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ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】  作者: 音無やんぐ
第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける

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第29話 ポテンシャルエナジー その三

 天空城が揺らいだ。

 放っておけば巨大な岩盤が崩落し、直下の街に壊滅的な被害を与えてしまうだろう。

 白音たち魔法少女は、懸命になってそれを防ぐ。


――しかも、この危機的状況をタイアベル連邦に知られるわけにはいかなかった。

 知られてしまえば、たとえこの危機を回避できたとしてもいらぬ憶測を呼んでしまう。

 いらぬ憶測は、いらぬトラブルを呼ぶだろう。

 悲鳴を轟かせて大きく軋む、そんな天空城を覆い隠せるのは、いつきの幻覚魔法をおいて他になかった。

 みんなの願いを受けていつきは決意する。

 星石は、そんないつきの想いに応えて輝きを増し始めた。



「僕のステージを、みんな見てっす!!」


 いつきの星石は、すぐにいつきの願いに応えてくれた。

 星石はもうずっと前から、彼女の軽快なダンスと共にビートを刻んで待っていた。

 心からひとつになりたいと、そう望まれることを待っていたのだ。

 いつきの魂が橙色の宝石のような相棒と響き合い、融合する。


 その瞬間、白音たちはいつきの魔力が跳ね上がるのを感じた。

 そして全員、その口元に笑みを浮かべる。

 そら曰く『六番目の妹』が、ようやくその蕾を開花させたのだ。


 突然、城を覆っていた幻覚がひときわ派手になった。

 真昼だというのに、どこぞのテーマパークのナイトパレードのように城が光り輝いて見える。

 そして軽快な音楽と共に、その城がまるで回転木馬のように回り始める。



「ひぃ……」


 白音の懐かしの元職場がどえらいことになっていて、思わず苦笑した。

 白音たちにもその幻覚は見えている。

 どうやら新しい幻覚の魔法には権限のようなものが付与されていて、白音たちは術者であるいつきと同じ立場、すなわち幻覚を見るか見ないかを自由に切り替えられるようだった。

 魔法をかけられている者の立場で、幻覚の出来栄えを確認するためだろう。


 やがて城の周囲に巨大な文字が浮遊し始めた。

 多分ひと文字ひと文字がテニスコートよりも大きい。

 大きすぎてしばらく待たないと全貌が捉えられないくらいだったが、確認した文字を全部つなぎ合わせていくと『緊急避難訓練中!!』と書かれている。

 そして軽快なリズムのBGMに乗せて、『ただいま避難訓練中です。皆様、走らず、慌てず、周囲に気を配りながら移動してください』と繰り返すアナウンスが流れた。

 アナウンスの声質は白音を真似ているらしい。

 まるで本当に白音が喋っているように聞こえる。


 白音はちょっと気恥ずかしい思いをしながら耳を澄ませてみた。

 しかし城の方から聞こえてくる音はそれだけだった。

 他の音は一切聞こえてこない。

 天空城の危機的状況を知らせるような鳴動や爆音は今も轟いているはずなのだが、完璧にかき消されてしまっている。

 やや疑問符は付くだろうが、先程の地響きも訓練の演出の一環だと考えられなくもない。

 来るべき戦争に備えてのもの、という考え方もできるため、カルチェジャポネを探っている側としては煙に巻かれてしまうかもしれない。

 これがついにいつきが手に入れた魔法、借り物ではない魔法、真・幻想(パーフェクトリアル)だった。


[グッジョブ!! いつきちゃん]


 白音たちが犯してしまった失態のリカバリーとしては、抜群の機転だったろう。

 全員から一斉に、精神連携(マインドリンク)で感謝の賛辞が送られてくる。


 しかしまだ危機が去ったわけではい。

 いつきのおかげでなんとかごまかすことはできたものの、依然として街の上空にある巨大な岩塊は不安定な状態にある。

 いつ崩れてもおかしくはないのだ。



[次は私たちの番ね]


 白音がそう言うと、全員が呼応するように気合いを入れ直した。

 いつきにこれだけ頑張らせておいて、姐さんたちがだめでしたではすまされないだろう。

 それぞれが、絶対に街を守ると固く決意する。

 その時、そらの補助脳とも言えるちびそらが口を開いた。

 今は能力強化(リーパー)によって、スパコンを軽く凌駕する演算能力を持つに至っている。


基礎魔法(プライマル)に関する考察。通常のバリアは魔法でバリアを出現させている。他方莉美は、最初に魔力(エーテル)を放出している。放出された後に莉美の意図する形状へと変化している。このため通常では有り得ない自由度を持っていると思われる」


 ちびそらには魔力(エーテル)を感知する能力はないはずだが、そらとリンクすることでその情報を得て分析したのだろう。

 それまで『不思議』『莉美だから』で片付けていた部分への明確な答えだった。

 だが……、


[けどそれ、今言うこと?!]


 白音は歯を食いしばっていてあまり喋れないので、マインドリンクでちびそらに抗議してみた。


「物質化前の魔力(エーテル)は自由度が高い。岩盤へ入り込むのではないか?」

「あ!?」


 白音は一瞬、新たな発見への衝撃でリーパーを止めそうになりかけた。

 莉美はきょとんとしている。

 そんな莉美に向かって、白音とそらが同時に叫んだ。


「莉美、!!」

「莉美ちゃん、魔力(エーテル)を岩盤に染みこませてから魔法障壁(バリア)にして!!」

「お、おお?」


 莉美はそんな風に言われて、考えた。どうやらふたりの様子からすると、この作戦が上手くいくかどうかは自分にかかっているらしい。

 しかしいまいちイメージができない。岩にバリアが染みこんだりするものだろうか。

 莉美が少し悩むような様子を見せると、いつきが口を添えた。

 いつきには細かい理屈は分からなかったが、白音たちの言いたいことはなんとなく理解できる。

 そして感覚的な莉美の思考も、やはり身近にいてよく知っている。


「接着剤を布に染み込ませる感じっす!!」


 いつきは、莉美と一緒にPV撮影用のステージ衣装を作った時のことを想い出していた。

 チーム白音のみんなと出会い、己の進むべき道が決定づけられたように感じている、その頃の話だ。


「なる!! いつきちゃん、分かりやすい!!」


 いつきの喩えは直感的で、それならば莉美にもイメージできた。

 いつきたち『エレメントスケイプ』と一緒にステージに立った想い出が蘇る。

 莉美にとってもそれはめくるめく、輝かしい想い出だった。

 莉美といつきが頷き合う。ふたりのまばゆい魔力(エーテル)が交錯した。


 イメージができる。

 それは莉美にとっては魔法の完成を意味している。

 莉美の体から大量の魔力(エーテル)が立ち上り、天空城を丸ごと包み込むようにした。

 その強大な魔力(エーテル)は、白音の高強度リーパーによって増幅され、質、量共に今までに見たこともないようなレベルに達している。

 やがてそれらはすべて、天空城とその岩盤に本当に染み込むようにして消えていった。

 目視はできないが、そらの遠隔鑑定(リレーアタック)によると魔力(エーテル)は城の隅々にまで行き渡り、そこで無事魔法障壁(バリア)として硬化したらしい。

 堅牢無比。

 もう天空城は落下したとしてもそのままの形で欠けもせず、地面をすり潰しながらごろごろと転がることになるだろう。


 あとはそらが重心を計算し直して、一恵が城を水平に安定させるだけだ。

 ロープウェイの支索(ロープ)も切れてはいないようだった。

 事後の安全確認は智頭たちがやってくれるだろう。

 少し落ち着いてくると、白音がいつきにマインドリンクで尋ねた。

 まだリーパーを高い強度でかけ続けているので、口を開く余裕まではない。


[あんな映像、作ったことあるの? 結構作り込まれてるみたいだけど]

[あれは詩緒ちゃんが新しい曲作るって言ってて、そのために用意した映像っすね。文字だけアレンジして変えたっす。まだ記憶にのこってたんで一番作りやすかったんす]


 白音に合わせてくれているのか、いつきもマインドリンクを使って応える。


[お城が出てくる曲なの?]

[そうっす。詩緒ちゃんが作詞で、確か『女帝爆誕♪』ってタイトルだったっす]

[うー……、どうせわたしの事なんでしょ?]


 白音は改めて、ど派手な演出を施されている天空城を仰ぎ見た。

 パレードを引き回される山車(フロート)みたいに飾り付けられている。

 女帝ということは、あの城の主人ということなのだろう。


[なはは。ごめんなさいっす。その前の僕の『MONSTER』が、かっこよくモンスターと戦う姐さんをモデルにした曲だったんで、その女戦士の後日談みたいな内容になるって聞いてたっす]

[もう、わたしばっかりおもちゃにして]

[いやいや、みんな真剣にリスペクトしてるっすよ。それぞれの解釈の違いはあるっすけど]

[…………まあ、星石とひとつになれたみたいでおめでとうね]

[ありがとっす。めちゃくちゃ嬉しいっす]


 白音に向かって、そらと一恵が指でOKサインを作って見せた。

 どうやら天空城が安定できたらしいので、白音は徐々にリーパーの強度を下げていく。


「佳奈、上手くいったみたい。もう平気よ。リプリンもありがとうね」

「おっけー」

「あーい」


 佳奈が魔力循環強化(リーンフォース)を解き、リプリンも白音の口から飛び出してきた。

 ふたりとも今は(・・)気を遣ってくれているらしく、穏やかに白音との魔力的な繋がりを解いてくれた。

 おかげで白音はあまり刺激を感じない。

 体が少し楽になったので、白音は早速いつきを捕獲してぎゅっと抱きしめた。

 いつきの体内魔素(オド)が以前とは見違えるように活性化していることが、肌の下で感じられる。


「お疲れ様。いつきちゃんのおかげで騒動にならずにすんで良かったわ」


 白音がいつきの背中をとんとんと優しく叩いていると、


[………………]


という無言の圧力がマインドリンクを通じて伝わってきた。

 おそらくは全員分だ。


「あ、いや……。みんなも、ほんとお疲れ様」


 白音がそう言うと、それを待っていたかのようにみんながふたりに抱きついてきた。

 次々と覆い被さるように密着する。

 白音がいつきにだけ気を配っているのが気に入らなかったらしい。

 姐さんたちは揃いも揃って大人げがない。


「いつきちゃん」


 名残に二回ほど、白音はいつきの頭を撫でる。


「はいっす?」

「あとでお赤飯炊こうね」

「? なんすか、それ?」


 通じなかった。

いつきはフェイク動画(アヤしい奴)が作れるようになった!!

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