第3話「俺の覇道と魔導書」
あれから足腰もしっかりしてきて、四足歩行のハイハイから二足歩行が可能になった。
"こちら側"の言葉が喋れる様になった。
◇◇◇
生まれてから三年の月日が流れた。
狡猾で全てを利用してでも生きるとは決めたが、それには何が必要かを考えた。
勉強と運動と技術。
しかし【覇王の力】のお陰で、この世界での物は一通り手に入れる事が可能だ。
だが、運動等の体力やスタミナや身体づくりはそうは行かない。
筋肉に関しての知識を生前の世界から【覇王の力】を介して得られても、筋肉をつける事は不可能だった。
だから、とにかく動きまくった。
正確には、ほとんど遊んでいただけだが。
でもこれでいい、小さい子供の頃から体を動かして置く事で、体力も筋力もスタミナも付く。
表向きには、無邪気に遊び回っているだけの子供に見える。
本格的な筋トレや運動、トレーニング等はもう少し体も年齢も大きくなってからの方がいいだろう。
駆けっこ、散歩、鬼ごっこ、かくれんぼ。
子供ならやりそうな遊び、主に体を動かすのをメインとした物を、一通り試した。
もちろん、今からでも始められるトレーニングや運動やストレッチや柔軟体操もやった。
前世の頃の世界でもあった、ラジオ体操も動きだけは記憶していたので、それもやり。
まあ、トレーニングと言っても、
屈伸ことスクワット、腹筋、背筋等をやっただけだが。効果は多少はあったか。
やっているところを見られた事もあったが「新しい遊び」や「お父さんのトレーニングの真似」と、通した。
体を動かす事なら、何も運動や遊びばかりをやる必要はない、体を動かすなら何でもいいのだ。
自分の寝室や遊んでいた部屋の掃除や片付け、前世はやらなかったがやってみて、それなりには楽しめたな。
この異世界では、どのみちやる事がそもそも無いのだ、ましてや子供の頃は遊んだりお昼寝したりだもんな。
親の手伝い的な口実にして、父親のプレボや母親のセイラ、メイドのレイラの手伝いをあえてやった。
表向きの親思いの優しい子供を演じる上では、必要な事ではあるだろう。
まあ、興味もあったしな。
物運び、掃除、家事、洗濯等、ほとんど家の仕事だったが、それなりに楽しめたからよしとしよう。
父親のプレボや母親のセイラは、子供が率先して手伝ってくれるのを喜んでくれていたが、メイドのレイラさんは、俺の行動を観察する様な感じで接して来るので、まだ信用されていないのだろう――と思う。
まだまだ子供だからな、これから出来る事を増やして、メイドのレイラさんにゆっくりと時間を掛けて信用して貰えばいい。
次に勉強についてだが、これは【覇王の力】で手に入れる事が出来るので、わざわざ勉強をする必要はない。
というか、ただ単に面倒くさいのと、体を動かす方より汗臭そうだからだな。
早速【覇王の力】を使って、村の住民こと他の家の人間を対象として発動する。
たまに、旅人や商人、冒険者等が俺の家に来たり、通り過ぎたり、近くまで来たりしていたので【覇王の力】を介して、この異世界での知識、知恵、技術(知識上)、言葉や言語、歴史、お金の知識と使い方と儲け方、国や周辺故国の知識や情報等、沢山手に入れる。
もちろん、お金も沢山貰っておいた。
特に商人や貴族等は、たんまりお金を持っていたのでな。
家や土地、家具、食器、洋服等は、売ればお金になりそうな物だけ奪って置いた。
ちなみに地位や立場等は無理だが、そのうち成り上がって行けば良いだろう。
【覇王の力】を介して奪った物は全て、アイテムボックスという物が沢山入る魔法の袋を旅人や冒険者が所持していたので、そこににしまっている。
商人も自分の所有している商品や道具に同様の物や似た物があったので使用している。
アイテムボックス関係は、そのまま所持していると、家族や周囲の人に怪しまれる為、例の謎の声に頼んで、一旦預かって貰っている。
俺があの謎の声にその事を伝えると、
《良かろう、君が必要な時まで預かれば良いのだな?》
と、言っていたのでしばらく預けて置く事にした。
それを使うであろう、その日までな。
【覇王の力】は、相手から又は自分自身がその対象にした、この世に存在する全ての感情や思いに呼応して発動する事が可能だ。
当初は、憎しみ等の負の感情に対してだけの発動条件だったが、前世の世界で初めて使用した際に、その世界の自分自身以外の全てを対象として発動する事となった事によってパワーアップした。
負の感情以外の全ての感情や思いでも発動可能になったのだ。
なんとなく観察するだけでも発動可能になっている。
三つ目の技術も【覇王の力】で入手可能だ。
これまでに、俺の家や住むアルタ村に来た連中、旅人、商人、冒険者等から奪える技術は全て奪って置いた。
俺自身が幸せになる為の糧になって貰う。
【神の祝福】や【加護】【魔法】も当然ながら【覇王の力】で手に入れた。
中には【技能】持ちの冒険者や旅人、商人等も居たので、ありがたく貰って置く。
表向きは、右も左も分からない三歳の子供を演じている。
なので、父親のプレボも母親のセイラも文字や言葉を教えようとして来る。
少し親バカなのだろうか。
既に【覇王の力】を介して、この異世界での言葉や言語はもちろんの事だが、文字も読めるし書けるので、必要無いが、熱心に教えて来るので付き合ってやっている。
メイドのレイラさんという人はからも、暇があれば教えて来てくれるので、知ってはいるがあえて知らない振りをして「わーそうなんだ!」とわざとらしい子供を振る舞っている。
この異世界にも本は存在する。
この家には、五冊程本があるが――絵本が三冊、小説が一冊、魔法の本。
絵本は当然だが、俺への読み聞かせや子供向けの本だ。
一冊目【童話、ドラゴンと三匹の兎】
(内容、三匹の兎が家を作ってドラゴンに壊され、神様からドラゴンが怒られる)
二冊目【童話、ランデレラ】
(内容、ランデレラという一人の女の子が魔法使いに舞踏会に連れて行かれてオリハルコンの靴を落として、魔法使いの女の子と駆け落ちする)
三冊目【童話、桃戦士と狼と鷹とコング】
(内容、滝の上から巨大な桃が落ちて来て、中から桃の戦士が現れて、狼と鷹とコングを仲間にして、オーガを素手で倒す)
四冊目【小説、俺様は猫だぜ】
(内容、猫は本当の自分探しの旅に出て、そこで熱い強敵(友)との友情を経て、本当の自分自身とは何かを探しに行く)
五冊目【魔導書】
(内容、一般的な魔法の使い方や初級から上級魔法までの文章や詠唱の全文が載っている)
一冊目から四冊目まで、生前の世界で俺が読んだ事のある本に、何処と無く似ているのは俺の気のせいだろうか。
バトルなのか、童話なのかよく分からない内容だな。
かなりワイルドというか何というか。
一冊目から四冊目まではともかく、最後の一冊の魔導書が、役に立ちそうだ。
ちなみに魔導書は、さっきの【覇王の力】を介して魔法は一通り覚えているし、旅人や冒険者や商人が所持や所有していたのを貰って置いたので、それと一緒に読んで置こう。
もしかしたら、俺の知らない魔法や【覇王の力】を介しての魔法以外の魔法もあるかもしれないしな。
とはいえ魔法に関しては、少し前に俺がまだハイハイしてた時に、誤って転んだり、物にぶつかった時にも、この世界での母親に使って貰った事がある。
あの時に使用していたのは恐らく回復魔法だろうな。
それに改めておさらいするのもいいだろうからな。
「えーと、なになに?――」
まずは家にあった魔導書から、読み始める事にした。
魔導書を読んでみて、わかった事がいくつかある。
1、魔法こと魔術は、大きく分けて四つある。
攻撃魔法=(相手や敵を対象として発動、使用する、相手や敵にダメージを与える)
支援魔法=(自分自身や味方や仲間を対象として発動、使用する、身体強化系がメインとなる)
治療魔法=(自分自身や味方や仲間を対象として発動、使用する、傷やダメージを癒す)
召喚魔法=(自分自身が使役、又は新たに使役や仲間にする魔物や召喚獣を呼び出す)
魔導書によれば、魔術は基本的に戦いや戦等でその真価を発揮するという。
治療魔法や支援魔法ならまだしも、普段の私生活では、まず使われない。
火の魔術で、暖炉や焚き火に火を付けたり、水の魔術で、飲み水や生活水に利用したり等、まったく使わない事もないらしい。
2、魔術を使用する際には魔力が必要。
魔力があれば基本的に誰でも魔術を使用する事が可能だ。
魔力の使用する方法は、全身に魔力の流れを感じ取る事が必要。
頭の中で魔力や不思議な物が血液の様に循環している事を想像する。
要するに、頭の中で魔力が体の中を回っているイメージや想像力を働かせろっていう事何だろうな。
イメージトレーニングが必須だという事だな。
魔力が多い者や魔力を生まれながらに体内に宿したりする者も、希にだが居る。
しかし、魔力が生まれつき少ない者や魔力の才に恵まれない者は、魔力を増幅する魔導具や魔術道具を使用したりして代用するという。
魔導具や魔術道具とは、あれだな、RPGゲームとかに出てくる杖や魔法系の装備品や防具の事だろうな。
だからこそ昔の人は、魔力が足りないのを魔導具や魔術道具で代用したり、自分自身の魔力の補填した。
魔導具や魔術道具を自分自身の体内に入れる者も、少なからず居り。
かつての戦争があった時代の時は、この技術が敵軍を倒す要になった。
3、魔術の発動方法は、三つある。
詠唱と魔方陣と頭の中での想像力。
1つ目は、言うまでも無いが、魔法を発動させる際に詠唱を口と声に出して唱える。
詠唱の際は、発音と言葉の発声に気を付ける事、発音と発声を間違えると魔力が暴発するという。
2つ目は、魔方陣、魔法を発動させる際に必ず発生する物で、基本は発動者の足下や背後、放つ場所に出現する。
光の円の中に、古代魔術文字で刻まれた刻印が入っていて、それぞれの属性に合わせた仕様になっている。
3つ目は、頭の中での魔術の想像力と、魔術発動に必要な明確な魔力の流れを感じ取る。
いわゆる魔術のイメージだな。
特に初心者にオススメなのが水の魔術らしい、理由は、魔力が体の中を流れる想像力には、血液に類似している物が適している為だ。
4、個人の魔力量は使用する事によって増える。
魔術を放ったり、使用するだけで、発動者の魔力量が増える。
生まれながらに魔力量が多い少ないには、個人差があるものの、魔術の使用回数によって増えるという。
また、魔術以外でも増やす事も可能で、運動や鍛練でも増やす事も可能。
魔力量が使用する度に増えるのは、十数前になって判明したらしく、昔は魔力量は増えないと思われていた。
使用すれば増えるのはありがたい、RPGでは『敵を倒してレベルアップ』だが、使用すればする程増えるのならば、わざわざ戦闘や敵と戦う必要が無いからな。
俺は、基本的な魔術から試す事にした。
この『初心者用』というのを使ってみよう。
『魔導書』には基本的に、魔術に必要な知識と常識と歴史とが冒頭に記載されている。
次に使い方や使用上の注意事項について書かれていて、その次に進むとようやく魔術が記載されている。
魔術を使用する時は、詠唱するのが一般的で、無詠唱でも使用出来なくも無いらしく、熟練の魔導師なら無詠唱でも魔術を使用する事が可能だという。
詠唱と無詠唱の違いは、熟練者なら無詠唱でも使用可能なのは、何度も使用や鍛練を重ねているからだろうが、素人や初心者が無詠唱で使用出来ないとは記載されていないので、恐らくは使用可能だろうと思う。
――とりあえず使ってみよう、基本に忠実に詠唱してな。
『魔導書』を左手に持って、右手を開いて前にかざし、詠唱の文面を読み上げる。
「汝の処に水神の祝福にて水の加護あらん、水よ清い流れを我の前に、水流弾」
手のひらに、体中の血液の流れの様な感覚が集まり始める。
なるほど、これが魔力の流れというヤツか。
その流れが手のひらの外に押し出される様な感覚だ。
次第に手のひらの前に、大きな水の玉が出来る。
「これが魔法…いや魔術か」
しばらく観察しようと思った次の瞬間、そのまま落ちて、床が濡れてしまう。
『魔導書』には、そのまま前に飛んで行く、打ち出すと書かれている。
どうやら、集中力が持続しないと上手く行かないらしい。
濡れた床を持って来ていた雑巾で拭く。
万が一にも汚れるかもしれないとあらかじめ雑巾や箒を持って来ていたのだ。
汗臭いのは嫌いだが、自分自身の為や自身が楽しい事に対しての鍛練は別だ。
――よし、もう一度……、集中、集中。
血液というか、体に流れている物を手のひらや外に出す感覚だろうな。強いて言えば汗とかだな。
俺は再度自分の利き手の右の手のひらを前に出して、さっきの水の魔術を使用した要領で、自分の体から手のひらに流れている物を集束するイメージを思い浮かべる。
――とにかく、集中、集中、イメージしろ。
自分の脳内で、手のひらの前か中心に体の中に流れる何かを感じ取った物を集める感覚だ。
初めて自転車に乗った時や、初めてのスポーツやトレーニングを行う時に動きや行動の想像力を働かせる。
魔術の練習等した事なんてある訳無いので、大体こんな感じかとイメージを浮かべる。
「すぅぅぅ、ふぅー…」
口や鼻から深呼吸を行い、静かに息を吐く。
瞑想する感覚を模して行う。
目を閉じて、より呼吸や体の中の流れを感じ取る。
体の血液や汗等の水分が手のひらに集めて、少し全身と手のひらに力を入れる。
――手のひらや手の前に水を吐き出すイメージで、水の玉を思い浮かべるんだ、さっきの魔術で出てきた水の玉を。
「水の玉!!」
すると、手のひらから水の玉が出たと思ったが、そのまま足下に落ちる。
――ん?――あれ?今、詠唱無しでも出た様な?――詠唱と無詠唱の違いって何だろう。
俺は詠唱の時に感じた魔力の流れを、自分の脳内や体の中による、イメージをする事によって再現したんだが。
詠唱がある場合は、自分の体の中にある何か、つまり魔力を手の外に出す感じだった。
要するに、詠唱がある場合は、今の俺がやってみた事を自動でやってくれるみたいだな。
再び、詠唱ありと無詠唱をそれぞれに使用してみて分かった事がある。
無詠唱の場合は、自分の体や脳内でのイメージや想像力が必要不可欠で、やり過ぎると頭が痛くなる。まあ、脳や頭を酷使しているからな。
一方で、詠唱ありの方はというと、無詠唱でのイメージや想像力を自動的に行ってくれる。
更に、魔力量の増え方も多い上に、無詠唱での魔術の威力より上みたいだ。
だが、無詠唱でも魔力量は増えるし、威力も多少詠唱ありより劣るものの、まったく使えない訳ではないな。
練習や鍛練次第では、無詠唱の方が威力や魔力量も増えるかもしれない。
――いくら【覇王の力】でいくつもの魔法や魔術を入手していても、魔力総量までは入手出来ないだろうしな。
《魔力総量なら既に手に入れているぞ?》
謎の声が俺に突然話し掛けて来た。
――何故、魔力総量まで手に入っているんだ?
俺は頭の中で、そのまま謎の声に質問する。
《この世界に来てから、幾度か"彼の力"を使用した際に、更にパワーアップした様だ》
――それで魔力総量まで手に入る事になったのか?――それは凄いな。
何はともあれ【覇王の力】で入手出来るのが魔法や魔術だけではなくなるのは、良い事だ。
――他には、パワーアップしたところはあるか?
魔力総量以外でも何かしらの要素があれば、何でもいいんだが。
《そうだな――他者の筋力や体力にスタミナ、経験値に加えて、記憶もだな》
――体力や筋力とスタミナ、経験値もか――記憶もだと?――具体的には記憶とは、どのように入手出来るんだ?
《いつも通りに"彼の力"を望めば、対象の記憶を入手出来る――更には、記憶に限らず奪った物を任意で返還や任意の譲渡も可能だ》
――ほう?――それは凄いな。
【覇王の力】によって奪った物や能力等を任意で返還や譲渡が可能ならば、いらない場合や返しても良い時や他の者に渡してもいい時に、好きに返す事ができそうだな。
俺はその後も、魔術による練習と鍛練に加えて、無詠唱と詠唱ありのトレーニングに打ち込んだ。




