87◇王都帰還
87◇王都帰還
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昨晩は1500発の5.56mm弾を余裕で召喚と言ったがあれは嘘だ。
5時間の飛行で思ったよりも魔力を消費していたみたいで、1500発召喚した直後に気絶した。
幸いメイドの一人が見つけてくれたみたいで、朝起きるとちゃんと着替えてベッドに寝ていた。
足元に散らばっていたはずの5.56mm実包入り紙箱もきちんと整えてテーブルの上に置いてある。
しばらくするとメイドが呼びに来たので着替えて朝食に行く。
「おはようございます。昨日はお騒がせしましたね。」
「おはよう、マーティン。しばらく見ないうちにだいぶたくましくなった様ね。身長も少し伸びたんじゃぁないの?」
「母上、たったの3ヵ月ですのでそれほど変化は無いと思うんですが。」
「いや、確かに変わったぞ。何というか、風格が出たと言うか、自信が溢れていると言うか。王都学園でも色々やっているのではないか?」
鋭い、父上。
昨日はしゃべっていなかったことを報告しよう。
「昨日は魔道銃を最優先で色々やってしまいましたが、空を飛ぶ方も色々ありまして。最初は私の趣味の様な感じで飛んでいたのですが、元軍部の教頭から情報局の偉いさんに伝わって結構大事になっています。それで情報局の依頼で2人乗りの機体を量産し、現在国境偵察部隊として活動しています。」
「そこまで行っているのか。確かに大事だな。お前の立場はどうなっている?」
「はい、私の肩書きは「魔道エアクラフト開発部」の代表となっています。情報局がスポンサーとなって出資し、学園が設備と人的資源を提供してくれています。乗ってきた機体と同じ物を私の所であともう3機作り、その後は技術者派遣で軍の生産拠点で量産を開始することになっています。」
「なんだ、もう完全に一人前ではないか。まだ13歳だから王国法で就学しないとならないとなっているだけで、実質独り立ちしているのと同じだな。」
「はい、軍部が関わっていることから私の身分も保証されています。この王都学園発行の身分証明書も軍部でそのまま通用しますし。」
俺はスカンクワークスの身分証を見せながら、その後の構想も話す。
とりあえずきっかけは軍用機だったが、これを民間輸送用として広く普及させたいと思っていること。
操縦できない人にも乗ってもらう為に空飛ぶ馬車の様な物も考えていること。
今の都市間の駅馬車の様に、公共交通機関としての役割も考えていると話す。
安全面でも空中衝突を避ける為に飛行ルールを決め、それを厳格に運用するための組織も作ることなども語った。
ちょっと飛ばしすぎた様で皆ポカーンとしているが、まぁ俺の前世も辿った道だ。
その内自然に使える様になるさ。
朝食後に父親の執務室に行き、魔道銃の国軍への採用を打診したいと言う。
隣国との国境問題に備えておきたいというのもあるし、魔の森近傍の駐屯地への対魔獣武器としての利用もある。
89式や9mm拳銃、バレットM95は俺しか出せないので産業にはならないし、何より威力が強すぎて国のバランスを崩しかねない。
魔道銃がランバート領の特産になればかなりの売り上げになるし、発火魔石の産出もほぼランバート領で独占出来るので、定期的な収入源にもなる。
魔道エアクラフトで軍部との良い関わり合いが出来たことで、魔道銃の生産をいきなり取り上げられることも無いだろうと言う。
何せ今の魔道銃は俺の観点からすれば未完成品で、これから更に高性能になる余地があるのだ。
今の時点で取り上げられても、その改良版で巻き返すことは可能とも言う。
まぁこの世界の技術で89式まで到達することはないだろうが。
父親はもはや俺に言うことは無いとばかりに、魔道銃の売り込みは全面的に委任してくれた。
領主としての委任状も書いてくれる。
ちょっと着いていけなくなって放棄した様な雰囲気もあるな。
好きにやらせてもらおう。
その後はハンスの所に行き、発火魔石に混入する材質について相談する。
やはり木炭だとスラッジが多すぎて使い辛いしな。
「ハンス、昨日魔道銃を100発撃って実感したと思うんだけど、やはり銃身内に溜まる木炭の燃えカスが邪魔だよね。」
「そうですね、20発程度毎に掃除をしないと次の弾が込められない程になるのは明らかに問題ですね。私もこれはずっと思っていまして、木炭に代わる材質を探しているんですよ。今のところ発火の安定性で木炭を超える物はまだ見つかっていませんが、まだ調べていない物質も結構あるので調査は継続したいと思います。」
うん、分かってくれている様で何よりだ。
スラッジが減らないことにはライフリング付きや後装銃は難しいもんな。
あと、銃身の製造方法についても一考する必要がある。
今現在は芯金に巻きつけて鍛造しているが、これでは口径に微妙なばらつきが出て後装銃を作る時の実包の汎用性に難が出る。
仕上げとして銃身内面の精密切削工具を作る必要もあるな。
ライフリングを切るなら元よりだ。
だが、今はまだ原始的な火縄銃もどきの時代なので、何十年後かの俺の後継者に任せることになるかもしれないな。
ハンスとあれこれ相談しているとあっという間に昼になった。
俺は家族と昼食を摂り、昼からすぐに王都に向けて発つと言う。
相変わらず妹は愛想がないが、行ってらっしゃいませは言ってくれた。
父親と母親に別れの挨拶をし、デビッドと共にマークが御者をする護衛用の馬車に乗って練兵場まで行く。
練兵場では前日に予め言っておいたので、馬車が到着するとすぐに倉庫の扉を開けてくれた。
護衛用の馬車にはマークの指示で積まれていた8丁の魔道銃と弾薬があり、それを機体のサイドボックスに4丁ずつに振り分けて積む。
結構重いが、まぁ大丈夫だろう。
装備を身に付け、ヘルメットを被る。
胸ポケットには耳栓を入れてある。
帰りは少し魔の森から離れたルートを通る様にデビッドと打ち合わせていたので、キラーバードの様な大物の飛ぶ生物に会うこともないだろうが、いざと言うときは俺が89式を召喚してデビッドに撃ってもらう。
その時に素早く耳栓を装着できるようにの準備だな。
離陸準備が出来たので兵長に挨拶をして周囲からどいてもらう。
ゆっくりとコントローラーに魔力を流してタキシングし、練兵場の広場の風下の端に行く。
右手を上げて手を振り、スロットル全開にする。
ちょっと重たくなっているので30mほど滑走して離陸した。
高度を100mくらいに保ってスロットルを緩め、領内上空を周回する。
昨日の今日で町中の噂になっていたらしく、ジェットのゴーという排気音を聞きつけて領民がワラワラと建物から出てくる。
デビッドがそれに手を振り、俺は機体を左右に揺する。
最後に領主屋敷の上空に行って小さい直径で3回回る。
眼下には父母と妹、執事やメイドが見上げているのが見えたので手を振って機体を2回バンクさせ、そのままスロットルを全開にして高度を一気に1000mまで上げる。
やー、久しぶりのランバート領は懐かしく感じてしまう。
俺がこちらに転生して1年しか過ごしていないが、かなりの事があったのでもはや完全に自分の故郷という認識になっている。
やはり人と人との繋がりが大きな影響を与えてくれたんだろうな。
帰りは魔の森から距離を取ったので、地上の目印になる物が少ない。
それでも方位磁石があるので方向の間違いは無いので安心して飛べる。
しばらく飛ぶと領兵の駐屯地が見えてくる。
小規模なので練兵場も小さく、着陸は無理だ。
だが、領内の軍事拠点なので地図には必ず記載されているので目印にはちょうど良い。
スロットル6割で巡航し、2時間過ぎるとローバー領都が見えてくる。
少し高度を上げて見つかりにくいようにして通過し、行きに土魔法で均した川の三角州を探す。
少し魔の森に近づく事になるが、これからの平地にあれほど適した場所が見つからない可能性もあるので多少の危険性は仕方がない。
川に沿って飛ぶとあの三角州が見つかる。
ゆっくり旋回しながら高度を落として近づくと、何か動物がいた。
デビッドが双眼鏡で見て野生のヤギだと言う。
着陸時に衝突するとまずいので低空飛行をして近づき、真上で一気に全開にする。
大きな排気音に驚いたヤギは飛び跳ねるように川を渡って藪の方に消えて行った。
邪魔者が消えた三角州飛行場に着陸する。
昨日、土魔法で均しておいたので非常にスムーズに滑走できた。
行きと同じ様に魔石のでエンジンの魔力を補充し、行きと全く同じメニューで食事を摂る。
3時のおやつなんだが、デビッドはフルコースを要求してきた。
よっぽど食いたいんだろうな。
飛行準備をしていると、デビッドが89式を出してくれと言う。
まぁ魔道銃を8丁積む関係で置き去りにしたことは理解しているが、やはり行きの事もあってすぐに撃てる様に持っておきたいとのことだ。
実は俺も少し不安に思っていたので、89式小銃と5.56mm弾200発と30連マガジン2本を出して渡す。
早速実包を全部のマガジンに詰め込んで30連を89式に叩き込む。
実際にはソロっとやっていたが。
デビッドに薬室には装填しない様に注意し、機体に乗り込む。
行きも帰りも俺が操縦だが、面倒なナビをしたくないだけとも言う。
まぁ地図を見るのは軍事的訓練を受けたデビッドの方が適任だし。
あと、前世のバイクツーリングと同じで、2人乗りする場合は操縦する方が圧倒的に楽だし。
後席は自分の意思に反して揺すられるので結構疲れるのだ。
三角州滑走路をスムーズに離陸し、順調に距離を稼ぐ。
王都直轄領とローバー領との境界宿泊地を超え、王都直轄領の中程にある宿泊地も超えてようやく見慣れた王都の王城が見えてきた。
帰りは魔の森から距離を取ったので大型の飛行生物に遭う事もなく無事到着した。
王城と軍部の上は飛ばない様に避け、学園の裏山を目指す。
裏山の中腹くらいの高度で2周回り、格納庫前の広場に着陸する。
若干重量が増えているので着地のショックが少しあった。
格納庫のドアは開いていたので、そのままタキシングして入って行く。
中ではエドモンドとモーリスが酒を飲んでいた。




