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第4話「貸しと家族会議」

 魔術での無詠唱と詠唱ありの特訓と、魔術を的に当てる射的の様な特訓をし始めて、数ヶ月が経過した。

 魔術の的当ては、魔術のコントロールや対象に当てなければ意味が無いと判断したからだ。


 最初は近いところから少しずつ距離を離して行き、部屋の入り口から窓の外まで飛ばせる様になった。

 基本は水の魔術を使用した、他にも火、風、土、もあるが、火は火災の可能性が、風や土は、家の壁や柱が傷付く為、断念した。

 他には、氷や雷等もあるが別の機会に試してみようと思う。


◇◇◇


 夏になり、外や家の中で過ごすのも暑さで厳しくなり始めた頃。


 うちの家で二つの問題が起きた。

 一つは朗報で、俺の母親ことセイラが妊娠した。

 つまり、俺に弟か妹が出来たのだ。

 ラックスカイ家としても、二人目の子供という事もあり、父親のプレボも母親のセイラも侍女のレイラも喜んでいた。


 もちろん俺も含めてな――だが、これだけなら、良かった良かったのめでたい話で終わるのだが…。


 問題はもう一つある。

 悪い知らせの方だ。

 俺の父親こと、セイラの夫のプレボが浮気や不倫をしていたのだ。


 俺の父親のプレボことプレーボーイルは、女性にモテる。

 正確には、鍛え上げられたプレボ自身の体や筋肉を外でやっているが、ご近所の若奥様方が来たタイミングに合わせて見せ付けている。

 最初のうちは、近所の女性が見ているだけだったが、次第に会話や挨拶を交わして行き、ボディタッチまで。


 俺としては、いつかはやるだろうなと思っていたが、近くだからと近所の独身女性からの誘いを受けて、最初はお茶や食べ物を食べ始めていた。

 どうやら、プレボに剣の指南を頼んだみたいだな。

 母親のセイラもそういう事ならと承諾していた。


 それがどうして、浮気や不倫になったかというと――それは、


 ご近所さんことお隣さんのエルさんという若い女性が妊娠したのだ。

 端から見れば、ご近所のお隣さんのおめでたならば祝福してやりたいところだが、問題なのはそこではない。

 その父親が、俺の父親ことセイラの夫のプレボなのだ。


 事の発端は、俺の母親のセイラが妊娠してから、安定期に入るまでの数ヶ月前に遡る。

 セイラが妊娠してからしばらくして、プレボが、夜の営みが出来ない事によって処理に苦労し始めていた事が原因だった。


 俺が元いた世界でもそうだったが、女性が妊娠し始めは、安定期になるまで可能な限り、体を動かす運動や仕事、家事も控えなければならない――流産の可能性があるからだ。


 ましてや性行為や夜の営みはもってのほか――まあ、あのプレボが我慢出来るとは思えなかったしな。

 俺が生まれた後も夜にやっていたからな。


 妻のセイラの妊娠が発覚したのは、悪阻の症状と侍女のレイラの気が付いたのがきっかけだった。

 急な吐き気、嘔吐、倦怠感、酸味のある食べ物への食欲。

 以前も似たような事があり、もしかしたらと思って近所の医師に見て貰ったところ、妊娠しているのは、ほぼ間違い無いとの事だ。


 まだそこまでお腹が大きくなってはいなかったが、侍女のレイラの意見もあり、しばらくの間の夜の営みは控える様にと言われたのだ。


 それからは、子供が生まれるとなって自宅に迎える準備で大忙し。

 子供用の服やオモチャの買い足し、男の子だった時や女の子だった時の為の準備。

 次の子供の名前決めやら。

 プレボ自身も喜んでいたよ、そりゃ二人目だもんな。

 その夜に、ちょっとしたパーティーも行ったな、赤ん坊が出来て嬉しかったのだろう。


 最初のうちは、赤ん坊が出来て良かったと喜んでいた。

 しかし、旦那のプレボはそうはいなかった。

 数日、数週間、一ヶ月半までは耐えていた。

 その間一人で処理していたみたいだった。

 セイラの洗濯前の衣服なんかも使っていたな。

 侍女のレイラも見て見ぬ振りをしていた。

 俺も、そこは察してやった。


◇◇◇


 三ヶ月が経過し、妻のセイラも安定期に入った頃、さすがに温もりや自分自身での処理に限界を感じたプレボは、せめて処理だけでもと、妻のセイラや侍女のレイラに頼もうとしていたが、侍女のレイラからは「奥様の体調に関わるので」と、セイラに近寄らせてくれない。

 レイラ自身も「私には心に決めた人が居ますので」と、処理を引き受けてくれなかった。

 そんな困り果てたプレボに、近所付き合いの女性達が優しく声をかける。


「どうかしましたか?」


 元々プレボにも気があるのもあった事もあり、プレボの悩みを聞いてくれたのだ。

 すると、そういう事なら私達がなんとかしてあげると処理を引き受けてくれたのだ。


「そういう事なら、私達にお任せ下さい」

「しかし…」


 しかし、万が一にも浮気や不倫に繋がっては、さすがに問題がある。

 なので、一線を越えないのを条件に処理を行っていた。


「それで大丈夫です」

「すまない」

「さ、行きましょう」


 父親のプレボが、ご近所の女性達に連れて行かれる。

 さすがに、家の前では処理を行えないもんな。

 俺の元いた世界での"そういう"事は、大人向けの動画や性具等を用いて行うのだが、この世界には、まだ、そういう物が無いのか。

 やはり、発展途上国やグローバルサウスなのかもしれないな。

 今の俺には関わりの無い事だが、将来的に処理どうするのかを考えた方が良さそうだな。

 

 妻のセイラには内緒で行っていた、ただでさえ不安定な時期もあるので、心配をさせまいとプレボなりに気を使っていたつもりだったが、

 侍女のレイラに察していた様だが「奥様を傷付ける事をしなければいいのではありませんか?」と、少し呆れた表情で言っていた。


 この世界では、性処理で困った場合は、さっきの様に配偶者とは別の人から処理をして貰うのは、決して珍しい訳ではない。

 むしろ他の地方や領では、日常的に行われているのだ。


 一部の裕福な家や貴族に限るが、メイドや奴隷を使って処理を行っている。

 もちろん逆もまたあるが…この話はまたの機会にしようと思う――今回は、対象を男性としての説明をする。

 貴族や一部の裕福な家ではこういった場合に備えて、一夫多妻にしたりするもの普通らしい。


 配偶者が体調不良や妊娠したタイミング等で、夜の行為を行ったり処理が難しい場合に限りだが。

 俺の元いた世界で言う、デ○ヘルみたいな物だろうか?――まあ、似たような物だろう。

 その家や家庭で対応や処理のやり方は異なるが、実際に一線を越えるところもある様だ。


 ご近所の女性達が来れない時期や、タイミングが悪い時が続いた頃、事件は起きた。

 プレボが浮気や不倫をしていたのだ、しかも複数の女性と。

 更に、その内の一人の女性のエルを妊娠させてしまったのだ。


 事の発端は、ご近所の女性の内の一人のエルという独身女性が、プレボに好意を持っていた。

 プレボは「一線は越えない」という条件を守って、しかし――彼女は、プレボへの想いや毎晩の様にお隣のプレボの家から聞こえる、妻セイラとの行為の音や声、まだ若く年頃の独身女性のエルには、耐えられない程だった。


 そんな時に、プレボの夜の処理の話をご近所の女性から、噂で聞いた事がきっかけで夜の処理を引き受け様としたが、

 プレボからは「まだ男性経験が無い君に頼む訳にはいかない」と言って、行わせてくれなかった。


 処理の手伝いは出来なくとも、相談には乗ってあげるからと、口実を付けて。

 その日は、家の家具が壊れてしまったから直して欲しいと、プレボに頼んだのだ。


 グリーンアース領のアルタ村では、ご近所さん同士で困った時は、お互いに助け合う事を大事にしている。

 家や身の回りの事で困った時は、直ぐに村の人に頼るのが普通だ。


「プレボさんが好き」


 エルは、許されないとは言え、好きになってしまったプレボに「一夜だけでいいから」と、媚薬入りの酒を飲ませ、一線をついに越えてしまった。

 しかも、その事を他のご近所の女性達も知っていたのだ。

 そう、彼女達からの入れ知恵だったのだ。

 アルタ村の外れにある空き家で、複数の女性と関係を持ってしまい。


◇◇◇


 それから三ヶ月後の現在、侍女のレイラに挙動不審なプレボを問い詰められて、問題が発覚。

 エルが悪阻を起こして妊娠も発覚したのだ。


 今、俺の家では、侍女のレイラと母親のセイラに俺ことアンディに、父親のプレボと関係を持った近所の女性達とその家族や配偶者、お隣のエル同席による会議の最中である。


 沈黙する会議の中、お隣さんのエルが口を開く。


「申し訳ありません、今回の事は私に全ての責任があります」


 顔を下に向けながら、座り込む。


 俺は知っている、プレボが妻セイラとの禁欲生活で溜まった状態で、お隣さんのエルや他の近所の女性達と一緒にアルタ村の外れの空き家に向かって歩いて行くのを。


 表向きは、近所の女性達の相談に乗るだったか。

 子供なら普通、おかしいとも変だとも思わないだろう。

 だが残念ながら、俺は知っている――ずっと観察していたからな。


 まあ、今回の問題はプレボにも責任が無い訳では無い。

 こういう事もあるから、もう少し気を付けて欲しかったとは思っても、あの女好きのプレボだからな。

 直ぐに騙されてしまうのだろう。

 この異世界に避妊という文化や概念がそもそもあるかも分からないが、俺の元居た世界とは、少しだけ認知度が違う様だな。


 俺がやはり気に食わないのが、沈黙を貫く近所の女性どもだな。

 ここまで何も話さないとなると、最悪エルやプレボに責任を擦り付け様とするだろうな?

 まあ、大体は察しがつくが、自分達の日々のストレス解消に、エルさんやプレボの弱みに漬け込んで、利用したんだろうな。


すると、近所の女性の一人が話始めた。


「私達は、その男に襲われたのよ?」

「そーよ、そーよ」


 そら、来なすった責任の擦り付け合い。

 俺の元居た世界でもあったが、どの世界でも、こればかりは変わらないな…人間っていうのは。

 はあ…本当に醜い。

 顔面蒼白のプレボは、放って置こうと思ったが…。


 ――さて、プレボを助ける必要は微塵も無いが――貸しを作って置くのも悪くないだろう。


 俺はまず、近所の人妻達に【覇王の力】を介し、彼女達の記憶を観覧する。

 この力は、相手の記憶を奪うだけではなく覗き見る事も可能なのだ。


 ――ふむふむ、なるほどな――家や旦那や育児のストレス解消に行ったのか?――相手の家族や家庭すらも顧みない、身勝手な思考――俺の元居た世界にも多少はこういうヤツは居たが――ここまで幼稚なヤツが居るとはな、しかもプレボの他にも被害になった男や家庭がある様だな。


 次は、近所の人妻達に罪を自分自身で認めさせる事だな。

 彼女達自身で言わせなければ意味が無い。

 俺は、前もって――この異世界に来てから【覇王の力】を介して入手して置いた【加護】と魔術を使う。


 【加護】と魔術は、ここに来ていた冒険者が所有していた物だ。

 催眠系の魔術で、相手に自白させたり、尋問等に用いる中級者向けの魔術。

 それを、近所の人妻達全員にかける。

 もちろん詠唱ありでやるとバレるので、無詠唱で使用した。


 中級の魔術を無詠唱での使用は、詠唱ありとは違って、かなりの集中力と魔力の流れるイメージを行う為、頭と脳への負担が大きい。

 すぐに頭が痛くなるから、あまり連続して使用したくは無いな。

 まあ、トレーニングと練習を繰り返せば…慣れるだろうが。


 更に【加護】の【操りし者】を加える。

 【操りし者】の効果は、催眠系の魔術の能力や威力を高めて、まるで日常会話と相違無い程にさせる事が可能だ。

 なので、この【加護】を加えての催眠系の魔術の使用では、ほとんどの者がほぼ騙されてしまう。


 すると、近所の人妻達全員が、人が変わったかの様に日常会話こと、普段の口調で次々に自白と、今回の事が日常生活でのストレス解消が目的だったと認めたのだ。


「いえ、あたしらが旦那や育児でのストレス解消にやったんだよ」

「媚薬は、よくうちの旦那に使っていた残り物を、エルに渡したんだよ」


 まあ、俺が一人で喋らせてるんだけどね。

 あれだな、腹話術的なヤツだな。

 やはり媚薬の入手経路は、彼女達自身の家からだったんだな。

 催眠系の魔術は【加護】の【操りし者】を発動させていれば、何度でも任意で使用可能だ。


「酷いです!…私は…グスッ…」


 エルが泣き崩れてしまった。

 まあ、無理もないが…。


「俺の子でもある!――だから俺が悪い、すまん」


 少し遅いが、プレボのヤツが今更、謝罪と自身の子である事を認めた。

 遅ぇよ、プレボ。

 とはいえ、あっさり自分の子供である事を認めたな?

 俺や妻のセイラの手前、嘘は付きたくないんだろうな。

 自分に正直な男か?――嫌いじゃないぜプレボ?――タイミングが悪くなければだが。

 セイラは、静かに話を聞いていた。


◇◇◇


 今度は、エルの子の事を踏まえた家族会議を行う。

 近所の人妻達は、配偶者やその家族に連れて行かれた。

 今後の事を、自分達の家でも話す為に。

 【加護】の【操りし者】と、中級者の催眠系魔術を発動は解除していない、洗いざらい暴露させてやるとしよう。


 しばらくの沈黙を破って、話し始めたのはセイラだった。


「エルさんでしたっけ?――あなたは今後どうするつもりですか?」


 主導権は彼女にあるものの、冷静に優しくエルに問いかける。

 浮気した亭主に対して怒りが無い訳ではないだろうが、それよりもエルという一人の女性を心配しての事だった。

 プレボが話していた時に、笑顔の裏の怒りの感情に悪寒を感じた、だけだ。

 彼女は笑顔で怒るタイプだった。


「私の事が済み次第、故居のエスカールに帰ろうかと思っています」


 セイラの問いに答えたのはエルだった。

 彼女も気持ちが落ち着いてからは、冷静だった。

 この異世界では、このような事がよくあるのかは知らないが、処理を行う以上は、こうしたトラブルが付き物だと思う。

 俺だってそこまで無節操ではないよ。

 だからこその家族会議や話し合いだと思う。


「それがよろしいと思い…」

「ダメよ!――子供を生んですぐの帰郷は、体力的に持たないわ」


 侍女のレイラが言おうとしたのを、すぐさま遮る様にセイラが発言した。

 まったくだ――産後で体力も衰えた状態での長旅は、無理があるだろう。

 まあ、レイラも悪気があった訳じゃないだろう…。

 もう少し彼女が協力的というか、理解があればと思ったが。

 "こういった"話題に、何かと辛辣というか多少ヒステリーな感じか――さては、過去に何かあったか?


 ――今後の事もあるし、レイラの事を調べるか。


 俺は、【覇王の力】を介して侍女のレイラの記憶を観覧する。


 ――なるほどな、そういう事か、公爵邸での一件でか――「心に決めた人」ねえ?――だからあんな態度なのか、うーん…、なあ?謎の声さんよ?


《何かな?》

 俺の問いに、俺の頭の中から謎の声の主が語りかけて来る。


 ――この侍女のレイラっていう女の言う「心に決めた人」っていう、相手の男は生きているのか?


《生きてはいる様だが、かなり遠く離れた場所に身を潜めている様だぞ?》


 なるほど、レイラの想い人は生きているのか?――この問題を後から俺が解決してやれば、あの態度も変わるだろうか。

 遠く離れた場所ねぇ、再会しようとしても、すぐには難しいという事か。

 遠距離恋愛と純愛ね――美しいけど、相手の男は、そもそもレイラの事が好きなのか。

 それはまた今度調べるか。


 ――その、公爵自身は、どうしているんだ?


《彼は――その後の持病の悪化によって亡くなっている様だな》


 公爵は持病の悪化による死か、ならば――侍女のレイラは、その事を知らないのか。

 知らせるのは後からでもいいな、そうした事を明るみに晒すと、俺の家での家庭崩壊にも繋がり兼ねないしな。

 余計な情報での、混乱やトラブルは、可能な限り避けたいところだ。


 ――今、優先すべきは、今後の家族や家庭の事だ、レイラの想いは察してやらなくも無いが、今後も――似たような事がある度に、あの態度を取られたんじゃ、色々な意味で面倒そうだ。


 彼女の純愛は、そのままにして置いてやるか。

 今後の俺と、セイラとプレボに対して――更に処理に対しての、認識や理解度をもう少しだけ柔らかくして置こう。

 あんなにツンツンしてたら、レイラの想い人さんだって、いざ再会したら困るだろうしな。

 今後の夜の処理に対しても、もっとレイラ自身も協力的にして置こう。

 【覇王の力】を使って、レイラ自身の記憶や、特に性や処理に対しての認識や理解度をかなり柔軟な思考にした。


 ――これで少しはマシになってくれればいいが…。


 他人の記憶や認識を操作するのに対しての、罪悪感というのは無いな。

 むしろ、自分自身が過ごし易い環境に変えたり、改善するのに出し惜しむ理由が無いからな。


「奥様の言う通りでしたね、すみません」


 どうやら、上手く行っているみたいだな。

 先ほどのツンツンした態度から一変して、レイラがすぐさまセイラとエルに謝罪している。


「いいのよ?――あなたは上手くやってくれているわ」

「はい!」

「え?――い、いいえ…なんでもないわ」

「?」


 レイラは、真面目なんだろうな。

 勤勉なのは、偉いと思うけど、もう少し理解や寄り添うのも大事だと思う。

 ツンツン病も治って、俺も一安心だよ。


 なんだか嬉しそうなのか、レイラが笑顔だな――記憶と思考を多少、弄った程度だったが、ここまで変わるとは――我ながら恐ろしいな。

 セイラもツンツンした状態から、いきなりレイラが笑顔で元気良く返事を返されて、少し困惑気味だな。


 まあ、公爵は既に他界しているし、心配事なんかまずは無いだろう。

 近々、彼女の想い人との再会や幸せについてもなんとかしてやるかな。


「さてと、話を戻しましょうか?エルさん」

「はい」


 セイラが再び、エルさんを見ながら話し始めた。

 主導権があるとは言え、彼女の口調や態度は冷静に問う。


 小さく体育座りの様な格好で座るプレボは放って置こう。

 コイツに父親の威厳があるとは、この時点では思えないが、さっきの人妻達やレイラの事で、だいぶ『貸し』を作ったと思う。

 そのうちに返して貰うとしよう。


「生まれた子供はどうするの?」

「こちらで出産して、故居に帰って育てようと思います」

「あなたの出身は?」

「東の国のエスカールです」

「エスカール…遠いわね」

「はい」

「出産して間もない状態での長旅は、母親にも子供にも負担がかかり過ぎるわ」

「…ですが、他に頼れる人も居ないですし」


 エルは、このグリーンアース領の出身ではない、東の国、エスカールの出身である。

 東の国のエスカールは、現在、アルタ村同様に暖かいが、冬の季節になると寒くなるという、気温の温度差が激しい土地で有名な場所である。

 とはいっても、そこまでに行くまでが遠い場所だ。

 乗り合い馬車や船でも行けなくも無いが、気候が不安定で温度差が激しい土地だ。

 片道だけでも、数ヶ月かかる可能性がある。

 道中、魔物に出会したり、事故や災害の可能性もある。


 東の国のエスカールは治安については安全と言っても良い、領主も真面目で信頼もある。

 到着すれば、エルさんの両親や知人や友人も居るだろうし、領主も市民や民間人に優しいという話だ。

 旅人や冒険者や商人達から【覇王の力】を介して得た情報と知識、家で得た情報を照らし合わせた物だが。


 エルさんは、本当お金や貯蓄に余裕が無いのだろう。

 東の国のエスカールに行くとしたら、彼女の様な貧乏な人間は、基本は徒歩だろう。


 乗り合い馬車にしても、有料や無料がある。

 荷馬車で、商人や農家等の人に乗せて貰う事も可能、その時の状況次第だが。

 仮に、うちの家から旅費を片道分くらいは出せるだろうが、危険なのは変わり無い。


 若い女性が生まれたばかりの赤子を抱いての一人旅。

 何が起こるか分からない。

 盗賊、山賊、通り魔、人さらいや奴隷にするヤツも居るだろうし、魔物だって出没する。


 悪いヤツならそんな子供を産んで間もない女性をどうする?

 俺がソイツらの立場なら、確実に襲うだろうな。


 絶好の標的だもんな、若い女性、生まれたばかりの赤子。

 腹を空かせた獣の目の前に肉を出すのと同じくらいにな。

 身ぐるみを剥いで、子供を人質に金銭を要求する。

 人身売買で奴隷商人に子供と女を売るだろう。


 東の国のエスカールとは言え、治安が必ず良いとは限らない。

 どの国や街だろうと、悪いヤツは残念ながら居る。

 抜け道を上手く使って、悪さを行う根っからの悪人がな。

 こちらのグリーンアース領ことアルタ村も例外ではないし、その道中にも安全とは言い難い。

 


 セイラも言っていたが、体力面で問題がある。

 エルさん自身が大丈夫だったとしても、生まれて間もない子供の方はどうだろう?

 いくら元気で、丈夫な赤子だとしても長旅に耐えられない。


 病気になる可能性だってある、エルさん自身が万が一にも倒れたら?――子供も恐らく。

 俺としても、ご近所さんのエルさんとその子供に、雪原での行き倒れは見たくない。

 エスカールに向かうのに数ヶ月かかるならば、その頃には恐らく冬になるだろうしな。


「いくらなんでもそれはちょっと……」

「黙りなさい!」


 プレボが発言したタイミングで、セイラが笑顔で怒りながら、プレボの耳を引っ張る。

 発言権がそもそも無いヤツが口を出すのは自殺行為だぞ?プレボ。

 耳を引っ張られて痛がりながら、再び小さく座り込むプレボ。


「……………」


 セイラは「そうねぇ…」という感じの顔をして、顎に手を当てて考えている。

 難しい顔をしていないところを見るに、そこまで悪い様には考えていないみたいだな。

 とは言っても迷っていない訳ではない。

 彼女からしても、エルさんを別に殺したいとか今すぐに追い出したい等と考えている訳ではないだろう。


 実はエルさんとセイラは仲が良い。

 ご近所のお隣さん同士でもあり、年齢が近い事や好きな趣味や食べ物の一致で意気投合。

 悩み事の相談を乗ったり、乗って貰ったり。

 たまに家事や育児の手伝いをして貰ってもいた。

 今じゃ友人と呼べる間柄だった。


 もし、エルさんが突然妊娠したのが、プレボ以外の子供だったら――セイラはどうしただろう?

 例えば、見ず知らずの男に突然襲われての妊娠なら。

 そりゃ助けるよ、だって一人身の女性を放って置けないのもあるけど、仲が良いエルさんを蔑ろに出来ないもんな。

 相手が居て、その人がエルさんを大切にする人なら、祝福しただろう…。


 この異世界には、堕胎という概念があるのかは知らないが、恐らく知識だけではなく、技術上でも知らないのかもしれない。

 赤ちゃん出来たら生むべきみたいな感じだろうか?

 ほとんど回復魔法や魔術に頼っている分、医療技術もそこまで発展していない可能性がある。


 セイラ自身の中で、モヤモヤしているのだろう。

 裏切られた事もあるが、それ以前に友人としての好きな気持ち。

 自分の中では、友人と呼べるくらいに信頼していた人が、まさかの自分の夫と行為をしていた事。

 俺も薄々気付いていたし、セイラも気付いていただろうが、エルさんがプレボの事を特別な目で見ていた事を。

 その気持ちに気付いているからこその葛藤なのだろう。


 セイラが冷静なのは、元々そこまで感情を顕わにしない事もあるが、エルさんが言い訳もせずに素直な態度に対してなのもあるだろう。

 問題なのはエルさんが責任を負うのは間違っている事、本来ならプレボが責任を負うべきところなのに、エルさんが先に言ってしまったから、そのままにしようとした。

 我が父親ながら恥ずかしい限りだよ。


 エルさんは、本当に優しい女性なんだよ――俺にも挨拶や返事を返してくれるし、俺が文字や歴史の勉強をしている時も、優しく教えてくれる、たまに俺にも美味しい料理やオヤツを作ってくれるし、俺からすれば、年の離れた姉の様な存在だ。


 初対面という訳でも無いし、助けてやろうと決めた。

 借りとか貸しとかは無いし、強いて言えば彼女が人して好きだからだな。

 エルさんがどういう人なのかは、これまでのやり取りや、行いでもわかる通り、優しくていい人だ。

 俺は基本的に人は好き嫌いで判断すると決めている。


「母さん、難しい事はよく分からない僕だけど、僕に新しい兄弟が二人も増えるかもしれないのに、どうしてこんなになっているの?」


 一応は、子供らしく無邪気に振る舞っているつもりだが。

 転生前が30歳以上の大人だからな、少し無理があるが。

 近所のお隣さんのエルさんが妊娠した事。

 家族や兄弟が増える事への期待。

 でも少し重い空気の会話への違和感が不思議だという感じで。

 自然に、普通に話を切り出す。


「お父さんとエルさん達がやっちゃいけない事をしちゃったからよ?アンディ」


 子供からの質問に対して、少しため息をしながらも冷静に言う。

 家族の揉め事とはいえ、まだ幼い子供にムキになる訳にはいかないので、呼吸を整えながらそう返す。

 本来なら、腸が煮えくり返りそうなくらいに怒るところだろう。

 しかし、その矛先はエルさんに向ける物でも、まして近所の人妻達に向ける物でも無い。

 セイラも分かっている、本来責めなればいけない相手が、悪いのは誰かと。


「そうなんだ、でもエルさんは父さんに逆らえなかったと思うよ?」

「どういう事?」


 これまでのプレボやエルさん達のやり取りや会話、その行動も見て、観察して来たので分かる。

 エルさんの記憶も、あらかじめ【覇王の力】で覗かせて貰ってあるので、プレボへの想いも理解している。なお、記憶や思考の改竄(かいざん)はしていない。


 だからこそ、プレボ、『貸し』はさっきまでとして、今回は罪を引き受けて貰う。

 自分の夜の欲を制御出来ないヤツの自業自得という事で。


「僕、知ってるんだ、父さんがエルさんの弱みを握っているのを」

「それ本当なの?」


 俺の言葉に驚いて、エルさんの方を見るセイラ。

 完全な出任せではないし、彼女の記憶を介して事情は把握してる。

 プレボだって、彼女に何かしらの理由や事情がある事くらい分かっていると、思いたい。

 当のエルさんも、思い当たる節があるらしく、ひきつった顔で無言で黙り始めた。

 弱みは、どちらかというとプレボが握られている様だが、彼女の本当の想いの事にプレボが気付いているかにもよるな。

 エルさんの想いを利用する様で、悪いとは思うけど、ここはあえて利用させて貰う…どのみち知る事になるからだ。


「この前、エルさんと父さんの話を偶然にも通りかかった時に聞いたんですけど、

 エルさんが、「私はプレボさんがどうのこうの」と言った後に「二人だけでをしよう」と、父さんから誘って連れて行くところを」

「な!?アンディ、何を?」

「黙っていなさない!」


 もちろん嘘を交えている、本当は、エルさんがプレボを誘って連れて行ったのだが、プレボから誘った事にするのだ。

 更に、然り気無くエルさんがプレボの事を想っている事も伝えた。

 いくらなんでも、ここまで言えばセイラでも気が付く筈だ。


「今の話は本当なの、エルさん?」

「え?そ、それは…その…」


 エルさんが視線を横に流しながら、頰を赤らめている。

 食い違っている話に対して、それは違うとは言えないよな?

 それを言ってしまったらダメだもんな。


「そう…まあ、エルさんも…そうなのね?」

「はい…」


 セイラは、エルさんの態度と反応を見て納得したのか、分かった反応する。

 さすがだよセイラさん、女性だからこそ分かってくれると信じていたよ。

 プレボは、え?あの?――という反応をしている。

 ここまで言っても気が付かないのか?つくづく罪深い男め。

 鈍感野郎は放って置いていいだろ、さてと、


「母さん、エルさんは悪く無いと思うよ?」

「そうね」

「一番悪いのは父さんだよ」

「…そう、ね」


 他にも悪いのは、あの近所の人妻達もだけどな、俺の家族を離散の危機に追い込んだんだ。

 後でそれ相応と代償を払って貰う。

 それはさておき、


「父さんが悪いのに、エルさんがこんな目に合うのは間違っていると思います」

「……そうかもしれないわね」

「父さんはどうかは知らないですが、母さんもエルさんの事を気付いているんですよね?」

「…アンディ、気付いているのね?」

「はい、父さん程、鈍感ではないので」


 やっぱり気が付いていたんだ、母さん。

 うーんあと、もう一押しかな?


「僕にもですが、そのうち年の近い友達が出来ると思います、そうしたら僕の弟か妹にも年の近い友達や遊び相手が居てもいいと思うんです」

「……そうね」

「母さんのも、エルさんのも僕には弟や妹です!」

「母さんもですが、エルさんが僕の二人目のお母さんなら…僕は嬉し…」

「もういいわ、わかったわかったから…アンディにはかなわないわね…」


 俺が言いかけた、タイミングで、セイラが話を割って入って来て、話を終わらせた。

 深くため息をして呼吸を整える。


「エルさん、いえエル!あなたはうちで一緒に暮らしましょう、今日からあなたも家族よ?――これについては反論は許さないわよ!」

「あと、お礼なら、おませさんのアンディに言いなさい」


 そう言って、俺の頭を撫で撫でしながら話を終わらせる。

 プレボは口が空いたまま動かず、エルは嬉しいのか、泣いていた。

 こうして、ラックスカイ家の家族会議は、これにて一件落着した。


◇◇◇


 ここからは、後日談です。

 家族会議での話し合いの結果…、この家の家主であるプレボに罪を被って貰う事で、一家離散という危機に対して事なきを得た。

 妻のセイラがプレボに向かって見た視線は、明らかに殺意のある害虫を見るかの様な目をしていた。

 あれで、足蹴にしながらの言葉を添えられたら、特定の人には堪らないんだろうな。


 エルさんが一人で座って泣いている。

 一方で、プレボはというと…、どうしようかと、おろおろしている。

 ここから先は、どうするかは彼に任せよう。


 俺は、それよりセイラの居る部屋へと向かう。

 万が一にも、プレボとセイラが離婚なんて事になったら、それはそれで困るしな。

 俺の足音で気付いたのか、セイラがノックをする前に寝室に招いてくれた。


「母さん、さっきの話は嘘があります

父さんを嫌わないで欲しいです」


 俺は寝室に入るなり、さっきのエルとプレボのやり取りに対しての事実の誤りの訂正と報告をする。

 セイラは分かっていた様で、俺の頭を優しく撫でながら笑顔だった。


「本当におませさんねアンディは、私も別に悪い人だと思って恋をした訳じゃないもの

 女の子が好きですぐに他人を信じては騙され安いところがまたに傷だけど、根は悪い人じゃないものね

 ただ今回は、いきなりそういう事があってびっくりしてしまっただけ」

「父さんは、女性には目がないのですか?」


 あえて知らない振りで聞いてみる。

 プレボが女好きなのは、観察していたので知っている。


「今はだいぶ落ち着いたけど、出会った当初は見境が無かったわね

 好みの女の子が居ればすぐに声をかけていたもの、一夜を共にした相手も数人くらい居たって聞いているわ、もしかしたらアンディや私が知らないだけで、他にお兄ちゃんやお姉ちゃんが居るかもしれないわね」


 セイラが俺の頭を撫でる力が徐々に強くなって来たが、すぐに落ち着く。


「でも、私はアンディが女の子の気持ちを分かってくれる様に育ってくれて嬉しいわ

 無節操で鈍感な、お父さんとは大違いね?――私に似てくれたのかしら?」

「まあ、母さんの子供ですから」


 俺の頭を再び撫で始め。


「アンディは大丈夫だと思うけど…、お父さんみたいな大人になってはダメよ?」


 横目で向こうを見る目に殺気を纏わせて。


「あれは一番悪いお手本ね…」


 プレボの事だとすぐに分かる。

 いわゆる、反面教師の良いお手本と言ったところかな?

 徐々に強くなって来た撫でる力は、いつの間にか、俺の頭を掴んでいた。


「アンディにも、いつか好きな人が出来るかもしれないけど、その時は大切にするのよ?」

「はい母さん、わかりましたので、掴むのを止めて下さい、痛いです」


 今後は、特に異性に対しての接し方について、釘を刺された気分だな。

 まだ出会ってすらいないが、異性に対しての扱いを気を付け様と思う。

 あくまでも表向きだけだがな。

 セイラには悪いが、狡猾に生きるという信念は曲げるつもりはない。

 異性だろうと、近所の人妻どもの様に利用して来る輩も居るからな。


 この調子だと、少しだけプレボに対しての不安が残る。

 俺は【覇王の力】を介して、プレボの欲を抑える為に、彼の夜の欲を制限をした。

 具体的には、セイラとエル以外の異性に対しての興味と関心をかなり抑えた。

 夜の欲に関しては、セイラとエルに対してのみとした。これで少しはおとなしくなるだろう。

 あくまでも、今回はこれだけだ――完全に抑えるとダメだろうし。

 プレボの反省点は、プレボ自身で解決して欲しいものだ。

 今回の反省を生かせるかは、プレボ次第、ほんの少しだけ期待して置こう。


 ヤンチャなのも今回だけだ、恐らく二度目はないだろう。


 さて、あの近所の人妻どもの末路についてもだが、俺の家族に手を出したんだ…もちろんただでは帰さないよ?

 あの時に使用していた、中級者向けの催眠系魔術と【加護】の【操りし者】を発動したままにした。

 【覇王の力】を介して、人妻どもの家での配偶者や家族とのやり取りは、聞くに堪えない内容だった。

 同じ様な手口で、プレボの様な若い男性を利用して、甘い汁を吸っていた事も判明した。

 恐らく探せばもっとたくさん被害者が居るだろう。


 俺は、【覇王の力】が今回の事で、更にパワーアップした事によって得た能力の、自身が一度でも接点や、こちらが接点を第三者を介してのものであっても発動可能となった事により、

 人妻どもをアルタ村からの永久追放と、彼女らと接点のある悪人や、同じ様な手口を行う、またに行おうとする者達からの財産の強制没収、その者達からの【加護】と【神の祝福】と【技能】や魔術持ちから力を奪って置いた。


 記憶と思考も操作して置いたし、南東のレイアーズ王国に何人かは投獄されたし、極刑を求刑されたみたいだ。

 これで再犯の可能性はまずない。

 似たような事があれば、またそのうちに対応する。

 これで人妻どもの問題も解決した。


◇◇◇(エルの視点)◇◇◇


 妊娠が発覚した時は、嬉しかったと同時に後悔をした。

 好きな人の子供を宿した事への幸福感と、他人の家庭を崩壊させ兼ねない事に。


 東の国のエスカールの片田舎から上京し、グリーンアース領のアルタ村へと引っ越した。

 元々は、実家への仕送りも兼ねてもあった。

 私の実家は農家ではあるものの、祖父の代から引き継いで来た農場の収入は、決して良いものでは無かった。

 私の父親の代になってからは、不作が続き、お金を借りては返しての生活が続いていた。

 そんな時、私の父親が他の人に手を出して、借金を踏み倒していた事を知る。


 父親は、家にあった財産を持って逃げてしまう。

 私は兄弟姉妹達と残された家族で協力して、必死に働いて借金をなんとか、あと僅かというところまで返済した。

 完全に返済するには、少し足りないと思い。

 私は、出稼ぎを兼ねて、グリーンアース領のアルタ村に移住を決意。

 仕事もすぐに見付かったものの、女一人での生活には限界がある。


 アルタ村の人々は、そんな私にも優しくしてくれた。

 そのうちの人々の中に彼は居た。

 プレーボーイル・ラックスカイこと、プレボさんだ。

 初めは馴れ馴れしく、女性にだらしないのは、外での近所の奥さん方を見れば分かる。

 しかし、私に家で困っていると助けてくれるのが、プレボさんだった。

 私が困った事があれば、必ず助けてくれるのだ、なんて心強いのだろう。

 そんな時間を過ごして居たら、いつの間にか彼を好いている自分が居た。


 とはいっても、あの人は既に既婚者で子供も居た。

 でも、この想いを伝えなかったら、多分一生後悔するだろう。

 私はプレボさんに、この想いを伝える事にした。


 そんな時に朗報が届く、プレボさんの奥方のセイラさんが妊娠した事によって、プレボさんの処理に困っているという物だった。

 プレボさんの汗の匂いや逞しい体を見ていると、やはり男性として意識してしまう。


 夜に一人でなんとか処理をしていたが、さすがに限界が来る。

 奥方や子供の手前もあり、中々そうもいかない。

 しかし奥方のセイラさんの妊娠を好機だと思ってしまったのだ。


 近所の奥様方から処理をして貰っていた事を噂で耳にした私は、さっそくプレボさんに処理の手伝いを提案する。

 あわよくばと考えてしまったのもあるが。


 だが、返って来た返答は実に冷静な物だった、未経験の私に処理を頼む訳にはいかないという。

 プレボさんなりの優しさだというのは分かる、怖いと思うのが普通の筈だからだろう。


 どこから聞いたのか、近所付き合いの奥様方が無理やり割り込んで来て、私とプレボさんの仲を取り持つと言って来た。

 多少の疑いと胡散臭さがあるとはいえ、あの人に想いを伝えるには、これは好機だと思って、その提案を受け入れた。


 しかし、プレボさんに媚薬入りの酒を飲ませて、私もほとんど強制的に飲まされた媚薬での、行為だった。

 いつかはそうなれたらいいなと思っていたが、現実はそんなロマンチックな物とは、程遠い物だった。


 酔っていたせいか、ほぼ記憶が無かったが温もりや多少の記憶があり、憧れのあの人としてしまった事を思い出す。

 その数ヶ月後に嘔吐をした、体の不調かと思い、医師に見て貰ったところ、妊娠が発覚する。

 相手は考える暇もなくプレボさんだと気が付いた。


 大変な事をしてしまったのだと後悔した…が、私が妊娠した事を、あの奥様方に知られてしまったのだ。

 すぐにラックスカイ家に向かうと、そこには奥様方と、奥方のセイラさんから責められたプレボさんだった。

 私は、居ても立ってもいられず責任は自分にあると言った、プレボさんを責めたく無かったからだ。


 どんな責任も負うつもりだった。

 自分が悪い、妊娠したのも罰だと思った。

 情欲に負けたのは、自分自身なのだから。


 でも許された。

 許してくれたのは、その息子のアディーゼウスだった。

 私の事を姉の様に慕い、私も彼を弟の様に扱って来たが。

 まだ幼い子供の筈なのに、冷静に私達のやり取りや会話を全て聞いて、綺麗に話を纏め上げたのだ。


 しかも、私がプレボさんへの想いにも気が付いている。

 それを然り気無く、奥方のセイラさんへと伝える冷静さと気遣い。

 この子供は一体何者だろう?――と思ったが、変な想像は止めよう。

 私と私の子供の恩人なのだから。


 私の子供を家族と呼んでくれた。

 私をお母さんと呼んでくれた。

 それが何よりも嬉しいのだ。


 敬うべき人だ。

 私も彼にとっての良い母親となるのだ。

 もし、無事に子供が生まれたら彼を兄として慕わせるのだ。


◇◇◇(アディーゼウス視点)◇◇◇


 それから数ヶ月後、エルは正式にプレボの妻となった。

 いわゆる第二婦人という感じだろうか?

 俺に対しての態度も柔らかくなって、愛称のアンディと呼んでくれる様になった。

 俺もエルさんではなく、その思いに応える様に"お母さん"と呼ぶ。

 敬意を払う様な態度や口調になる時もあるので、普通に母親として接して欲しいと頼んだ。

 プレボには、もう少しだけ厳しくしても良いと思うので、ヤツには敬意を払わなくて良いと言った。


 一方で、侍女のレイラは、例の記憶と思考の操作によっての効果もあり。

 かなり柔らかくなった。

 特に処理に対しての対応が、以前より柔軟に、理解がある様になった。

 プレボに対しても優しくなったので、これはこれで一安心。


 母親のセイラもあの一件以来、俺を見直したらしく。

 少し大人な、内容の話もしてくれる様になった。

 主に、俺の父親こと旦那のプレボとの馴れ初めや出会う前や後の話だな。


 昔の仲間から聞いた話によれば、プレボは元々、ラックスカイ辺境伯の子息だったらしい。

 しかし、あの女好きな性格と、甘やかされた事によってのわがままなお坊ちゃんになってしまったのだという。

 で、ある日に家に居た侍女やメイド達に手を出したり、夜這いしたりしてたのが、父親に知られて勘当された。

 しかも出て行く時に、金目になりそうな物を実家から盗むわ。

 来ていた客人の女の子を酒に酔って襲うわ。ちなみにその女の子こそが、今の妻となったセイラである。

 アホだな、救いようがない…。


「なんだアンディ?――俺みたいなカッコいい男になりたいか?」


 あんな事があった後だというのに、翌日にはけろっとしていたプレボは、いつも通りのトレーニングをしていた。

 分かってはいたが、コイツは言ったり、失敗しても、反省もしなければ、自分が悪いとは思わないヤツなのだろう。

 まあ、根は悪いヤツではないだろうが。


「家族を危機に晒して、奥さんを悲しませる男にですか?」

「ぐっ、はははっ!…」


 プレボは苦笑いをした。

 ちなみにプレボの頭には、魔術で書いた刺青が入れてある。

 そこには、この異世界の共通語で、こう書かれている『ラックスカイ小学校1年3組プレボ』当然ながらプレボ自身も、この異世界の人は何て言うのか意味なのかは分からない。

 しかもこの文字は、一年経過する度に1年のところが増える仕様だ。

 我ながら完璧な、もはや芸術だと思う。


 あの表情を見て、俺も気を付けるかは、その状況次第かな?

 そもそも結婚以前に恋人も出来るかも分からない。

 出来るだろうが、プレボの様にはならないだろう。

 俺は、あそこまでアホじゃない。


「母さん以外の女性に手を出すのは、これきりにしましょうね?父さん」

「ぐっ、でもエルはいいよな?」


 エルさんは、もう家族だし、俺のもう一人の母親だからいいか。

 当のエルさんも、プレボの事が好きみたいだしな。

 まあ、エルさんだけだな。

 他の女性には、似たような事が出来ない様に、プレボの情欲を制限した。

 万が一にも襲ったりしない様にな。

 逆に、女性の方からは制限が意味無しだから、そこはプレボ自身にやらせよう。


「次は母さんが出て行く可能性がありますよね?」

「ぐぅぅ!…」

「エルさんも故郷に帰るかもしれませんねぇ?」

「うぅぅ!…」


 妻二人のハッピーハーレムのつもりだろうが。

 俺も庇わないし『貸し』は今回だけだ。

 次は、残念ながら母さん達の味方になる。

 見習う必要は無いな、狡猾に生きる為には。

 まあ、方法としては、参考までにとさせて貰う。


 セイラの様な目をされたとしても、逆にそれを利用したり、逆手に取れる様にすればいい。

 【覇王の力】だってあるからな、記憶や思考の操作や改竄(かいざん)する方法だってある。

 俺の覇道は、誰にも妨げさせない。


「アンディ、同じ男なら分かるだろ?」


 食い下がって来たか?――まあ、分からない訳ではないが。


「さあ?――僕はまだ子供なので、分かりませんが?」

「お前にも気になる女の子が出来れば分かる!」


 その時が来たら考えて置くよプレボ。

 分かって欲しい、肯定して欲しいのは分からなくもないよ?

 生前の俺もそうだったからな。


 今回の『貸し』を覚えていようが覚えていまいがは、プレボがどんな状況だろうとも関係無い。

 ただ一つだけはっきりして置く事は、恩を仇で返すのは、絶対に許さない。

 もちろん「これで『貸し』はチャラな」みたいな軽い返し方も、同様にだ。

 これに限っては、母親のセイラとエルさんも、侍女のレイラも、俺の弟か妹も含まれる。

 これから出来る友人や家族も例外ではない。

 裏切りは、どんな形であれ、必ず報いを受けさせる。


 それは、その時になったらとして、今は、


「母さん!お母さん!、父さんがまた…」

「バカ!、やめろー!」


 外は快晴、風も心地良い、ラックスカイ家は、今日も平和な日だ。


◇◇◇


 ついに迎えたセイラの出産日。

 出産の立ち会いは、これが初めてという訳ではない。

 生前の世界の弟の出産にも立ち会った事はある。

 しかし今回は、医療器具も産婦人科の病院でも、医師もいない。


 出産は順調だった、セイラが産気付いて間もなくして女の子が産まれた。

 侍女のレイラや、二人目という事もあってプレボ、エルさんも実は経験者だった。

 故郷に居た時に出産に立ち会った事があり、実際に取り上げた事もあるという。

 妹か、きっと可愛い女の子に育つンだろうな。


 セイラが出産した直後に、エルさんも陣痛が始まる。

 プレボだけでは、手が足りないので、俺も参加した。

 無事に産まれたのは、男の子だった。

 弟か、元気な子に育って欲しいけど、生前の俺の弟みたいには、ならないで欲しいな。

 あと、プレボみたいには、絶対に育ってはダメだぞ?――アイツはアホだからな。


 俺がきちんと教えれば、まともな男の子や女の子に育つだろう。

 俺自身も、この子達の良い手本になる優しい兄として振る舞おう。


 セイラの娘こと、俺の妹の名前はエステル。

 エルさんの息子こと、俺の弟の名前はエリック。

 と、名付けられた。

 ちなみに名前を付けたのは俺だ。

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