301◇海賊船クルージング
301◇海賊船クルージング
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小型船は港を出て行って20分くらいすると帰って来た。
埠頭を離れてゆっくりと動き出している海賊船と併走し、船大工が大声で海賊船の同僚に航路は安全だと伝える。
それを船首に居た舟大工が工房主の所に本船の航路安全確認完了と報告しに来る。
「今回の航路は安全との事です。このまま出してもよろしいでしょうか?」
船大工が親父殿に恐る恐る聞いてくる。
やはり俺に対してとは違うな。
領主貴族は権限が絶大なるものがり、領民の生殺与奪の権利まで持っているのだ。
だいたい江戸時代の大名に相当する。
さすがに参勤交代は無いが。
俺?
俺は一応貴族だが、まだ爵位も権力も無い子息扱いである。
従って、俺の判断で領民をどうこうは出来ないので比較的気楽に接してくれるのだ。
まぁ直接暴力を振るわれたら魔物と取っ組み合いの出来る力をほんのわずか解放するし、理不尽な無礼を働かれたら親父にチクってどうにかしてもらうが。
「うむ。確認が取れているのなら何ら問題は無いだろう。このまま行ってくれ。」
親父殿の了承を得た事で工房主は水を得た魚の様にあちこちに指示を飛ばしだした。
やはりこのクラスの船を操るのは楽しいのだろうな。
オール漕ぎ以外の6人の舟大工と元海賊が共同で帆走の準備をしている。
灯台の前を過ぎた辺りから徐々に帆を広げていき、湾の出口を過ぎた辺りでオール漕ぎを中止させて全員で帆を広げる。
3本マストに全て帆が張られるが、追い風ではないのでタッキングに入る。
今は海風なので沖合いに出るには逆風なのだ。
15分置きくらいに左右にタッキングを繰り返して徐々に沖合いに向かう。
うーん、さすが帆船、かったるい。
だがこれがこの世界の最先端なので、これから俺が導入する推進器で次のステップに進むのだ。
今回の周遊は途中で周回ルートに入るので完全な逆風にはならず、そこからは割とスムーズに帆走を始める。
それでも追い風とまではいかないのでかなり船足は遅い。
親父殿も何となく不機嫌だ。
「こんなに遅いのか?馬車でももう少しは速いと思うのだが。」
「父上、帆船なので風向きには逆らえないのですよ。それでも風上に向かう方法はあるので実用になっているのですね。これはその内小型船に積んでいる推進器を改良してこの船にも積みますのでそれまでの辛抱ですね。」
まぁ外洋に出たらたとえ推進器を積んでいても帆走が主体となる。
ずっと推進器を噴かし続けると魔石の消費で運行費用がえらい事になるからだ。
前世の大型船も最近はハイテク帆船みたいにコンピュータ制御の翼断面帆を積んでいるくらいだ。
これで重油代が数割削減出来るので、自然の風の力は馬鹿には出来ない。
ふと横を見ると小型船が併走している。
航跡から見てかなり遅いな。
5ノット=時速9kmも出ていないだろう。
恐らく全開にすれば30ノット=時速55km程度は出るだろうから、かなりの余力はある。
木造船なので耐久性を考えれば20ノット=時速37km程度に抑えるのが良いだろうが、それでも帆船の全速力の2倍以上あるな。
魔石の燃費も考慮すると、帆船の追い風全速に合わせて15ノット=時速28kmくらいが丁度良いかもしれない。
この速度でも連続して出せるのでこの世界では出し得ない速さだし、十分と言える。
これなら湾を出るまでは小型船に海賊船を曳航させるのもアリかなと思う。
いわゆるタグボート扱いだな。
少なくとも人力オール漕ぎよりは力はあるだろう。
まぁ今それを言うとせっかく張り切って操船している舟大工連中に申し訳ない。
それに素の帆船の能力を知っておきたいというのもある。
2時間程度沖合いに出たところで、工房主が海図を見ながら本日のルートの現在位置を指し示して俺にお伺いを立てに来る。
「マーティン様、これで港から10キロム程度は離れた事になります。そろそろ引き返そうと思いやすがいかがでしょう?」
双眼鏡を出して陸の方を見ると港の背後の崖が見えるが、港の市場などの建物は見えない。
この惑星が地球と同じ半径とし、今の船の甲板の高さが5mだとするとだいたい10kmくらいだな。
さすが工房主、若い頃は漁師をやっていただけあって勘は冴えているな。
「うん、これくらいで反転しよう。この海図の上で陸に平行に西向きに追い風で10キロムくらい走ったら港に帰ろうか。」
港を起点にしてちょうど正三角形の様な航路だな。
最初はわずかに東向きに行ったのは海風を少しでも逸れる為だ。
真正面から行くとかなり効率が悪い。
そして今から陸に平行に少し陸寄りに向かって西向きに行くから速度はそこそこ出るだろう。
タッキングもしなくともよいし、船首に追い風専用帆も出せる。
ふと甲板の上の乗客を見ると半分くらいは船酔いをして椅子に座って俯いていた。
自衛隊装備の医薬品でよく利く酔い止め薬はあるが、あれはこの面子に出す訳にはいかない。
酔い止めとしてはありえない効き具合だからだ。
何人かは舷側からゲロっているのを見て、工房主が肩に掛けていた鞄から紙包みの薬包を10個くらい出し、俺に渡して来た。
「マーティン様、あまり効きは良くはありませんが、船酔いに効く粉薬をお渡しします。毒味で私も飲みますので、酔いの酷い方に飲ませてはもらえないでしょうか。」
「ありがとう。だけど父上と王都から来た要人は飲ませられないんだよ。毒を疑っている訳ではないけど、万一ってのもあるしね。護衛達も父上や要人が飲まないのに飲む訳にはいかないので全員我慢してもらうから安心して。酔って死ぬ訳でもないしね。」
俺は元々乗り物酔いには強いので割と平気な顔をしている。
それを羨ましそうに中将と団長が見ていた。




