五十嵐圭太郎の鬱屈①
——この世界に、真に価値ある物は、かけがえのない物などあるのだろうか?
何度も繰り返した自問自答、俺こと五十嵐圭太郎は半ば自動的に機械的に己の思考回路にNOを突き付ける。
——そうだ、全て、全てくだらない。才能も努力も、善も悪も何もかも、簡単に揺らぐ。簡単に崩れる。
なぜなら、俺が最も尊敬していた完璧超人たる姉貴(←少なくとも俺はそう思っていた)でさえも、変な男に騙されたあげくにろくでもない死に方をしたのだから。
幼い頃から、俺はいつも姉貴の背中を追いかけてきた。
何でも人並み以上にこなし、そのくせ驕らず、優しく努力家な姉貴の姿は、嫉妬する事すら愚かに感じた。そんな姉貴を目標にして自分なりに努力をしてきたつもりだった。
——そう、今までは。
だが、その姉貴がこんな馬鹿げた末路を迎えたのだから、何もかも馬鹿馬鹿しくなるって物だろう?
とはいえ両親に心配かけるのもアレだし、一応今まで通りに学校通ってテキトーに授業受けて、茶番めいた日常のタスクをこなしていくしかない。
都合3年間の——今は2年に進級したばかりだからあと2年未満か——大いなる暇。
最早未来の展望や将来の目標もクソもない。ただ終わりなき命のタスクを埋め続けるだけの消化試合がこれからも続いていくのだろう……そう、思っていた。
「うわァァァァーーー!?そこをどけェェェーーー!!」
背後から響く騒々しい声に振り向くと、同じ高校と思われる自転車に乗った超絶美少女な女子生徒が、荒ぶる2輪でアスファルトを切りつけ滑らせながらブレーキすら間に合わない程の猛スピードでこちらに突撃してきた。
——一瞬、死を覚悟した。いや、ガチのマジで。
しかし予想とは裏腹に、荒ぶる自転車は俺を跳ね飛ばす直前でピタリと停止して、慣性のままに女子生徒を放り出して、俺のいる方向へと放逐しやがりやがったのだ。
あ、これはマズい!?受け止めるのも避けるのも間に合わな——、
「キケロガっ!?」
気が付いたら、俺は女子生徒と衝突した勢いで吹っ飛んだ——訳ではなくさながら巴投げをかけられたかの如く吹っ飛んでいた。
——いや、比喩でも何でもなく巴投げだったぞアレは……
とにかく、今の状況を整理しよう。
女子高生自転車体当たり未遂事件→目の前をブチ抜く神がかり的美少女→巴投げ……うん、何故にこうなった?
正直、まだ状況は飲み込めていないが……
「あの……何か俺に言うべき事があるんじゃないですかね?」
——この一言に尽きる。
「うむ、クッション役ご苦労!!貴様は吾輩の命の恩人だ!!吾輩は神庭海凪、神庭大社の跡取りにして、カミサマの友達である!!」
目の前に鎮座されたる神がかり的美少女様は、そのような妄言を高らかに言い放った。




