第七部 第六章
「とにかくやり過ごしましょう。おそらく、俺の予想の人物がゼス皇帝の場合、俺達は全員処刑されると思います」
俺が素直に話す。
なにしろ、自分で4股しといてよくも余計な事を喋ったなと言う逆恨みで、わざわざサクサク俺をナイフで刺してくるような人物である。
その男が神聖帝国という大帝国の皇帝になり、全てに対しての全能感は半端ないだろう。
だからこそ、人を殺すのも躊躇しないはずだ。
とにかく、すれ違って、ダンジョンから出て生き延びるしかない。
かって源頼朝が洞窟に隠れて、それを梶原景時に見逃して助けられた時は、こんな気持ちだったのかとしみじみ思う。
隠れているのがバレた時点で助からないだろうし。
「8階層にいた神聖帝国らしい特殊部隊の連中が、上の階層に次々と上がりだした。本気で挟み撃ちするつもりだ」
そう<疾風>さんが焦る。
「ねえリザちゃん、この中にはいないと思うけどなぁ。<アチアチカップルのアニサキス>って俺が呼んだら犬みたいに寄って来るんだぜ? それなのに、これだけ呼んでも来ないとかさ? あり得ないよ」
「お前の頭があり得ないわ」
思わずギリギリ歯ぎしりしながら呟いた。
なんで、俺達が命がけの段階でこんな馬鹿が主導権を握ってんだか。
「良いから続けて」
「そんな事より、今後について話し合おうよ」
必死に<トウルーラブ>がイチャイチャ声で話をしている。
周りの奴等も苦痛だろうに。
「キショクワルイヤツダナ」
「まあ、下半身しか興味がない男だから」
「それよりも、こちらにも来ましたよ」
どうやら、<ワールドハイドゥ>の一人がこちらにランタンを持って入ってきた。
一応、ダンジョンの奥まった場所で奥の奥に入らないと入ってこれない。
そのダンジョンの奥の俺達が隠れている場所を正確に小道を通って向って来ている。
アンダーバットが飛び回っているが、それを笛のようなものを吹いて散らしていた。
「あんなものがあるのか……」
それに<疾風>さんが驚いていた。
「やっぱり、アンダーバットを飼っていただけって事だ。ダンジョンに他の冒険者が入らないようにしていたって事だと思う。厄介な連中だな」
「ドウスル? 」
「ああ、わかっている。どうも、足跡とか探れる奴だな。駄目かな? どうしても穴を掘ったりしたせいで、気が付かれてしまう」
<疾風>さんがここまでと見て、槍を強く握った。
「曲がり角を通って、ここの小道の入口に来たら、この掘った穴の蓋の平らな石を持ち上げてもらえますか? 」
「何かするのか? 」
「一か八かです」
それで<ワールドハイドゥ>がこの奥に入って来た段階で、<疾風>さんが石を高く持ち上げた。
それと同時に穴から身体を外に出して両手を上げて降伏するように見せた。
俺は攻撃する気はないと見せるように。
相手の明るいランタンなら、それを確認できるはず。
それと同時にこちらに目が向いたのを利用して奥の手を使う。
「スキルコミニュケーター、我が言葉をもとにここには誰もいないと仲間に伝えろ。誰もいないのだ」
俺が強く念じるとともにそう呟いた。
言葉の輪が、<ワールドハイドゥ>のこちらを探しに来た奴の頭にすーっと螺旋を描いて入っていく。
「ここには……誰もいない……」
その<ワールドハイドゥ>のこちらを探しに来た奴は呟くと、そのまま、今来た道を戻っていった。
それで皆でふーっと深いため息をついた。




