神庭海凪の欠落②
「これ以上、俺の口から一方的に語るのは神庭海凪に失礼ってモンだ。詳しくは本人に聞くといい」
——輝銅はそれだけ言うと、校舎の方へと戻っていく。
海凪が暴力沙汰……実際、俺も自転車で轢かれたりしてるし、話を聞く限りだとあり得ない事ではない。
とはいえ、輝銅が詳しく語るのを避けたという事は海凪自身のパーソナルな事情に関わる理由の可能性が高い。
——だからこそ、ちゃんと時間を作って海凪と向き合う必要がある。よし、さっそく今日の放課後、海凪を遊びにでも誘ってみるか。
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「神庭、よかったら……一緒に帰らないか?親睦会も兼ねてな」
放課後、茜色に染まりゆく校庭で神庭海凪に声をかける。
——ただそれだけの事なのに、妙に意識してしまって声がやや上擦る。なんとも童貞臭のする情けない姿だが、こちとらバキバキ童貞だから仕方ねェーだろ。
果たしてその結果は——、
「ほほぅ……圭太郎、貴様ようやく吾輩の魅力に気付いたか!!よかろう、その思惑に乗ってやる!!」
なんか上から目線なのがちょっとイラッとしたけど、まずは計画通り……!!
——この鄙びた町で遊ぶ所といえば、答えは一つ!!
学生の放課後から日々の買い物まで、あの場所に行きさえすれば全てが揃う。それは……大手ショッピングモール『LEON』だッ!!
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そして現在、LEON前——、
「まぁ、大方予想通りだな……まさに田舎民の発想、しょせん、大手ショッピングモールの重力に魂を引かれた地域格差の敗北者よな……!!」
「なんだよLEONの何が悪いんだよォォォォ!!テメーLEONアンチか!?LEONに恨みでもあんのかァァァァ!?」
早くも計画を変更すべきか悩んだけど、ここは俺のペースで行こう。
「こういうショッピングモールでもあるだけマシだろ……それに、物事を実感が伴わないまま俯瞰して、理解した気になってる方がつまらねーだろーが」
——後半部分は俺自身の実体験だが、概ね間違ってないはずだ。
とにかく、細かい事は置いといてLEONに行こう。
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——なんやかんやでLEONの店内。途中までは不満そうだった海凪だが、飲食店エリアにあった甘味処を見かけると途端に機嫌を直した。
口では嫌がっていても食欲は正直なようだな……(ゲス顔)
というか、海凪は和風スイーツ好きなのか……この情報は心のメモ帳に記録しておこう。そのうち何かに役立つかもしれないからな。
「ここは俺の奢りだ。好きな物を頼んでくれ」
「本当か圭太郎!?貴様に好感度ポイントを20進呈しよう!!」
——何そのギャルゲー的システム?まぁ、貰えるなら貰っとくけど。
「その好感度ポイント、集めると何かいい事あるのか?」
特に意味もなく、会話を繋ぐ為にそう尋ねてみた。
「うむ、20000ポイントで粗品が貰える。なお、好感度なので当然増減もあるぞ?」
「なんだよそのインチキ設定!?っていうか頑張ってポイント貯めても粗品が貰えるだけなのか!?ふざけんな!!」
そんな会話をしながら、海凪はメニューを見る。そして、看板メニューのウルトラスーパーデラックスあんみつパフェの所で目を止めた。
「圭太郎、これ……」
海凪は期待と不安の籠もった眼差しでこちらを見ている。
——たかがパフェくらいでンな大げさな……って、単品価格3000円以上するじゃねェーかァァァァ!?
いや大丈夫だ、ここに来る前に財布をチェックしたら万札あったし!!……とはいえ、この出費はデカい。1万円あれば1ヶ月はゲーセン通いできる計算(←俺の場合)になるが、今さら海凪に割り勘頼むのもカッコ悪いし——、
「大丈夫だ、問題ない」
苦渋の決断ではあったが、やはり男とは悲しい生き物——、つまり見栄を張って海凪にパフェを奢る事になった。
「まぁ、それはさておき……神庭、お前ソフト部で活動停止処分食らってるんだって?俺は、お前が理由もなくそういう事をするとは思わない。だから……話せる事だけでいいから教えてくれないか?」
——ようやく話を切り出せた。だが、ここからが本番。
「やはり、いずれはその話題に行き着くと思っていた。隠してた訳ではないが……つまらぬ話だぞ?」
「吾輩は去年の夏休み頃に失踪していた……らしい。それからカミサマの友達になって戻ってきた訳だが、ソフト部で元から仲が悪かった部員が吾輩の友達を侮辱した。だからブッ飛ばした。単にそれだけの話だ」
——あまりにも簡潔で、明白な事情。何より、海凪なら間違いなくやるだろうという納得と確信があった。
実際、俺も海凪の友達とやらを馬鹿にした結果キン肉バスターかけられて病院送りだからな。
「なるほど、事情は理解した。それで、神庭自身はどう思ってるんだ?ソフト部、復帰したいのかそうじゃないのか……」
一番大事なのは、海凪自身がこの件についてどう思っているかだ。その答えしだいで全然意味合いが変わってくるからな。
「……ソフト部に復帰したい気持ちはある。しかし、これは吾輩がしでかした事だ、活動停止処分もやむ無しであろうよ……」
——なるほど。では、俺が次にやるべき事は決まった。今思えばさんざんな出会いだったが、神庭海凪には個人的に感謝している部分もある。だから、俺がなんとかする。
——これは海凪の為ではない。俺自身のエゴだ。俺はそんな決意を心に刻み込む。
まぁ、それはそれとしてパフェで3000円超えは痛い出費だったとだけ言っておこう。




