85◇ランバート領到着
85◇ランバート領到着
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キラーバードとの空中戦というアクシデントはあったが、その後はスロットル6割の巡航速度で飛行する。
それから2時間ほど飛び、無事ランバート領の河原近くの練兵場に到着した。
ここなら広い土地があるし、大型倉庫もあるので機体を格納出来る。
領主屋敷に降りたかったが、着陸は出来ても離陸が出来る直線が無いので諦めた。
俺達が着陸すると練兵場の兵長がおっかなびっくり飛び出してきた。
俺とデビッドがヘルメットを脱ぐと破顔する。
「坊ちゃん、よく戻られました。あれからランバート領はかなり変わりましたので、是非旦那様にお聞きになってください。」
「ただいま。早速父上に聞くよ。今回はちょっと変わった乗り物に乗って帰って来たので驚かせた様だね。これは俺が開発した物なので安心して欲しい。王都学園の学長からのお墨付きも貰っているので、決して危ないものではないよ。ところでこれを倉庫に入れたいんだけど出来るかな?」
俺が兵長に尋ねると、部下の何人かに声を掛けて大型倉庫の扉を開け、中に入っていた馬車を2台外に出す。
俺とデビッドが機体を押して倉庫に入れ、サイドボックスに入れていた89式と弾薬を取り出す。
兵長にこの機体を守るために常時2人以上を貼り付けておいて欲しいと伝え、小型の馬車を借りて領主屋敷に向かう。
馬車は兵長の指示で領兵の一人が御者を務めてくれた。
さて、父上はどうしているかな。
俺とデビッドは馬車の窓から領都の街並みを見るが、さすがに3ヶ月程度では何も変わっていない様に見える。
兵長が変わったと言うのは多分鍛治業関係だろうな。
10分ほど馬車に揺られると領主屋敷に到着した。
門衛が馬車を誰何しようとしたが、俺とデビッドが窓から顔を出すとそのまま門を開けた。
通り過ぎる時に「お帰りなさいませマーティン様」と言う。
まぁ俺も貴族だしな。
いつまで経っても慣れないが、とりあえず「ただいま」とだけ返事をしておく。
馬車は門を通過し、30m程進んで屋敷の車寄せに止まった。
玄関では執事のセバスチャンとメイド長のマリアが出迎えていた。
出て来るのがいやに早いなと思ったら、光るペア魔石の呼び出しセットがあったなと思い出す。
門衛が重要訪問者の来訪や領主家族の帰宅を邸内に知らせるワイヤレス呼び鈴みたいなものだ。
門衛が俺を認識した時点で操作したのだろう。
「「マーティン様、お帰りなさいませ。」」
2人が声を揃えて言う。
「セバスチャン、マリア、ただいま。父上は在宅かな?」
「はい、ご在宅です。執務室においでです。」
「わかった。理由とかは後で皆に言うから、今はデビッドと共に行かせてもらうよ。」
俺は心配そうにしている2人にハンスと護衛のマーク、スティーブ、ルークを父親の執務室まで呼んで欲しいと言う。
俺とデビッドはヘルメットだけ脱いだ格好で廊下を進み、執務室のドアをノックする。
「入れ」の答えがあったので「失礼します」とだけ言って入る。
書類から目を上げた父親はここに居るはずのない俺の顔を見て驚いている。
「マーティン、どうしたのだ。王都で何か緊急事態でも起こったか?」
まぁ緊急事態である。
「父上、叔父上から連絡は受けておられると思いますが、私が開発した魔道エアクラフトという空を飛ぶ装置に乗って帰って来ました。隣国との国境で火種が今燻っています。偵察の結果、今すぐ攻め込まれることは無い様ですが、半年後には分かりません。いえ、来月にでも何か起こるかもしれませんので、ランバート領の魔道銃の生産状況をこの目で確かめたくて帰って来ました。」
「早馬でも2日はかかるが、飛んで帰って来たと言ったな。どれくらいの時間で帰って来れたのだ?」
「そうですね、途中で一回30分ほど休憩して5時間と言ったところでしょうか。」
「それはすごいな。カイルからの定期連絡ではお前が学園の裏山の周囲を飛んでいるとあったが、よもやこれほどの距離を数時間で移動出来るとは思いもしなかったぞ。」
「遮る物が無い空を飛んでいますので、早馬の5倍以上の速度は出ますので。それで、魔道銃の進捗についてお聞きしたいのですが。今、ハンスと護衛の関係者を呼びにやっていますので、ここで聞かせていただいてもよろしいでしょうか。」
「うむ、それは構わない。私もお前が帰って来た時点でより詳しく聞こうと思っていたところでな。」
そう言っていると、ドアがノックされてセバスチャンに続いてハンスとマーク達の4人が入って来た。
皆一様に俺とデビッドを見て驚いている。
俺は簡単に帰って来た経緯を説明し、早速本題に入る。
「では、私が王都学園に入学してから3ヶ月経った今現在の魔道銃に関する進捗状態を聞かせてもらいたいんだ。」
「では、私から。魔道銃は手持ちタイプが量産に入り、ガーソンとその弟子が日々鉄砲鍛冶に明け暮れています。ガーソンには10人の弟子がいますが、今では全員が協力して分業で作れる体制になったそうです。また、木工のウィリスも8人の弟子と共にガーソンの工房が作る銃身に合わせて木の握りを作っているそうです。」
「それで、一週間で何丁くらい作れるの?」
「はい、現在のところ、週に5丁といったところですね。鍛治は2人で一週間で1丁、木の握りの木工もそれに合わせて作れるとか。」
「今の完成品の在庫数はどれくらい?」
「30丁くらいになります。最初の1ヶ月は試行錯誤で物にならなかった様ですが、2ヶ月目くらいから安定して作れる様になったとガーソンは話していました。」
魔道銃の生産を統括しているマークが代表して答えてくれる。
うーん、まぁそんなもんか。
領内だけで作ると生産数の限界が低いな。
かと言って、他領や王都の職人を引き抜くのもどうかと思うんだよなぁ。
技術漏洩と他領や王宮からの干渉が心配だし。
暫くはこのままでやってもらおう。
いざとなったら護衛部隊と領兵の精鋭部隊の合計100人程度でいかなる軍隊も蹂躙できるしな。
89式、バレットM95でほぼワンサイドゲームだ。
特に12.7mm弾で1km先から敵陣の司令部に4人で乱れ打ちしたら5分で勝敗が決まる。
かつての上位魔獣と同じ運命だな。
「わかった。その調子でどんどん在庫を貯めて行って。その中から何丁か使って、護衛部隊と領兵の中から選抜した者に魔道銃の射撃訓練をさせてもらいたいんだ。今はどうなってる?」
「はい、護衛部隊は全員が魔長銃を扱える様になっていますので、魔道銃でも少し教育をすれば扱える様になるかと。今はまだ魔道銃の備蓄を最優先としていましたので、ここに呼ばれた私達4人以外はまだ撃ったことがありません。」
「そうなんだ。貯め込んでも使えなければただの棍棒だね。父上、魔道銃での訓練を開始していただく様にお願いします。」
「うむ、この件はマーティンに主導権を渡してある様なものだ。好きにしなさい。」
「ありがとうございます。では、今ある30丁全部を使って、訓練を開始させていただきます。そういうことだから、マークが統率する形で護衛全員と領兵の中からまず10人くらい募って練兵場の先の河原で魔道銃の射撃訓練をさせて欲しいんだ。発火魔石の生産量との関係があるから無闇に撃っても良いわけではないけど、そこら辺のバランスも含めてマークに一任するよ。」
出来ることなら89式やバレットM95は出したくない。
アレはこの世界の戦争にはまだ早すぎる。
本当の緊急時には迷わず使うが、自領に被害が出ていない内はまず魔道銃から普及させてこの世界に馴染ませていこう。
なーに、日本の戦国時代の事を思ったらまだヌルいほうだ。
その後、父親に魔道エアクラフトのことを聞かれたので全員で馬車に分乗して練兵場まで行く。
父親の紋章付き馬車を見て兵長が兵舎から飛び出して来て出迎える。
俺は兵長に兵に指示させて倉庫の扉を開けてもらう。
デビッドと一緒に複座1号機改を押し出して皆に見せる。
「これが今回乗って来た魔道エアクラフトになります。2人乗りで、ある程度の荷物も運べますね。」
「これがどに様にして飛ぶのだ?」
「はい、上にある三角形の翼で前から風を受けて浮かび上がります。帆船の帆を横にした様なものですね。但し、風を待っているわけにはいきませんので、自らが進んで風を受けます。その進むための力を出すのがこの金属の2本の筒です。魔道具の一種で、後ろから強力な風を噴き出してその反動で進みます。」
「なるほど、考えたものだな。これは今飛べるのか?」
「はい、少し飛んでお見せしましょう。」
俺はヘルメットを被り、前席に乗り込んでベルトを締め、コントロールリングを腕にはめる。
デビッドが機体の周囲から人を遠ざけ、俺は風向きを見て一気にフルスロットルにする。
10mくらいで離陸し、急角度で上昇して100mくらいの高度まで上がる。
俺一人しか乗っていないので全体重量が軽く、かなりの無茶が出来るな。
練兵場の上空を3周くらい回り、8の字を2回回って高度を下げ、練兵場に着陸する。
ゆっくりタキシングして皆の前に止まり、エンジンを停止させる。
デビッド以外は全員唖然としていた。




