237◇訓練飛行
237◇訓練飛行
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あれこれ電気について考えていると眼下に見慣れた風景が見えてきた。
王都の町並みだが、高度1000mのままで王宮と軍部を避ける様に飛ぶ。
まぁもう見つかっても問題無いんだが。
スロットルを5割くらいに落とし、軍部工場の上で旋回を開始する。
そのままゆっくり降下し、スロットルを2割くらいに絞ってフレアをかけながらゆっくり着陸した。
さすがに尾輪は接地させない。
あれから付けてもらった尾輪だが、簡単な板バネの先に付いているので着陸時に接地すると弾むのだ。
するとかなり姿勢が崩れるので、接地はさせないに越したことはない。
20mほど滑走して一旦停止する。
再度スロットルを少し開けてタキシングし、格納庫の入り口まで戻って来た。
「やぁお疲れ様。どうだった?」
「いやー最初は凄いと思ったんだけど、俺達が騒いだ直後に全速力にしただろ。あれでちょっと怖くなってな。後ろからエドモンドが俺の肩を掴んで来るんで少し痛かったぞ。」
「俺も最初は良かったさ。でもあの全開飛行は何だよ!目も開けられないし、呼吸も苦しくなって来たぞ。思わずモーリスの肩を掴んで俺以外の存在を確認してしまったんだ。モーリス痛かったらすまん。」
「俺は肩は頑丈だから掴まれてもなんともなかったが、俺自身もうっかり操縦桿を触りそうになるのを必死で堪えながらマーティンの席の後ろにあるバーを掴んでいたな。」
そんなに怖かったのか。
てっきりはしゃいていたからもっと飛ばして欲しいものだとばかり思ってたがな。
だが時速180km相当の速度も、30度上向きの加速もこの世界ではあり得ないものだ。
前世なら遊園地のジェットコースターでも出せる物があるのでそう驚くほどでは無いんだがな。
まぁあれは安全性が確保された上で自分の意志で乗り込むアトラクションだ。
いきなり強制されたら怖いわな。
「いやーごめんごめん。工場の上を旋回中にえらいはしゃいでいたからもっと楽しんでもらおうと思ってね。一応あれがこの機体の最大加速と速度だよ。」
「あの速度なら国中どこでもすぐに行けるな。凄いもんだ。作った俺が言うのも何だけど。」
「エンジンが4基同時に全開にするとあれほど凄いとは思わなかったよ。音も綺麗に揃っていたのでそこは良かったな。」
まぁ時速200kmにも達していないので今後の課題は大きいんだが、今それを言うと彼らのやる気を削ぐので言わないでおこう。
前世ではWW2のレシプロのプロペラ機でさえ時速700kmに達せたのだ。
原理がジェットのこのエンジンで出せないと悔しいしな。
俺は自分の席のシートベルトを外して降り、モーリスとエドモンドのシートベルトも外す。
2人とも足がガクガクしているな。
かなり緊張していたみたいだ。
目も真っ赤になっている。
やはりゴーグルは必要だな。
「さて、次はデビッドだね。装備を付けて前席に座ってくれないかな。」
デビッドは国境まで飛んだりランバート領まで飛ぶのに付き合わせているので飛行装備一式は持っている。
ヘルメット、ゴーグル、グローブ、革製のジャケットなどだ。
ズボンや靴までは指定していないので自前のそのままだが。
「本当に飛ぶんですか?座学では到底覚えきれなかったんですが。」
「心配要らないよ。僕が中間席に乗って操縦するから。操縦桿は前後の席で連動しているから飛行姿勢と合わせて見てくれるとだいたい分かると思うんだ。スロットルレバーも後ろから手を伸ばして操作するんで時々見ておいてね。」
そうして装備を着けたデビッドを前席に乗せてシートベルトで縛り、飛行時の注意をする。
「今回、僕が指示するまではこの操縦桿と左のスロットルレバーには触らないでね。それと足下のペダルにも靴を当てない様に。それらは前後の席で連動しているんで、前席でうっかり扱われると操縦不能になるんだ。」
「分かりました。複座機のコントロールバーと同じですね。」
「うん、あれよりはちょっと複雑だけど、何回か飛んで徐々に慣らしていけばそれほど難しくはないかな。」
まだカイトプレーンの段階である。
エルロンが不要なくらいに自立安定性はある。
要は横転の危険性がほぼ無いということだな。
逆に背面飛行や宙返りが出来ないが。
中間席に乗ってシートベルトを締め、スロットルレバーのロックを外す。
サイドブレーキを外し、左手をちょっと前に伸ばしてスロットルを2割程度開けてタキシングし、滑走路端で機首を風上に向ける。
「まず左のこの4本並んだレバーがエンジン推力を調整するスロットルレバーだよ。後ろ側が停止、前側が全開で、その間は20段階に出力を調整出来るんだ。二人乗りの場合はだいたい全体の7割くらい開ければ離陸出来るね。」
「この4本のレバーは個別にも扱えそうに見えますが、どうして分割しているんです?一体化して一括して扱えた方が迷いが無くていいように思えますが。」
実はそれも考えてはいるんだよね。
前世の実機を真似してこうしているけど、実際には電動ダクテッドファン並みに扱いが簡単な魔道ジェットエンジンの操作なのだ。
止めるのも全開にするのもモーターコントローラ並みにワンタッチである。
ならば個別にリニア制御するのではなく、マスターコントローラで4基を一括制御し、個別にオフに出来るスイッチを付ける方が合理的ではないのかと思っている。
ぶっちゃけ前世の電動ラジコン4発機だな。
まぁ暫くはこのまま行って、もうちょっと航空産業が熟成してからでもいいかとは思うが。
前世でも空飛ぶ車やらドローンタクシーやら出た時に、操縦体系なんて航空産業のそれを丸っきり無視してるのもあったしな。
「これはあえてこのスタイルにしてるんだよ。4系統個別の制御系にしておけば、どれかが故障してもそこだけオフにして残りの3基のバランスを取る事で真っ直ぐ飛べるでしょ。あと、わざと2系統をオフにして残りの2系統だけで飛ぶ事で、魔石の消費を抑えて長距離を補給無しで飛べるとかね。」
とりあえず今はそういう理屈付けをして納得させる。
「なるほど。そういう事もあるんですね。分かりました。あとこの操縦桿?ですか。コントロールバーとどう違うんでしょうか?」
「コントロールバーは主翼の向きを操縦席から直接動かしてたよね。でもあれをそのまま大きくするともの凄い腕力が必要になるんで翼の一部だけを動かす様にしたんだよ。今は停止しているから操縦桿を触ってもいいよ。後ろを振り返って、尾翼にある小さな動翼が連動して動くのを見てみて。」
デビッドは操縦桿を握り、振り返って尾翼を見ながら前後左右に動かす。
しばらく操作しながらブツブツ言っていたが、昇降舵の動きが逆じゃないかと言い出す。
引くと昇降舵が上に向き、押すと下に向く。
「操縦桿を押すと上昇する方が自然じゃないですか?複座機はコントロールバーを押すと上昇しましたよね?」
「あれは複座機の方が物理的に仕方が無くあの操作方法になっていただけだよ。何せ主翼を直接掴んで操作する様なものだからね。だけど本来の操作感からすると物を持ち上げると上に行くよね。物を押すと下に落ちるよね。そちらの方が自然なんでこうしたんだよ。」
そう、リンケージで如何様にも出来るので押して上昇も出来るのだ。
現にモーリスが最初そうしてたし。
でも前世で実績もあるし、俺自身の慣れもあるので押して下降、引いて上昇は譲れないのだ。




