176◇僕のなつやすみ5
176◇僕のなつやすみ5
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停止した2隻の海賊船のすぐ横を大型船は悠々と抜けて行く。
海賊船の船縁からは海賊達の大騒ぎしている様が見える。
矢を大型船に射かけている様だが、象を蚊が刺した様な物で全く効果が無い。
そうこうしていると冒険者を乗せた4隻の小型船が2隻の海賊船に近づいて来た。
4隻の冒険者船は少し遠巻きにして2隻の海賊船を見ている。
そうしている間に海賊船は僅かずつ沈み始めていた。
どうやら装甲板の重量が木材の浮力よりも大きい様だ。
10分も経つと海賊船は殆ど沈み、水面から30cmくらい船縁が出ている所で浮力が均衡して沈下が止まった。
水面上に出ている木の構造物が水面下に沈んだ事で相対的な浮力が増したんだろうな。
海賊達はどうしようもなくなり、囲んでいる冒険者達に威嚇を続けているが、だんだん元気が無くなっていく。
冒険者が一斉に矢を射かけて海賊の何人かが倒されると、とうとう白旗を上げて降参した。
冒険者の代表が仲間に声を掛け、4隻の船尾から長いロープを垂らした。
ロープには所々に浮きが付いている。
海賊に声を掛け、そのロープに掴まる様に言う。
4隻の小舟のロープに10人ずつくらいの海賊が掴まった。
その状態で小舟を漕ぎ出し、冒険者協会の近くの港の波止場に向かう。
波止場では30人くらいの漁師などのガタイの良い男達がロープを持って待ち構えていた。
「これで一網打尽だね。何人か死んだかもしれないが、まぁ大成功の内かな?」
「いえいえ、この上ない大成果ですよ!今まで対処のしようが無かった海賊をここまで一方的に叩きのめしたのは初じゃないですかね?」
「そう言えばこれ、俺が出て行った方がいいんかな?」
「出る義務はあると思います。これだけの成果を出しておきながら実行者不明では収まらないでしょうし。何より領主様がこの結果を知ってまず思い浮かべるのはマーティン様では?ちょうどここに滞在していますし。」
「そうだよなー。バレない訳ないもんなー。ならこの場で出て行くしかないか。」
俺は観念して今使った一式をストレージに仕舞い、崖を降りて行った。
俺と護衛の2人で中央通りを抜け、冒険者協会の建物の中に入る。
平民服で簡易武装だけの3人を見て職員は訝しむ。
この海賊騒ぎの中で場違いな組み合わせだからだ。
先頭に立つ背の低い子供に見える男。
その後に続くちょっと体格の良い普通の2人の男。
どう見ても冒険者とは無関係に見える。
「どうしました?ご依頼ですか?」
「ここの責任者と会いたい。連絡を取ってもらえないだろうか?」
ザンドが前に出て職員の一人に言う。
懐から護衛部隊の身分証を出して見せる。
領主直属の護衛部隊の班長の身分証だ。
これには職員も顔を青ざめさせて少々お待ちをと言う。
その職員が奥に消えて3分ほど経つと戻って来た。
「お部屋にご案内いたします。こちらにどうぞ。」
ザンドを先頭に、俺、デビッドと続く。
やはり一番貫禄があるザンドが出るとスムーズだな。
デビッドの方が少し年上だが。
部屋に入るとハゲ頭の背の高い男が待っていた。
「ようこそ冒険者協会シラハマ支部へ。私は支部長のゴンザレスです。ご用件は?」
「私は当領の護衛部隊所属のザンドと言う。先ほどの海賊騒ぎの件だ。海賊船2隻が急に沈んだと思うが、それの原因を説明しに来た。」
「そちらのお子様はどちら様で?場違いの様に思えますが。」
「こちらは当領の領主様のご子息でマーティン様だ。今回の状況の責任者でもある。」
そこで俺が前に出て情報局発行の身分証を見せる。
「私が最近王都で騒がれているマーティン・ランバートだ。魔道銃の開発責任者でもある。今回、魔道銃の強力な試作品を使って灯台のある崖の上から海賊船2隻を遠距離狙い撃ちして行動不能にした。具体的には舳先に積んである投石器を破壊し、その下の船体の水面下に弾丸を多数撃ち込むことで大穴を開け、沈没寸前まで持って行ったのだ。原因不明ではまずいと思ってな。それで報告に来た。」
「本当ですかい?手ぶらの様に見えますが、魔法か何かであの距離を飛ばしたので?」
「いや、魔法も多少使っているが、実際に撃ち放ったのはこれだな。」
俺はストレージからバレットM95をケースごと出し、デビッドが蓋を開けて銃本体を取り出してテーブルの上に置く。
かなり撃ちまくったので硝煙臭いな。
12.7mm弾も1ケース出し、蓋を開けて1発支部長に見せる。
「この先の尖った部分を多数飛ばして海賊船の舳先を穴だらけにして沈めたのだ。これはまだ試作品で部外秘なのでここだけの話にしておいてほしい。もし漏れた場合は責任を取ってもらうことになる。」
いきなり多量の情報をぶつけたので支部長は目を白黒させている。
急な事で質問も思いつかないのだろう。
しばらく黙っていた。
30秒ほどしてやっと口を開く。
「マーティン様、でしたっけ。これはどれくらいの威力で、どれくらいの遠方まで届くので?」
「威力は200サブキロム(m)離れた所にある鉄鎧なら5枚くらいは重ねて撃ち抜ける。有効な距離は400サブキロムくらいまでだな。」
少し弱めに言っておく。
本当なら鎧10枚、有効射程は800m程度はあるな。
自衛隊の使う12.7mm普通弾は銅ジャケットの鉄芯なので、徹甲弾ではないが貫通力は高い。
「そんなに凄いんですか!あぁ、あの距離でそれなら納得です。今後もそれは使っていただけるのでしょうか?」
「今回は緊急事態として、余暇でこちらに来ていた私が対応した。この後私は領都に戻って王都学園に行くし、護衛部隊も領都での任務がある。今後の事については私だけでは判断出来ないので、領都に戻った時に領主である父上に報告し、指示を仰ぐ事になる。」
俺がそう言うと支部長はあからさまに失望した様な表情をした。
まぁ今回実効能力を発揮したのだ。
父上に進言し、領軍の中から魔法兵を何人か選抜してバレットM95改と共にこの港の領軍支部に在籍させる様に言おう。
今はここの領軍支部には5人程度の兵士と指揮官しか居ないので警察代わりみたいなものだな。
海賊を抑える戦力は到底無い。
「では冒険者達が海賊を捕虜として連れて帰るはずだ。ここにあの人数を監禁できる施設はあるまい。ならば早急に縛って荷馬車などに積んで領都に移送すべきだな。あそこなら練兵場に併設された監獄があるし。」
「はい、そうさせていただきます。マーティン様もすぐに領都に戻られて領主様にご報告されるので?」
そうなんだよなー。
このまま夏休みバカンスをここで続ける訳にはいかないんだよなー。
さらば僕のなつやすみ。




