極貧令嬢、お城に泊る(1)
「お城ですか!?」
「そうよ。あなたが知識の神アルヴァーニュ様の生まれ変わりだとわかった今、この屋敷よりも警備の厳重な城で守ることになったのよ」
ジルグロッセ様に川の氾濫や橋、崖の崩落について注意を促すお手紙を出したあとアビゲイル様にそう言われて跳ね上がった。
なんと、私は今日から貴族街に用意していただいたお屋敷からお城に住まなければならないらしい。
確かにティヴァロニ王国の聖人、聖女様は発見されたらすぐに神殿に引き取られる。
だが、今回大神殿から九神教と通じている神官、司祭がなかなかの数出てきてしまった。
不安要素が強いということで大司祭様が私の保護の先を城にするよう、皇帝陛下に進言したらしい。
というわけでアビゲイル様が私のために用意してくださった服も靴も装飾品も、アビゲイル様の侍女たちが木箱に詰め始めている。
私に拒否権はない、という様子に肩が落ちた。
「どうしたの?」
「あ、あの、私の部屋にあった本棚……ジルグロッセ様が私のために用意してくださった本棚は……」
「ああ。気持ちはわかるけれどあまり何度もそっちこっちに移動させては本棚が痛むわ。建設中の新居に運ぶ方がいいんじゃないかしら?」
「あ。う……。……そ、そう、ですね……」
確かに。
アビゲイル様の言っていることはごもっともだ。
本棚のような大きなものをそんなにほいほい動かしては、傷がつくかもしれない。
本を大事にするのは当たり前だけれど、本棚も大事にしてあげないとよね。
「国公図書館からは離れてしまうけれど、城にもそれなりに大きな図書室があるわ。城から出せないような書籍や資料がたくさん置いてあるわよ。それでは満足できない?」
「行きます!」
「よかった。本をちらつかせれば簡単に言うことを聞くところ、心配でもあるけれど……。………………心配だからわたくしの侍女をあと二人くらいつけるわ。うちの一族、今代は仲良しだけれど大貴族の中には面倒なやつもいるしね」
「え? はい? ありがとうございます?」
肩をがっちり掴まれて、なぜかものすごく心配された。
なにか変なことを言ってしまったのだろうか?
まあ、そのままとんとん拍子にお城にお引越し。
絢爛豪華な、右を見ても左を見ても桁の想像もつかない調度品が並んでいる。
左右を見ると目がチカチカする、と思って天井を見上げたら天井はもっととんでもなかった。
な、な、な、な、なに、あ、あれ……!?
天井画!? こんなに細かい絵画初めて見た……!! ティヴァロニ王国の王城にもこんな大きな天井画、なかったよ……!?
しかもこの淡い色合いと明暗のつけ方、絵画のタッチ……多分二百年前の巨匠、音楽の神クラレット様の聖人オルンジ・ルイオットの作品では……!?
音楽の聖人にしてはめずらしく、音楽以外の芸術にも造詣の深い聖人で、多くの作品が各国の王城や大神殿に残されているという。
まずい、眩しすぎて目が潰れる……!
拝見できたのは、本当に本当に嬉しいのだけれど!
「なにをしているの、こっちよ。皇族の居住区は中央棟の三階よ。わたくしやジュエリ義姉様が住んでいるのは西の棟の地区。あちらは後宮なの。今度案内するわ。シャーリーはジル兄様と郊外に住むことになると思うけれど……屋敷が完成するのは多分三年後ぐらいになると思うし、長引くようなら後宮の方が安全だと思うから」
「こ、後宮……」
存在は知っている。
存在は知っていたけれど……私もそこに住むの……!?
あ、今回の件が長引いたら、ってことか。
ああ、びっくりした。
「ほら、こっちよ」
「あ、は、はい」
三階に登るとアビゲイル様は指差しで方角をそれぞれ指差す。
東棟は騎士団の詰め所その1、と城仕えの文官、武官が務める場所。
国中どころか属国の情報なども集まる。
政を行う中枢と言っても過言ではない場所。
北は法務部。
罪人を裁く裁判所から、収容する牢から、犯罪取締り、調査を行う機関が密集しているそうだ。
詳しくは「あなたには今のところ関係ないし、ちょっと……ね?」と濁された。
なかなかに、あれなところみたい。
多分アビゲイル様が言いたいのは――拷問、だろうな。
そして南は使用人の宿舎、貴族の夫人たちのサロン、紳士たちの遊ぶ遊戯室など様々な遊興、交流の場。
東、北とはまた別種の情報が飛び交う場所。
そして西は後宮、ということらしい。
ただ私が想像していた後宮とは違い、皇族の女性が住む場所。
現在の皇帝陛下は皇妃様以外に奥様を三人娶られているらしいが、政治的な意味合いが大きく後宮の側室のところには通ってはおられない。
ジルグロッセ様を含む現皇帝のご子息ご息女は全員皇妃様が産んだ。
そのため現在の後宮は皇妃様が統括されており、安定している。
皇子妃のジュエリ様たちも皇妃様のお考えに従っているので、その後宮の安定感がそのまま政にも影響しているのだとか。
「近いうちシャーリーさんもわたくしの『お義姉様』になるのよね〜! うふふ、いいわね! 歳下のお義姉様!」
「わ、わあ……」
ふ、複雑ぅ。








