105◇魔力スイッチング
105◇魔力スイッチング
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うん。
エルフって初めて見た。
王宮魔法団の団長っていうくらいだから年齢もそれなりにいってるんだろうけど、どう見ても女子中学生だったな。
まぁエルフは寿命が長いって言われているんで、団長ならあの形で還暦くらいは行ってそうだが。
そういえば魔法兵の優れている者も似た様な背格好だったな。
何か魔法適性との関連性でもあるのかもしれないな。
さて、のじゃエルフから貰った魔道コンタクターをしげしげと眺める。
付属の袋には起動魔法陣の描かれた名刺の半分くらいの銅板と、接続用の2mくらいのミスリルの被覆付き線が入っていた。
ご丁寧に両端にはコネクター代わりのホックの様な金具が付いている。
銅板上の起動魔法陣と接続ホックの間にはギャップがあるので、そこをミスリルの板で短絡すると魔力が伝わるとのことだ。
魔道コンタクターの上には小さいサイコロの様な出っ張りがあり、これは緊急遮断スイッチとのことだ。
これを押すと、押している間は起動魔法陣からの信号が途切れて魔力伝達が遮断されるとのことだった。
至れり尽くせりである。
機構的な物でこのスイッチを押さえられる様にしとけばキルスイッチの代わりになるな。
あ、エンジン内部の魔力はあるから暫くは動くか。
あれこれ考えながら魔道コンタクターをひっくり返していじくる。
試しに起動魔法陣の板を接続線で繋いでみる。
サンプルとして付属していたミスリルの小さい板でギャップを短絡してみるが、当然見た目では何も起きない。
動力線を繋いでいない半導体スイッチと一緒だな。
パイロットランプ的な物が無いのでどう確認しようかと思って袋に入っていた取説を見る。
何と、主回路と補助回路の2系統の同時断続が出来る様になっていた。
お互いに魔力的に絶縁されているとのことで、補助回路の方は魔力容量が小さいので動作確認用の魔道具を繋ぐらしい。
うーん、ますます前世のデバイスそっくりだな。
こりゃー俺以外にも過去に転生した人間が居るのかもしれない。
時間が取れたら探してみよう。
「マーティン、それが魔道コンタクターという物かい?大きさが3種類あるんだね。どれを使うんだ?」
「とりあえずこの一番大きい奴を使ってみましょうか。大は小を兼ねると言うし。」
取説を読み解き、まず実験してみる。
エドモンドに起動魔法陣とミスリルの板を渡し、俺は出力電極?の入りと出の端子を両手で触る。
ケースに刻印があり、「IN」、「OUT」、「CNT」とあるので分かりやすいな。
これが2系統あるので2回路入りってことだな。
左手が入りで、右手が出だな。
その状態で腕を輪状にして魔力を循環させるトレーニング方法をしてみる。
右回りにしてエドモンドにスイッチングしてもらうと確かに魔力循環が断続される。
今度は左回りにしてみるが、スイッチの状態に関わらず魔力循環は出来なかった。
確かに半導体スイッチだ。
いや、半魔導体スイッチか。
「これをそのまま使ってみて。セレクターはこれ用の接点を増やさないといけないので新たに作り直す必要があると思うけど、今のセレクターの接点も大きさを2倍くらいにして発注してくれない?」
「了解だ、ボス。軍用なんで予算を気にしなくても良いのはいいな。早速時計屋に頼みに行こう。」
「それと、魔力遮断器なんだけど、魔石部で使っているのはどうだったの?」
「あー、あれね。前任者の手作りみたいで何にも資料が無いんだよ。見た目はそこにある貼り合わせの板みたいなのが入っていたな。」
「仕方がないな。まぁ魔道コンタクターを使って実際に組み立てながら試していこうか。」
地上推力実験として少し弱めの接点構成とし、わざと接点が損傷する条件を割り出す。
そこから少しずつ接点強度を増していき、長時間の全力推進時でも損傷しない条件まで持って行く。
その条件でバイメタルが魔力通過時の発熱でトリップしないポイントを探して設定する。
勿論、エンジン故障時の魔力線短絡時には短時間でトリップして魔力伝送経路が保護されることも確認する。
バイメタルの動作点が気温で影響を受けるだろうけど、これは予熱線を組み込んだ恒温ボックスを作って対応すれば何とかなるだろう。
そこまで言うとエドモンドは少し呆れていたが、テストベンチを作って事前評価することは理解してくれた。
早速工場内の事務机に向かってテストベンチの設計図を書き始めていた。
ここまで考えて、ふと魔道コンタクターを自分で作れないかと思い、3個貰ったサンプルの一番小さい物を手に取る。
側面の蓋には頭部が特殊な形状をしたネジがびっしりと並んでいる様に見える。
その上から半透明の樹脂の様なもので固められていた。
さらにその上から封緘シールの様な札が貼られてあった。
これ、明らかにバラしてくれるなアピールだな。
でも、のじゃエルフ団長はバラしてはいけないとは言わなかったよな?
しかも3個もくれたし。
俺はポケットからミスリル製の小型ナイフを取り出す。
これはガーソンが俺の入学時に餞別に作ってくれたもので、コスト度外視で切れ味と頑丈さを両立したものらしい。
普通の鉄剣くらいならカンナで削るみたいに削ぎ落とせるそうだ。
これで一番小さい魔道コンタクターの封印を削っていく。
サクサク削れるな。
ネジの頭が出たところで溝に入っている樹脂をナイフの先端で掘り起こす。
最後は爪楊枝の様な木の細い棒でほじくると先端の形状がはっきりと見えた。
え、これってトルクスネジじゃぁないか。
しかもイタズラ防止の中心の出っぱりのある奴。
何でこんな物がこの世界にあるんだ、と思ったが、まぁ物理的に作れて魔法もあるんだ。
似た様な発想をする者がいてもおかしくはないか。
あ、そういえば確か自衛隊魔法ランク3装備の「KLX250整備用工具部材」ってあったよな。
あれにトルクスレンチ入ってないかな?
そう思って召喚すると、魔力200消費で出せた。
金属の頑丈そうな大型工具箱が現れる。
蓋のロックを開けて3段になった蓋連動のトレイを開く。
2段目にトルクスレンチセットがあった。
勿論、いじり防止対応の先穴付きタイプだ。
それを取り出して蓋をし、素早くストレージに放り込む。
エドモンドはテストベンチの設計図を書くのに夢中で気付いてないな。
見た目で近い寸法のレンチをネジ頭に差し込んでいくと、T25というサイズのレンチがぴったりだった。
偶然なのか過去にこれを決めた転生者が居たのかは分からないが、まことに都合が良い。
他のネジ頭部分の樹脂封印もせっせと削って全部剥き出しにした。
対角線になる様に順番に少しずつ緩めていく。
ネジの太さはちょうどM4くらいに見える。
ちゃんと右ネジだったので、この世界でも右利きの多数決なんだろうな。
全部緩めて蓋をこじって少し隙間を空けてみる。
内部にスプリングが入っている様な様子もなく、ネジの遊びでカタカタ動く。
そこでようやく全てのネジを取り外し、蓋を開けたみた。
中にはのじゃエルフが説明した様な構造になっていた。
サイコロの様なミスリル銀と思われるブロックが2組4個入っており、その間にそれぞれ乳白色の石英らしき板が挟まっていた。
2個は大きく、もう2個はかなり小さい。
主回路と補助回路だろうな。
それに対してケースの側面の端子から内部配線としてミスリルと思われる絶縁被覆付きの線が繋がっていた。
「CNT」も2回路で独立していたので、モニター回路として使う場合は並列接続しろってことだろ。
単独でも2回路使えるのは便利でいいな。
内部の部品は接着剤でケースに固定してある様で、僅かな隙間にミスリルナイフの先を捩じ込み、少しずつ剥がしていく。
10分くらい格闘しているとパキッという音と共に全ての内容物が外れた。
石英板を見てみると、裏表両面にびっしりと細かい模様で魔法陣が刻まれている。
半透明なので透けて見えるところで裏表が繋がっている様に見える。
まるで両面プリント基板のスルーホールだな。
こりゃー無理だ。
個人の手に負えるものじゃぁないな。
俺は魔道コンタクターのコピーを諦め、元通りに組み立てていく。
内部の接着剤は召喚したKLX工具箱にエポキシ接着剤が入っていたのでそれをこっそり出して使う。
5分硬化型なので念のため貼り付けて1時間ほど置いておく。
その間に分解したままで起動魔法陣を直接端子に押し当て、魔力循環をやってみて正常に動作することを確認した。
エポキシ接着剤がだいたい固まったので、蓋をしてネジを締めていく。
対角線で均等に締めていき、緩めた時のトルクを思い出しながら締め過ぎない様に加減して締め終わる。
再度エポキシ接着剤を出して少し多めに混ぜ合わせる。
ネジ頭が浸る様に蓋全体に塗って元の形と似た様に成形する。
うん、これで証拠隠滅だな。
封緘シールが無いからすぐにバレると思うけど。
あれ、一度剥がすと跡が残って元通りにならないんだよな。




