251◇団長異世界談義5
251◇団長異世界談義5
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さて、最後は魔道ジェットエンジンを使った蒸気機関風の動力機構だ。
「最後のこれはどういうものじゃ?先ほどのオイルダンパーに近い構造の様に見えるが、これを動力にするのか?」
「そうですね。魔道ゴーレムエンジンを自走車の動力に使われていますが、制御が難しくて速度もあまり出せません。耐久性も少し不安なところがあります。それに代わる自走車用の動力ですね。」
「言ってくれるではないか。まぁ確かにあの状態では実用とは程遠いのは事実じゃな。して、お主の言う物はどんな性能を示してくれのじゃ?」
「性能は想定ですが最高速度は平坦な道なら時速60キロム(km)程度は出せると思います。減速機を付けたり複数搭載すると10タン(t)程度の重量物を積載して時速30キロムで運搬可能になると想定しています。まぁ速度はこの国の道が整備されていないのでそちらで制限されると思いますが。」
「まず道か。それは儂も地方に行く度に思うておるがのう。王都周辺ならまだ石畳やレンガの道があるが、少し郊外に出ると途端に土の道じゃ。雨が降ったらぬかるむし、乾いたら轍が固まって車輪が取られ、土埃も舞い上がる。まぁお主の言うタイヤが実用化されればかなり改善するんじゃろうが、それでも限度があるという事じゃな。」
「そうなりますね。輸送の高速化は道路に掛かっています。そして乗用の馬車でも同じ様に道路が平坦でないと速度を出せません。車輪の改良と合わせて道路の舗装も考えてみませんか?」
「いや、まず道路はいいからまずお主の思っている動力の説明をせんかい!いつも脱線しおって。」
「あ、いや失礼しました。いつも余分な事を考えてしまって、今後起きる不具合を予め除去する方向に考えが走りまして。では説明しますね。」
ヤバいヤバい、いつもの癖とは言え、実際に道路の状態が制限になって時速60kmは無理なんだよな。
前世の高速オフロードカーみたいなロングストロークサスペンションと低圧大径オフロードタイヤがあれば別だが。
「まず高圧の空気を発生させる必要がありますが、現在の魔道砲に使っている魔道コンプレッサーの圧力はどれくらいで流量はどれくらい取れますでしょうか?」
「そうじゃのう。圧力の単位は知っておるか?まずそこから教えよう。水銀を丈夫な片方が塞がった長いガラス管に入れ、ひっくり返して口を水銀の容器に入れると水面から約800ミルキロムの位置までガラス管の中の水銀の水面が下がる。この中には何も入っておらず極空と呼んでおる。これを基準として色々な圧力の単位を決めておる。まず大気圧と極空との差圧を他の原理の圧力計器を使って同じになる様に測定し、それを1気圧としておる。魔道コンプレッサーの発生圧力はだいたい50気圧と言ったところじゃのう。」
圧力の単位があったんだ。
まぁ1気圧ベースだから前世と同じで自然発生的な単位ではあるな。
水銀柱なんて前世では17世紀半ばにトリチェリが発案したくらいなんで、10mを超える吸い上げ井戸が作れない問題と合わせてかなり前に認知されていた様だ。
そこら辺を団長に聞くと、500年前の賢者が発案したと言っていたな。
この惑星の大気圧組成がどうかは分からないが、水銀柱が約800mmなので地球より5%大気圧が高いな。
長さの単位も正確に同じとは限らないのでもっと違うかもしれないし。
まぁそれくらいなら誤差みたいなもんなので概算では無視していこう。
1MPa≒10気圧なのでだいたい5MPaってとこか。
前世のスキューバダイビングのアクアラングが約20MPaだったからそれの4分の1くらいか。
狩猟用エアライフルの蓄圧タンクもそれくらいなので、魔道砲の砲弾を撃ち出す能力は少し低いな。
それで最大射程距離が150m程度と言ってたんだな。
まぁ前世の蒸気機関車の蒸気圧がだいたい1.6MPa程度だったから圧力そのものは問題無い。
「ではその圧力時での流量はどうでしょうか?連続してその圧力を維持したまま流し出せる流量ですね。」
「それは計った事が無いから分からんのう。だいたい魔道砲に連続して流し込む必要が無いからのう。」
それもそうだ。魔道砲は蓄圧タンクに魔道コンプレッサーで加圧して充填し、それを開放弁で一気に砲身に導く事で砲弾を撃ち出すものなので連続流量は無関係だな。
だがここでエドモンドが作った魔道送風機を思い出す。
「実は魔道銃を作る鍛造工程で使うので魔道送風機というのを作ったのですよ。魔道エアクラフトに使う魔道ジェットエンジンを複数個直列に接続し、その出力を6連ふいごに送り込んでリンクで連結し、機械式鍛造機のハンマーを持ち上げて落とすというものですね。それの原理と近いのでまずそれを自走車に応用した場合で説明します。」
最初からピストンやシリンダーを出すのは敷居が高すぎるので、同じ様な効果を出せるふいごで説明する。
ストライカーハンマー鍛造機では直線運動をするだけだったが、これを回転運動に変換する必要があるな。
まず紙に送風機とふいごの概略図を描く。
ふいごの柄の部分からロッドを出し、これにクランク軸の偏心受け軸に接続する。
クランク軸にはふいごの加圧伸張行程では閉じて、排気収縮行程では開く開放弁をカムで動作する様にし、ふいごの送風機から入るパイプに取り付けてある。
動作は以下の様になる。
ふいごの開放弁は閉じている。
送風機からの圧力風がふいごに入り、ふいごが伸びてロッドを押す。
ロッドはクランク軸の偏心受け軸を押して回す。
ロッドが押し切った所でクランク軸のカムがふいごの開放弁を押して内部の圧力を逃がす。
クランク軸は慣性で回り続け、最初の位置に戻った時にふいごの開放弁を閉じる。
クランク軸が最初の位置に戻った時点でふいごに圧力風が入り、伸びてロッドを押す。
上記を繰り返し、回転動力源とする。
実際には上記を3組作り、回転開始位置を1回転を3分割した位置にすることでいかなる位置からでも始動可能となる。
これは魔道ゴーレムエンジンでもやっていたので理由は分かるだろう。
「これはかなり複雑になるのう。これで本当に魔道ゴーレムエンジンの代わりになるのかや?」
「そのままでは難しいでしょうね。これはあくまで原理図です。圧縮空気の無駄も多いですし、ふいごという耐久性に難がある物を使っています。まずふいごをオイルダンパーの様な円筒形の中子が往復する形状に変更する必要があるでしょう。」
「いや、文句を言っておる訳ではない。うむ。原理は分かった。早速実験機を作ってみようではないか。百聞は一見にしかずと言うしのう。」
実際に「百聞は~」と言った訳ではない。
こちらの言葉でそれに相当する古くからある言い回しをしただけだ。
面倒くさいが、俺の脳内で勝手に変換されちまうんだよ。




