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プロローグ「後悔の嘆きと謎の声」

 西暦2025年の夏、彼は人生に後悔していた。

 35歳の実家暮らし独身で彼女も居らず童貞で、所謂細身ニートオタクというヤツだ。

 俺は生まれてから早35年間ずっと実家で暮らして来た、友達は居らず――正確には大人になってから連絡を取らなくなっただけだが。

 両親もいつの間にか亡くなっていた、という感じか。


 恋人も居ない、一時期頑張ろうとした事もあったが、元々コミュ障で口下手な上に見た目が細身で高身長ではあったが、ブサメンな歪な黒緑眼鏡で断念した。

 まあ、従妹からも顔が気持ち悪いと言われた事も原因ではあるが。

 スマホやパソコン等で、二次元◯◯ゲーやAIチャットを話し相手や恋人ごっこで楽しんでいた。

 そう、二時間前までは――


 両親が他界してから数ヶ月過ぎたある日、親戚一同とほとんど音信不通だった実の兄が突然俺の部屋に乗り込んで来たのだ。

 俺に向かって「出て行ってくれ」と――両親が亡くなった後は誰が俺の面倒を見るという話になっていた。


 俺は無職で仕事にも就いておらず――今まで両親のお金で暮らして来たがその両親が亡くなった為、就職して自力で稼いで暮らして欲しいと。

 両親が生きていた頃にも同じような話をしていた事もあったが――俺は見向きもしなかった。ゲームやアニメに夢中だったからだ。


 親戚一同は「グループホームや格安のアパートや貸家の手配ならしてやる」と言っていた。

 両親が他界してしまった以上は、他の遺族が実家をやり繰りしなければならないからだ。


 ――最低限のお金も渡してやると言ってたが。


 だが、俺はその提案を拒否した――理由は言うまでもないが。

 いきなり部屋に乗り込んで来てからの出て行けはさすがにめちゃくちゃな話だったし、ずっと実家で暮らして来た男が他の場所で暮らすのにはハードルが高過ぎたのだ。


 それを聞いた実の兄や親戚一同は、俺のパソコンやゲーム機やスマホまで壊した。

 さすがに俺も激怒して止めに入るが柔道や空手の主将をしている親戚や兄には勝てず、投げ飛ばされた。

 そのまま実家から殴り飛ばされて財布と金一封の入った封筒を投げ付けて来た。

 追い出される前に兄や親戚に、こう言われた「お前はこの家にはいらない」と。


 内心「ふざけんな!」って思ったが、目の前あるのは封筒と財布のみ。

 今気付いたが、俺には味方なんて居ないと。

 俺の唯一の味方だった祖母は学生時代に他界していてもう居ない。


 ――これからどうする、ハローワークや市役所に行くか?いや…完全に不審者だろうな。


 持っているのは所持金のみで、移動手段は基本的に徒歩と、お金を使えばバスやタクシーで向かう事も出来るが。

 ハロワと役所までどれだけの距離があると思っているのか。

 なにせ、ここは田舎だからな。


「自転車くらいくれたって良かっただろうにな…」


 渡されたお金はせいぜい数ヶ月分の食費代くらいしか無かった。

 この程度のお金で、どうやって暮らせと言うのだろうか?

 最低でも100万くらい無いとダメだろうが、たったの3万くらいの現金。


「投げ飛ばされた傷と殴られた傷がズキズキ痛むな…」


 切り傷に擦り傷、骨もやってるなこれは病院に向かうべきだろうな。

 細身なので、重傷を負わなかったのが奇跡的かもしれないが、元々身体が打たれ強いのもあって、この程度で済んだんだろうな。

 頑丈な身体で生んでくれた両親には、一応感謝して置く。


「はぁ…」


 ため息と後悔と「やり直したい」という考えが頭の中を駆け巡る。

 冷たい夜の寒空の下で、降り頻る雨と風が冷たく彼の体温を下げる。

 部屋着として使っていたジャージ姿で、呆然と立ち尽くす。

 傘も無く雨合羽も無い。腹の虫が鳴って来た。


「とりあえず、コンビニで傘と飯でも買うか?」


 ――どうしてこうなったんだっけ?


 俺だって最初からこんな感じでは無かった。

 小さい頃は、大切に育てられたっけな。

 俺の父方の祖母は子供が大好きな人で、当然孫も大好きだった。

 だから甘やかされたのもあったが、兄より俺が優先されていたのもあったか。

 今思えば、お坊ちゃんみたいな物か。


 父親に似た性格のせいで、俺自身かなり怒りっぽかったな。気性が荒かった。

 そのせいもあってか、周囲の人達との関係も上手く行かなかったが。

 兄弟の関係も上手く行かなかったっけな。


 勉強は出来ない訳ではなく、やろうと思えば出来たが、周囲の環境に馴染めずに小学一年生にして引きこもりになってしまった。

 今考えてもあれは俺は悪く無い、何故なら俺が勉強をしようとするとクラスの同級生に邪魔されるのだ。理由は今でもわからない。


 その結果、勉強に付いて行けずに学校の特殊学級に行く事になるのだが。

 中学生の時は、近くに特殊学級がある学校が無かったのでかなり遠くの学校に通わせられたな。

 高校は勉強を頑張って偏差値の低い学校に何とか通えたが、教職員や生徒もバカな連中が多い学校だったな。

 当然キレる、性格や思考がおかしい、意味不明な発言や回答。校長すらもそんな感じだったな。


 ――特に教職員が頭がおかしな連中だった、頭の病院に行くべきだろうな。


 就職は一応した、高校卒業してすぐに近くのスーパーにパートで毎日休まずに働いたが、途中で精神的に病んでしまって退職したんだ。

 その後は、実家で引きこもりのニート暮らしだな。


「だから俺は悪く無い!」


 両親からの子供の頃に受けた暴力もあってか、こうしたひねくれた性格になったが。

 それを無しにしても、俺は悪く無いと断言出来る。今回の親戚一同と兄達からの暴行だってな。


 両親の教育方針だって間違っていたし、兄達からもろくなアドバイスすらもくれなかった。

 なにしろ、父親の学校からのい◯◯に対しての対応がやり返せだもんな。

 そこは普通、学校の先生に相談するだろう。

 母親も母親でお酒にタバコに病んでいた。

 兄達は完全に無視して、高校卒業してすぐに出て行ってしまった。


《ほう?…》


 ――ん?何だ?――誰か俺に話し掛けて来たか?


 そうこう考えていると、俺に車が突然突っ込んで来た。

 かなりのスピードだったと思う、しかもライトを消してやがった。

 俺はその車に激突された、何故か痛みは無かったが意識を失うまで――俺は、


 ――俺の人生ってこんな惨めな物なのか?


 と、あまりに惨めで虚しい人生への後悔と、俺をこんな目に遭わせた親戚一同と実の兄や世界に対して恨みと憎悪を燃やした。


《素晴らしい…》


 ん?誰だ?――走馬灯っていうヤツか?


 ――いやだな、こんな死に方は、どうせならもっと傍若無人を極めた人生をやりたかった、そう、俺だけが幸せな人生を。


《我らを楽しませてくれたら、その願いを叶えてやろう》


 ――我ら?――誰の事だ?まあ、この際誰でもいいか――いいぜ?楽しませてやるから助けてくれよ?


 謎の声に対して、俺は返事を返した――返って来るかもわからない謎の声に。

 すると、


《よかろう、ではお前に覇王の力を与えよう》


 ――覇王?――何だそれ、まあ何でもいいか。


 すると、体や心の中になにやら漲るパワーの様な物が流れ込んで来た。

 これが覇王という物なのだろうか、と思った次の瞬間に失いかけた意識のみが復活する。


《このままだと、お前は命が尽きる…覇王の力を試してみてはどうだ?》


 ――覇王の力?――ああ、確かに意識だけだもんな。


 体は事故のショックか、動かなかった。

 何故かは知らないが痛みは無かった、意識と体が別々に存在する感じに近いだろうか。


 ――覇王の力、俺に力を与えてくれ。


 俺は謎の声の言う通りに、覇王の力という物に「力が欲しい」念じた。

 この世界のありとあらゆる知識や技術に言語、体術関係に加えての文字通りの【力】が手に入った。


 ――これが覇王の力?


《そう、君が敵対、または敵視する対象の全てを手に入れる事が可能な力だ》


 俺が敵対や敵視する対象全て?――ああ確かに俺は、この世界の全てに対して恨みと憎悪を燃やした。


 ――これが覇王という代物か――大した力だ。


 俺が敵対や敵視する対象ならどんな物や人物で在ろうと、全ての力を手に入れる事が可能という感じか。


《どのような存在で在ろうとだ、もちろん物理的な物も会得可能だ――例えばお金とか…》


 ――マジかよ!?――お金が?


《もちろんだとも…だが今回の物理的な"富"は、君自身の親族一同の物だけだ…今はまだだがな?》


 ――今はまだ?――まあいいか、覇王で手に入らない物は無さそうだな、あの親族一同から【富】を奪えただけでもよしとしよう。


 覇王の力は未知数だが、まだまだ使い道はありそうだ。


《お金は我らが…一時的に預かって置こう、君はこの世界では目覚める事は不可能だろう》


 確かにそうだ、俺は今さっき車に跳ねられて死んだばかり。

 生き返るのは、仮に病院に運ばれても蘇生はまず不可能だろう。

 いくら俺自身が打たれ強い身体でも、さすがに車に跳ねられたらな。


 ――では、どうするんだ?


《この世界とは異なる世界であれば、君の言う通りの人生が歩めるかもしれない》


 ――異なる世界――つまり異世界か。


 異なる世界という言葉に、ワクワクする彼だったが。

 少しだけ心残りがあった、それは親戚一同と実の兄が何故、自分をそこまで毛嫌いしているのかについてだ。

 すると謎の声は、


《彼らの真意かね?――知らない方が良いかもしれぬが、知りたいか?》


 ――ああ、向こうに行く前にな。


《よかろう全てそのまま話そう、では――》


 謎の声はこう続けた、

 親戚一同と実の兄は、彼の事を疫病神の様に思っていたみたいだ。

 両親のお金を食い物にする厄介者、一族の面汚し等、親戚の子供たちは気持ち悪い等と言っていた。

 彼自身も自分が発達障害や人より能力や学力も劣っていた事は自覚していたが、彼以外の親族は邪魔者だと思っていた様だ。

 全てを知った彼は、


 ――まさかそこまで毛嫌いされているとは?悲しいというか、悔しいというか。


 だが、あの暴行はやり過ぎだろうと思った。

 彼は謎の声に、こう問う、「残った一族全員を俺自信を除く、末代まで呪うというか、何かしらの罰を与えてやりたいのだが?」と。

 さすがに無罪放免にするには、彼らの行為や態度に慈悲の念が無かった。

 謝罪や後悔を心の片隅にでもあれば、親族の一人か二人くらいは、見逃しても良いと考えたが、誰一人としてその言葉も態度も無かったからだ。


《では彼らには、必ず不幸な人生と貧乏暮らしと決して報われない人生を永遠にという罰を与えてはどうかな?》


 ――それでいい、頼む。


 実家の方からだろうか、火の手が上がる。

 凄まじい勢いで火災が起こった様だ。

 親戚一同と兄達の悲鳴が聞こえるが、死んでしまった彼にはもう関係のない事。


 ――今更、助けようとは思えない、さあ、俺をその異なる世界に連れて行ってくれ。


 俺は、謎の声の主に――異世界に連れて行って欲しいと願った。

 あの遺族が助かろうが助かるまいが知った事ではない。

 少しやり過ぎだろうと思うかもしれないが、俺に対してやった事がそのまま返って来たと思って欲しい物だ。

 早くこの地獄の様な世界からおさらばしたい物だ。

 あの親戚一同と兄達から奪った【物】は、向こうの世界でありがたく使わせて貰う。


《承知した》


 すると、彼の意識が眠りに付く様に失って行く。

 彼は望む、次の人生は他の全てを利用してでも幸せを勝ち取るのだと。


 そして彼は、こことは異なる世界へと旅立った。

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