268◇魔道ジェット船5
268◇魔道ジェット船5
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40ミル砲の図面はガーソンの描いた物の写しを持っていたのでモーリスに見せる。
シラハマに配備してある3門の40ミル砲の内の1門の砲身をこれに流用すべく相談する。
「ランバート領のシラハマという港町に40ミル砲が3門配備されているんだよ。その内の1門を船に積む為に使おうと思っているんだ。それでそのまま積んでも船が小さいんで波による揺れでまともに狙えないんだよね。それを何とかするのがさっき説明したジャイロなんだよ。」
「本当にそんな円盤だけで有効に揺れが抑えられるのか?確かに車輪を持って回転させて振り回すと抵抗を感じるのは分かるけど、そんなに強い力ではなかったぞ。」
「いや、それは回転速度によってかなり変わるんだよ。車輪を手で回すのは目で追えるくらいの回転でしょ。僕のやろうとしているのは1秒間に100回くらいは回す予定なんだ。」
6000rpmくらいだな。
前世の車のエンジンの全開くらいの回転数だ。
ジャイロとしてはそんなに速くないが。砲身の安定装置としては十分だろ。
足りなければ円盤を重ねたり回転数を上げたりすればいいしな。
軸受けだが、この世界では高速回転対応のボールベアリングなんて夢のまた夢なんで、古来より利用されて来たピボット軸受けを使う。
これならこちらの技術でも卓越した職人なら何とか作れる。
円錐状に凹んだ受け皿をサファイヤやルビーなどの高硬度な材質で作り、それを大量の潤滑油の中に沈める。
軸の方は受け皿よりも僅かに尖った円錐状の棒で、摩耗しにくい様に硬度の高いアダマンタイト含有のミスリル鋼で作り、熱処理もする。
軸の上側も同じ様な構造にし、軸受けはシリンダー状の押さえ構造にしてスプリングで少し与圧を掛ける。
こちらは受け側の中心に微細な穴を空け、上から潤滑油を滴下する。
上下の油さえ切らさなければそこそこ使えるはずだ。
これで芯ブレせずに回転すると思う。
下側の受け皿の耐荷重が50kg近くになるが、軸そのものを太くすれば対応出来るだろう。
ぶっちゃけ、軸の直径が15cm程度あっても別に構わないのだ。
そういう風に理屈を交えてモーリスに説明する。
原理説明として魔道送風機に使う小さなエンジンで駆動するジャイロを作る事にした。
円盤の直径は20cm程度で重量も1kg程度だ。
C型の枠の上下にミスリル鋼で作った円錐形状の受け皿を取り付け、上下端が尖った軸にこの円盤を取り付ける。
軸の途中には効率はある程度無視した簡素な構造のタービンを置いて送風機をC型の枠に固定して直結する。
2時間くらいの試行錯誤で何とか形になり、全体で5kgくらいに収まった。
魔法による金属成形が出来るとは言え、無茶苦茶速いな。
「よし、試すぞ。上側の潤滑油の供給は確かか?」
「うん、順調に滴下してるね。どれくらいで焼き付くか分からないけど、摩擦熱の放熱も考えないとならないかもね。下の受け皿はオイルに浸かっているのでそれでだいぶ放熱してくれると思うけど、回転数が速いからね。」
「ではエンジン回すぞ。軸の回転を見ていてくれ。」
エドモンドがスロットルレバーを少しずつ上げる。
徐々に上げるが中々円盤が回り始めない。
フルスロットルにしても回転の上昇が遅いので一旦止め、軸にロープを巻き付ける。
円盤を手で逆回転させて軸にロープを巻き付け、20回くらいで止める。
「スロットルを全開にして!」
俺が叫んでエドモンドがスロットルレバーを一杯に倒したと同時にC型の枠を持ってロープを思いっきり引っ張る。
独楽回しと同じ理屈だな。
もしくは前世の昔の小型エンジンのハンドプルスターター。
軸の直径が5cmくらいあるから十分な回転トルクがかかり、回転数が上がる。
暫くするとタービンの効率の良い領域に入った様で、円盤に付けた赤いマークが凄い勢いでくるくる回り始めた。
回転バランスは良い様で、振動も殆ど無い。
回転数を測定する方法が無いが、赤いマークが目で追えなくなるくらいの勢いで回り始めたのでエドモンドにスロットルを2割ほど下げる様に言う。
すると回転の上昇が止まって一定速で回り始めた。
その状態で固定していた地面に打ち込んだ杭から外し、C型フレームを手に持って前後に傾けてみる。
もの凄いねじれ方向の力が加わってまともに前後に傾けられない。
うん。
確かに強いジャイロモーメントが発生し、外部に影響しているな。
前世のプレジャーボート用の船の中に積んで、横揺れを防止するジャイロスタビライザーみたいなもんだな。
あれも数千rpmで重たい円盤を電動モーターで回して、そのねじれ力を角速度フィードバック付きのサーボモーターで船体に伝え、船体の横揺れを物理的に抑える物だ。
俺のやろうとしているのは船体ではなく砲身のみの安定化なので、縦揺れを抑える為にジャイロを砲身に直結し、人間が手で全体の動きをいなしてサーボモーターの代わりをさせるという物だ。
その動きを検証する為に砲口が上下動する砲身の様なパイプ状の物を作り、それの台座をテーブルに固定する。
その砲身に見立てたパイプにジャイロのC型フレームを固定して動作させる。
これで砲身とジャイロが一体化して自由に上下に振れる様になる。
前後バランスを取っているので手で軽く上下に振れるな。
もちろん慣性重量はあるのでそんなに素早くは動かせないが。
そこでエンジンを始動してタービンに圧縮空気を送り込み、軸に巻き付けたロープを引いて回転速度を上げてスロットル8割に下げて定常回転になる様にする。
その状態で砲身を持って上下動させようと力をいれるとかなりの抵抗が発生する。
逆にテーブルの端を持って上下させても砲身は水平のままだ。
うん、原理的にはこれで合っているな。
モーリスもエドモンドも自分で砲身を揺すったり机を持ち上げたりしながら確認して唸っていた。
やはり2人とも自分の目で見て確かめないと気が済まない性分なんだろうな。
逆に一旦理解したら後は自分で猛烈な勢いでやるので頼もしい限りだ。




