282◇領都出発
282◇領都出発
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次の日の朝はメイド長のマリアに起こされた。
目の前に見慣れたアンナの赤髪ではなくマリアの青髪が見えたのでぎょっとして跳ね起きる。
そこでここは王都ではなくランバート領の自室という事を思い出した。
「ああ、驚かせて済まない。アンナの髪の毛の色が急に変わったのかと思ったんでね。」
「マーティン様。おはようございます。朝食の準備が出来ましたのでお越しいただけますでしょうか。」
マリアはメイド長らしく、格式張って殆ど笑わない。
俺が勘違いした事も笑わずに流して朝飯の案内をしてくれた。
俺が着替えを手伝って貰っている時に尋ねてくる。
「アンナはきちんとやっていますでしょうか。あの子の事ですから何かしらマーティン様にご迷惑をおかけしてしないかと心配でして。」
まるでお母さんだな。
確かアンナが19歳でマリアが32歳だからそこまで年は離れていないが。
「心配しなくてもいいよ。アンナはそれなりに頑張ってやってくれている。マリアから見たらまだまだかもしれないが、僕らと一緒に成長していっている様なもんだしね。」
そう言うとマリアは少し微笑んで頷いた。
朝食は兄以外の家族というのは昨晩と同じだ。
今日は再び王都に行くのでこれが家族との最後の会食になる。
まぁ何かあったら3座機ですっ飛んで来れるのでそれほど別れという感じはしないが。
「では父上、先ほどお渡しした領民への案内をお願いします。次の物資輸送には私は入らずに国軍の部隊にお願いしようと思っていますので、これで暫くはお別れとなります。」
「うむ。案内は承知した。領民には不安を持たせぬ様に采配しておこう。では元気でな。」
その後母親と妹とも挨拶を交わし、護衛部隊の大型馬車で練兵場に行く。
ザンド、デビッド、モーリス、スカイコンドルの4人も同乗し、御者は副長のミラーがしてくれた。
朝は道は空いているので10分ほどで練兵場に到着し、青空駐機の側で見張り番をしてくれていた領兵に声をかける。
兵長も官舎から出て来て俺に挨拶する。
「やぁ、毎回見張らせて悪いね。これも近い内に専用の建屋を作る予定だけど、まだ暫くはお願いするね。」
「何をおっしゃいますか、我々はマーティン様のご指示に従うのみです。これからも何なりとおっしゃってください。」
うん。
もうそろそろランバート領の飛行場が欲しいところだな。
格納庫もあると管理が楽になるし、簡単な整備も出来る様になる。
まぁ王都に帰ってから中将に定期便の試用をウチでさせて欲しいと言って、軍から指示を降ろしてもらった方がいいかな。
他領との関係もあるのでウチの領だけが優遇されていると思われると面倒だしな。
海賊の件もあるので、軍の防御拠点としての出先機関的な扱いにしてもらおう。
これなら海軍もスムーズに作れるだろうし。
3座機はそれぞれの乗機に分かれて領兵に手伝ってもらいながら手で押して練兵場の風下に並べる。
各自魔石の魔力残量を計り、予備の魔石と魔法陣で魔力を補充する。
俺の試作3座機だけは8分割魔力供給方式なので、大元の魔石ボックス内の魔石を満充填の物と交換するだけだ。
一応残量は計測魔法陣で確認してある。
そして8分割魔力供給装置の駆動ゼンマイを巻く。
うーん、やはりゼンマイというのが気に食わないな。
軽量コンパクトで信頼性もあるので必要十分なんだが、手で巻かないとならないのが元現代人としては歯がゆいものがある。
前世の生活であらゆる所に入っていた小型モーター、これを何とか作りたい。
DCモーターの様にDC電源を繋ぐだけで定常回転をする機構だな。
パワーは時計の機構を回す超小型の物から、扇風機を回したり洗濯機を回したりする中型の物。
掃除機や電動工具を回す強力タイプや小型電動車両に使う大型の物など。
これが手軽に使える様になると生活か一変するな。
扇風機は魔道ジェットエンジンの小型版で代用出来るが、同じ風量を送るのに魔力効率がまるで違う。
魔道ジェットは能力は高いがロスもそれなりに大きいのだ。
それが魔道モーターとしてファンを回すとかなりの省エネ・省魔力になる。
前世のジェット機とプロペラ機の燃費が倍近く違うのを見ればそれが分かる。
同じ燃焼原理のターボファンエンジンかターボプロップエンジンだが、大きなプロペラを回す方が空気に干渉する効率が良いのだ。
それなら前世と同じ様にこの世界でバッテリーと電磁モーターを作ってもいいんだが、せっかく高密度エネルギー源である魔石があるのだ。
恐らく単位体積当たりのエネルギー密度はリチウムイオンバッテリーを遙かに超え、ガソリンの10倍以上はあるだろう。
何せ魔道ジェットエンジンがあの魔石の大きさであの推力があの時間取り出せるのだ。
動作原理が全く違うから同じエネルギー密度という尺度では測れないが、動力としての結果で見れば相当なものだ。
小型魔道モーターを作るにしても、せっかくの魔石エネルギーを使わないという手は無い。
うーむ、これは王都に帰ったら詳しい用途を列挙して団長に丸投げだな。
そんな事を考えているとモーリスが声を掛けて来た。
「大将、また何か考え込んでいたな。だがもう出発だ。続きは王都に帰ってからにしちゃくれねぇか?」
「悪い悪い、いつもながら迷惑をかけるね。早速出発しよう。」
俺はモーリスの突っ込みに応え、全機搭乗の合図をする。
一応俺がリーダーなので俺の指揮で動くのだ。
モーリスだけはちゃっかり試作機の中間席に座り込んでいたが。
「では全機発進!」
俺の合図と共に俺を先頭に1機ずつ離陸する。
練兵場の上空で旋回しながら隊列を整える。
6機が斜編隊の形になったところで王都の方向に機首を向ける。
うん、今日も絶好の飛行日和だ。




