第1話「進化する覇王と異世界転生」
どれくらい暗闇だっただろう、しばらく暗闇は続いた。
目が覚めると、目の前には艶やかなの黒髪の優しそうな女性が俺に微笑みかけている。
なかなかの美人というか、スタイルも良さそうなハリウッド女優並みだな。
黒髪なので一瞬日本人かと思ったが、瞳の色が青紫色なので違う事を理解する。
髪の毛も染めた訳ではなく、地毛だと分かる程に美しく艶やかな長髪の黒髪。
「あー…うー…」
俺も一応話し掛けるが、声や言葉が上手く出ない。
よく見ると手も小さいし、足も見えない、首も動かせない。
穏やかに微笑みながら、俺を抱き上げる黒髪の女性。
――間違いなく、俺は赤ん坊になっているな、という事は恐らく。
「――・―・――」
「――・―・――」
日本語でも英語でも知っている言葉とは異なる言語を話している。
俺の知る日本語を含めたあらゆる国の言葉や言語と組み合わせても合わない事を理解する。
俺に積極的に話し掛けて来る美しい茶髪女性の影から、もう一人の男が顔を覗かせる。
こちらは赤髪の短髪で、わがままそうで顔はそれなりにイケメンなのだろう。イケメンフェイスっていうヤツか。
何にしてもあの筋肉か、ムキムキというより鍛え上げられた肉体か。
性格的に、わがままな性格だなあれは。
女性にもモテるのだろうな、女が好きになるというか女好きそうだな。
「――・―・――!」
俺に向かってからかっているのだろうか、変顔等をして来る。
子供は好きそうな男だな、俺も不思議と悪い気はしなかった。
――どうやら、例の異なる世界とやらに無事に来れたみたいだな。
《その様だな》
すると、謎の声がこちらの世界でも聞こえる。
周囲の人、つまり茶髪女性や赤髪男性には聞こえてはいない。
赤髪男性は相変わらず俺に向かって変な顔をして来る。
黒髪女性は優しく微笑みかけている。
俺にだけ、というよりは頭の中か心に直接話し掛けて来る感じか。
――所謂、転生という奴か?――元の世界で入手した知識でも、"こちら側"の世界の言葉や言語が理解出来ないみたいだが?
《君の居た世界とは異なる世界だからな…望むならこの世界での共通言語と文字を教えよう…》
俺は、謎の声の提案を受け入れ、頭の中で「頼む」と願った。
この異世界での共通言語と文字が分からなければ、"こちら側"での私生活にも影響を与える事に成りかねないからな。
謎の声とは普通に会話が成立しているな、思念波か、思念での会話だろうか。
《これでいいかな?》
――ああ、だんだんとあの茶髪の女性と赤髪の男性の声が分かる様になって来た。
「――ああ、可愛い私達の赤ちゃん」
「ああ、俺達の子供だ」
俺を抱き上げて、微笑む赤髪の男性と茶髪の女性。
恐らくは"こちら側"の世界での俺の母親と父親なのだろう。
――どんな生活を送る事になるのか、今からでも楽しみだが――元の世界での言語や知識とかは、ほとんど使え無さそうだ。
生まれてから数時間後に考えたのは、そんな事だった。
生前の世界で【覇王の力】を介して、生前の俺の親族達から手に入れた――【富】も謎の声に預かってもらったが使え無いだろう――という事実にも少しだけ、落胆していた。
◇◇◇
この異世界で生まれてから、一ヶ月が経過した。
無事に生まれ変わって一月が経って一安心か。
俺はその状況と事実を冷静に理解した。
俺は赤ん坊だ、誰がどう見てもだが。
所謂、0歳児の赤ちゃんだ。
俺の母親であろう女性に抱き上げられて、頭を支えてもらい自分の体が視界にはいることで、それを改めて確認した。
記憶を残しての生まれ変わり。
誰もが一度はそういう妄想をする。
まさか、その妄想が現実になるとは思わなかったが――記憶が残っていて困る事も無いし、むしろこれは好都合だ。
良い意味でも悪い意味でもな。
この世界で目が覚めて初めて見た男女が俺の両親であるらしい。
生前の俺が35歳だからこの男は20代前半くらい、相手の黒髪の女性も同じくらいか。
普通なら「この歳で子供を作るとは何と羨ましい」となるだろうが――俺には羨ましいとは思えなかったし興味も無い、生前の容姿のせいでそもそも出会い以前に異性と関わる事すら出来なかったからな。
妬ましい、というのが正しいか(こういうヤツが幸せになるのか?)と心の中でそう思う。
最初に見えた光景から分かっていたが、ここは日本でも"向こう"の世界での海外でもない。
言語も俺の知る言葉とは異なるし、両親の顔立ちも日本人では無い(強いて言えば外国人に近いか?)、服装も民族衣装に近い(手作りか?――所々に刺繍がされている)
当然だが、家電製品なんて物は無い(メイドらしき人が雑巾や箒で掃いていた、モップみたいなのもあるな、さすがに雑巾掛けだけじゃあな)、食器や家具も全て木製の物ばかり。
発展途上国やグローバルサウスに近いだろう。
明かり取りは、夜はロウソクに火を着けて皿に珈琲カップの様な手持ちで灯す(映画とかによく出てくる、キャンドル皿ことプレートだったか?ロウソクを立てる為の針が付いているヤツ)、それを懐中電灯代わりや食事の時に使用する。
火を着ける時は、マッチの様な物を使用する(ここは元の世界と同じだから助かるな)、たまに火打ち石の様な物を使用する事もある。
街灯が無いお陰で、夜はほとんど真っ暗だが、晴れていれば満天の星空と月が見れる。
彼らの稼ぎでは貧しく、電気や明るい家電に近い物や便利品を買えない可能性がある。
生活費だけで精一杯なのだろうか。
――その可能性が高いか。
メイドらしき人を雇うくらいだからてっきり裕福な家だと思ったが。
2人程居る時もあれば、男の人の時もある。
両親の兄弟姉妹か親戚だと考えれば納得するか、
あるいは元々、名のある家の人間で――そのお付きの人の可能性もあるか?
――侍女とか女房に侍婢、男の場合は従者や近侍、所謂使用人か。
――幸せな未来を勝ち取る為とは言え、貧乏な家に生まれるとは――まあ"これから手に入れればいい"な。
◇◇◇
この世界で生まれてから半年が過ぎた。
「あー、うー…」
「アンディ?――どこ?」
相変わらず言葉は「あー、うー」くらいしか話せない。
とりあえず動き回った――まあ、赤ん坊だからなハイハイしか出来ないが。
今のうちに遊びながら、体力やスタミナを付けて置こうと思ったのだ。
表向きは、元気いっぱいに遊ぶ赤ちゃんを演じる事にした。
今は、この世界での俺の母親との鬼ごっこの最中だ。赤ん坊は遊ぶのが仕事だからな。
ちなみに"アンディ"とは、この世界での俺の名前だ――フルネームで、アディーゼウス・ラックスカイという。
アンディは愛称で、この世界での俺の母親と父親がよくこの名で呼ぶのでそうなった。
ゼウスという名前に神を連想するが、この世界では一般的な呼び名らしい。
母親の名前はセイラという、フルネームでセイラ・ラックスカイ――俺の住むこの村の出身の村長の娘で、この世界での俺の父親が婿養子で結婚したらしい。
父親の名前は、プレボ――フルネームで、プレーボーイル・ラックスカイという。
名前に"プレイボーイ"が入っているよな――名は体を表すとはまさにこの事で、名前の通りに近所の女性にモテるわ、デレデレするわで、奥さんのセイラに叱られている。
――この世界での俺の両親の馴れ初め等、今の俺にはまったく興味無いが、狡猾に生きる上では必要な情報か。
母親の母乳も普通に飲んだ、俺なりの赤ん坊を演じる為だ
この世界での実母だからか、母乳を飲んでいて不思議と変な気持ちや気分にはならなかった。
だが一つ問題があるとすれば、母親は俺が赤ん坊にも関わらず"泣かない"のを少し不安に思っていた。
「この子泣かないのよね?」
「ぶつかったりした時も泣かないのは、俺も驚いたが、そういう子もいるだろう?」
と、それもその筈――俺が転生して来た人間で、元々35歳のオジさんなのだから。
転んだりぶつかったくらいでは、まず泣かない。
一度だけ泣いてみようとしたが、悲しいという感情がこの世界ではまず起きなかったのでやめた。
声だけでもとやろうとしたが――どう考えても不自然なので、これもやめた。
その代わりに排泄は、しょっちゅう催した。
赤ん坊だし、生理現象だからもあるが――我慢しても出るので、処理は母親に任せている。
まあ"こちらの世界"で小さい子供の内は、余り目立つのは控えるつもりだったから――逆にこれは好都合だ。
表向きは真面目で心優しい男を演じて、本性は狡猾に生きる――たとえ将来的に独裁者と言われ様と。
生前の記憶や【覇王の力】で会得した、"向こう"での知識や技術は、それなりに役に立っている。
相変わらず、"向こう"での言語や文字はほとんどというか――まず使わない。
例のお金も今のところ使い道が無さそうだ。
母親の茶髪の女性に抱っこされながら、外を窓から見ると、一面の森や草花や畑のファンタジー世界。
見た事があるような、無いような景色に、元の世界にはまず居ない、ドラゴンや怪鳥や動物達。
少しだけだが、いちいち感動してしまうのは、オタクだからとかじゃなくて普通に異世界に憧れていたのもあるからだ。
「それでね?――あれが――」
楽しそうに俺に優しく話し掛け、自宅の窓から外を見ながら、俺に外の景色と周りの事を教えて来る。
子供が好きな母親何だな、人と話すのも好きそうだな。
まあ、優しい母親で一安心か。
窓を見て驚いたのが、硝子があった事だ。
という事は金属製の食器や家具もある可能性が出て来た。
こうなると、完全な発展途上国やグローバルサウスでは無さそうな事に安堵する。
母親の説明や自分自身で観察して分かった事がいくつかある。
まず俺の住むこの家は裕福だ。
木造住宅の2階建て、全て木製ではなくレンガやコンクリートに近い素材が使われている。これなら冬は暖かいな。
部屋は、両親の寝室と子供部屋こと俺の部屋、一応両親は父親と母親は一緒に寝ているが自分達の部屋もあるのだ。
もちろん雇っているメイドらしき人や近侍であろう男性の部屋もある。
トイレ、台所、物置、いくつか空いている部屋もあるがお客様用だろう。
シャワーや風呂はさすがに無かった。
水に大きな木製の桶に水を張る、冬や秋等寒い時はさすがにお湯やぬるま湯を用意する。
その水やお湯や濡らした布やタオルで、汗や汚れを落とすのだ。
立地条件は田舎だ、見たまんまだが。
見渡す限りの畑、窓の外見てどこまでも続く田園が見えた。
他の家との間隔は一番近くでも10メートルくらい離れている。
それが2~3軒見えるか見えないかだ。
当然ながら、街灯や電柱等は無く、道は地面を固めた仕様か。
よく見るのは、人が歩いているところや――たまに荷馬車や馬らしき生き物に乗っている人を見掛けるくらいか。
馬というか、トカゲに近い生き物か。まさに異世界だな。
収入は主に農作物が主流という感じか、果物や野菜、薬草や観賞用の草花や木もある様だ。
うちの家の収入は違う様だが、ご近所付き合いとかでよくお裾分けを貰う事があった。
――田舎過ぎるな?――何も無さ過ぎるのもさすがに辛いな、電気なんて物も無いから機械的なオモチャすらも無い。暇だ。
ハイハイをしながら、椅子によじ登って窓から外を見ると。
父親のプレボが、剣を振り回していたのだ。
最初は何かの鍛練かと思ったが、ご近所の奥様方からの黄色い声援にニヤニヤしている。
なるほど、女性にモテる為ね。
――鍛練もあるんだろうな?――素人でも分かる程にニヤニヤ笑うのは、女好きな証拠か?
鍛練もメインだろう、朝早くからやっているみたいだ。
あれはそのうちに浮気や不倫もしかねないな。
男からの目線には、あからさまに嫌そうな顔をしてたしな。分かりやすい男だ。
あの美人奥さんが居ながらの、まさに色んな意味でのプレイボーイか。
夜は夜で、父親と母親は営みが行われていた。
ギシギシ音と声が鳴っている。
――まあ、お盛んなのはいいじゃないか?――声でかいな。
まあ、今の俺は赤ん坊だからもあるが無縁の話だな。
あの謎の声の言った通り、元の世界での俺の記憶を持ったままでの、異世界転生。
アニメやラノベによく有りがちな展開を、まさか自分自身が体験する事になるとは。
誰もが夢見た、あの異世界転生、しかも剣と魔法のファンタジー世界。
――だが、ここまでなら普通の異世界ファンタジー世界に転生して、第二の人生を頑張ろうってなるだろうが。
そう、俺はこの異世界で、他人を利用してでも自分自身の幸せを掴む為に来たんだ。
俺は汗だくや汗臭いのが嫌いでね、努力とか修行とかは真っ平御免だ。
チートや楽して楽しむ事に対しての偏見は特に無い、むしろ大歓迎だな。
生前の俺が学生時代や暇潰しにしていた当時のゲームでも、ずるはしてたしチートだって普通にしてた。
楽して、ズルしてでも幸せを勝ち取ってみせる。
今うちは、素直な赤ん坊を演じてみせるがな。
この世界での母親と父親には悪いが、俺自身の幸せの踏み台としてせいぜい利用させて貰う。
――さて、謎の声さんよ?本来の目的を遂行しようと思うのだが?
表向きの赤ん坊を演じてハイハイをしながら、この世界での俺自身の家族の母親から隠れながら、謎の声に頭の中で話し掛ける。
この世界に来た本来の目的を改めて再確認する為だ。
《それはそうと、君の【覇王の力】がパワーアップした様だぞ?》
――ん?――何故、覇王が急にパワーしたんだ?
《理由は二つだ、一つは、君自身が生前の世界で多くの人々から力や富を得た事》
《そしてもう一つは、この【覇王の力】は使えば使う程にパワーアップするのだ》
――ほう?――それは凄いな?
使えば使う程にパワーアップして、更に多くの対象、今回の場合は生前の世界各地の人々を対象にして発動した事によって得られたという感じか。
ならば積極的にこの【覇王の力】をこの世界で使った方がいいだろうな。
俺に対しての対象と俺が対象にした存在が何処の誰であろうとな。
――で?――何がパワーアップしたんだ?
《今までの様に、君自身に対してと君が対象とした存在に、憎しみや憎悪といった感情のみだった物が――他の全ての感情や思い等でも対象にする事が可能となった》
――他の全ての感情が?
《愛情、信頼、友情、嫉妬、怒り、憎しみ、憎悪、嫌悪、殺意、恋愛、信仰心、忠誠心、等があるな》
――素晴らしい、それはこの世界での俺自身の家族を対象にしてもか?
《もちろんだとも…【全て】を対象にした物だよ》
だとすれば、やはり手に入れるならまずは【魔法】や【スキル】とかだな。
恐らくだが、ある可能性は高いだろう――なにせ、異世界だからな。
――質問だが、この世界には【魔法】や【スキル】といった物はあるのか?
《存在する、魔法は、水、風、火、土、闇、光、の6種類と混合魔法の氷や雷も存在する、ちなみに回復魔法も存在する》
思った通り【魔法】は存在した、水、火、風、土、光、闇の6種類と混合魔法の氷や雷等、更には回復魔法もあるのか。
【魔法】という言葉に、少しだけワクワクして来た、実際に使ってみたいと思うのもあるが、異世界に来たと実感する瞬間でもあるからだろう。
《スキルについてだが――【技能】と【加護】と【神の祝福】という物が存在している》
【スキル】は無かったが【技能】と【加護】と【神の祝福】が存在するみたいだ。
まあ、お陰で退屈しないで済みそうだ。
謎の声の説明が続く、
《【技能】は文字通りの剣術や体術といった物を極めたり、鍛えたり【加護】や【神の祝福】を利用して会得や体得したりする物だ》
――所謂、絶え間無い努力や修行で会得や体得が可能な技っていう感じか?――俺が一番嫌いなヤツだな?
《【加護】や【神の祝福】は文字通り、この世界での神々や女神から与えられる物だ――人族や亜人族や魔物や動物、更にはこの世界の全てに、皆等しく与えられる――だが、人各々で【加護】や【神の祝福】の能力は異なる》
――等しくね?【神の祝福】や【加護】は、この世界での神々や女神から――ありとあらゆる存在に等しく与えられて、その能力は人各々で異なるのか?――それは興味深いな。
《君自身にも――【加護】と【神の祝福】が与えられているぞ?》
"等しく"と謎の声も言っていたが、俺にも与えられていたか。
この世界での神々と女神は随分と気前がいいな。
――ほう?――どの様な能力何だ?
まさか、自分自身にも【加護】や【神の祝福】が与えられているとは思っていなかった。
【覇王の力】を既に、謎の声の主によって与えられている上に――生前の世界からも知識、技術に加えて【富】も得ていたので、与えられていないと思っていたからである。
《君自身の【加護】は【器用】、【神の祝福】は【強運】だな》
――なんだか、あまりパッとしない能力だな?――具体的にはどんな恩恵が受けられるんだ?
凄い【加護】や【神の祝福】を少しだけ期待したが、そんな物だろうと思った。
普通ならここで【加護】や【神の祝福】を与えられて嬉しいだの、神様女神様ありがとう――となるのだろうが、俺は全てを利用してでも――俺だけが幸せにならなければならない。
《【器用】は、どの様な道具や武器といった物であろうと難なく使いこなせる事、【強運】は運が通常の人より2倍もある事》
――やはりパッとしない能力だな?――この【加護】や【神の祝福】を与えたのは、やっぱりこの世界の神や女神なのか?
《女神ラファエルと創造神ゼウーラという神の様だ――》
この世界にも神や天使だのが居る事は知っていたが――
女神ラファエル――俺の居た生前の世界にも天使の方は知っているが、似たような物だろう。
創造神ゼウーラ――俺の居た生前の世界にもゼウスっていう神が居たが、似たような物か。
創造神っていう事は、この世界では一番偉い神様何だろうな――世界を作った神様的な物か。
――何にせよ、この世界でなら。
「見付けたわよアンディ?元気なのはママも嬉しいけど、追っかけことかくれんぼはママの近くでするのよ?」
「元気なのはいいじゃないかセイラ?男の子なんだからな?」
俺の母親のセイラが俺を見付けて、抱き上げる。
頭をソフトタッチで撫で回しながら、優しく微笑みながらそう話す。
心優しい父親と母親。
俺が望む幸せを掴む事が出来そうだ。




