極貧令嬢、お城に泊る(5)
「なるほど、シャーリーさんの元婚約者」
「えっと、なにが書いてあるのでしょうか?」
中身を先に開けて見ているアビゲイル様とジュエリ様を覗き込もうとする。
さすがにここからでは読めないから、待つしかない。
ただ、なにが不安と言われるとどんどん険しくなっていくお二人の表情。
な、なにを……なにを書いてきたの、セジュール様……!
「読む必要はありませんわね」
「ええ、燃やして捨てておいてくださいませ」
「かしこまりました」
「えええ……!?」
アビゲイル様がグシャっと手紙を丸めてしまう。
それをそのままお盆に乗せて、腕を組む。
せめてなにが書いてあったのかを教えてほしい。
気になって夜も眠れなくなりそうぅ!
「あなたに帰ってきてほしいと書いてありましたの。アルヴァーニュの聖女になったのでしたら、一度ティヴァロニ王国に戻って国王陛下に報告をしろ、と言っているのだもの。まったく何様なのかしら?」
と、言う。
私には「なるほどなぁ、ごもっとも」と思ったのだけれど、帝国の人からすると『生意気』な態度のようだ。
属国の人間が帝国、皇族の婚約者に個人的な手紙を送ってくること自体、無礼、という印象を受けるらしい。
な、なるほどなぁ?
「では、私はティヴァロニ王国に報告へ行かなくてもいいのですか?」
「当たり前でしょう? 婚約者とはいえ、あなたは今、準皇族という立場。属国の人間が気安く話しかけてよい立場ではありません! 家族なら直接的な手紙のやり取りも許されますが、三親等以上の親族は検閲が入ります。属国の王族が陛下と帝都の大神殿に『ご挨拶をしてもいいでしょうか』とお伺いを立てて、許可が出て初めてあなたに会うことができるのです」
「え……」
怒ったようなジュエリ様。
なんか……あのー……それだとまるで私がティヴァロニ王国の国王陛下よりも、偉いみたいに――。
「なにを驚いているの? 当たり前でしょう。ティヴァロニ王国はロゲオス帝国の属国です。シャーリーさんにはまだまだそのあたりの意識が薄いのでしょうね。よくよく学んでいただかなければ」
「う。は、はい」
それから数日。
城での生活は徹底的な意識改革。
私の現在の立場。
私が思っていた以上に私って地位が高くなっていたらしい。
なにがすごいって、私、聖女になったことで神殿機関的な地位も最高位。
自覚がとても薄いのだけれど……それもまずいらしい。
私は聖女。
世界で数人しかいない聖人聖女のうちの一人。
神の代行者であり、私は多くの国の神殿を巡りその国にある神殿の『神の書』で予言を読み上げ、国を繁栄に導いていくべき。
アルヴァーニュの聖女は『真実』も見える存在であることから、地図などを見るとどの地域にどの神の力が不足しているのかを“視る”ことができるという。
確かに……今までは『この地域に、おそらくはこの神の神力が枯渇している』と神殿へ報告して、そこから各聖人、聖女へ依頼が出される。
依頼が出された聖人、聖女は依頼してきた土地からのお布施を使って現地に向かい、神力を使う。
私も今後は神殿からの依頼で各国の神殿に行くことになるかもしれないが、少なくとも情勢が不安定な現状は帝都を出ることは無理。
実際私も図書館のないところにはあんまり行きたくない。
わざわざその国に行かなければ行かないなんて……拷問?
私は本を永遠に読んでいたいのに!
「アビゲイル様、緊急でご報告が! ジルグロッセ様がティヴァロニ王国でロドリゲスを捕らえ、そのまま帝都に連れ帰るとのことです」
「なんですって!?」
「ロドリゲスを!?」
「っ!?」
私の部屋での授業を受けていたら、突然伝令兵が飛び込んできた。
ソファーから立ち上がるアビゲイル様たち。
私も手に持っていた本を落とした。
ロドリゲスが――ロドリゲスが捕まった!?
ロドリゲス・クセス……九神教を唱え始めた、『戦神オーディール』の生まれ変わりを自称していた稀代の詐欺師!
九神教の首都であるオーディール神教国の聖首都メレゲンにいるはずでは!?
なぜティヴァロニ王国で捕えられたの!?
ジルグロッセ様が、ティヴァロニ王国に行って、捕えた!?
どういうこと!? わけがわからなさすぎる!
私たちの混乱に対して伝令兵も「詳しいことは……」と首を横に振る。
実際落ち着くまでの数日間、私たちに情報はほとんどこなかった。
しかし私たちに開示される情報はやんわりふんわり。
アビゲイル様が言うには『割とそんなもん』らしい。
かと思えば、突然皇帝陛下に呼び出され、私に「『神の書』を読んで、捕えた男が正真正銘のロドリゲスかどうかを確認してほしい」と請われた。
そうか、影武者の恐れがあるのか。
そうよね、本来ロドリゲスはオーディール神教国にいるはずだもの。
偽者を処刑しても、本物が残っていたら意味がない。
そしてその時に、私が『アルヴァーニュの聖女』であることと、ジルグロッセ様の婚約者であることを公表する。
それを言われた時、『ああ、ついにくるのか』と思った。
「なぜシャーリーまで?」
振り返る。
いつぶりかの、ジルグロッセ様。
その目を見た時、とても……ショックだった。
瞳が――初めて出会った時よりも……絶望に打ちひしがれている。








