84◇南下
84◇南下
============================
俺とデビッドを乗せた複座1号機改は高度1000mを保って南下している。
スロットル開度は6割程度で、速度は体感で時速120km程度だと思う。
ヒャッハーな風防がいい仕事をしてくれていて、風圧がかなり低減されているな。
その代わり風切り音が凄い。
格子構造に風が絡みつくんだろうな。
帰ったら改善策を考えよう。
今回、主翼前縁に張ってもらったミスリル導線についてはテストはしないことにした。
ただでさえ長距離なので、途中で何かトラブったら元も子もない。
その代わりに疑似翼断面形状にしてもらった主翼がいい仕事をしている。
コントロールバーの操作も軽いし、仰角も少ないのに揚力が十分なので快適だ。
少し前後バランスを調整するだけでかなりの距離を両手離しで真っ直ぐ飛んでくれる。
「もうすぐ王都直轄領の宿泊地が見えて来ます。街道上を飛んでいるので迷うことは無いので気は楽ですね。」
「あそこは王都から約100キロムの地点にある。後の目印になる所もだいたい100キロム置きにあるんだよな。実に分かり易い。」
「そうですね。途中で休憩するとしたら300キロム進んだ所にあるローバー領都付近でしょうか。でも領都に下りると色々面倒でしょうから、その少し前にあるちょっと広めの野営地に降りましょうか。」
「うん、そうしよう。降りる場所はデビッドが見てあまり混雑していない所がいいな。」
「分かりました。人が少なく、離陸に必要な平地のある場所ですね。」
出来ればあまり人目に触れさせたくはない。
どんな輩がいちゃもんを付けて来るかしれないし。
まぁ野盗や破落戸なら足でも撃ち抜けば大人しくなるだろうが、相手が下手に身分を持っていたら面倒だ。
こっちは伯爵家だが、俺はしがない次男だし。
まぁ半分軍関係者なんでいざという時は情報局の中将に何とかして貰おう。
飛行ルートは街道の上だが、地図上の目立つ物に目印を付けてそれを結ぶ様に出来るだけ直線で飛んでいる。
特に川は大きな目印なので、湾曲していたり三角州がある所を確認しながら飛ぶだけでいいので楽だな。
デビッドは双眼鏡を駆使してかなり離れた目印も見つけて的確にナビをしてくれる。
7倍なのでこの世界の望遠鏡よりは倍率は高いが、それでも地上を見るのにちょっと力不足だ。
しかしこの世界の人間は基本的に目が良いので、高度1000mから見下ろして牛の体長でスケール目盛りを使って高度を判別出来る程度には見えている。
それに7倍ではあるが、抜群に明るいレンズと色収差の無い見え方、そして広い視野で非常に使いやすい。
この世界の望遠鏡は情報局から何本か貰っていたので使ってみたが視野が狭くて暗く、周囲が歪んでいるのでかなり見辛い。
像は正立だが、 ガリレオ式で無理矢理倍率を上げた様な作りだな。
オペラグラスの高倍率板といったところか。
2時間ほど飛ぶと、王都直轄領とローバー領との境界にある宿泊地が見えてきた。
これで200km。
もう30分くらい飛んだら一旦休憩と魔力補充をするか。
もう宿泊地などと言わずに離陸出来る平地があればどこでもいいので、とにかく人が居ない所が良い。
デビッドも同じ考えだった様で、声をかけると同意していた。
やはり垂直離着陸機能は要るな。
もしくは5mくらいで離陸出来るSTOL機能。
帰ったら早速検討だ。
2人で下を見ながら飛んでいると、大きな川の中州に平地があるのが見えた。
直線距離で30mはあるな。
ここなら誰にも邪魔されずに離着陸出来そうだ。
デビッドも同時に見ていた様で、ここに降りましょうと言ってくる。
俺も同意し、街道から離れる方向で旋回しながら高度を下げた。
風向きを確認しながら風下の方の端に降りる。
着陸距離は5m程度なのであと25mは離陸に使える。
着地と共に激しい振動があり、俺とデビッドは放り出されそうになった。
ベルトが肩に食い込んで痛い。
停止して周囲を見ると、川特有の丸い石だらけであった。
どうりで振動が大きいはずだ。
離陸する時が思いやられるが、降りてしまったものはどうしようもない。
とりあえず魔石ジェットエンジンの魔力補充をする。
充填魔法陣で包んだ魔石を吸気口に突っ込んでいると、デビッドは俺の方を見ながら目を輝かせていた。
はいはい、あれね。
鉄ヤカンをストレージから出し、水魔法と炎魔法を同時に使いながらお湯を入れる。
追加で河原の石ごと炎魔法で炙り、沸騰させる。
ストレージから折りたたみ椅子2脚と小さいテーブルも出して、スキルから自衛隊装備ランク2のカッ○ヌードルとカ○リーメイトを召喚する。
デビッドの目がキラッキラだ。
何故か前世の実家で飼っていた大型犬を思い出す
ヤカンの湯が沸騰したのでカ○ヌのシュリンクを剥がして蓋をめくり、湯を入れる。
3分間待つのだぞ。
その間に自衛隊装備ランク1のレーションも出す。
いつもの煮込みハンバーグとウィンナーだ。
これはストレージから出した鍋に湯を入れて湯煎する。
鍋を河原に置いて石ごと炎魔法で炙って沸騰寸前で止めておいた。
その間にカ○ヌが出来たので食う。
フォークはそれぞれ常備セットに入れてあるのでそれを使う。
やはり美味い。
これを食う度に俺の前世は現実だと思い出させられる。
学生時代から長年食って来た馴染みの味だしな。
カ○ヌを食い終わると湯煎していた缶詰を引き上げ、簡易工具の缶切りで開ける。
デビッドにも1本渡してあるので、自分で開けてるな。
これまたこちらの世界では味わえない風味なので美味く感じる。
レーションなんで本当はそんなに美味いもんでもないんだけどな。
全部食べ終わると自衛隊魔法ランク1のペットボトル飲料水を1本召喚し、カ○ヌの空き容器に半々に入れる。
やっぱり魔法で出した水より召喚したペットボトル水の方が美味いんだよな。
水道水と天然水くらい違う。
デビッドは僅かに残ったラーメン汁の味がするので喜んで飲んでいた。
食後のデザートにカ○リーメイトを食い、ちょっと落ち着いたところでゴミをランク1粉砕魔法で砂粒状にして河原に撒く。
証拠隠滅だ。
まぁ粉砕してもプラゴミなんで環境には良くないが、出すのは俺一人なので量も知れてるし無視だな。
鍋とヤカンと椅子とテーブルをストレージに仕舞って、魔石ジェットエンジンの吸気口から充填魔法陣に包まれた魔石を取り出す。
魔力量確認魔法陣で満充填されたことを確認すると出発準備をする。
河原の石の大きな物を進行方向から取り除く。
凹んでいる箇所は周囲の小石を流し込んで埋める。
それでもまだ凸凹が大きい様な気がしたので土魔法を薄く使って表面を平らに仕上げる。
土の密度はそれほど高くしなかったので、雨が数回降れば崩れる程度だ。
頑丈に作って後で不審がられる様な真似はしない。
帰途にも使おうと思うので、あと1回離着陸できれば十分だな。
離陸準備が済んだので装備を身に付け、デビッドと乗り込む。
ベルトを締め、スロットルを全開にすると嫌な振動もなく20m足らずで離陸した。
やはり土魔法は有用だな。
河原で休憩した後、川に沿って飛んでいたら遠くに飛ぶ物が見える。
デビッドが双眼鏡で確認すると魔の森に生息している魔獣のキラーバードであった。
この川は魔の森に近い所を流れているので生息域に入っているのであろう。
たまに家畜のヤギなどが襲われるという話を聞いたことがある。
さすがに結界魔道具の防壁も高度が高くなると効果も薄れるらしく、空を飛ぶ魔物はたまに出てくることもあるらしい。
獲物も魔物ではないヤギの方が力は弱いので捕まえやすいだろうし。
キラーバードは少し下の高度を飛んでおり、俺たちが追いかける様な位置関係だ。
まだ気付かれていない様なのでスロットルをじわっと開けて上昇する。
出来ることなら空中戦はまだしたくない。
なので高度を上げて追い越そうと思った。
しかし、ちょうど追い越す瞬間に機体の影がキラーバードの頭の上を横切る。
さすがに俺たちの存在に気が付き、追いかけて来た。
まず、水平飛行に移行してスロットルをほぼ全開にする。
試験の結果、時速170km程度は出るはずだ。
ある程度速度が乗ってくるとちょっと振動が出る。
これ以上はエンジン推力よりも機体が持たない可能性があるのであまり出したくない。
だが、そうも言っておられないので迎撃を試みる。
キラーバードは真後ろからじわじわと迫って来ているので銃の狙いは付けやすい。
デビッドにサイドケースから89式と弾薬を出させ、体を半分捻って真後ろを狙ってもらう。
機体の向きを魔の森とは反対に向け、流れ弾が魔の方に飛ぶ様にする。
デビッドは2個のエンジンに干渉しない様に機体の少し上の隙間から狙い、3点バーストで5回くらい撃つ。
全く反応無しで、当たっていない様だ。
もう一回3点5回撃ったが変化無し。
そう簡単には当たらない様だ。
デビッドはマガジンを交換してキラーバードが更に接近するのを待つ。
機体後部20mくらいまで引きつけて3点バーストを10回繰り返した。
さすがに数発羽に当たった様で、急激に高度を落としていった。
下は農地だが、人影は無かったので被害は出ないだろう。
この速度なのでウィンドエバキュレーターは真空の球が風圧で押し流されてあまり効かない様で、ヘルメットの耳フラップ越しにもかなりの発射音が聞こえて耳がキーンとする。
やはりいつでも耳栓はすぐに出せる様にしとかないとならないな。




