312◇原理説明
312◇原理説明
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「さて、マーティンよ。お主の考えている事を洗いざらい話せ。」
「そうだぞ。君が周囲の理解力を過信しているのは日頃から感じているのだ。これくらい言わなくても分かってくれるだろうなどとは言ってくれるなよ?そもそも土台が違うのだから一から説明してくれぬとこちらは全く理解出来ない事が多いのだ。」
いや、団長も中将も俺の両肩をがっしり掴んで揺するのは止めてもらえませんかね。
頭がぐらんぐらんしてるし。
ここでアシスト系魔法を使って力ずくで逃げるのは簡単だが、それをやると更に火に油を注ぎかねないし。
「や、め、て、くださいよー。揺すらないでぇ。話す、話しますから!」
俺は少し弱ったふりをして何とか逃れる。
それでも2人とも俺に顔を近づけて目線で圧をかけてくる。
わかったわかった、話しますよー。
「さて、まずあの小型船の事から話しましょうか。あれがノルドロイド共和国の海軍旗艦を翻弄していたのはご覧になっていて分かると思いますが、航空機械に付けてある推進器を束にして船尾に付けてあるからですね。これで好きな向きに噴射口を向けて高速に走れます。」
「いや、それは見たら分かる。それくらいは複座機や3座機を見て来たから理解は出来るぞ。肝心なのは小型船の船首に付いている40ミル砲だ。何故揺れる海上から撃ってあれほどの命中率が出るのだ?」
中将が必死の表情で迫って来る。
えー、さっきざっくりと説明したじゃん。
円盤を4枚付けて、コマ回しの原理で安定させると言ったはずだ。
団長を見ると、こちらは理解した様で余裕の表情で中将を見下ろしている。
「なんじゃ、お主はそれくらいの事も分からんのか?説明不足のマーティンの表現でもあれは見たら分かるであろう?子供の頃にコマを回した事は無いのかや?」
中将は嫌な顔をして団長を見るが、さすがに年の功で勝っている団長に暴言を吐く事は出来ないみたいだ。
学園在学時に指導教師として教えて貰った事もあるらしいしな。
「私の家は庶民の遊びは教えてくれなかったのでコマ回しはやった事はありませんね。遠目で庶民の子供が遊んでいるのを見た事はありますが、手に取って扱った事はありません。」
「おお、お主の家はそうじゃったのう。法衣貴族なら地方の貴族の様な遊びが出来ぬのは仕方は無いか。」
「ま、まぁそれくらいにして私の方から詳しい原理を説明しますね。」
俺は椅子に掛けていた薄手の鞄からスタビ付き40ミル砲の設計図を取り出す。
言われると思って、予め持って来ていたのだ。
「まず新しい用語を使わせてもらいますね。コマや回転体で向きを安定させる原理をジャイロスコープと言います。そしてそのジャイロスコープを使って機械的に外に繋げてそこを安定させる機構全体をスタビライザーと言います。いいですね?」
「おおう、まぁいちいち説明せずともその原理や機構を代表して示せるならそれでよいぞ。」
「ちょっと待て、手元に書き記すから。これだけではあるまい?」
そうなんだよね。前世の単語でしか説明出来ないからどうしても前世の単語を使っちゃうんだよな。
まぁその方が俺自身忘れなくていいし、関連してさらに発展させる場合でも言い回しに矛盾が出ないし。
「次にジャイロスコープの回転体を収めてそれを外の機構と繋ぐ枠をジンバルと言います。この図にある2個の円盤を支えているフレーム枠ですね。これが更にもう1組あって、お互いに軸が直交配置されています。」
「何故2組の違う向きの物が要るんじゃ?安定させるだけなら1組で十分じゃろ?」
「空間で自由に回転する物体の動く方向は3方向あります。これも名前を付けると、砲身の上下方向の動きをピッチ、砲身の軸回転方向の動きをロール、砲身の左右方向の動きをヨーと言います。そのうちピッチとロールの2方向を抑えれば大砲の照準を合わせるのに十分な安定性を持たせられるのですよ。」
砲身の上下動と軸上の回転動作だな。
いずれも照準と命中率に直接効く。
上下動は砲弾の飛ぶ距離を安定させ、回転は照準線を水平に保って正確な放物線を描かせる。
左右の振り方向も抑えられればより良いが、そこは手動でも何とかなるので不問にしているし、何より3軸も付けるともの凄く大きくなるので今は端折っている。
「実際にはこの様になりますので、左右の振れは人力で操作するので間に合ってます。」
図に簡単に原理と説明を描き、操作方法も身振り手振りで示す。
予め軍部工場の作業台の上で作業員に担いで貰って実証実験し、その上で小型船に搭載した事も言う。
何も思いつきだけでパパッと作った訳ではないのだ。
地道な実験と検証もしているのだよ。
俺を何だと思ってるんだ?
「しかし、コマとなる大きな円盤を高速回転させないとならないので軸受けが問題になります。そこで針の先を凹んだ皿で受けるピボット軸受けというものを作り、そこに潤滑油を満たす事で耐久性を持たせています。」
「して、どうやって回しておるのじゃ?肝心な事が抜けておるぞ。」
さすがの団長もタービンの事は気がつかなかったみたいだな。
大型の風車はあるので風の力を利用するのは知られているが、手に持てる風車くらいの大きさでどうやているのかまでは分からないのだろう。
「ここに丸い膨らみがあると思います。この中には鋳物で作った一種の風車でタービンという物が入っています。そこに魔道送風機から圧縮空気を送り込む事で軸を高速回転させているのですね。」
「小さい風車じゃろ?そんな力があるのかや?」
疑問に思うのはごもっとも。
タービンのハウジングの形状とタービン自体の羽根の形状を同時に書き記し、送風機で掛けた圧力が出来るだけ逃げない様にして高い反発力を生み出し、その力で高速に軸を回す事を説明する。
「なるほどのう。単なる風車じゃないという訳じゃな。」
「え、どういう事ですか?」
中将が理解出来ない様だったが、団長が理解したので後でじっくり教えてやると言って先を促して来た。
まぁ無駄な時間をかけなくてもいいからこちらとしては助かるが。
ふと横を見ると親父殿は理解するのを完全に諦めて天井を眺めていたな。




