五十嵐圭太郎の鬱屈⑤
前回までのあらすじ、
神庭海凪「貴様、憑かれているぞ……背後霊に」
↓
はい?……以上!!
——神庭海凪の唐突な爆弾発言に、さっきまでの楽しげな空気は一瞬で凍り付いた。
「あぁ……そういう感じの話か」
ついさっき、騒いでた俺達を一喝した看護師さんが何やら1人で納得している。
「病院ってのはそれなりに幽霊話とか多くてな、あいにくこういうのには慣れてんだよ」
どことなく元ヤンの雰囲気を感じる看護師さんはそう言って、タバコの代わりなのか知らんが棒付きの小さなキャンディを口に含む。
「看護師殿、ここからは部外者に見られると神職的に少しマズいアレコレがあるので、席を外してはくれまいか?」
——神庭海凪はそう言って、看護師さんに賄賂のつもりなのか黒糖味の飴を手に握らせる。いや、なんで飴?
「わかったわかった……だが、もしも思春期特有のノリで盛っておっぱじめるような事があったなら、屋上から逆さ吊りの刑だからな?」
「「誰がこんな奴と……!?」」
神庭海凪と俺の声が完璧にシンクロする。なんかムカつくけど、この瞬間だけは神庭海凪と分かり合えた気がした。
「……では、始めよう」
——神庭海凪は俺のベッドの横に腰掛け、カーテンを閉める。そして、俺の背後に存在するであろう霊を凝視するかのように、こちらへと視線を向けてくる。
「ふむ……だいたいわかった。背後霊の外見的特徴は貴様と同じ茶色がかった黒髪に鳶色の瞳、そして……貴様と違ってどことなく気品や知性が感じられる女性だ!!」
——その特徴に該当する存在を、俺は1人だけ知っている。いや、知っているも何も、俺の目標であり憧れだった姉貴……五十嵐恵胡その人だ。
「……って、ちょっと待てや。誰が馬鹿面だって?」
話の流れで誤魔化されそうになったが、今しれっとディスられたよな!?
——まぁ、それはひとまず置いといて、神庭海凪をどこまで信用していいか正直ビミョーなところだが姉貴の霊が俺に憑いてるってのはある意味納得できる話ではある。
そりゃあ、俺が姉貴の死を引き摺ってばかりでこんなくだらねー生き方してたら未練にはなるだろうよ。
ひとまずそれは認めよう。だが——、
「お前、まさかくだらねーイタコ芸で姉貴の名を騙るつもりじゃあないよな?」
——それは死者を愚弄する行為だと、俺は思った。
「そんな事はしない。貴様はそういうの嫌いそうだからな。故に!!ここから先は貴様自身で見届けるが良い!!あいあむざぼーんおぶまいそーど……!!」
「そっちの方がふざけてるじゃねぇーかァァァァァ!!今のはいったい何の詠唱だ!?言ってみろ!!」
——前言撤回、こいつを信用した俺が馬鹿だった。
「実際、詠唱の文言など何でもいいのだ。このようにな……天候満つる処に我は在り、黄泉の門開く処に汝在り、出でよ神の雷!!」
「だからその詠唱がおかしいって言ってんだよォォォォォ!!テメー実は俺を始末するつもりだったりするのか!?」
「全くやかましい奴だ……これで最後だぞ?渦なす生命の色、七つの扉開き、力の塔の天に至らん!!アルテマ!!!!」
——なんだよ、派手な詠唱の割に何も起こらないじゃねぇか……そう、口に出そうとした瞬間に意識が途切れる。
▷▷▷
ここは、いったいどこだろうか?周辺を見渡したが、自分が今どこにいるのか全くわからない。というより、そもそも現実感がない。
「あ、起きた?久しぶりだね圭太郎♪」
——この耳によく馴染んだ懐かしい声は……
「久しぶりだな、姉貴……」
さっきまで、姉貴に会えたら言いたい事がたくさんあった。俺を残して死んだ事に対する文句や、変な男に騙された事に対する怒りや、この機会を逃したらおそらくもう会えない事に対する寂しさなど、とにかくたくさん言いたい事があった。
——だが、そういう俺の未練が姉貴をこの世に縛り付けている事に気付いた、気付いてしまった。
だから俺から言う事は一つだけ——、
「——また会えて嬉しかったよ、俺はもう大丈夫だから……向こうではせいぜい良い男探せよ?」
「うん……圭太郎も、元気でね?それと、彼女さんにもよろしく♪」
「——は?」
一瞬、思考がフリーズした。しかし、俺の意識は急速に現実へと引き戻されていく。
「彼女じゃねェェェェェェ!!」
——結局、それが姉貴に対して最後に伝えた言葉となった。
▷▷▷
——目が覚めると、神庭海凪が俺の顔を覗き込んでいた。こうして眺めるだけなら、こいつマジで神がかり的美少女なんだよなぁ……電波だけど!!
「その満足げな顔、何やら得る物があったようだな?」
「あぁ……いつまでも落ち込んでる訳にもいかないからな。これからは、俺なりに探してみるつもりだ……人並みの幸せってヤツを」
——でないと、また姉貴に心配かけちまうし……
すぐには無理だろうけど、俺もいつかは人並みの幸せってヤツを見つけられるだろうか?
「それで良い……時に、命の恩人よ……まだ貴様の名を聞いていなかったな?」
「五十嵐圭太郎だ。よろしく、神庭海凪」
「こちらこそよろしくだ、圭太郎!!」
二人互いに握手を交わす。
——おそらく、俺はこの瞬間から過去ばかり振り返り立ち止まるのをやめて、再び未来へと歩き出したのだろう。




