274◇魔道ジェット船試運転2
274◇魔道ジェット船試運転2
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船には俺とモーリス、ザンド、デビッドが乗り、工房主に合図をすると職人が4人掛かりでストッパーを外してロープを徐々に緩める。
船尾の両舷側にはリング状の金具があり、2本のロープがそこに結ばれていた。
それを職人が手動ウィンチの様なロープを巻く道具を操作して徐々に繰り出していく。
それに伴い、船体も僅かな振動と共に水面に降り始めた。
船体の下には台車の様な物が敷かれている様で、それがレールに沿って動いているのだろう。
慎重に操作していたので少々時間はかかったが、やっと全て海に出てちゃんと浮いていた。
さすがに16mもあるので150kg×2個の300kgの重量が船尾だけにかかってもさほど船首は浮かない。
工房主に言って先ほどの職人4人に乗って貰い、オールを漕いで工房の水路から出て港に回ってもらう。
少し開けた所に出て周囲に船が無い事を確認すると、職人にオールを仕舞ってもらう。
俺は自分で左右の推進器の向きをブレーキレバーを握ってそれぞれ噴出口を少し外向きに回す。
ブレーキレバーを離すとそこで止まるので、後ろの上から見ると推進器がハの字に見えるな。
その状態で船尾中央の舵の操作棒の下の木箱に座り、左右の制御ボックスのロックキーを外す。
両方のペダルをゆっくり踏むと左右のエンジンがかなり大きな噴射音を立て始める。
だいたい3割くらい踏むとそこそこの速度で走り始めた。
明らかに先ほどのオール漕ぎよりも速い。
そこで右のスロットルペダルの踏み量はそのままで、左だけペダルから足を離してみる。
すると噴射口が斜めにセットされた推進器は左右のバランスが崩れ、右側の推進器が船体の尾部を左側に押し出し始めて船首は右を向く。
逆をすると左に船首が向く。
最後に両方均等に6割くらい踏み込むとかなりの勢いで滑走し始めた。
乗っている人を見ると全員バランスを崩して船底に転がっている。
いや、船大工の4人だけはオール漕ぎ用の箱に座ったまま舷側に掴まって何とか耐えていたが。
「いやーごめんごめん。でももうちょっと試したいから全員船縁に掴まってしゃがんでいてくれないかな?」
俺は改めて左右のペダルの踏み量で方向を変え、灯台の下の外海に出る海路に舳先を向ける。
ただ、操作していると左右の旋回方向に違和感を感じたので推進器の向きを逆ハの字にする。
後ろ上から見て推進器が逆ハの字で、噴射口が内側を向いた様な状態だな。
これならバイクやスキーで曲がる時の様に外足荷重のイメージで曲がれる。
ペダルから力を抜いた方向に曲がっていく感じだ。
その後、左右のペダルをゆっくり踏み込んで行くと8割くらいで完全な滑走状態になった。
艤装前なので船体が軽いし、乗員もあまり乗っていないので加速が良いんだろうな。
後ろを振り返るとハイドロプレーニング現象の白い航跡が長く尾を引いている。
ちょっとした波でかなり舳先が上下動するな。
時々船体がジャンプして滑空する様な動きもする。
急旋回しようと左右の踏み量を変えると長い船体がねじれる様な動きをしたのですぐにペダルから足を離す。
ヤバいやばい。
これ、完全に船体がエンジンに負けてるよ。
まぁ木造船だしな。
俺はスロットルを最高でも5割に抑えて湾内をテスト航行する。
噴射口を逆ハの字に開く角度も色々試し、おおよそ30度くらいの角度がバランスが良いと判断する。
この角度でスロットル5割で恐らく帆船の全力走行である20ノットよりは速いのではないか。
これなら海賊船を翻弄するのに苦労はしないだろう。
スロットルも5割くらいなので稼働時間も8時間程度はあるだろう。
まぁ手の届く所にエンジンがあるのですぐに魔石から魔力補充出来るから事実上無限なんだけど。
俺の魔力でも無理矢理充填出来るので、魔力切れで漂流する事はまず無いだろう。
あ、俺以外が乗っている時はさすがにヤバいので一応帆走も出来る様にはしておくか。
帆走する時は舵も使うので、最初は要らないので撤去しようと思っていたが思い留まる。
まぁロープで中立位置に固定しておけば舵はあっても特に邪魔になる物でもないのでそのまま放置だな。
その後念のためモーリスやザンド、デビッドにも操船させてみる。
半分以上絶対に踏み込むなよと釘を刺しておく事も忘れない。
ザンドが木箱に座るときにうっかり片方のペダルを強く踏んでしまい、船体が急速に回転した事もあったので、スロットルペダルに何らかのリミット機能が要るな。
とりあえず1時間ほど色々試して実用には問題の無い事を確認出来た。
推進器はこのサイズの船なら1隻に2セットで十分だな。
この船体に4セット付けてうっかり全開にするとバラバラになりそうだ。
その後、左右の推進器にザンドとデビッドを付けて俺の指示どおりにハンドルを回してもらえば、バックや横移動も出来る事も確認した。
これならサイドスラスター代わりに使えて、完全自力で離岸接岸出来るな。
テスト航行を終えて工房の水路を戻り、最後に推進器の噴射口の向きを前向きの逆ハの字にして前方向に噴射し、出て来た船大工工房の進水用の斜面まで後退する。
工房主は呆れた様な顔をしながら職人に指示を飛ばして船尾の金具にロープを掛け、船底に台車の様な物を咬ませてウィンチの様なドラムを巻き上げ始めた。
俺達は乗ったままだが、船体の重量からすれば誤差みたいなものなので降りてくれとは言われなかったな。
「マーティン様、これまた凄い物をお作りですね。これはどういう理屈で動くのでしょうか?」
工房主が2基の推進器を見ながら感心したように言う。
船としては今までに無い走行原理なので想像も付かないのだろうな。
「これは飛行機械の空気を勢いよく後ろに噴射する物をそのまま流用したんだよ。本来なら空気の代わりに水を吸い込んで後ろに噴射した方が効率はいいんだろうけど、とりあえずこれでも実用になるかどうかを確認したかったんだよね。」
前世でもプロペラボートというジャンルの船がある。
エアボート、ファンボートとも呼ばれる形式で、船体後部に強力なエンジンと航空機用のプロペラを装備し、平らな船底で水草や藻の多い湿地帯を高速で走り抜ける船だ。
確か日本でも災害時の救援物資運搬用に自治体が何隻か買っていたと思う。
その時見たスペックは最高速度が37ノット(時速70km)になっていた。
なのでスクリューやウォータージェットを使わなくとも空圧だけでも速度は出せるのだ。
但し、燃費が悪いので特殊条件の船にしか使われないが、水没するスクリュー構造が不要なので構造が簡単で済むのは大きなメリットだ。
今回俺が推進器を装備した船もそれに類する使用目的なので何ら問題は無いな。
言わば局地戦用迎撃戦闘機だ。
燃費や乗りごごち、快適性は二の次である。




