極貧令嬢、お城に泊る(3)
「でも、もうすぐ帰ってこられるのでしょう? ジルグロッセ様は十三歳の頃から戦場に赴かれ、もうすぐ半生を戦地で過ごしたことになります。シャーリーさんが城で迎えれば、ジルグロッセ様もようやく『帰ってきた』と思えるようになるかもしれません。そのためにも、シャーリーさんがこのお部屋で過ごすことに慣れることは、大事なのではないかしら?」
「帰る……う、ううん……」
確かに。
私も実家が実家っぽくなかったから、その感覚は理解ができる。
ジルグロッセ様に取って穏やかな『帰るべき場所』はあった方がいい。
しかし、それが私?
私、そこまで偉大な存在になれる?
自信がない。
皇子ジルグロッセ様の奥さんになる覚悟はしたけれど、ジルグロッセ様の中のそこまで大きな存在に……私が? なれる?
「自信がないの?」
「正直なことを言えば……はい。何度かお話ししたことはありますが、私、ジルグロッセ様の好きな食べ物も存じ上げませんし……」
顔を見合わせるアビゲイル様とジュエリ様。
困惑しているように見えたが、アビゲイル様が「実際兄様とデートも行っていないものね」と納得してくれる。
デート。確かに。
でも、それを言ったら前の婚約者、セジュールともデートには行ったことがないな。
それを思い出したら、なんか……ますます訳がわからなくなって思考が止まる。
「どうかしたの?」
「デ、デート……デート……そういえば、人生で一度も、したことが……」
「は、は……!? あなたティヴァロニ王国では婚約者が普通にいたのでしょう!? デートしたことがないの!? どういうこと!? ティヴァロニ王国は婚約者同士がデートをしたりしない文化でもあるの!?」
アビゲイル様に詰め寄られるが、記憶を何度遡っても……学生時代から思い返しても、婚約したての頃から思い出しても……ない。
そう、私はデートをしたことがない女。
「私の、前の婚約者だった人は……綺麗な女性が好きだったので……」
「返答になっていないわ!」
「そ、そういう文化があるのかしら? いえ、ないのかしら? デートする文化。でも、ティヴァロニ王国は帝国の属国になってからそれなりに長いはずよね? 婚約してからデートが一度もないなんて……そんな……」
だんだん不安そうなお顔になる二人。
それに伴い、私も不安になってきた。
政略的な婚約なのだから、デートってするもの?
少なくとも私はしたことがない。
私の元婚約者、セジュール様は「お互いに政略結婚なのだから、好きな人が他にできても干渉はなしで」と言われた。
ジルグロッセ様の場合は私を婚約者にする必要性がない。
なぜ私を婚約者にしたのかわからなくて、でも、選ばれたからには捨てられないように努力をするつもり。
まあ、今や私は知識の神アルヴァーニュの転生者らしいので、捨てられることは多分ないとは思うけれど……。
でも、どうせだったらちゃん役に立てるようになりたい。
――毎日の本! こんなに立派なドレスや靴、そしてちゃんとした栄養のある食事を提供してもらっているのだもの!
「ティヴァロニ王国って不思議な国なのね。婚約者とデートしない殿方がいるなんて」
「セジュール様はデート自体は毎日していましたよ……?」
「「え?」」
「女性が好きな方だったので。あの……私はお金がない家の者だったので、第二夫人になることが決まっていましたので……華やかな女性を表に連れ歩くために、第一夫人候補の令嬢の方々と毎日デートしておられたようです。私は本が読めればそれでよかったので」
「は、はあ!? あなたを第二夫人!?」
「第二夫人であっても、普通はデートにお誘いするのではないのですか!?」
「い、いえ。デートに着ていく服もありませんでしたし」
「「それを贈るのが殿方の甲斐性ですわ!」」
あれ、お二人が言っていること、前にも誰かに言われたことがあるような……?
「でもデートする時間があるなら本を読みたかったですし」
「「あ、ああ……」」
私がそう答えたら、お二人が呆れた表情になる。
あ、あれ? 返答を間違え、た?
「あなたってそういう人よね。ええ。若干元婚約者の方に同情しますわ」
「ですが、シャーリーさんが第二夫人候補だったのなら逆によかったのかしら? ジルグロッセ様が見初められて、婚約者を大事にしない殿方から解放されたのだと思えば」
「確かに。シャーリーさんとあまり相性がよくなさそうな方ですわね。帝国では一夫多妻制ではありますが、それは夫に先立たれ、生活に困窮した女性の救済が目的です。皇帝陛下が娶っておられるのも、九神教の侵攻により途絶えた王家の子女。血を残すという意味でご子息ご息女はおられますが」
「え!? 陛下の側室の方々は、お子がいらっしゃらないと……」
「表向きはね。お父様の子ではないから、皇族として認められていないの」
「え……え!? え!?」
ど、どういうこと!? どういうこと!?
私が頭ぐるぐるになっている中、ソファーに座ったアビゲイル様が話してくれた。
皇帝陛下の側室として嫁がれてきている三人の女性は、九神教によって侵攻され、滅ぼされた国の王族の女性。
亡国となり、帰る地を失った彼女らを表向き『側室』という形で帝国に迎え、彼女らを護って帝都まで連れてきた騎士らを彼女の夫として子を産ませている。
ジルグロッセ様が九神教より土地を取り返した暁には、皇帝の命を受けた形で故郷へ戻るようにと言われているそうだ。








