極貧令嬢、お城に泊る(4)
「わかりません。なぜ皇帝陛下はご自身のご子息ご息女として公表し、堂々と側室の方々を故郷を治める王族に戻そうとなさらないのですか?」
普通に考えれば皇帝が側室と子を作り、その子に母の故郷へ戻らせて治めさせるのが合理的。
と、思っていたのだが、アビゲイル様は「嫌よ」ときっぱり言い放つ。
な、なにが?
「負けた国の王族の子と異母兄弟なんて、い、や! ってこと! なんか縁起悪い」
「え、ええ?」
「皇帝陛下は皇妃様を愛しておられるので、側室の方と子を作るのを拒否されたそうです。しかし、側室に皇帝の子を産ませるのは定石。ですから陛下は側室の女性らにこうおっしゃったそうですわ。『そなたらの国の土地をいつか取り戻した時に、そなたらの部族の血を絶やさぬよう同族で子を作れ。そなたらが土地に帰る日まで、そなたらとそなたらの子は皇帝たる我が守ると約束しよう』と」
部族。
そうか、南部は様々な部族が残る土地。
皇帝陛下が娶られた側室の方々はそのような部族の女性が多いのね。
文化もなにもかも違う彼女たちからすれば、辱めを受けたと自害する方もいたかもしれない。
他族の血を入れたと、土地に戻ることもできないかもしれない。
そういった悲劇を生まないために、そもそも『皇帝の子が生まれた』とも『側室に子どもがいる』ことも公表しなかったのか。
生き残った同族に勘違いされてしまうかもしれないものね。
南部部族の中には私たちには理解のできない解釈をする者たちもいるから、確かに迂闊に子どもを作らない方が無難。
それに、同族同士で子を産み育て、いずれ土地を取り戻したら帰す、と言いつつ今のように庇護しておけば部族というのはとても感謝する。
部族は義理堅い一族が多いと、本で読んだことがあるわ。
恩を売って、戦後にも属国の状態を継続しつつ、統治も任せることでより強い支配状態にさせるつもりなのか。
気が遠くなるような話だけれど、さすがは帝国。
ゆっくり、確実に支配を確固たるものとしている。
しかも、かなり平和的。
なんというか……九神教の乱暴で急進的な支配とは、まったく異なる。
帝国といえば、強国中の強国だと思っていたけれど。
いえ、そんな考え方はダメね。
私もジルグロッセ様と結婚したら帝国の人間になるのだもの。
「その部族の姫君たちは、皇帝陛下の温情を理解されているのですか?」
「さすがに衣食住を保証され、我が子も血筋も守られて十数年も過ごせば多少なりとも頭はよくなるようよ。アビゲイル様はともかく、皇妃様には従っているから反逆される心配は少ないのではないかしら。九神教の侵攻がジルグロッセ様によって阻まれ、土地を少しずつ取り戻しているからそれなりに期待も持っているようですし」
どうだろうか。
部族というのは己たち以外の部族を信用などしない。
血こそ至上。
血こそ絶対。
恩義、義理を感じたとしても帝国に忠誠を誓ったりするだろうか?
まあ、それでもこのエヴァオラードゥに住む人間としては八神には抗うことはできない。
締めるところは締めて、緩めるところは緩めればやっていける……のかも?
そのあたりも学んでいくべきことなのかも?
「……本に全部書いてあればいいのに」
「え? なにが?」
「あ、な、なんでもありません」
いかんいかん、さすがに統治のことは本に書いてあっても臨機応変。
そして、基本的に皇子妃が考えることではない、はず。
私が考えるべきことは、ジルグロッセ様のこと。
ほとんど城に帰ることのないジルグロッセ様にとって、この部屋の隣の部屋は“自室”というよりも“泊まる部屋”だろう。
私も、どのくらい城に泊まることになるのかわからないけれど……ジルグロッセ様が帰られたら笑顔でお迎えできるように――慣れる……のか……。
「ひとまず、シャーリーさんはここでの生活に慣れるところから始めましょう。あまり侍女や護衛を増やすと管理が大変だろうから、それはしないけれど……」
「家庭教師は増やした方がいいでしょう。本を読むのはお好きだとしても、城にいる間に皇妃様にお会いする機会もあるでしょうから」
「そうね。お母様ならきっとシャーリーさんを気に入るわ!」
「こ、皇妃様」
うわー! いつか会うことになるのだとは思っていたけれどー!
いざお会いする機会があると言われると……緊張するー!
「失礼いたします。アビゲイル様、シャーリー様にお手紙が届いておられるそうです。今後城に届けるようにお伝えしましたが、こちら急ぎのご用件とのことで……」
「まあ、誰から? シャーリーさん、あなたに手紙らしいわ」
「え? あ、ありがとうございます――」
入り口にいた侍女さんから、お盆に乗った手紙を差し出される。
表には私の名前。
裏返してもらうと、思わず声が出てしまう。
「え……セジュール様……」
「どなた?」
「男性の名前ですわね」
「あ、えっと、元婚約者です。ティヴァロニ王国の」
と、言うとアビゲイル様とジュエリ様の表情が真顔になる。
だがすぐににっこりと微笑み「わたくしたちが先に中身を改めてもいいかしら?」とのこと。
あ、ああ、なんか、こ、こ、こ、怖い……。
これは逆らってはいけない笑顔……!
「も、もちろんです」
「では失礼して」








