第三部 第八話
「とりあえず、ここでお主と別れてもいいのだが、ちゃんと逃がさないと秋月の名前に傷がつくからな。安全な場所まで送るよ。今回は特命だし」
そう呟いて<疾風>さんが再度地面に耳をつけて気配を読んでいる。
「えええ? マジか? 」
凄い顔をして<疾風>さんが俺を見た。
正直、マジで驚いておられる。
何があったと言うのだ?
「ど、どうしました? 」
「軍が三つに分離して、東部のネーデルランドと北部のホラントと南部のユトレヒトに向かっている」
そう<疾風>さんの顔が歪んだ。
「どういう事です? 」
「全部有名な歓楽街で秋月ほどでは無いが高級娼館がある」
<疾風>さんの顔に酷い困惑の色が見える。
つまり、何の冗談だと笑っていた、俺の童貞を守るためにギルドキングダムの全軍が動いていると言う話に真実味が出たと言う事だろう。
あり得ないって顔をしているんで辛い。
そして、俺も動揺しまくっていた。
「つ、つまり、ベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下がギルドキングダムの全軍を挙げて、俺の童貞が散りそうな場所をしらみつぶしに探していると言う事ですか」
俺が心底震えた。
俺の性格も読まれている。
高級娼館しか俺は行かないだろうと考えているわけだ。
いやいや、こちらの世界に梅毒とかあるけど治療薬無いし。
そんなの怖くてできないよ。
君は人間に出来る、きのこやカリフラワーを知っているか?
俺は大学の先輩の叔父に写真付きで見せられてうんざりしたのだが、まさかのそれがこの世界にもあるのだ。
淋病は聞いて無いが、尖圭コンジローマ(コンジローム)があると言う。
人間の性器などに出来る、あれをマジマジと写真で見たくなかった。
それらの性病を大量の治療師を投下して、ベアトリクス・フォン・アレクスト女王陛下は徹底的な検査と隔離を行う事で相当に減らした。
冒険者と言うのは飲む打つ買うの三拍子で禄でも無いから、意外と性病に結構かかって死んでいたのだ。
まず、それから対策して、安心して冒険者が遊べる環境を作った。
向こうの世界での最初にそういう御嬢様がお客の性器を洗う様にみせて、実は徹底的に御嬢様に性器を観察させて、やばいのは即座に貴族だろうと隔離である。
女王陛下の強権だからこそできる対策だ。
それだけで凄い事なのだが、それでも完全に性病が無くなったと言えるのは間違いなく高級娼館から上だけだ。
「お主はその手は安全志向なわけだろ? 」
そう<疾風>さんが俺をちらと見た。
「ええ、性病は嫌です」
「じゃあ、それを読まれてるな。完全にお主の行きそうな場所を全軍で封鎖して監視するようだ」
「そ、そんな馬鹿な……。俺の童貞にどんな価値があると言うんだ! 」
そう俺が呻いた。
「分からんが、へールツ伯爵があれほど必死にお主を探すんだ。何があるんだ? 」
「俺が知りたいですよ」
泣きそうになって俺が答えた。
アリアーネ嬢が言っていた俺への執着とか……。
これがそうなのか?
俺の身震いが止まらなかった。
「これだと、テンフィンガーも辞めないといけないのかな……」
「ふうむ……本来は今日はお主とここで別れて終わりなのだが……別でわしに依頼をするならお主の屋敷に戻してやろうか? しれっとして、実は家のベットで寝てましたと誤魔化すとかはどうかな? 警告を受けたので家に実は帰ってましたで良いでは無いか」
「それををををを、お願いします」
俺がその場で五体投地のようにお願いした。
俺には<疾風>さんがもはや神に見えた。




