310◇実射2
310◇実射2
===========================
「なるほど。それで貿易船の船長は絶え間なく破裂音が聞こえたと言っていたのですな。」
「おそらくそうだと思います。撃つタイミングは狙いを定めるのに影響しますので、なるべく同時にならない様に隣どうしで順番になる様にしています。それで一定の間隔で撃った様に聞こえたのかと。」
実際には1丁のM95で速射を繰り返したので発射音が重なる事は原理的に無い。
それを複数丁の運用で同じような発射音になると説明して何とか納得してもらえた様だ。
まさか別な武器で海賊船の舷側に穴を開けられたとは分からないだろうから、それ以上は疑う事は不可能なんだが。
「では続けて海上の小型船の大砲からこの的に向けて撃ってもらいましょう。」
小型船に指示し、的の乗った小舟を再度先ほどの位置まで曳いて行って投錨して位置を固定させる。
そこから100mくらいこちらに戻って来てもらい、小舟の的に対して10発ほど撃ち込んでもらう。
初弾はもう装填済みでジャイロも起動してあった様で、定位置に着くとすぐに発射音が響いた。
こちらとの距離は100m近く離れているので、耳を塞がないとならない程の音は聞こえない。
湾内とはいえ小型船なので結構揺れている。
灯台前は少し狭くなっているので、湾の反対側の水路に抜ける海流で波が出るのだ。
潮の満ち引きにも影響され、オールで漕ぐ場合には時間帯によっては苦労する場合もある。
まぁ小型船の推進器があれば全て無視して航行出来るのだが。
微妙な操船も海流の向きを判断して予め2基の推進器の向きを決めておき、その推力バランスでピタリと位置と向きを固定している。
これにより船首が常に的の方を向いているので、発射毎の照準合わせが最小限で済むのだ。
そうこうしている間にも小型船のスタビ付き40ミル砲は快調に撃ち続ける。
こちらは熟練している様で30秒に1発程度は撃っているな。
船大工に木工で作って付けてもらった砲身固定用のレバーもいい仕事をしている。
陸上用の40ミル砲は車輪が付いているので、発射時の衝撃は砲全体が後退する事で吸収する。
しかし小型船の船首に固定してある40ミル砲はそのままでは発射時の衝撃を吸収出来ず、固定用の支柱に過大な負荷が加わって破損する可能性がある。
それを防止する為に砲身には駐退機を付けて発射時の衝撃を逃がしているのだが、再装填時にはそれが仇となって砲身が勝手に動いて非常に操作し辛い。
それを船工房主と相談して固定用レバーを木工で作ってもらったのだ。
望遠鏡でその操作を見ていると実に器用に扱っている。
操船が1人で、砲の操作に2人でやっているのだが、両手両足を上手く使って砲身の向きを固定し、槊杖を器用に操作して砲身の簡易清掃と装填を熟している。
まぁ陸上砲と違ってジャイロで動きが規制されているので、それが手助けとなって装填が楽になっているのだろう。
それにしても動きが手慣れているな。
あっという間に10発撃ち尽くし、小型船は小舟の錨を外して曳いて来た。
新たに命中した弾痕が中心付近に10個開いている。
全弾命中だ。
距離が半分の100mとはいえ、揺れる海上から撃ってこの成果だ。
艦長はそれを見て慄いていた。
「そ、それはどういう理屈なのかね?距離が半分とはいえ、揺れる海上から撃ったのにも関わらず全弾命中とは全くもって理解出来ないのだが。」
「そうじゃ。お主のその大砲が命中率が良いのは聞いておるが、海の上の揺れる小型船から撃ってここまで当たるのは何か理屈があるんじゃろ?」
お、団長するどい。
親父殿と中将は俺がやる事だからそんなもんだろという様な表情をしているな。
「これはあまり公表はしたくないのですが、大雑把に原理だけ言いますね。あの砲身の上下に丸い円盤が4枚付いているでしょ?あれを高速回転させる事でコマ回しで安定する原理を利用しているんですよ。これ以上はちょっと秘匿したいので説明は後日にしてもらえませんでしょうか。」
「お、おう。了解じゃ。なるほどのう。実際に撃って当たるところをこの目で見たので納得せざるを得ないな。後で儂に詳しく教えるのじゃぞ!」
あ、艦長が羨ましそうな顔をしている。
これだけの新兵器のオンパレードをされたら強奪しても持って帰りたいと思っているんだろうな。
でもこれらの兵器は使いこなしてこそ絶大なるメリットがあるので、物だけ持って帰ってもまともに使えない。
ある程度のノウハウがあるのだ。
メンテもしないとすぐに性能が落ちるし、なにより壊れても修復出来ないだろう。
それを知らずに奪ってもまともに使えないだろうな。
「これで「大砲」のデモンストレーションを終了とさせていただきます。何か質問はありますでしょうか?」
「こ、これは我々にも売ってもらう事は出来るのだろうか?」
親父殿と中将は思いっきり頭を横に振っている。
そうだよなー。
まだ自国でも数を配備していない新兵器である。
それを差し置いて他国に売るなんて非国民と言われても仕方が無い。
しかも揺れる海上からあの高精度を見せつけたのだ。
「いえ、これはまだ我が国でも配備し始めたばかりの新兵器です。なのでまだ量産体制に入っていません。そして撃つ時に使う発火粉末の供給の問題もあります。これは我が領の特産品なので他では入手出来ません。したがって、大砲だけを売っても使えないのです。」
親父殿と中将は揃って頷いている。
団長はそれを見て苦笑いしているな。
「あい分かった。今はまだ時期尚早という事だな。いつ頃になったら我々にも使える様になるのだろうか?」
「これはまだ我が国でも配備し始めたばかりなので、我が国自体が十分に装備出来るまでは外に売る事は難しいですな。陸続きの周辺国との力関係もあり、まずそちらに配備するのが先になるので。それと、たとえ外に売る事が可能になっても国と国との安全協定を結んでからですな。今はまだ貿易相手というだけで、同盟も協定も結んでいないのでおいそれと新兵器を売る事は出来ませんな。なにしろあれほど手強かった海賊が鎧袖一触で打ち砕く事が出来る兵器なので、それを悪用されたりしたら我が国にとって取り返しのつかない事になりかねない。」
中将が本領発揮というべき発言をしてくれた。
さすがは国の情報を一手に預かるリーダーだな。




