153◇鍛造機改造
153◇鍛造機改造
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次の日の昼食後にガーソンが訪ねて来た。
俺に用があるらしい。
「マーティン様、あの鍛造機の使い方に慣れて来ましたのでちょいと触らせてもらいたいと思いまして。つきましては触る前にご意見を伺いたいと思いましてお迎えにあがったのですが。」
「アレの改造は勝手にやって事後報告でいいと言ったと思うんだけど?ああ、万一壊して使えなくなると困るんだよね。わかった。一緒に行くよ。」
俺は護衛2人と共にガーソンの工房に向かう。
ガーソンは歩きで来ていたので俺馬車に乗せて行く。
「マーティン様、この馬車すげぇですね!まるで振動が無い。空を飛んでいる様だ。」
それは大袈裟だ。
まぁ俺も最初に乗った最初の30秒間はそう思ったんだけど。
「まぁ王都の最新の足回りだね。知り合いから譲ってもらったんだよ。」
嘘は言ってない。
「後でよく見せてもらえやせんか?俺の工房でも参考にしたいんで。」
「いいよ。見るだけならいくら見ても。あ、分解はしないでね。」
釘は刺しておく。
この手の人種は目を離すと危ない。
ガーソン工房の横の搬入口に馬車を停め、裏口から工房内に入る。
案内されて先日据え付けたストライカーハンマー鍛造機の前に移動する。
2台とも工房の職人がガシガシ打っていた。
時々パシュンという音がして動かない時があるが、ペダルをもう一度踏み直すときちんと動作する。
「分かりますかい?時々スカを踏んで動かない時があるんですが、これってどこが原因か分かりやすでしょうか?」
「ちょっと見てみるね。」
俺はハンマーの下に保護用の木片を置いてもらい、ペダルを連続して踏んでみる。
確かに踏む間隔が一定以上速くなるとスカを踏む割合が多くなる。
これってストライカーが元の位置に戻ってないのにペダルを踏むから、初期位置でふいごの押し上げロッドの先端がストライカー上端に引っかかってないだけみたいだな。
負荷が無いのにふいごに圧縮空気が送り込まれるもんだから押し上げロッドが空振りしている。
パシュンというのは無負荷状態でふいごの排気弁が一斉に勢いよく開く音だな。
となると、押し上げロッドのリターンスプリングを強化して、勢いよく戻る時にストッパーに激突しない様に緩衝材を付ければいいか。
「どう、僕の見立ては。」
「はい、俺も同じと思いやす。これやって壊れませんかねぇ。」
「それは僕にも分からない。一応ミスリル鋼系の材質で作ってあるからかなり頑丈とは思うんだけど、どんな物にも限度はあるんで試してみるしかないねぇ。予め壊れそうだと思った部品の寸法を計っておいて、もし壊れたらこちらで近い寸法で作って置き換えてもいいよ。但し後で必ず報告はしてね。出来れば図面付きで。」
「はい、分かりやした。まず寸法を計って簡単な図面を書いておきやす。」
「ただ、打つ間隔をもう少し空ければ空振りはしないんだけどねぇ。そこまで追い詰める気は無いから、まず少しだけのんびり打ってみてくれないかな。その方が機械の寿命も長くなると思うんだ。それでも壊れたら仕方ないしね。」
「うーん、2台並んで打っているといつの間にか競争みたいになっちまうんですよ。ではこうしましょう。」
ガーソンが言うには...
競争は禁止する。
空振りは機械を痛めるから少しゆっくり打つ様に心がけ、むしろ打つ素材の方に神経を集中させる。
あまりにも空振りが目立つ様なら交代させる事を事前に言っておく。
壊したらまずその時点で報告し、壊れた時の状況を図入りで詳しく報告書として作成する。
「うん、それで十分だね。この機械はまだ試作的な部分があるから耐久性については未知な点もあるんだよ。だから壊れてもわざとじゃなければ不問にするから壊れた時に操作していた人を責めないでね。」
「はい、それは承知しておりやす。無駄な競争はさせないということを徹底させやす。」
うーん、職人は負けん気が強い奴が多いからつい争っちゃうんだろな。
どっちかいうと、ストライカーが元の位置まで戻らないとペダルが踏めない様なインターロック機構を付ける方が正当なのかな?
「ところで、肝心の生産効率についてどれくらいの向上が見込めそう?」
「まだ3日ですのではっきりとした事は分かりやせんが、職人の疲労は確実に減ってやすね。今まで1時間に1回は取っていた休憩が全く取らずに朝から昼まで連続して打ってるんすよ。見かねて休めと言っても疲れてねぇんだから心配ねぇと無視される始末で。やっぱりハンマーを振り下ろさないのとふいごを漕がなくてもよくなくなったのとの両方の効果が大きいみたいすね。」
「うん、それが正に狙っていた効果だよ。今まで人力でやっていてある程度適当にやっても問題無い部分は機械にやらそうという訳だね。もちろん、仕上げ段階や微妙な工程は今までどおり手打ちでして欲しいけど。」
「もちろんでさぁ。そこら辺は連中も分かってまっせ。炉の横に今までの金床置いて炙りながらカンカンやってやすね。」
まぁね。
前世の現代刀鍛冶も最初の玉鋼を伸ばしては折り返して均一にする一番手間と力が要る工程に主に使っており、そこが機械化出来れば職人の体力温存と作業効率向上という目的は達せられる。
鉄砲も刀ほどではないが均質な地金が要るので大量生産には必須になるだろう。
うん、しばらくは使い方の工夫でやってみてもらおう。
「ところで、この鍛造機と送風機、もっと要る?」
「ぜっぜひにも!今でさえ取り合いになってやして、下っ端の方は使えないとボヤいてまさぁ。下っ端の技量も今や充分なんで1丁丸ごと任せてるんすがね。」
「分かったわかった。で、それぞれ何台要るのかな?」
「鍛造機をあと9台、送風機をあと7台でやすね。打てる者が11人居やすので。」
「うん、多少は時間がかかるかもしれないし、数台ずつの搬入になると思うけど、発注の連絡は入れておくよ。」
ガーソンは何か涙ぐんでしきりにお礼を言っていたが、早速発注の連絡を入れると言ってさっさと引き上げて来た。
うっかり長居すると馬車をバラされそうだしな。




