第三部 第九話
それから<疾風>さんは完璧だった。
被ると、他の人の認知が邪魔されて気にならなくなると言う、どっかの漫画みたいな魔法の掛かった布を二つ出すと、それぞれが同じように被って闇の中をひたすら走り続ける。
途中で、酔っ払って食事してアマゾネスから警告を受けて家に帰りましたと言う為に、露天で酒と飯を買った。
家に帰って飲めば終わりだ。
これで誤魔化せるはず。
俺の分だけでいいのだけど、世話になった<疾風>さんにも買った。
御礼の意味でだ。
そうして、ひたすら闇の中の目立たない道を走り続けているけど、その度にギルドキングダムの必死の顔の伝令の騎馬騎士が通るのをちらりと見て凄く焦る。
もの凄く慌てているのが分かるからだ。
俺達は認知が阻害される布をかぶっているので、彼らは気が付かなかった。
だから、余計に焦る。
本気で俺はやばいのだと。
「これ、屋敷で実は寝ていたで誤魔化せるのかな? 」
俺が不安そうにそう呟く。
「まあ、家の前で捕まっても土産も買ってあるし、アマゾネスの警告を受けて帰ってきましたで良かろう。まあ、今後は当分監視される状態になるだろうが、それは仕方あるまい。まさか、童貞を阻止する為にとかベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下が騒ぐわけでもないと思うが……」
そう<疾風>さんが笑った。
「でも、必死の形相ですよね。伝令の騎士も」
「そりゃ、あの近衛の将軍のヘールツ伯爵があの雰囲気じゃな」
「べアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下ってそんな怖いんですか? 」
「怒るとな。雷撃のベアトリクスとすら呼ばれるくらい怖いのは確かだ……って大体、テンフィンガーだろ? お会いした事くらいあるだろ、何べんも」
「いや、俺はテンフィンガーをお受けして着任式の時だけですね」
「おかしいな。他のテンフィンガーはベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下に結構お会いしているはずなんだがな。まして、一番の凄腕とか言われてるアチアチカップルのアニサキスがべアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下にお会いした事が一度きりってのは少し変だな」
そう<疾風>さんが不思議そうに呟いた。
「いや、殆ど仲間のテンフィンガーも会ってないと思うんですけどね」
「それにしても一回と言うのはな。まあ、ヘールツ伯爵の妹のアリアーネ嬢が全部取り仕切ってるのかもしれないけど」
「は? 」
「ああ、一応、極秘になってるからな。べアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下の側近なんだよヘールツ伯爵家は……。近いうちに侯爵になるはずだぞ」
「いえ、アリアーネ嬢が貴族の娘ってどういう事ですか? 」
「ああ、彼女は近衛軍の将軍のヘールツ伯爵の妹だぞ。ギルドキングダムでもごく一部の人間しか知らんがな」
「し、知らなんだっっ! 」
「ジェイドグループでも、古い奴等しか知らん話だけどな」
そう<疾風>さんが苦笑した。
「という事で、テンフィンガーがどれほどべアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下が力を入れているか分かるだろ。だから、ちょっとその中のトップと言われるテンフィンガーのアチアチカップルのアニサキスがベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下に一回しか会ったことが無いとはな」
「いや、凄腕はともかく、俺はトップとか言われてんですか? 」
「そらそうだよ。お前さん貴族出身じゃ無いだろ? 確か。その若さでゴールドサポーターになるだけで物凄い事なんだって自覚しないと」
そう<疾風>さんが苦笑した。
言われてみれば皆おっさんばかりだったな。
<トゥルーラブ>も実は30後半だし。




