人大杉で魔力感知が飽和しちゃってるんだな。
俺自身の感じる魔力の傾向もそうだし。
何か下の方にごちゃっとした魔力の塊があることは俺にも分かるが、距離までは分からないんで自力飛行は無理なんだよ。
「では少し街を離れて住宅地の方に行きます。貴族街なので人口密度はある程度低いかと。」
エンジンを再起動し、高度を戻して貴族街の方に飛ぶ。
魔石ジェットエンジンは起動停止が瞬時だから非常に便利だ。
その代わり魔力ノイズが酷いので魔力感知と同時には使えない。
電動モーターのブラシが発する火花みたいなもんだな。
ラジオを聴いている側で電動工具を使うと酷い雑音が聞こえるのと似てるな。
そのうちノイズ対策をしよう。
上位貴族の上空を飛ぶとクレームが来そうなので下級貴族の集まったエリアに行く。
再度エンジンを停止してゆっくり飛ぶと、リンダ軍曹はなんとなく分かるがちょっと自信が持てないと言う。
それならばと高度を500m付近まで落とすとはっきりと分かると言い出した。
かなり日は落ちているが、まだ建物の輪郭は分かるし、ポツポツ点きだした街灯の間隔でも分かる。
この高度を覚えて暫く周回しているとかなり正確な表現をしてくれる様になった。
とりあえずリンダ軍曹はこれで使えるな。
一旦情報局の前に戻り、今度はナターシャ伍長を乗せて飛ぶ。
ナターシャ伍長は全く動じずに的確に受け答えしている。
下級貴族街の上空で同じ様に飛んで報告させる。
しかし、リンダ軍曹と同じ内容の報告をさせるには300mくらいまで降下しないとならなかった。
この差は大きい。
ナターシャ伍長の落ち着きは捨て難いが、魔力感度でリンダ軍曹だな。
2人のテストを終えて中将に結果を報告する。
具体的な数値として500mと300mの差は大きいのでリンダ軍曹に同行して欲しいと言うと了承された。
ナターシャ伍長も訓練次第では有用だと言い、先ほどの様な訓練をして欲しいと伝えるとやる気を見せていた。
「さて、日もとっぷりと暮れたことなので、今日のところは一旦帰らせてもらいます。何せ今日の午前中は500キロムも飛んだんで魔力の余裕がもう無いんですよ。明日の朝の早いうちから飛びますのでそれでご勘弁を。」
俺がそう言うと中将も無理は言えなくて頷く。
リンダ軍曹もちょっとホッとした表情をしているな。
いきなり最前線の偵察なんて気が重いだろうし。




