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第5話「家庭教師と師匠」

 弟と妹が生まれて数ヶ月、俺は四歳になった。


 俺の弟のエリックと妹のエステルは、すくすくと育っている。

 お腹空いたら泣き、おしっこや便を漏らしたら泣き、寂しい時や不安な時でも泣いた。

 赤ん坊は泣くのが仕事だからな、夜泣きは当たり前。

 四六時中、ギャーギャー、ビャービャー泣いていた。


 家族が増えて、賑やかになったのはいいが、今まで俺の世話で楽をして来た分の反動で、父親のプレボと母親のセイラは、あっという間にダウンした。

 まあ、無理もないか。

 一人を寝かし付けた直後に、もう一人を寝かし付けるのループ。

 本来、赤ん坊というのは、これが普通なのだからな。


 とはいえ、赤ん坊の夜泣きや泣き声は、さすがに俺でもうるさかったので、以前冒険者から【覇王の力】を介して入手した【加護】の【音無の空】を使用した。

 この【加護】は、自分自身に対象にした、音や声といった音に関連した物を静めてしまう物だ。

 自身の音や声も消す事も可能である。

 これによって、俺は雑音という邪魔がなく快適に過ごした。

 ただ、欠点があるとすれば、自分を呼ぶ声すらも消す為、飯のタイミングをよく逃すので、使いどころを考えないといけないな。


 侍女のレイラやエルさんは元気だった。


「お二人は休んでて下さい」

「あとは、私達に任せて」


 頼もしい限りだ。

 侍女のレイラはともかく、エルさんが手慣れているのは、自分の実家や故郷でもよく赤ん坊の世話をやっていたという。

 俺自身も、生前の世界での弟や親戚の子供や赤ん坊の世話を経験しているから、慣れっこだった。

 漏らしたら、おしめを交換して綺麗にする。

 レイラとエルさんからも、大したものだと言われた。

 これくらい普通なのだが…、褒められるのも悪くはないな。


 そんな俺やエルさん達を見て、プレボは呆気に取られている。

 それもそのはず、プレボは子育て以前に、家事や掃除等の家の仕事がまるでダメなのだ。

 ほとんど役立たずと言っても、言い訳出来ない程だろう。

 やろうとした事もあったが、逆に家具や道具を壊してしまう程に不器用なのだ。

 その上、女性に対してもだらしない、すぐに信用して騙される、浮気癖、男としてはもはや周囲の人からクズと言われても擁護出来ない程だ。


◇◇◇


 では、そんなプレボがこのラックスカイ家に貢献している事について教えて置こう。

 まずは、仕事だ。

 プレボの仕事こと収入源は、剣士だ。

 あれでも一応元冒険者でもある、プレボの実力は本物で、【技能】の【アタックカウンター】というのを体得している。

 それを駆使して、戦闘を行う。


 プレボは魔術は使用出来ない。

 正確には、昔やろうとしたが才能が無かったので諦めたという話だった。

 その代わり、プレボの【加護】の【剣聖】と、【神の祝福】の【剛剣】があった為剣士の道を歩む事になったのだ。


 プレボの【加護】の【剣聖】は、剣や武器を操る事に長ける物で、自身の持つ魔力をも全て剣や武術に回す事によって戦闘能力が上がる物だ。

 プレボの【神の祝福】の【剛剣】は、体術や武術といった事に長けている物で、武具ならば何でも使いこなせるという代物。


 グリーンアース領のアルタ村での、警備や見回り、魔物が現れた時の村の防衛、商人や貴族等の警護。

 アルタ村には、残念ながら騎士団は居ない、街や王都の方から来て貰うか、連れて来るしかない。

 そこで、元冒険者や元騎士団の者に村の警備を頼むのだ。

 それでも足りない時は、現役の冒険者を派遣して防衛や警備をして貰う。


 アルタ村に限らず、グリーンアース領は魔物が頻繁に現れる。

 冒険者にとっては、絶好の狩場でもあるので、このアルタ村は、その魔物が出現する場所への近道。

 だから冒険者がよく訪れる。

 南の方に行けば、商業王国のレイアーズがあるので、旅人や商人もよくアルタ村を通る。こちらも近道だからだ。


 プレボは、その警護や護衛を任される事も屡々(しばしば)

 魔物を討伐する仕事もこなしているので、アルタ村の住人からの信頼も厚い。

 父親としてはダメだが、剣士や仕事は出来る。

 だからといって傍若無人や、家庭を顧みずの浮気が許される訳でもない。

 早い話、仕事で結果を出すヤツが、国王や神様並に偉いかという事だ。


 俺も生前の父親が、まさに今の話に出て来た、結果を出せば偉いみたいなヤツだった。

 超が付く程に不器用な男だったが、こちらの異世界での父親も、あまり変わってはいない――まったくもって残念だ。


 そろそろ俺も、自分が進むべき覇道が見えて来たかもしれないな?

 やはり、人は個人では自らを律する事すら出来ないのであれば、"誰か"に"管理"されないと、ダメなのか…。

 いや…もう少しだけ、様子を見るとするか。


 一方で母親のセイラはというと…、初めは、エリックとエステルの夜泣きにダウンしていたが、割りとすぐに慣れたらしく、今じゃ泣き止ませるのも、エルさんやレイラより上手い程だ。

 こういうところは、さすが母親だなと感心した。


◇◇◇


 今日から、俺の家に家庭教師が来る。

 正確には、魔術師の人が魔術を教えに来るのだが。

 …で、どうして?そういう話になったかというと、

 事は数日前に遡る、


 俺はいつも通りの魔術の練習と鍛練をする為に、自宅の二階の物置部屋で行う。

 そろそろ外で練習をしたかったが、まだ幼い子供の為、一人で外は危ないと言って、プレボやセイラも中々、許可してくれなかったので、仕方なく家の中で練習する事にした。

 外出するにしても、必ずプレボやセイラが付いて来るからだ。


 魔術の練習については、まだ家族には秘密にしてある。

 よく言うだろ?――能ある鷹は爪を隠すって。

 俺はこの異世界では、可能な限り目立たずに狡猾に生きると決めているのもあるが。

 俺の元居た世界でもそうだったが、突出した才能や少しでも優秀なヤツは嫌でも目立つ。

 かつての日本でも、少し特別な能力を持つヤツが迫害を受けたり、大昔の海外でも魔女狩りなんて物騒な物もあったくらいだ。

 万が一という事もある、魔物の類いだと疑われて討伐等は、御免だ。


 初級の魔術なら既に、家の窓からも使用しているし、何なら家族会議の時も無詠唱で中級の催眠系の魔術を使用しているから、

 家族にバレても仕方ないと思っていたが、以外とバレない物なのだな…。

 運が良かっただけだろう、もし使用した時に魔術師が居たらバレる可能性もあるしな、


 以前、侍女のレイラにもバレそうになった事があり、何かと険しい表情で見て来ていたが、【覇王の力】を介しての記憶と思考の操作によって、俺に対しても優しくなったし、

 今では怪我の心配やセイラにも負けないくらいに過保護な程だ。

 だが、俺が一人でやりたい事も優先にして、やらせてくれる。


 好きにやらせてくれるなら、多少の過保護なら見逃してやるが、俺の魔術については、まだ全てを明かさないで置こう。

 なのでこの、マル秘魔術練習は、極秘に行う必要があるのだ。


 魔術も既にたくさん使用していたので、魔力の量も増えているとは思う。

 魔力の量を計った事が無いので、あれだが、機会があれば試してみよう。


 魔術は以前もだが【覇王の力】を介して入手はしているし。

 やり方も知識上も技術上やる事も可能だ。

 だが、まだ幼い子供で、ましてや何の努力もしていないヤツがいきなり魔術を使用したら、目立ってしまう。

 この異世界を狡猾に生きるという目的の為にも、可能な限り鍛練や練習して会得しようと考えたのだ。


「それに魔術は嫌いじゃないしな?」


 初級の魔術は既に一通り試し終えている。

 中級の魔術も、放出系ではない状態異常を掛ける物は、既にたくさん使用していた。

 外出の許可が下りない以上、自宅の物置部屋が、一目も気にせず練習が可能な唯一の場所だからだ。

 まずは、最初に使用した事のある水流弾(ウォーターボール)から、復習やおさらいを兼ねて使用する。


 詠唱ありと無詠唱をどちらとも使用する。

 これは既に手慣れた物で、目を閉じても、余所見してても使用出来る程だった。

 的当てや、遠距離からでも標的に当てられる様に練習する。


「もう、この水の初級魔術はいいな?」


 他の魔術についてだが、結果、全て使えた。

 全て試したのだ。


 まずは火の初級魔術から、

 感覚が分からないので、最初は詠唱ありで行う。

 どのように出るか少しだけ不安だったが。


「汝の処に火神(かじん)の祝福にて火の加護あらん、炎よ強き(ほむら)を我の前に火炎弾(ファイアーボール)


 実際は、火の玉が出る程度だった。

 数発試し打ちを繰り返した、もちろん無詠唱も試した。

 水の魔術と同様に、集中してイメージする。

 「火の玉、火の玉ー…」


 元の世界で、火の玉みたいな物を見る機会があったのが良かったのか、割りとすぐに出来た。

 ゲームやアニメ等を見ていたのが、こんなところで役に立つとは。


 そこまでの火力がある訳では無いが、一度だけ、家の柱か、壁に引火してしまった時はさすがに焦ったよ。

 すぐに水の初級魔術を数発以上当てて、鎮火した。

 多少の焦げ臭かったが、なんとかバレずに済んだ。

 火の用心マッチ1本火事の元、とは――まさに、この事だと学んだ。

 火の魔術の使用の際は、必ず水をたくさん用意してから行った。


 次に風の魔術を試した。

 こちらも、最初は詠唱ありで行う――感覚を掴む為にもな。


「汝の処に風神(ふうじん)の祝福にて風の加護あらん、風よ疾風の刃を我の前に風刃(ウィンド)


 風の魔術については、普通に風が吹く、つまり、そよ風程度の風だった。

 当然ながらこれも、無詠唱を試した。

 基本はとにかく、集中してイメージする。

 しかし、風って目に見えないのでイメージするのが難しかったので、アニメやゲームなんかを連想したら、なんとか出た。

 最初は、手に持つ団扇で扇ぐ程度のそよ風にも満たない程だったので、ひたすら練習した結果――扇風機の強くらいの風力になった。


「風の魔術の無詠唱ではこんな物か?」


 幾度かの練習を経て、軽い物なら吹き飛ばせる威力を出せる程にはなった。

 家が壊れる程では無かったが、勢いが良い風の時に、家具や物が飛んでしまうので、魔術と風のコントロールが必須だった。


 土の魔術も試す。

 最初は詠唱ありでな。


「汝の処に土神(どじん)の祝福にて土の加護あらん、土よ大地の怒りを我の前に土石弾(ストーンショット)」 


 土の魔術は、そのままの通り、土、つまり石の弾丸が放出された。

 石というより、土の塊に近い感じか?

 放出された土の塊を拾ってよく観察する。

 結構大きな石や岩を想像してたので、拍子抜けした。

 しかし土の塊の弾丸は、かなり固く。

 家の壁や柱を傷付ける程の威力があったので、可能な限り使用は控えたが、


 これも無詠唱で試さずにはいられない。

 現物を詠唱ありで放って置いたのが、想像する際の良い手本になった。

 手の平の中央に、土の塊が作り出されるイメージと、それを放出するのを想像する。

 水の魔術を散々繰り返したのが良かったのか、割りとすぐに出来た。

 最初は石ころにも満たない程に小さい物で、土というよりは泥玉に近いだろうか?

 あとは、とにかく練習、練習を繰り返し行った。


「どうせなら、詠唱ありより固くて大きな物を打ち出そう」

 

 練習と鍛練の結果、少し大きめの石に匹敵する土の塊を使用出来る様になった。

 攻撃系の魔術では、この土の魔術を主に使用した方が良さそうだ。


 氷の魔術も最初は詠唱ありで行う。


「汝の処に水神(すいじん)の祝福にて水の加護あらん、氷よ氷結の柱で我が敵を凍てつかせよ氷結弾(アイスショット)


 氷の魔術は、水の魔術の詠唱の改良型っていう感じだろうか。

 唱え方が似ているので、間違えない様にしないとな、あと、少し長い。

 氷の魔術は、土の魔術と同様に氷の塊が放出された。

 これも、家の壁や柱や家具を壊す可能性がある為、使用は控えた…が、


 これも無詠唱で試す。

 まあ、当然だろう。

 氷の塊というよりは、冬の季節によく見掛ける氷柱を連想したら、すぐに出来た。

 最初は、土の魔術と同様に小さな氷の塊が出る程度だったので、これもひたすら練習、練習を繰り返す。

 結果的に、氷柱一本分の塊を放出出来る様になった。

 作った氷柱は、夏の暑さ凌ぎに使用した。


 雷の魔術については、


「汝の処に雷神(らいじん)の祝福にて(かみなり)の加護あらん、(いかづち)雷帝(らいてい)の怒りよ、我が敵を断罪せよ雷雲槍(サンダースピア)


 氷の魔術と同様に詠唱が長いな?――長さは意味があるのかは、よく分からん。

 電気や雷が放出されると思っていたし、アニメやゲームみたいなのを期待してたが、実際は、静電気のデカイのと言えば分かるだろうか。

 一瞬だが、バチッっとなる感じか?


 これも無詠唱で試すのだが、雷をイメージするのは少し難しい。

 日常でほとんど見る事が無いからな、昔、テレビ番組でやっていた電気の放電のシーンや、漫画やアニメといった雷や電気の放電のシーンは、良い手本となったが、


「雷…雷…」

「電気…電気…」


 風の魔術と同様に、実際に見た事がある訳ではないので、すぐには使用出来なかった。

 何度かやって、ようやく出来た感じか。


 とはいえ、火の魔術と違ってそこまでの威力も無かったので、しばらく使用していた。

 すると、目に見えるくらいの大きさの雷を放てる様になった。

 ある時、連続して雷の魔術を使用したところ、家の柱に引火したのだ。


 幸いにも、火の魔術の練習にと水をたくさん用意していたので、すぐに鎮火したが。

 電気による火事、まさか、こっちの異世界でも起こるとは。

 電気での火事は、基本的にコンセントの配線から漏電等や、家のゴミやホコリまみれが、主な原因だが。

 今回の場合、雷の魔術を一点に集中し過ぎた際に、落雷による火事と同じ現象が起きてしまったのかもしれない。

 元々、この家も木や丸太を加工して作った木造住宅だしな、燃え易い素材だったのも原因の可能性もある。


「逃げ場が無くなった雷が引火したという事か?」


 雷の魔術だと思って油断しない方が良さそうだな。

 一応は、攻撃用の魔術だもんな、安易な使用は控えた方が良さそうだ。


 一通り試してみて、魔術の詠唱って――なんで、こんな中二心をくすぐる文章というか、これを作った人も、もしかしたらそういう人だったのかもしれないな。


 やはり魔術は面白い。


◇◇◇


 んで、初級魔術を一通り試したので、

 俺はついに中級の魔術を試そうと思い、中級の魔術のページを開く。

 水の魔術の方がリスクも少ないので、これを使用する事にした。

 だが、この軽い考えが良くなかった。


 中級の水の魔術とはいえ、最初は詠唱ありで行う――基本に忠実にすべきだと思っているからだ。

 魔力暴走の危険性や事故の可能性を考慮してもあるな。

 冒険者達から【覇王の力】を介して得た記憶や経験からでも、大体の威力は分かるが、

 知識上なら中級の魔術の攻撃系なら知っていても、実際に見るのとやるのとでは大違い。


「汝の処に水神の祝福にて水の加護あらん、水よ豪水の流れを我の前に水流衝撃波(ウォーターインパクト)


 せいぜい大きめの水の玉が出る程度だと思っていたが、実際は凄まじい水流が片手の手の平から打ち出されたのだ。

 家の二階の壁を破壊し、そのまま家の外に打ち出された大量の水の衝撃波は、まるで洪水の様に、目の前の物を吹き飛ばした。

 可能な限り他の人が居ないであろう場所に目掛けて放ったつもりだが。


「中級の水の魔術ってこんなに威力があるのか?」


 恐らくだが、これまで何度もあらゆる魔術を使用していた事によって、既に大量の魔力で威力が上がっていたのか、それとも元々強力な威力の魔術だったのかのどちらか。

 こうなると、他の中級の攻撃魔術も同等の威力がある可能性があるな?


 そういえば、中級の魔術の注意書きに、決して人前や演習以外では使用しない様にって記載してたっけ?

 つまり元々、これ程の威力がある魔術という事になる。

 人に目掛けて放ったら、当たりどころが悪ければ病院行きか、最悪死ぬ可能性もあるな。


 ここまでやったら、さすがに言い訳が出来る筈も無い。

 俺の極秘のマル秘魔術練習は終わりを告げた…。


「な、なんだ!?――二階の部屋からか?」


 物音を聞き付けたプレボが二階に駆け付けた。

 二階の壁に、どでかい穴の空いた場所を見て唖然とした顔をしている。


「家の壁に穴!?――アンディ?怪我は無いか?」


 プレボも父親らしいところもあるんだな、少しだけ見直したよ。

 部屋の壁に穴が空いてたら、普通に考えても部屋の中の人、つまり俺がやったのは明白なのにな?

 子供の無事と安否確認、その対応…父親として正解だぜ?プレボ君。

 魔物や外からの攻撃等の可能性を考慮して警戒しているな。


「まあまあ…」


 続いてセイラも入って来た。

 エルさんやレイラは下で、エリックやエステルをあやしているのだろう。

 さっきの物音で起きてびっくりした、弟と妹のギャン泣き声が聞こえる。

 これに関しては確実に俺が悪い。


 彼女は冷静に、部屋に入るなり、辺りを見て状況を確認する。

 部屋に空いた大きな穴、水浸しの床や壁、開きっぱなしの魔導書。

 順番に見た後に俺を見て「なるほど」と納得した表情をする。

 俺の前にしゃがみ込み、優しく微笑みながら語り掛ける。


「ねえ?――アンディ?この本に書いてある文字を声に出しちゃったの?」


 俺は悪くない、と言いたいところだが…。

 この状況で言い訳も出来る筈も無い。

 こうした場合は、素直に謝るのが基本だ。

 下手に言い訳や開き直って不貞腐れても、状況が悪化する一方なのは、この異世界だろうと元居た世界だろうと違いは無い。


 狡猾に生きるにしても、まだ幼い子供の俺には、一人で生きて行けるだけの体力も力も無い。

 まあ【覇王の力】を介せば出来なくも無いが、

 富なら以前【覇王の力】を介して入手してあるが、権力や一人で稼ぐ事も不可能。

 力が無い言葉はただの戯れ言、力があっても強過ぎれば、邪の物として排除されてしまう。

 だからこそ、"表向き"は良い子を演じるのだ。

 そう、時が満ちるまで…。


「ご、ごめんなさい…母さん」


 俺は首を縦にこくりと振り、謝罪の言葉を伝えた。

 悪い事をした時は、素直に謝るのが良い。

 更に申し訳なさそうな顔と表情を追加する。


 まあ、本心は微塵も悪いとは思っていないが…。

 バレる嘘や下手な嘘は悪いが、バレない嘘や上手い嘘なら大丈夫だ。

 良い子という仮面を被るのならば…な。

 嘘を付いてもすぐにバレるのは、嘘が元々下手か、顔や態度に出やすいからだろう。

 プレボなんかが良い例だな、すぐに顔や態度に出る。


 俺の元居た世界でも、嘘は重宝した。

 家族にしても、あんなに俺を邪魔者扱いする様なヤツらだった上に、職場や学校でも嘘という仮面はめちゃくちゃ便利だった。

 ちなみに嘘泣きも出来る、というか得意だ。

 それで難を凌いだ事だってあるくらいだ。

 声や仕草でも、それっぽく出来る。


 嘘がいけないというのは偏見だ、誰しもが表向きの偽りの仮面を被っている。

 例えばの話だが、仕事場で明るく優しい人が居たとして、その人がオフの日にキレ易い人だった場合を想像すれば良い例だろう。

 所謂(いわゆる)、表向きの偽りの舞台でパフォーマンスをしているみたいな感じか。


「アンディが、この魔導書を!?」

「キャー、聞いたわよね?あなた?うちの子供は天才だわ!」


 プレボが息子の魔術を使った事に驚くのを、遮るかの様にセイラの感動の声を上げた。

 その場で飛び跳ね、喜びと感動を体で表現する。


「でも、アンディには、まだ難しい文字を教えては、いない筈だろう?」

「そんなのどうでもいいわよ、家庭教師を雇いましょう?――将来有望な魔術師になるわよ絶対!」


 プレボは戸惑っている様だが、セイラは歓喜している。

 よっぽど魔術を俺に教えたくて仕方ないらしいな。

 俺がやった家の壁の破壊の件は、何処へやら。


 いつの間にか、部屋に入って来ていた侍女のレイラは、俺の行った事に対しては肯定的な反応を示し「全ては、旦那様と奥様にお任せします」と言って、部屋を片付け始めた。

 なんだか楽しそうで嬉しそうな反応をしながらも、侍女としての仕事をこなす。

 以前の彼女なら、こんな反応をしなかっただろうが、家族会議以来、俺に対して肯定的になったからな。


 エルさんも部屋の入口付近で、子供たちを抱っこしながら、座り込みながらあやしている。

 彼女も、あまり気にしていない様子だ。

 男の子はこれくらいやんちゃなくらいだからか。

 自分の子供の世話で、それどころじゃないのかもしれないな。


「ねえ?あなた、早速、付近のエルダの街で募集をしましょうよ?――才能はもっと伸ばさなきゃ!」


 セイラは、一人だけ興奮気味で騒いでいる。

 たかが中級の攻撃系の魔術を使ったくらいで、この騒ぎ様。

 上級の魔術を使用するならまだしも、そんなに珍しい訳でもないだろうに。

 親馬鹿とは、この事を言うのだろうな?


 これがもし近所の子供や親戚の子供なら、ああはならない。

 俺は、セイラの前では一度も魔術を使用した事は無い。

 にもかかわらず「絶対」という言葉が出てきたという事は、

 以前からか、俺に何かしらの才能や天才かもしれないと思っていたのだろう。


 根拠は無いだろう、自分の子供だからだ。

 何かしらの才能があるかもしれないってな。


 心当たりは…あるな。

 俺が生まれてから二年くらいの時か。

 本を見たり読んだりする時に、無意識で、書いてある文字を一人で読み上げる事があった。

 書いてある文字の意味を知る為でもあったが。


 その発言や言葉を聞いたセイラが「アンディ、それはね………」と。

 その言葉の意味を教えてくれるのだ。

 お陰で、この異世界の共通語の使い方や応用した言葉も覚えられた。


 この異世界での共通語は、【覇王の力】を介して、生まれてすぐに会得している。

 難しい言葉や文字も、難なく理解や読む事が可能なのだ。

 もちろん、この事は誰にも言っても伝えてもいない。

 言葉も教えて貰ってはいないし、教えを乞うた事もない。

 

 親からしてみれば、自分達の子供が教えた筈も無い本をいつの間にか読んで、言葉にして発言しているのが凄い、天才だと認識されたのかもしれない。

 そりゃ、年端の行かない子供がいきなり、魔導書みたいな難しい本を見て言葉にしてたら、確かに奇妙か?


 もし、仮に俺にも子供がいたとして、その子供が2歳か、3歳くらいからいきなり専門書の様な難しい内容の本を見たり読んだりしたら、そりゃ天才だよな。


 生前の、つまり俺が元居た世界でもあったな。

 俺もそこそこは勉強は出来たし、運動もそれなりに出来た。

 俺の両親も、さすが私達の子供だな!――と褒めてくれてた。

 でも、弟が生まれた後に、事態が急変する。


 俺より優秀なんだよ、成長も早かったし。

 弟は体力も頭脳も。

 当の両親も「うちの子供は天才だわ」だの言っていたしな。

 少し言葉かも分からない発言をしたり、でんぐり返ししたくらいでも。

 その弟はすぐに、両親の離婚によって母親と共に出ていったきり音信不通だが。

 生前の時の兄は両親の再婚相手の子供、つまり義兄に当たる。


 元社会人のニートとはいえ、頭も精神的にも30歳以上だ。

 それくらい思わないとやるせないが、天才だと褒められるのも悪くは無い。


「あなた、家庭教師よ!エルダの街ならギルドを介せば良い魔術師が見つかるわ!」


 才能がありそうと見るや否や英才教育をして来ようとするのは、元の世界もこの異世界も変わらないらしい。

 生前の俺の両親も、離婚するまでは、弟に習い事をさせまくっていたな。


 少し言葉を発したり、運動が出来たりするのが年齢的に早いくらいで、天才だの才能だの言うのは、

 他の親も似たり寄ったりか。

 ピアノを指1本で鳴らせば、ピアノやらクラシックのスクールに、運動が出来れば、スポーツのスクールに、

 でも、才能が無くても習い事させる親も居るから、全部がそうとは限らないな。


 セイラは俺に魔術師の家庭教師を付ける事を提案して来たのだが。

 それをプレボは反対した。


「男の子が生まれたら剣を習わせる約束だった筈だろう?」


 男の子が生まれたら剣を習わせ、女の子だったら魔術を教える。

 俺が生まれる前からそんな約束をしていたらしい。

 男の子ならスポーツ、女の子なら音楽的なヤツだろう。


「でも、こんな幼いうちから中級の魔術を発動出来るのよ!――鍛えれば立派な魔術師になれるわ!」

「そういう約束だったろうが!」

「約束って、あなたが守れた事あったかしら?」

「それとこれとは関係無いだろ!」


 そのまま夫婦喧嘩に発展。

 やれやれ、子供の事になるとムキになりやがって。

 仲がいいのか悪いのか。

 その前に、俺も一つ気になる事を聞いて置くか。

 

「あのー?父さん?」

「なんだアンディ?今は大事な話の最中だぞ?」

「仮に、僕が剣を習うとして――誰から習うんですか?」

「そりゃもちろん俺だ!」


 俺からの問いに、プレボが自信満々にニヤニヤしながら、そう答える。


「母さんや家庭を危険に晒す人にですか?」

「なんだと!」


 事実だろう?プレボさんよ。

 家庭を顧みずに失敗したのをわすれたのか?

 やはり、まだ自分が悪くないと思っているみたいだな。


「アンディ?その話は終わった筈よ?」

「はい母さん、でも仮に父さんから剣を習うしたら…他に教えてくれる人の方が僕はいいです!――どのみち剣や魔術以外も教えてくれる人を雇うのでしょう?」


 家庭教師を雇うという事は、つまり剣術や魔術以外の言葉や言語、常識や歴史、文字の読み書き等も含めて教えて貰う事になるだろうからな。

 まあ、魔術師の家庭教師以外にも家庭教師を雇うなら別だがな。


「アンディ、気付いてたのね?」

「はい、自分自身の先の事も考えての事です」


 掃除と片付けをしながらレイラが、


「奥様――アンディ様に1本取られましたね?」

「そうね…」

「じゃあ、剣術の家庭教師と魔術の家庭教師を二人雇うのか?」


 それもそれで悪くは無いが。

 プレボさんよ、ここまで俺が言っても分からないのか?

 鈍感野郎だな。


「いえ、剣術は父さんで構いませんが、魔術の家庭教師は別に付けて欲しいです」

「それだと剣を習う時間が無いだろう?」

「もう!――朝は剣術を、お昼からは魔術を教えればいいって事よ?」


 セイラが、痺れを切らして魔術と剣術の習う時間帯を言う。

 プレボは、本当に鈍感というか不器用というか。

 普通あそこまで言ったら分かると思うが。

 まさか丸一日、剣を習わせるつもりだったんじゃないだろうな?

 いくら俺でも、そこまで脳筋の体力馬鹿には、なりたくねぇぞ。


「いやでもな…」

「父さんが嫌なら、やっぱり剣の家庭教師は、別の人を雇う事にしてもいいですよ?――僕はどちらでもいいですが…」


 もしかして、コイツ――自分が出来る事は他の人でも出来るとかいうヤツか?

 自覚している人としていない人の二種類居るが、プレボは恐らく後者だろう。

 もしそうなら、仕事の上司に居たら、まず嫌われるタイプだな。

 お前のこだわりはどうでもいいんだよプレボ、家族という一つ屋根の下に住む仲なら少しは妥協しないとダメなんだぜ?


 ちなみに家庭教師を二人雇うのは可能だ。

 以前の家族会議の際に、この家に迷惑を掛けたとして、ご近所の人妻達の当人達と、その家族や配偶者達から、謝礼金を正規に貰っているからだ。

 この家の壁の修繕どころか、家庭教師を一人雇っても、おつりが返って来る程なのだ。

 まあ、いざという時は、【覇王の力】を介して、冒険者や旅人や商人達から入手した富もあるがな。


「分かった、朝は剣で昼は魔術だな?」


 ようやく折れたか?

 まったく、頑固職人気質だな。

 いつの間にか夫婦喧嘩の口論は止み。

 プレボが折れた事によって、朝はプレボから剣を、お昼からは家庭教師を雇って魔術を教わる事となった。

 もちろん文字の読み書き等も含めて。

 文字の読み書きや歴史や常識等は、夜や天気が悪い日に行う事となった。


◇◇◇


 というワケで、ウチに魔術と文字の読み書きの家庭教師を一人雇う事になった。


 この異世界での家庭教師という仕事は、文字の読み書きや常識が分かる事、冒険者等による剣や魔術関連の実績があれば、基本的に誰でもなれるという。

 元冒険者の経験者でも良い。


 家庭教師に行く家にもよるが、収入もかなり貰える。

 プレボも元騎士からの冒険者上がりでもあり、実家が辺境伯の元貴族。

 剣士としての実力もあるので、準男爵辺り、一応は給金も辛うじて払える程はあるとか。

 以前貰った、"例"の臨時収入もあるが、あまり使いたくないそうだ。


 とはいっても、アルタ村のかなりの田舎だ。

 辺境な上、優秀な人材と言えば、元冒険者のプレボと、元近衛兵の侍女のレイラくらいだ。

 現役バリバリの冒険者どころか、剣士も魔術師すらも居ないのだ。

 もし呼ぶなら、エルダの街に冒険者ギルドや魔術師ギルドがあるので、そこで依頼するしかない。


 魔術師ギルドや冒険者ギルドに、今から依頼した所で、はたして――来てくれるかも、応じる者が居るかどうか……。


 そんな事を悩んでいると、あっさり家庭教師やりたいという人が見付かったらしく、明日から来てくれるという。

 この村には、冒険者や商人も立ち寄る為、一応宿屋があるのだが、高額なのと、ウチまでの距離が遠いので、住み込みになるらしい。

 まあ、ウチの家には、部屋がたくさんあるから大丈夫だろ?


 両親の予想だと、恐らく現役の冒険者を引退したベテランの魔術師が来るかもしれない。

 さすがに、こんな田舎で魔物も出没するところに一人で来る若い魔術師は、まずいない――女性の魔術師なら、尚更だ。

 仮に若い男性の魔術師であっても、王都や上流貴族に基本的に仕えるか、その王族や貴族の家に行くだろう。

 何しろ、ガッポリ貰えるからな――結局、お金だ。


 この異世界で魔術師が出来るのは、上級の魔術師だけだ。

 でないと、実戦で大怪我するか、最悪――死ぬかもしれないからだ。

 恐らく来るのは、冒険者のランクも高ランクの可能性がある。

 現役を引退したベテランの魔術師で、年齢も、中年か老人かもしれない。


 …と、言っていたら、


「ミリアです!よろしくお願いします」

「サリーです!」


 やって来たのは、予想の斜め上の若い少女の魔術師だった。

 しかも、二人とも女の子で、もう一人居るのは想定外だった。

 背丈も低く、中学生くらいだろうか。


 一人目は、魔術師の様な服とローブに身を包み。

 藍色の髪の毛を頭に束ねたポニーテールと、清楚で礼儀正しい、学生で例えるなら委員長的な感じかな?

 手にしているのは鞄と魔術師が使っていそうな杖だけだ。

 恐らく、こちらの少女が、例の魔術師の家庭教師だろうな。


 …んで、もう一人の少女は、

 赤いローブというかマントだな、皮製だろうか――茶色の防具を肩と腕に装備している。

 いかにも冒険者という感じだ。

 朱色の髪を三つ編みにして、手を腰に当てている。

 活発的で元気な感じ、学生で例えるならスポーツ女子的な感じかな?

 手に持っているのは無いが、冒険者用の茶色い手袋と、腰に片手剣を装備している。

 この少女は、魔術師ではない――魔術師の少女の付き添いだろうか?

 そんな彼女達をラックスカイ家総出でお出迎えする。


 彼女達の姿を見て、プレボとセイラはびっくりして声も出ない様だ。

 エルさんとレイラは普段通りに「まあ、可愛らしいわね」等と言っている。

 そりゃそうか。

 予想や想定していた相手とあまりにも違い過ぎる。

 しかも二人で、どちらも若い少女と来たもんだ。

 家庭教師と言えば、普通なら大人の人が来ると思うのが自然だ。

 若くても、せいぜい20歳か30歳くらいだろう。

 それがどうだ、こんなに若い。


 ギャルゲーとかによく有りがちな展開だよな。

 アニメやゲームならまだしも。

 これに、ジト目、無愛想、が加わればもう完璧なんだが。

 そこに、足蹴、罵り、軽蔑が合わさればもはや神。

 だが、この少女が食べる方か、食べられる方かにもよるな?――うーん。

 ペットにするか、ペットになるかだな。


「あの?――あなたが、例の家庭教師の人ですか?」

「随分若いですね?」


 両親が黙っているので、俺が魔術師の少女に話し掛ける。


「あなたも若いでしょう」

「可愛いわね?――坊やいくつ?」


 二人いっぺんに話し掛けられると、答えづらいな。

 素早いツッコミというか、すぐに対応して来た。

 もう一人の冒険者の少女は、俺に興味津々な様子だ。


 ミリアは一呼吸を置いてから、


「それで?――私が教えるお相手はどちらに?」


 家の外や中の周囲を見回しながら聞いてくる。


「この子よ?」


 セイラが、俺の頭を撫でながら紹介する。

 俺も軽くお辞儀をする。

 初対面だしな、礼儀も大事だ。

 すると、ミリアが分かりやすく反応をした後に、ため息をしながら。


「居ますよね?――少し子供が何か出来ただけで、才能やら天才やら言う親が」

「そう?――私は気に入ったけどね」


 ボソッと呟く。

 小声のつもりだろうけど、しっかり聞こえてるよミリアさん

 うん、その意見には、俺も同意するよ。

 サリーさんだっけ?――の冒険者の少女は、俺に好印象みたいだな。


「何か言った?」

「いえ…」

「それより、本題を聞くわねミリアさん?」

「はい」

「どうして二人居るのかを教えて欲しいわ」


 そうそう、俺もそれが気になっていたんだよ母さん。

 家庭教師が一人で来ると思っていたのに、まさかの二人だもんな。


「それは…」

「私が言うわミリア」


 ミリアさんが話そうとすると、サリーさんが言葉を遮って、話し始めた。


「私は、付き添いのつもりだったんだけど…面白そうだから、付いて来たって訳よ」


 自信満々に、えっへんと言わんばかりにふんぞり返る。


「サリーは元々、このアルタ村の近くに出没する魔物を討伐するのも、目的として来ていて…そのついでという感じです」

「まあ、そんなところかな?」


 要するに、サリーさんは、ミリアさんの付き添いで付いて来たと。

 サリーさんの目的は、アルタ村の近くに出没する魔物の討伐。

 一応は、冒険者だろうからな。

 恐らくだが、ミリアさんとサリーさんは、同じ冒険者の仲間か、パーティーの可能性があるな。


「じゃあ、ミリアさんを送り届けたのなら、目的は達したんじゃないの?」

「そうなんだけど…さ!」


 俺に抱き付くサリーさん。

 胸が当たってるよ?――うお、これは…結構な大きな物をお持ちで。

 …とと、いかんいかん。


「この子が気に入ったから、私もやるよ家庭教師」

「でも私達は、さすがに二人同時に給金を払えないわよ?」


 本当は、払えるんだけど、あのお金は、使いたくないらしいからな。


「それは大丈夫です、私達も冒険者ですし」

「私に関しては、魔物を討伐しての報酬でお金を稼ぐつもりだから」

「それならせめて、私達の家に泊まるといいわ」

「え?いいの!?」


 まあ、俺も宿や飯くらいなら、あげてもいいと思う。

 こんなに可愛い少女達に教えて貰えるなんて、めちゃくちゃ嬉しいし。


「お言葉に甘えましょっかサリー?」

「うん!」


 よっしゃー、ロリ…じゃない、女の子の家庭教師二人同時、最高だな。

 しかし、ミリアさんからは、魔術の家庭教師として、サリーさんは、何の家庭教師になるのかな?

 ひょっとして、剣の方かな?

 だとしたら、むさ苦しいプレボにわざわざ教えて貰う必要も無いから、ありがたいけど。


「サリーさんは、この子に何を教えてくれるのかしら?」

「私は、基本的に剣士なので、剣術を教えようかと思うわ」


 やっぱりか、よっしゃー(心の中でガッツポーズをする)、そう来なくっちゃ。

 すると、プレボが割って話しに入って来る。


「ちょっと待ったー!――俺の息子には、俺がけ………」


 おっとさせねぇぞ、プレボくん?

 俺は【加護】の【無音の空】をプレボに対象に発動して、プレボの声のみを消す。

 ちなみに、周りにはバレていない。

 無音で口パクしている様に見えている。


「ん?――なに?――け、なんだって?」

「ああ、気にしないで下さい!――たまにおかしくなるので」

「大変ですね」


 俺の家庭教師(パラダイス)を奪わせはせんぞ?

 プレボが突然、自分自身の声が聞こえなくなって驚いている。

 サリーさんが、突然プレボの声が聞き取れなくなったのに、困惑気味だ。

 明日の朝になったら、元に戻そう。


 プレボには悪いが、現役の冒険者から剣術を習う機会なんて滅多にないからな。

 今回は、プレボの出番は無しという事で。


「変な人は放って置いていいので、家庭教師をしてくれますか?」

「…………!?」


 何か言っているが、聞こえないので、気にしないでおこう。

 恐らく「なんだと!?」って言っているだろうな、あの顔は――まったく顔にすぐに出るヤツめ。

 プレボの事は放置して、本題に戻る。


「うーん…この子に、魔術や文字の読み書きが出来るとは思えませんが?」

「大丈夫よ、ウチのアンディはとっても優秀なんだから!」


 セイラの親馬鹿発言からの、俺がパチリとウィンクをする。

 ミリアが再び、ため息を付く。


「はあ、分かりました、では、やれるだけやってみますね?」

「よろしくね、アンディくん」


 これは、言うだけ無駄だと思ったみたいだな。

 サリーさんの方は、あまり気にしてはいないみたいだ。


 こうして、午前はミリアの授業、午後はサリーの授業と剣を習う事となった。

 本来は逆の予定だったが、ミリアとサリーの授業や冒険者としての都合に合わせて、という事もあり、午前中はミリアの魔術の家庭教師を、午後からはサリーの剣の家庭教師をして貰う事になったのだ。


◇◇◇


「それでは、この魔導書の……と、まずは、アンディがどれほどの魔術が使えるか――試してみましょうか」


 ミリアの最初の授業で、家の前にある庭へと、俺を連れ出した。

 魔術の授業は、てっきり家の中でやるかと思ったが、外でやるんだな。

 建物の中で魔術を使用すると、どうなるかを、きちんと分かっているんだな。


「まず、私がやってみせますね?

 汝の処に水神の祝福にて水の加護あらん、

 水よ清い流れを我の前に、水流弾(ウォーターボール)


 ミリアが詠唱した直後に、彼女の手の平の前に、球体のボール状の水の玉が形成される。

 そして、そのまま手の平を向けた方向へと、発射する。

 発射された水の玉は、高速で前方に見える岩に命中した。

 岩は、多少濡れてしまった程度だ。

 岩の辺りを水浸しにした。

 速度と威力も俺より少しだけ強いくらいか。

 ん?待てよ?――でも、あの岩って確か…。


「こんな感じです!」

「うーん…あの岩何ですけど、確か…」

「え?」


 すると、魔術の水の玉を命中させた岩が動き出して、魔物と化した。


「え?え?――あれは一体?」

「あれは、魔物ですよ…元々、冒険者が迷宮から持って来た物です」

「何故、そんな物が!?」

「持ち帰ろうとしたんですが、重いのと動かすのが大変なので、そのまま放置されているんです」


 ストーンゴーレム。

 数ヶ月前に、とある冒険者パーティーが置いてった忘れ物だ。

 基本的に、迷宮の中でしか活動しない。

 迷宮の外だと、まず動かない活動すらしない。

 雨風等の自然現象にも反応しない。

 しかし、水の魔力の攻撃を受けると、岩の状態から魔物と化して攻撃して来る。

 水の魔力の攻撃を受けない限り、活動する事がないので、冒険者ギルドも放って置いて問題無いと、放置された魔物。


 しかし、初心者の冒険者でも倒せるくらいに、実は弱い。

 魔術を数発当てれば、倒せるのだ。

 ただし、物理攻撃と同じ魔術が効かないのと、同じ魔術を命中させると活性化して、より攻撃的になる。

 …のだが。


「汝の処に水神の祝福にて水の加護あらん、水よ清い流れを我の前に水流弾(ウォーターボール)!」


 ミリアが慌てているのか、同じ水の魔術を命中させている。


「あのー?――ミリアさん?」

「な、なんですか?――アンディも早く逃げて下さい!」

「汝の処に水神の祝福にて水の加護あらん、水よ清い流れを我の前に…」


 ダメだこりゃ。

 動揺している事に加えて、冷静な判断が出来なくなっている。

 まさか、自分の魔術で魔物が現れるなんて、思ってもいなかっただろうからな。


「ミリアさん!――黙ってて下さい!――僕がやります」

「は?――何を言っているんですか?」


 こういう相手は、初級の魔術を数発当てるよりも、中級の魔術を当てた方がいいな。

 ましてや、さっきのミリアの水の魔術でさらに活性化して、より攻撃的になっているからな。

 使用するとしたら、水以外の魔術だろうな。


「…………ッ!!」


 俺は、氷の中級の攻撃魔術を無詠唱で使用した。

 どさくさ紛れてミリアから、くすねて置いた、魔導書の氷の中級の魔術を見て。

 ほとんど、初級の氷の魔術とほぼ同じだったので、そのまま無詠唱で使用する。

 すると、巨大な氷柱の形状の塊が、ストーンゴーレムの体を貫いて、魔物が砕け散る。

 初級の水の魔術を既に使用していたのが、功を奏したんだな。


「え?――こ、これって、氷の魔術!?――しかも中級の!」

「上手く行ったみたいですね?」


 俺は、ミリアにニコっと笑ってみせた。

 彼女は、気が動転していたが、深呼吸をし、呼吸を整えてから話し始めた。


「ふー、それよりも、アンディ?――あなたは魔術を詠唱をしないで使用しましたね?」

「まあ、普段から無い状態で使っています…」


 もしかして、何か不味かったか?

 確かに、魔導書には、魔術を使う時には必ず詠唱を使って使用しろって書いてあったな。

 でも、魔導書にも、上級者の魔術師や現役の魔術師は、無詠唱でも魔術を使う時があるって書いてあったし、問題無いだろう。

 子供が無詠唱の魔術を使ったらダメなんて無いだろうからな。

 ここは、嘘を付かずに、事実をそのまま言って置こう。


「無し!?――しかも普段から、無い状態でですか?――な、なるほど…、疲れや体に違和感はありますか?」


 ミリアは、目を見開き、びっくりしたっていう顔をしていた。


「いえ、特に問題は無いです」

「そ、そうですか…氷の威力も扱いも問題無さそうです!」

「ありがとうございます」


 ミリアは、色々なイベントが一気に起こって、困惑していたが、ここにきて、ようやく微笑んだ。

 笑うと可愛いな、この人。

 ニヤリとしながら、彼女は呟く。


「……これは鍛えがいがありそうですね」


 聞こえているが、ここは、あえて聞こえていない振りをして置こう。

 俺も望むところだ。


「さあ、アンディ?次の授業を…」

「きゃああー!!」


 ミリアが、魔導書を開いて、次の授業のステップに行こうとした時。

 叫び声が聞こえた。


 声の主は、セイラだった。

 飲み物をコップ型の木製容器に入れ、おぼんに乗せて、ここに来ようとしたみたいだ。

 そのおぼんと容器を中の飲み物ごと、地面に落とした。

 悲しげな表情からの、顔を真っ赤にして、ここに来る。

 あ、そういえば、あの辺りって…セイラのお花畑の庭だった。


 俺が放った氷とその破片が、庭のお花畑を荒らしていた。

 セイラは、ヅカヅカと勢いよく歩いて、ミリアの目の前まで詰め寄る。


「ミリアさん!あなたね、

 ウチのお花畑を魔術の実験に使わないでくれる?」

「え!?――それは、アンディが放った物で……」

「授業でアンディに使う様に、あなたがやらせたんでしょ?」


 ミリアは、まるで雷に打たれたかの様に、ショックを受けた。

 多分、ガーンってなっているな、あの顔は。

 まあ、さっきのは――やむを得なかったとはいえ、確かにやったのは俺だが…、これが授業中での出来事である以上、責任は生徒ではなく、教師になるのかな?

 この異世界も、そんな感じみたいだな。


「は、はい…仰る通りで、ございます」

「こういう事は、もう二度としないで欲しいわね!」

「はい、申し訳ございません」


 その後、プンプン怒りながら、庭のお花畑を土の魔術と回復の魔術で直して、家の中へと帰って行った。

 土の魔術の中には、畑を耕したり、直したり出来る物もある。


「ハハハ、早速失敗してしまいました…」

「先生…」

「明日には解雇かな?…フフフ…」


 地面にしゃがみ込んで、のの文字を指先で書き始めたミリア。

 目が死んだ魚みたいな顔をしている。

 こりゃ相当打たれ弱いな。

 俺は、彼女の肩を優しくポンポンと叩く。


「……アンディ?」

「…先生…いいですか?…」


 失敗をした人を励ますには、こうする。


「失敗は成功の母という言葉があります」

「要は、先生は…経験を、失敗という成功を積んだんです…、いきなり上手く行く経験が意味がありません」


 ミリアは、俺をハッと見て。

 家庭教師に限った事ではない、他の学校とかの授業を受けられる場所でもそうだが。

 学ぶのは生徒だけに在らず、教師もまた学ぶのだと。

 授業を通して、教える側もまた失敗を経験して学んで行くんだよ?ミリアさん。


「確かにそうですね、ありがとうございます」

「では、授業の続きをお願いします先生!」

「はい、では…魔導書の…」


 なんとか元気になってくれたみたいで良かった。

 俺も、ミリアと少しだけだが、仲良くなれたのかな。


 ストーンゴーレムの件は、ああいう事は、事前に伝える様に、怒られた。

 まあ、それは俺も悪いもんな。


 その後も、ミリア先生からの魔術の授業は続いた。


◇◇◇


 お昼のご飯と休憩を挟んで、午後からは、冒険者のサリーからの剣術の授業だ。

 授業が始まってすぐにやらされたのは、基礎体力作りと筋力トレーニングだった。

 剣術を行うには、まず、剣を振り回したり、持って走ったりする為、体力と筋力とスタミナを鍛えるのが、必須だからだ。


 とはいえ、俺は、生まれてからの――今の現在まで、遊びと称してのトレーニングを積んで来た。

 表向きは、遊んではいたが…、父親であるプレボのトレーニングも、見よう見真似で行って来た。

 お陰で、走ったりする時や、力仕事をする時にも、疲れないしバテない。


 サリーは、それでももっと体力と筋力とスタミナを鍛える様にと言って来たので、俺は、サリーに言われた通りに行う。

 剣を振り回そうにも、4歳の子供に扱える大きさの練習用の木刀が無いのだ。

 サリーが、冒険者としての仕事で来れない時にでも、基礎体力作りはやる様にと言って来たので、俺も、サリーの期待に応え様と頑張った。


 途中、プレボが何かを、体の動きのジェスチャーの様な動きで、俺に何かを訴え掛けて来たが、あまりにも挙動不審なので無視した。

 【加護】の【無音の空】の効果で、プレボは声を出す事が出来ないので、動きで表現するしかないのだ。

 ちなみに、足音も聞こえない上に、彼が持った物で音を立てる事も不可能。


 サリーとミリアには、ああいう趣味に目覚めたらしいと伝えて置いた。

 心配するな、プレボよ?――お前の声は、俺が気が向いたら元に戻してやるからな。

 多分……。


 そうこうしていると、プレボが俺の足元に泣き付いて来て、セイラからも「どうやってやったかは知らないけど、お父さんを元に戻してあげて」と、言われたので。

 俺がサリーとミリアの授業を受けている時に、絶対に邪魔しない事を約束させる条件に元に戻してやった。

 万が一にも、ちょっかいを出したり、邪魔をしたら、さっきの状態にして――二度と解除しないと言ったら、涙ながらに頷いてたので、恐らくは大丈夫だろう。


 こうして俺は、この異世界に来て初めての二人の師匠と楽しく授業を受けた。

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