第四部 第八章
どうも、おかしい。この馬車に乗せることで、誰かに俺の事を知らせるつもりなんじゃないだろうな。
俺の懸念が止まらない。
あまりにも不用意すぎる。
8頭立てはベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下のみが使われる。
そして、6頭立ての馬車は王族とか公爵家が乗るものだ。
伯爵家以下は本来は4頭立てまでである。
それなのに、今日用意されているのは6頭立ての馬車だ。
あまりにも不釣り合いな馬車だ。
何で、こんなの用意したんだか……。
まさか、ベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下が意図しているジーゲン公爵家への養子縁組が漏れているのか?
ワッセナー商会がその情報を得ている可能性は捨てきれない。
それだけ政財界の大物なのだ。
ディーデリック・カスペル・ワッセナー伯爵は。
「あの、これは中に高位の貴族様がいらっしゃるのですか? 私にはあまりに恐れ多い馬車なのですが……」
つまり、この馬車を用意したのは貴方がべアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下の思い人ですか? のなぞかけもあるのだろう。
アチアチカップルのアニサキスにベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下が御執心。
そして、子供のいないジーケン公爵家へベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下が接触しているのを知っているのかもしれない。
それでその公爵家が乗るラインの馬車に入るかどうかで見分けたいという事か?
それとも誰かにそれが誰かを知らせたいのか?
実際、召使い用か護衛用の二頭立ての馬車がその後に続いていて、そちらを選べば正解という事だろうか?
良く分からんが、どちらにしろ、この送迎の馬車に乗っては駄目だ。
ギルドの方を見ると入り口で目立たないように斜めに構えながらアリアーネ嬢がじっとこちらを見ていた。
今後の話にアリアーネ嬢がついていくのは慣例的に難しい。
特別扱いと見られたら、それはそれで困るし。
「ほほう。これは失礼した」
そうディーデリック・カスペル・ワッセナー伯爵が自分の綺麗に揃えられたあご髭を撫でながら笑った。
「では、どちらの馬車がよろしいのですかな? 」
「いえ、そもそもは馬車はいらないのでは? 確か、依頼はフェリクス・カスペル・ワッセナーさんのプラチナグループの<ワールハイドゥ>の問題ですよね。ですから、フェリクス・カスペル・ワッセナーさんの所に行きたいと思うのですが。それとも、依頼自体はフェリクス・カスペル・ワッセナーさんには内密なのでしょうか? 」
俺がそうディーデリック・カスペル・ワッセナー伯爵に聞いた。
そしたら、ディーデリック・カスペル・ワッセナー伯爵が黙った。
しばらく沈黙が流れる。
困ったな。
「いかがでしょう。私と話すのが冒険者のフェリクス・カスペル・ワッセナーさんではなく、ディーデリック・カスペル・ワッセナー伯爵自らがお話をされるのであれば、あちらの喫茶店の御貴族様専用の特別な個室でお話をいたしませんか? 」
そう俺が提案してみた。
勿論、貴族の依頼もある為に、奥にはそれに足るようなそれなりの調度を揃えた個室があり、防音とかも完璧である。
そして、それ以上に、べアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下の密偵などが俺達の会話を聞けるように話したいとも思っていた。
自分の安全の為にも必要だ。
どうも、この話は大きな地雷だと思ったからだ。




