174◇僕のなつやすみ3
174◇僕のなつやすみ3
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まず邸内のウェイティングルームに通され、埃を被った上着を脱ぐ。
その間にアンナと護衛2人は馬車から荷下ろしをする。
トランクを全部運び込み、アンナが俺の室内着を出して着替えを手助けしてくれる。
それが終わるとアンナも上着を脱いでメイド用の頭から被るエプロンをする。
護衛2人も同じ様に上着を脱いで室内用の制服を着る。
うーん、俺は皆で遊びに来たつもりだったが、別荘という事は我が家の延長に当たるらしい。
なので彼らは仕事になるという事だった。
しまった、別に宿を取ればよかったな。
管理人のニック、エミリー、アニーが自己紹介し、こちらはザンドが全員を紹介する。
もちろんこの場の主人は俺になる。
「急に来てごめんね。今日からしばらく世話になるよ。」
「あ、マーティン様の身の回りは私がお世話しますのでお構いなく。」
「我々は護衛ですので控室で待機します。」
うーん、思ってたのと違う。
王都から戻って来ている最中の宿泊時は貴族用の副室付き部屋だったのでほとんどドア解放で修学旅行みたいだったんだけど。
一応仕事なんだけど、同じ旅をする仲間みたいな。
なので提案する。
「僕らは一応立場はあるけど、今日はみんなで遊びに来たつもりなんだ。だから堅苦しい事は抜きにして、みんなで同じ食事を摂って話し合いたいと思うんだよ。どうかな?」
「それは、アンナさん、ザンドさん、デビッドさんもお客様という扱いにするという事でしょうか?」
「あ、うん、それはまずいか。同じランバート家に仕えている同士で格差を付けることになるもんね。いや、そしたら朝食は全員で摂ろう。皆同じ食卓に着いて一斉に食べるんだよ。もちろん食べる物も同じにして欲しい。」
「それは出来ますが、食事にかかる費用がマーティン様と我々では基本的に違います。その費用はどうしましょう?」
「うん。僕が全部持つ。とりあえずこんだけ預けておくから足りなかったら言ってね。」
俺は1000シエク銀貨(1万円)を20枚渡した。
いくらなんでも数日間でこれ以上は使うまい。
相場が分からないので何とも言えないが。
「それから昼食と夕食は港町で食べるから不要だよ。あまり遅くならない様にするけど、午後8時までには帰るから風呂と寝る準備だけはお願い。」
「分かりました。ご希望に添うようにさせていただきます。」
ふぅ、やっぱり金銭だけで支払ったら縁が切れるホテルの従業員とは違って、別荘の管理人となると気楽にしたい場合の扱いがやっかいだな。
主用の部屋に通され、アンナが部屋の各部の使い勝手を確認し、ザンドとデビッドが防犯上の確認をする。
それが済むと廊下を挟んで向かいの従者用の2部屋をアンナとザンド、デビッド用に案内された。
一応俺も確認する。
2部屋とも平置きのベッドが2台づつあるシンプルな部屋だった。
洗面とトイレは廊下の突き当たりと言われる。
俺の部屋はどちらも室内にあるし、小さな浴槽もあるが。
まぁこれは仕方ないだろう。
とりあえず1時間休憩して外出することにする。
アンナは管理人との俺に関することの打ち合わせ、ザンドとデビッドも別荘の隅々まで防犯上の確認やもしもの時の避難経路、逃走経路を確認すると言っていたな。
俺はその間予め調べて持って来ていたシラハマのガイドブックとも言うべき父親や母親、マークなどに聞いてまとめたノートをめくる。
今はまだ午後1時くらいなのでまだ日は高い。
というよりもまだ昼飯を食ってないじゃないか!
どうりで腹が空くと思った。
午前中の道の駅?で食ったアンナ選定のスウィーツでちょっと誤魔化されてたんだな。
1時間が経って3人が戻って来た。
皆何かそわそわしている。
分かっているって。
腹が減ってるんだろ?
俺もそうだ。
とりあえず初っ端のランチとしてお勧めの店をニックとエメリーに聞く。
中央通りの海竜亭が一番の人気だと教えられる。
礼を言って4人で出かけることにする。
その前に4人とも少し前に領都をぶらついた時と同じ平民の服に着替える。
やはり形から入って現地に馴染まないと地元の美味い物は食えないと思うんだ。
別荘から中央通りまでは徒歩で20分程度とのことなので歩きで出発する。
前世ではちょっとした距離でも車やバイクを使っていたので、馬車で移動しないゆっくりとした風景を堪能する。
こちらの世界では庶民は基本歩き、貴族でも王都以外なら多少の距離は歩く。
なのでそれなりに足腰は鍛えられていて、貴族でも30分程度なら文句も言わずに歩くのだ。
そもそも貴族の趣味であるハンティングなど一日中歩いている様なもんだし。
痺れ薬を塗った弓矢で狩るのだが、馬なんかに乗っていたら騒々しいので獲物が全部逃げるしな。
別荘から降りる小道はここ専用の道で、通り抜けは出来ない。
なのですれ違う人や馬車は皆無だ。
5分ほど歩くと山側の通りに出る。
ここは住宅地で、瀟洒な屋敷が立ち並ぶ。
富裕層の別荘地の様だ。
人通りもそこそこあり、小型の馬車が時たま通る。
更に10分ほど歩くと中央通りと書いた道案内のある通りに出る。
中央通りと言っても前世の2車線道路くらいの幅だ。
車がすれ違えて幅の狭い歩道がある程度。
日本の田舎の道といった風情だな。
簡易舗装の様な石畳の様な不思議な路面は恐らくアース系魔法で固めたものだろう。
この世界は魔法があるので意外と土木工事が高度だ。
アーチ型構造も地球のとは少し異なり、少し湾曲した平たい板を積層した様な形状だ。
俺が魔の森で木の洞を覆ったのと似たような手法だな。
気がつかないまま俺の方が真似をしたのかもしれない。
家屋の壁も同じ様な構造で、そのまま3階建てまである。
町並みを見ながら5分ほど歩くと徐々に商店や食事処が増えていき、管理人に聞いた「海竜亭」の看板が見えた。
ドアを開けて入るとほぼ満席だったが、ザンドが領主直属護衛部隊の身分証を見せると特別室に案内された。
止めようと思ったのだが、ザンドが流れる様な動きで身分証を見せて案内させたので止める間がなかった。
せっかく平民服を着てきたのにこれでは意味が無いな。
更に俺の事を領主次男だと早速バラしやがったし。
罰として4人全員俺と同じ席に着いて同じ物を食うことを強要する。
他の2人は道連れだな。
ウェイターには俺の情報局の身分証を見せ、他の3人は同僚扱いだと言って俺の意見を強く通す。
これで逆らえまい。
ウェイターには多少金額が張ってもいいからと言い、海竜亭のお勧めランチを4人前注文する。
3人にはワインを小グラスで、俺にはグレープジュースを指定する。
どうだ、これで俺以上のメニューになったぞ。
ざまぁみろ。
まぁそんな事を言ってもこの3人とは王都への行き帰りで散々食い歩きやぶらつきなどをやっているので今更なんだが。
15分ほどしてランチが運ばれて来た。
数をこなすためにランチは作り置きしているのだろう。
高いメニューも品数が増える程度で基本は同じ様だった。
エビ、カニ、ホタテ、サザエ、アワビ、タイ、ヒラメを中心とした煮物焼き物が続く。
さすがに刺身は無かったが、タタキの様な周囲を炙った品はあった。
タレも醤油ほどではないが、魚醤の少し薄味の様な物を掛けたり漬けたりして食べる。
何となく日本の天ぷらと焼き魚の雰囲気があった。
「おいしいですね!祖父母の家ではもうちょっと庶民的な魚が中心でしたが、さすが海竜亭ですね。」
「知っていたの?海竜亭。」
「はい、でも高級店なので1回しか連れて行ってもらった事はありません。たぶん10年くらい前ですね。」
そりゃーあまり覚えてないか。
「我々もこんなご馳走いただいて嬉しいですね。ちょっと背伸びをしたら入れないことも無いんですが、まぁ仕事をしている間は食べる事は無いのでありがたくいただきます。」
「私も領主様の護衛で数回こちらに来た事はありますが、食べるのは初めてです。確かにおいしいですね。」
うんうん。
たんと食べたまへ。
支払いはアンナに預けている1000シエク銀貨(1万円)が30枚あるので足りなくなる事はあるまい。
護衛2人にも緊急用としてそれぞれ1000シエク銀貨20枚ずつ預けてあるので何とかなるだろう。
アンナに祖父母の家に行った時の事を聞きながらその時に中央通りに繰り出して回った店などを聞く。
とりあえず食後にそこらをぶらつこうとなって会計をする。
4人で3000シエクだった。
1人7500円相当だな。
まぁ海が近いし新鮮だし量もそこそこだしで、高級店を考慮してもまぁまぁ妥当な額に思えた。
逆に貴族の食事としてはかなり安いのかもしれない。




